01 空から落ちて (ミカ)
女性視点です
それは春から初夏へとうつる季節の、ある晴れた日に起こった。
大学の講義が突然休講になって、ぽっかり空いたお昼間。
空は雲ひとつない晴天。
私は、
「……なにしようかな。図書館でも行こうかな」
と、大学の事務棟から図書館までの歩道をひとり歩いていた。
すると突然、暗闇が襲ってきて。
……え、えぇ!?
……えぇぇぇっ!??
と思ってるまに――……
何かにどこかに吸いこまれていくような、気がした。
足元から頭の先までが、どこか一点に引っぱられていくように感じるのと同時に、まるで眠りに落ちるかのように、頭の中の考えまでもがどんどん薄れていって……。
……そのまま、意識を失ったんだ、私。
*****
さて。
目が覚めて、
「異世界でした」
って、どんな状況だよって、私も思います。
でもまぁ、来ちゃったんだから……仕方がない。
そう、私はある日突然、見知らぬ世界に来てしまったのだ。
それが呼ばれたのか運命なのか偶然なのか……よくわからないけれど。
とにかく来てしまった。
フレア王国という、私にとって未知の国に。
言葉通じたよ!
ごはん、たべられるものだったよ!
人間の外見、ほぼ一緒だったよ!
(西洋風だったけど!)
万歳! 怪我なし・病気なしで助けられた!
しかも、裕福で容姿端麗な28、9歳ごろの男性にね!
ひゃっほ~(死語)、って感じ?
――ってことで、前向きに受け止める。
ここ、私がとんで来ちゃった『フレア王国』は、地球でいう昔のヨーロッパのようなドレス姿の世界だった。
女性は、腰はキュっとしてスカートひらひら、女性は足なんてみせませんわっ!というドレス着用が基本。男性たちは、もちろん基本紳士。
ま、王侯貴族たちがタイツとカツラ着用してなくて良かったなぁとも思います。タイツにかぼちゃパンツなんてはかれてたら……王様の前で笑いころげて不敬罪でつかまってしまったと思う。
でも文明的にはどうなんだろう、世界史もっと勉強しておけばよかった。
この『フレア王国』に、いわゆる「異世界トリップ」をしてしまって、早いもので一年とちょっとが経つ。
もちろん、泣いてしまう夜もあった。
戸惑うことだって、今も何度もある――……。
でも、
「結局は生き抜いていかないとね!」
と思ってきた。
ありがたいことに、私を助けてくれた男性……アランは。
お城のような館のバラが咲き誇る庭園の……ど真ん中、空から落ちてきた私を、近衛騎士団長として鍛え抜かれた俊敏な動きで、咄嗟に抱きとめてくれた。
おかげさまで私はスプラッタをまぬがれてここにいる。
生きてる。
そのアランが「空から女が落ちてきた」という超異例事態の報告と解明の申請を王城にしてくれたのが……一年前。
さまざまな調査の結果、聖殿の魔法途中の不測事態という、なんだかよくわからない結果が出て。
空から落ちてきた不審人物極まりない私は、それまで拾ってくれたアランの館のお客様扱い……ちがった、謹慎の生活。
逆に聖殿の魔法失敗の「(いちおうは)被害者扱い」となったのか、それとも政権争いともからんだのか、王宮と聖殿からの後ろ盾なのか監視なのかわからないけれど、路頭にまようことなく近衛騎士団長の館に住まわせてもらったまま過ごしている。
最初は一部屋のみしか暮らせなかった状態から、廊下の散歩のみOK、館内なら大丈夫へとステップアップして、今はアランの館とそのまわりの広い庭なら歩いても良い状態になっている。
たしかに――……この一年、アランの館にお世話になりっぱなし。
衣食住すべて。しかも、私には未経験の「お姫様」扱いで。
外出できない不便はあっても、「大切な扱い」を受けてきたんだとは思う。
それは認める。認めざるを得ない。
でもね……。
それで、それで、ね……。
どうして、どういったわけで。
「私が……」
「はい」
「私の拾い主アランの……こ、婚約者になるって、どういうことなんですかっ!」
思わず荒げた声に。
「厄介払い……でしょうね」
金髪をサラサラいわせて小首をかしげ、キラキラした碧眼で私を見て答えたのは……アラン・ソーネット。
昨日、私の婚約者と決まった男、このフレア王国での私の”拾い主”だった。