15 祈り (アラン)
アラン視点です。
私は、いつもより早く目が覚めた。
重いカーテンをそっと開けて窓の外を見ると、朝焼けがまぶしい。
小鳥のさえずる声が眼下の林から聞こえてくる。
今日は天気も良さようだ。
今日が良い一日となると、いい。
私はそう思って、静かに明るさを増していく窓から見える風景を見つめた。
******
ミカに気持ちをはっきり伝えたものの。
その翌日も翌々日も……結局のところ、いつもの私たちとかわりなかった。
朝食を共にし、私は王城へ、ミカは家庭教師やらダンスの練習やら。
夕食を共にし、「おやすみ」とあいさつして、別々の自分の部屋へ。
ただ、気持ちを告げた日からは、夜にミカの足音が廊下を過ぎてゆくことはなくなった。
心のざわめきはないけれども、近くにいるようで近づけないもどかしさが、私の中にあった。
ミカの心は、まだ私を男だとは認めていないだろう。
気持ちを伝えても、返事を求めたわけでもない。
それは分かっているのに。
頭でわかっているというのに、
……想いを告げてしまってからは、触れたくなった。
「受け入れてほしい」とさらに想いがつのっていく。
恋は魔物という言葉が浮かんでくる。
私は心に魔物を飼ってしまったのだろうか。
手を伸ばしたくなるものの、彼女に無理強いすることなくすんだのは、今日という日が目の前にきまっていたからだ。
……今日。
ミカとの外出の日、だ。
何度となく、ミカは「楽しみにしています」と言ってくれた。
どこに行くかは、まだ告げていない。
なんとなく、衣装屋に行くというと、彼女は気おくれしてしまうような気がしたのだ。
それに、私はグールドが教えてくれた衣装屋以外にも行きたいところがあった。
何処にいくと告げずとも、「外出できる」ということを喜んでくれるミカに、この一年の不自由さを思って、申し訳なく感じた。
仕方がないこととはいえ、この館に閉じ込める形になっているのだ…。
それと同時に、ミカにとっての足かせが自分の館であることに安堵する。
自由にどこにでも行けるようになってしまったら、ミカはここにとどまってくれないような気がした。
窓の外はどんどんあ明るくなる。
日差しが林や森を照らし、庭園に注ぐ。
今日のミカとの外出が楽しいものになるといい。
そして、ミカが喜んでくれるといい。
そう心から思った。
******
「おはようございます」
笑顔で朝食が並べられた食堂にミカはあらわれた。
ミカは、今日はさわやかな淡い水色のドレスを着ていた。
外出するにふさわしいように、いつもよりフリルが多くたっぷりとした広がりをもつスカート。足元は歩きにくくないように、裾はひきずらない程度にあげてある。
髪はサイドだけ後ろで結ってあり、あとは艶めく黒髪が背中に流れていた。いつもはしていない化粧をしているのか、唇がいつもより紅くふっくらしていた。瑞々しい若さのあるミカの姿は、お昼間の外出にふさわしい明るさと可憐さがあった。
「おはよう、ミカ。良い天気に恵まれました」
彼女の可愛い姿に、すぐにでもエスコートして出かけたい気分になったが、そこは自制する。
「はい、アラン様!窓から見ても、雲ひとつない快晴でした」
そう返事して笑うミカ。
ミカは、バラジャムを贈ってくれたときから、極力言葉づかいが少し丁寧にするように心がけているようで、「アラン様」と呼びかけてくる。
……その呼びかけにもどかしい気持ちもする。
以前のような、「アラン、どういうことよ!これ!」と元気いっぱいに部屋に飛び込んでくる元気良さも、私は好んでいたから。
でも、婚約者としての立場を受け入れ、こちらの世界の貴婦人にふさわしい話し方をしようと心がけている……そう思うと、今の姿もまた愛おしくあった。
「今日は、朝食の後、出発するんですよね?」
「そのつもりです。城下の街に行くつもりですが、その前に寄りたいところがありまして」
「寄りたいところ?」
「えぇ……」
私が言葉を濁して微笑むと、ミカはそれ以上追及してこなかった。
気をきかせたのか話題をかえるようにして、
「そういえば、アラン様に贈ったバラジャム、けっこうみんなに人気なんですよ!」
と、話しかけてくれる。
「アラン様に贈った後、いつもお世話になっている館のみんなに食べてもらったんですけど、好評で。うれしいんです」
にこにこと笑いかけてくれるミカに、私もつられて笑む。
「えぇ、とてもおいしいものでした。花を食べるなんて驚きです」
「ふふ、自分で言うのもなんですが、良い香りでしたよね。それで……」
ちょっとうかがうような目をするミカ。
「どうしました?」
「また、バラいただいて、作ってもいいですか?あの、クオレも」
「えぇ、ぜひ」
ミカのお願いはとても可愛らしいものだった。
バラとクオレ。
なんてささやかなお願いなんだろう。そして、彼女らしい素敵な願い。
「ありがとうございます!ディール様やリード様にも喜んでもらえるかなって」
……思わぬところに兄と弟の名前が出てきて、手が止まった。
「兄とリード?」
「えぇ、そうなんです!ディール様、ときどき私に手紙やメッセージをくださるんですけど、ちょうど昨日『バラのジャムを作ったとの話を聞きましたよ?私も食べてみたいですね。リードも喜ぶでしょう』ってカードをミニバラの鉢植えと一緒に贈ってくださってんです」
「こちらに、兄が?」
そんな話は聞いていないが……。
「いいえ、花とカードだけです。小間使いが持ってきてくれました」
ミカの答えを聞いて、何かひっかかるものがある。
もしミカに贈り物があるなら、私に報告があがってきてもいいところだ。報告漏れか?それとも……。
「そのカード、見ても?」
私がたずねると、ミカは素直にうなづく。
「えぇ、私の部屋の机の上にあります」
ミカが言うと、そばに控えていたマーリに頼みとりにいってもらう。
しばらくして、そのミカがもらったカードを見て、私は苦笑した。
「あの、アラン…?」
私の表情に驚いて咄嗟に口からこぼれたのか、ミカが以前のような呼びかけをする。
「いえ、何でもありません。兄が、バラジャムを食べたがっているようですね」
……。
『バラのジャムを作ったとの話を聞きましたよ?私も食べてみたいですね。リードも喜ぶでしょう』
たしかに、カードの筆跡は兄ディールのもので間違いなかった。
だが、そのカードに使われている用紙は……ミカや王城仕えをしたことのないマーリは知らないだろうが……セレン殿下専用のものだった。
人の恋路が気になる殿下と、私をからかうのが大好きな兄は、親友といっていい間柄。
皇太子殿下直々に、ミカの監視者に伝令されたのだろう。このミニバラとカードの贈り物は私への報告をしないようにと。
あの二人の考えそうなことだ。
……なにが「私も食べてみたいですね。」だ。私の恋路を冷やかしたい、の間違いだろう。それとも、異世界から来たミカがもたらしたものを分析したいか……だ。
そう思って内心ため息をついていると、ミカは呟いた。
「あ、そういえば皇太子殿下とか宰相殿に贈るのは、やっぱり失礼ですよね……。私の作ったものなんか」
その呟きに、私は首をふる。
「わざわざ贈らなくても大丈夫ですよ、あの二方にもいずれ召しあがっていただく機会はあると思いますから」
……あえて贈らなくても、兄のディール経由で殿下まで行き渡るにきまってますから。
心の中でそう付け加えて、ミカに笑いかけた。
「それよりも、私にも、また作ってくださいね。婚約者殿」
「……もちろん」
私の言葉に、ほんのりと薄紅にそまったミカの頬が食べごろの果実のように思えた。
口づけてみたい……そう思いながらも、私は何事もなかったように食事を再開したのだった。
*****
朝食を終えて、互いに身支度を整え、私は玄関のところで待っていた。
マーリとともに扉の前に出てきたミカは、私と私のとなりにいる馬を見て、目を見開いた。
「え、あの、馬車じゃないの!?」
咄嗟に言葉が以前のように戻ってしまっていて、私はクスっと笑いをこぼした。
「ことば、戻ってますよ?」
「あ。あ、あのごめんなさい。えっと驚いて……。あの馬で行くんですか?」
動揺しつつ、少し怯えるように大きな栗毛の馬を見上げるミカの姿に、私はちょっとからいたい気持ちになる。
「ミカは、馬が怖いんですか?」
「……こわいわけでは」
負けん気の強いミカは、私のことばを認めようとしないが、その様子をみると乗馬は初めてなようだった。
こちらにきて、馬を眺めていることはあっても、乗る機会はなかったはずだ。ちょっと怯えたようなミカの表情と、それを隠すようにつっぱったミカの言葉のギャップに、私はますますいたずら心が出てきてしまう。
「私と一緒に乗りますから心配しなくて大丈夫ですよ?」
「二人乗り……?そんな……」
「えぇ。でも一人で乗るわけにもいかないでしょう?」
私の言葉に、ミカは困ったような顔をこちらに向ける。
私は素知らぬふりをして返事する。
「少し身体が密着しますから、本来は未婚の男女での二人乗りははしたないですが、婚約者同士ですからね。許されるかと思います」
「みっちゃく……」
頬をボッと染めたミカは、こちらの顔を軽くにらんでくる。
その怒ったような、困ったような、恥じらうような、戸惑いの混じった豊かな表情が可愛くてますますからかいたくなるが、隣で控えているグールドの視線が妙にたしなめるようなものになったので、私は切り上げて馬に乗ることにした。
「大丈夫ですよ、ミカ。行きましょう?途中からは、馬車になりますから。馬で行くのは最初だけです」
私がそういって声をかけると、ミカは思い切ったように頷いた。
栗毛の愛馬には、愛用の装具をつけてもらっているが、いちばん簡素なものにしてある。
さっとまたがったあと、ミカに手を伸ばした。
困ったように見上げるミカに、心配いらないというように腕をとりひっぱりあげるのと同時にミカの足元を馬丁がさっと押し上げる。
私の腕の手綱をもつ腕の輪の中にすっぽりとおさまるミカ。同じ方向を向いているので、ミカの背中に流れる黒髪が私の胸元でサラッと揺れる。
「では行ってくる」
「行ってきます」
私が見送るグールドとマーリに言うと、グールドは頷いて言った。
「馬車と従者は、アラン様のお申し付けどおり、丘に待たせてあります。馬丁もそちらに控えさせていますから、この栗毛はそちらで置いておいてくださいませ」
「あぁ、ありがとう。手間をかけさせた」
「いいえ。どうぞお気をつけて」
見送られて、私はミカをのせて館を後にしたのだった。
*****
ミカは横座りで乗っているため、馬のスピードは出せない。
だから馬と走る一体感は味わえなかったが、初めてのあたたかなぬくもりと腕の中にミカがいることの安心感が、私を満たしていた。
「怖くはないですか?」
私が声をかけると、腕の中のミカは「大丈夫…」と答えた。
そして、ちょっとこちらを見上げるような仕草をする。
香油を少し髪にしみこませているのか、気持ちの良い花の香りが微かに漂う。
「馬って初めて乗りました」
「そうですか。元いた世界では、なにか機械でできた乗り物に乗っていたと、以前話していましたね?」
「うん、車とか自転車とかね。馬車みたいなんだけど、馬じゃなくて機械が動かしてるの」
「文明が進んでいたんでしょうね」
「でも、フレア国みたいに魔術師とかはいなかったよ? 歴史をふりかえったら、まったくいないわけじゃないんだろうけど、実際に転移魔法できるとか聞いたことなかったし……」
「フレア国でもまれですよ、転移の魔法を扱えるのは」
「そうなんだ……あ、言葉、また戻ってますね、私」
「そうですね」
微笑みあって、穏やかな空気が馬上に流れていた。
館から林の小道をゆっくりと馬で抜ける。小鳥のさえずりが聞こえ、木漏れ日がちらちらと揺れる。
他愛もない話をかわしながら、林を通り抜けると、高木が途絶えてゆき、草原が広がるゆるやかな丘にでてくる。
朝の陽ざしが草を柔らかくてらし、そよそよと風が通り抜ける丘。眼下には広い草原と、その先には城下へ続く整備された道が通っているのがわかる。
私は馬上から指をさす。
「あの白い石で整備されて続く道が城下の街へと続く道です。その向こうに、あるのが…」
「お城だ……大きい!」
ミカが声をあげる。
白くそびえたつ城。
フレア国の国王が住まう場所。
私が守る城。
フレア国の首都となるデレ・フレアの都市。
周りに広がる同じ白の石で造られた家々と城壁の、この丘の上からは見える。
城からずいぶんと離れたこの土地でからさえも、城は大きい。
「アラン様は、あそこに出仕しているんですよね? ちょっと遠い?」
ミカが首をかしげる。
「まぁ近くはありませんが、この栗毛で走り抜ければそれほど遠くもないんですよ?」
「そう? 今から、あの城の周りにみえる街にゆくの?」
ミカが私に聞いてくる。
「そのつもりなんですが、街に行く前に少しよりたいところがあって。すぐにすみますから」
私は手綱をあやつり、城が見える方角からそれて馬をすすめる。
ミカはあれこれ詮索しない。
ただ、ゆだねるように私の腕の中にいる。
触れているところがあったかかった。
馬をすすめると、木々が立ち並ぶ場所がある。
そして、そこに白く大きな石が草原の合間に並ぶ。
「ここは……」
ミカがつぶやく。
言わなくてもわかったようだった。
「そうです、我が一族の墓です」
四角く成形された白い石が並ぶ近くに馬をとめ、下りる。
ミカも抱きとめるようにして馬から下ろし、ふたりで石のあいまをゆっくりと歩く。
そして、私はある石の前で歩みを止めた。
ミカはじっと石を見つめている。
「こちらの下に私の父と母が眠っています。」
「……ふたりともこちらに?」
「えぇ。基本的にフレアでは夫婦はひとつの墓石なのです」
「そう……」
私は石の前でひざをついた。
「仲の良い夫婦でした。母が先に逝った後、まるで追いかけるように父まで流行病でそのまま亡くなりました」
「……」
「ミカの元いた世界での形はわかりませんが、このフレア国では、婚約や結婚、そして出産などの慶事はたいてい親に報告するのです。もし亡くなっているのであれば墓石に。何も説明せずにつれてきてしまって驚かせてしまいましたが……城下に行く前に、寄ってきたかったものですから」
「ううん。大切な場所に連れてきてくれてありがとう」
ミカは優しくほほ笑んでくれた。
その微笑みは、いつも見るよりもずっとずっと儚げで、そして消えてしまうかのような透明感があった。
そうして私にほほ笑んでくれた後、ミカも私の隣にひざまづき、そして手を合わせた。
黙って手をあわせたまま、少しうつむいている。
この手をあわせる動きが、ミカの国の死者への語りかけなのだろうか?
「?」
私が戸惑っていると、ミカはそんな私に気付いて小さな声で説明してくれた。
「うん、私も手を合わせて……祈っていたの」
「祈り……」
「うん。アラン様や館の者たちが幸せでありますようにって。それから、庶民でしかも異世界から来たもので申し訳ありませんが、館でごやっかいになっていますって伝えた」
ミカがにっこりと笑った。今度は、はっきりとした明るい笑顔で、私はなぜかホッとした。
私とミカはしばらく静かにそこにたたずんでいた。
並ぶ白い石に日の光が降り注ぎ、小鳥が草原の小さな花をつついたりしている。
なごやかであたたかな空気が満ちていた。
穏やかであたたかな雰囲気は名残惜しくはあったが、これから私とミカには行くところがある。
私はそっと、
「いきましょうか?」
と、ミカをふたたび馬に促した。
墓石に今一度、私は一礼してからミカと来た道を戻った。
先ほど丘から見えた城下へ続く道に、グールドが手配してくれていた馬車が止めてある。
待っていた馬丁に栗毛の馬は預け、次は馬車に乗り込んだ。
ふだんなら、車内では向かい合って座るものだが、私はミカのそばにいたかった。
それで、私は自分のとなりにミカが座るように促した。
二人で馬車に乗るのは初めてなミカは、並んで座るのが普通なのかと思ったようで、何も抗議されることなく並んで座った。
私の右肩に触れる、ミカの体温。
ミカの淡い水色のドレスのスカートの上に、彼女の綺麗な指先が上品にのせられている。
私はそっと、右手でミカの左手を上から握った。
びくっと肩をゆらして、右側のミカが私を見上げるのが気配でわかったが、私は少し照れてしまってミカの方を見なかった。
抵抗がないのをいいことに、私はミカの手の指先に自分の指先をからめて握ってみようとした。私の手にはすっぽりと入ってしまうようなほっそりとした小さな手指を少々強引に開かせ、私の騎士として鍛えてきた節ばった指をその隙間にからませてゆく。
手をつなぐだけなのに、少し背徳的な気持ちがしてゾクゾクした。
戸惑うような震えが右側から伝わってくると、ミカを統べているかのような満足感があった。
「出発してください」
私が御者に声をかけると、返事と手綱をふるう音とともに馬車が動き出した。
「これから城下にむかいます」
そう隣のミカに耳うちすると、ぴくっと頬をゆらして肩をすくめるようにしてミカが頷いた。
「窓からの眺めも楽しむといいですよ」
私はミカの耳たぶに唇を寄せて語りかける。
「……アラン様、ちか、よりすぎです。くすぐったい」
「そうですか?」
「ちょっと、気になって……」
肩をすくめて小さくなりながら、戸惑ったように瞳を揺らすミカに私は、
「あなたは窓から外を眺めていたらいいんですよ?」
そういって、ふうっっとミカの弱点のはずの耳にやさしく息をふきかける。
「……んっ……もう!アラン!」
可愛らしい声をあげて、ますます縮こまりながらも、抗議の声をはさむのを忘れないミカ。
私はこの小さくて、可愛らしくて、でも意地っ張りな姿が隣に在るのが嬉しくて仕方がなかった。
「あなたとともに、両親に報告ができて、良かったと思います。一緒に来てくれてありがとう」
今度は真面目に耳元でそう告げると。
ミカはこちらに目を向けて。
こくんとうなづいた。
「私も、良かったです」
そう言ってくれるミカが、ますます愛おしく感じる。
ミカの姿をみて、私はしばし考えて言った。
「あなたの……ミカのご両親にご報告できないのが申し訳なく思っています」
はっとしたように、ミカが私を見つめた。
「ミカはお父上は亡くされたと話してくれてましたが、お母様はいらっしゃるのでしょう。なにか、お伝えするすべや……そうですね、祈り方みたいな方法があればいいのにと思います。もし、ミカの文化の方法で望むことがあれば私に遠慮なくいってください」
私の言葉に、ミカは揺れるような視線を向けた。
何か伝えたいのかと思い、私は受け入れるつもりで、見つめ返す。
けれども、ミカは何もいわなかった。
ただ、微笑を浮かべた。
その笑みは……また。
今にも消えそうな儚さだった。




