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73 狂宴 4(ミカ)

 

 セレン殿下と共に現れたアラン。

 彼の髪は、綺麗な金色に戻っていて、頬にも傷痕はなかった。

 アランは今はセレン殿下の付き添いという形式のためか、夜会用の黒の衣装ではなく白基調の近衛騎士団の装い。やはりいつも帯剣している長剣は見えなかった。


 アランの前を堂々と歩くセレン殿下は、黒衣に金の飾り房と宝石のような勲章をつけた姿。皇太子たる威厳を感じさせる雰囲気をまとっていた。もちろん、前に城下で会ったお忍びの姿のような気軽さは皆無。

 そんなセレン殿下を迎えるように、ディールが私を伴い彼らに近づいていく。

 夜会の来賓の貴族たちは私たちからも距離をとり、優雅な姿勢を保ちつつも静かに殿下と私たちを見ている。

 

 距離が近くなり、セレン殿下の背に目を向けていたアランが周囲を確認するように少し顔を横に向けた。

 金色の髪は正装のため後ろになでつけられている。形のよい額、凛々しい眉、通った鼻筋に引き結ばれた唇。青碧の瞳。

 周囲をさっと見た後、またセレン殿下の背に視線を戻すアラン。


 ――……少し痩せた?


 少し、頬から顎にかけての線が前よりも鋭くなっているように感じた。心配でじっと見つめてしまう。

 アランもおそらくは私に気づいているだろう。

 けれど、視線は合わなかった。




 セレン殿下はアラン、あと数名の騎士を伴いながら、広間を埋め尽くす貴族たちから注がれる視線に臆すことはもちろんなく、ゆったりと堂々と進んで真ん中の一番シャンデリアの光が照らすところで足を止めた。

 数え切れないほどの蝋燭をはめたガラスのシャンデリアが、蝋燭の火が揺れるたびにキラキラと光を照らす元に立つと、セレン殿下とアランはことさら華やかに見えた。


「ようこそ、いらしてくださいました」


 ディールがセレン殿下の元によるとあいさつし、礼の姿勢をとる。続くようにして、私もまた脚を引き腰をかがめて礼のかたちをとった。


「皆の者が楽しんでいるときに、申し訳ないな」

「めっそうもございません」

「明るい楽の音にふさわしい、王からの書状を携えているのだが――ここで公開してもよいか」

「御意」


 私の伏せた顔の向こうで、茶番のようなディールとセレン殿下のやりとりが交わされる。

 すべて段取りが組まれ、貴族たちにも周知のことであるのに、今知ったかのような語句だけのやりとりが繰り広げられるのだ。

 セレン殿下はディールの返事に頷くと、携えていた巻紙を広げた。

 ディールと私は礼の姿勢から、さらに膝をかがめ頭をたれ、セレン殿下が携える王の言葉を聞くための最敬礼の姿勢をとる。

 少しの間合いをとってから、セレン殿下が口を開いた。

 厳かに「ソーネット家当主に伝える」と宣べはじめる。


「……ここに、かねがね申請のあったアラン・ソーネットの婚姻を許可する。なお婚姻の相手となる婚約者ミカはディール・ソーネットを後見人とし、以後フレア国の繁栄と安寧のために寄与するように命ず。アラン・ソーネットとミカはしかるべき婚約期間を経た後、すみやかに結婚の儀を執り行うこと。我が父フレア王からの婚姻の許可の書状である」


 朗々と響く声で告げた後、殿下は読み終えた紙を巻きなおした。

 紙がすべて巻き終わったのを合図に、ディールと私は垂れていた頭を起こし、姿勢を戻した。


「しかと承りました」


 巻紙をセレン殿下から受け取り、ディールは今度は周囲を見渡すようにして言った。


「お集まりの皆さま方、皆さま証人の元、我が弟アラン・ソーネットが婚姻の許し得たこと、心より感謝いたします。どうぞ皆さま方にも幸多からんことを」


 ディールの言葉に、出番を用意していたかのように、数人の貴族が拍手をはじめた。続くようにして 皆が拍手をはじめる。

 アランは先ほどと同じくセレン殿下の後ろに控えたままだ。私もディールの横で立ち尽くしている。

 アランと私の婚約のはずなのに、私とアランは視線ひとつ合わせないまま、言葉ひとつ発さないまま。

 ただ、それぞれ殿下とディールそばに控えているだけで、それでもすべてが進んでいく。

 滞りなく、表面上和やかに何もかもが進んでいく。


 背筋が凍りそうだけれど、その気持ちを抑える。

 ……メイド頭が事前に今夜の流れを伝えてくれていて本当に良かったんだ。

 ある程度予想できていたから、怯えずにすむ。

 何一つ眉をひそめるようなものがない、豪華で優雅で「スムーズ」な流れなのに、人の眼差しや態度がどこか心をひんやりとさせてくる――でもそれらは仕方ないことだし、それは理解していたことだ。


 ――怯んだら駄目。私も堂々と乗り切るんだ。


 心を立たせて、次の段取りを思い返す。


 ――そう、たしか。あとはセレン殿下からアランの剣を私が受け取り、アランに渡すという流れでいったんは区切りがつくはず……。そうしたら、アランと話せるかもしれない。

 

 少しでも前向きな未来を考えようとこの先のことにおもいめぐらしていると、セレン殿下が拍手を続ける貴族たちをぐるりと見渡すように身体の向きを変えて、合図を示すかのように片手を軽くあげた。

 一瞬で広間が静かになる。

 セレン殿下は静まり返った広間の中央に立つと、「アラン、ミカ」と唐突に私たちの名を呼び順に顔を向けた。


 あ、そろそろアランの長剣をもってこさせる流れかもしれない。


 そんな風に思い、セレン殿下の方を見たときだった。


「晴れて王からも認められた婚約だ。皆のソーネット家への祝福への挨拶として、婚約披露をかねて、ここで一曲踊るがいい」


 え……。

 聞いていた流れと違うことに、一瞬戸惑って私がセレン殿下の瞳を追うと、その目が弧を描いた。


「ミカももうフレアの社交界の仲間入りだろう。……踊れ」


 『踊れ』という部分だけ区切るように強く言って。

 セレン殿下は私に返事をするすきも与えずに、ディールに目配せした。察したのか、ディールは私を導くようにしてアランの前に押し出す。

 ディールの、決して抵抗をゆるさないような私の背の支え方に、ぞわりと肌が粟立つ。

  

「初々しい二人に乾杯だ、ディール、ミカのエスコートはアランに交代だな」

「えぇそのつもりでしたよ。では楽師達よ、二人に甘い曲を」


 余興を楽しむかのようにセレン殿下とディールはそういうと、私とアランをホールの中央に残し、脇に去ってゆく。

 図ったかのように弦の音が甘く室内に響きはじめる。

 たくさんの着飾った貴族たちが、思わせぶりに、けれど無駄口は叩かず、皆がこちらを見ている。

 遠巻きにして。

 ある人は扇の向こうから、ある人は手を組みながら。別の人々はグラスに口をつけながら――……。

 さっきの拍手も、二人きり踊るためだけに残される今も、私たちの婚約をあたたかく見守るような視線ではもちろんない。


 中央に残されて、アランの前に目を伏せたまま立っていると、まるで自分が人形のように思えた。

 なにもされていないのに。

 ただ踊るように言われただけなのに。

 婚約者の前に立っている、それだけなのに。

 なのに……何か怖い。

 胸がキュッと縮むような気がした――その時。



「美香」



 ふわりと、名を呼ばれた。

 ハッとする。顔をあげると、アランが私を見ていた。 

 彼の瞳ときちんと視線が合う。ちゃんと私を見て、眼差しを注いでくれる青碧の双眸。


「アラン……」


 小さく私も呼ぶと、アランが微笑んだ。柔らかく、和やかに。

 まるで、アランの館で夜にテラスでおしゃべりしていた毎日のあのひとときと同じような優しい表情で。

 アランは、ダンスを誘うように片手を私に指し出した。


「踊りましょう」


 言葉が耳に届いて、優しい声音が胸にじわりとしみた。

 いつのまにか強張っていたらしい自分の固まった肩から力が抜けるのがわかった。


「大丈夫。あなたは踊れる。そうでしょう?」


 アランの落ち着いた言葉は、私にダンスの先生を思い出させた。

 ……あぁそうだ。怯えることは、まったくないんだ。堂々と。いつだって、顔をあげて、生きるんだ。

 私は、差し出されたアランの手に手のひらを重ねた。

 手袋越しにもわかるアランの硬い手のひら。彼の、長年鍛錬を重ねたしっかりとした手指が私の手を包んだ。

 応えるように、私ももう片方の手は彼の二の腕あたりに添えてダンスの姿勢をとる。


「美香……行きますよ」

「うん」


 流れる音楽にのりアランが一歩を踏み出した。それに合わせて私もそっと足を一歩引き、重心を移す。

 こうして私達は踊りだした。

 衆人環視の真ん中で。







 音にのり、アランのリードに応じながら、ステップを踏んでいく。

 柔らかな弦楽器の音色、笛の音もまじり、ホールの中を満たしていく。

 リズムに合わせ、足を進ませ、また半歩下がり、また前に踏み込む。重心をいれかえて、ターン。ドレスのスカート部分が優雅に広がるように。アランの腕に支えられながら、少し回りを見るようにしてくるりと回る。

 それからまた、彼の腕に手を添わせて、ステップを踏む。その繰りかえし。


 あんなに会いたかったアランのそばにいる。でも、なかなか話し出せなかった。

 アランが、


「元気でしたか」


 とたずねてくれて。 


「うん」


 そう答えたら胸がつまって。それ以上何も言えなくなった。


 もう一度会えたら、一番最初に伝えたかったことをちゃんと伝えようと思ったことがあったのに。

 あれも伝えたいこれも話したい。花がちゃんと届いたかも尋ねたい。

 感謝も……ごめんなさいも。それから、リードからの話も……。


 あれこれ思うのに、言葉にできないままに音楽は進んでいく。

 やっと何周目かのターンをして、メロディに身体が慣れたころに 


「……アラン」


 と呼びかけることができた。

 足を止めず、彼のこと見上げて、言う。


「……あの夜、ごめんなさい」


 ――すべて捨ててきてくれたのに、ついていかなくて、ごめんなさい。


 アランは私の言葉を聞いた時、ダンスの姿勢を崩すことなく、ただ少しだけ目を伏せた。


「美香は私を守ろうとしてくれたのでしょう」


 踊りの足を止めることなくそう答える彼の声は穏やかだった。

 傷つけただろうに。それでも私の思いを考え、受け取ろうとしてくれるのだ。なじることもなく。

 そんな高潔なアランを前にして、でも、私はリードのさっきの言葉が思い出されて、胸がじくじくした。


 帰還の術が完成することを――アランは協力してくれたということ。


 それが引っかかったままだった。

 アランは私がフレアに残ろうとしていることをわかっているはず。けれど、帰還の術があれば私が帰ろうと選択するかもしれないと思ったんだろうか。そして、元の世界に帰りたいと私が望むのであれば、それに協力しようとしてくれた。

 それはもちろん、私のためを思って。私の選択を尊重しようとしてくれてのことだ――。


 でも、私……。

 帰るつもりないよ……。ないんだよ。 

 その私の思いを知ってほしい。信じて欲しかった。


「あの、アラン……あのね、リードから……聞いたかもしれないけど……」


 そう言いかけたときだった。


 私は帰還するつもりがないこと、その気持ちをはっきりアランにわかってもらいたくて――そう言いかけたとき。


 音楽がゆっくりと終わりのメロディに向かってることに気づいた。


 ――あ、音楽が止んでしまう。


 言いかけていた言葉をひとまず飲み込む。

 終盤に向かう音楽のにあわせ、彼は私が一度ターンするように導く。私はそれに従って彼と片手はつないだままくるりとスカートが広がるようにしてターンする。

 最後の音とたっぷり空気にふくませた余韻にあわせ、私はステップを調整して中央にアランと並ぶ。つないだ片手をすこし上にあげるようにして、もう片方の手でドレスの襞をすこしつまみ、隣のアランと呼吸を合わせて一礼した。


 ――肝心なこと伝えられなかった。


 アランに帰還するつもりがないことをきっぱり言えなかったことが悔やまれた。

 踊り終えて息が弾む。この息が落ち着いたら、ちゃんと伝えないと――……そう思ったときだった。


 パンパンパンと大きな拍手が響く。

 顔をあげれば、セレン殿下が手を打っていた。


「良かったぞ。フレアも先々安泰だな」


 セレン殿下はそう言って笑った。

 殿下に合わせて周囲の人もまた拍手をしてくれる。


「さて婚約披露の一曲も踊り終えた。次の余興に移ろう」


 場を仕切るようにセレン殿下が言うと、「ミカ、こちらへ」とセレン殿下が私を呼び寄せた。

 踊っている合間に移動したのかディールは殿下とは離れたところから「アランはここへ」と呼んだ。

 私とアランは一瞬顔を見合わせたものの、二人して、そっとつないでいた手を放した。

 私はセレン殿下の方へ、アランはディールの方へと向かう。

 今まで私とアランが踊っていて空いた広間の中央、左右にわかれるようにして私とアランが立つ。

 

 私はセレン殿下の前に膝をかがめて臣下のように頭を垂れた後、彼を見上げた。

 私の前に立つセレン殿下が「剣をこちらへ」と従者に告げると、うやうやしく従者が両手で長い剣を捧げ持って奥から出てきた。

 広間のシャンデリアの光を受けて鞘や柄の装飾がキラキラと光る――長剣。

 運ばれてきた剣をセレン殿下が手に取った。


「皆も良く知っていると思うが、これは、近衛騎士団長が持つ長剣。フレアの宝といえる聖晶石を込めた剣である」


 皆に聞かせるように朗々と言った殿下は、私の前で鞘をつけたまま貴族たちに見せるようにぐるりと大きく回した。


「周知のとおり、アラン・ソーネットは長きにわたり騎士としてフレアに忠誠をささげ、今や近衛騎士団の団長としてこの剣を王より賜っている」


 言いながら、セレン殿下はもう一度剣を大きく掲げた。

 

「だが、理由あって私が預かっていた。……理由がわかる者はいるかな?」


 余興のように皆にたずねるようにしながら、最後に私を見下ろした。

 笑っていない殿下の瞳が私を射る。


「ミカはわかるか?」


 問われて私は息をつめた。


 ――アランが剣を持っていない理由。それは、私を連れ出そうと――変装までしてきてくれたから。

 剣を殿下の元に置いて、私の元に来てくれたから――……。


 言えるはずがない。

 どうしようと思いかけたとき、殿下自身が大きく笑った。


「ははっ! 意地の悪い聞き方をしてすまぬな、答えを明かそう、この剣は祝いのために私が預かっていたのだ。ミカの婚約者は、すごい形相で今にもこちらに駆けつけてきそうだ。答えにくい問いをしただけでそんなに心配するとは、少々度が過ぎるというものだぞ」


 セレン殿下は一気にそう言うと、私の前に剣を差し出した。


「婚約の祝いにな、この近衛騎士団長の剣に、あらためて聖殿で魔術を強めてもらったのだ。だから預かっていた。さぁ、ミカも、愛しい婚約者の命の安全とフレアの平和の祈りを、ここに込めよ。近衛騎士団長アラン・ソーネットの今後の繁栄を祈れ」


 偽りなのか、それとも本当にこの数日に魔術を強めてもらうなどしたのか――真実はわからない。

 段取りではセレン殿下から私が剣を受け取り、それをアランに渡すのだから、その過程のための茶番劇なのかもしれない。

 

「……はい」


 私はとにかく返事をし、跪いたまま両手で剣を受け取った。


 祈りを込める――……。

 その動作が正しいのかわからないけれども。

 私はその剣の鞘に額をつけた。


 アランの命が守られますように。

 フレアの……フレアの貴族だけでなく、すべての人が、私のようにキースのように到来してしまった人も含めて……どうか平和の道が開けますよう……


 どうか……

 どうか…… 


 目を開けると同時に、セレン殿下が「アランが待っている。渡してやれ」と言った。

 私は立ち上がり、振り向いた。

 アランはディールに用意してもらったのか、帯剣用の腰ベルトをつけ、広間の中央に立っていた。


「皆の者、聖殿の魔術のみならず婚約者の祈願もこもった剣を帯剣できるアラン・ソーネット騎士団長を祝ってやれ」


 私は重い長剣を抱きかかえるようにして、彼の方に一歩踏み出した。

 この剣をわたし、近衛騎士団長アラン・ソーネットと私のこのフレア国での生活がはじまる。

 

 さよなら、お母さん――……



 二歩目を踏み出そうとしたときだった。

 足元が一瞬カタカタッと揺れた気がした。


「え……」


 違和感を感じ、少し上を見上げたときだった。

 大きく揺れる――シャンデリア。そこからこぼれおちてくる……蝋燭……。


   ガシャーンッ


 息をつく暇もなかった。一気に視界も身体もすべてが揺れたと思ったら、地の底から突き上げるような、ドォォンッという地響き。

 ――地震!

 つんざくような悲鳴。何かが割れる音、爆発音――。いっきに舞い上がる粉塵。


「美香――っ!」


 目の前にいるアランがこちらに飛び出すように大きく駆けだして来たのを、まるで映画のスローモーションのように見ながら。

 剣を咄嗟に抱きしめて私もアランに駆けだしたはずなのに――

 私とアランの間に――広間の床にひびが亀裂が無数にはいっていく。


 ガタガタガターーーッ 

 バリバリバリッ

 

 上から降る壁やガラスの粉、下から舞い上がる粉塵。

 目がくらむ、でも、それでもアランの方に進もうとするのに――……。


 ガシャーンッ

 「キャーッ」

 「なんだ」

  

 貴族たちの怒号とつんざくような悲鳴、扉から出ようと人々が押し寄せる、

 アランが床に入った大きな亀裂を飛び越えるようにして、こちらに手を伸ばすのが見えた。


「ア……ラ……」


 私も片腕で剣を抱きしめながら、アランの手をつかもうと……彼のほうへと腕を伸ばそうとした矢先。

 何者かの腕がぐいっとお腹に回され。私が抱える剣ごとアランとは逆の方向へと引き寄せられた。瞬間、人の波が押し寄せられ、アランの手が遠のく。


「いやっ、アランっ」


 私が回された腕から這い出ようともがいた瞬間。私を抱える者が身体をひねり、もう片方の手を振った。

 刹那。

 アランの方に何かもの凄い勢いの風の刃のようなものが猛スピードで直進する。


「アランっ!」


 風の塊がアランにぶつかる。

 彼は一瞬眉を顰め――……その直後、アランの額から赤いものが飛び散った。そしてキラキラと舞い散る金の髪――……


「アランーーーっっ!!」

 

 絶叫する私の目と口を何者かの大きな手がふさぐ。

 その者は、地震と降り注ぐ瓦礫に逃げ惑う人波の間を私を抱えたままどこかへと連れ去った。

 



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