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プロローグ



 それは12年も昔。

 わたしにとってはごくごく普通の日常だった。


 朝起きて、顔を洗ったらスキンケア。

 朝食はクロックムッシュにサラダ、フルーツにヨーグルト、しっかり食べて、食後はコーヒーを飲みながら経済新聞に目を通す。

 時計を確認して、食器はキッチンの食洗機にセット。ベランダに出て鉢植えに水やり。

 パウダールームに向かって歯磨きしたら、フルメイク。今時あえて黒いロングヘアーはしっかりブラッシング、三十路近くてもキューティクルは失わないのは毎日の努力の賜物よ。

 寝室に戻ってクローゼットから取り出すのは、戦闘服と豪語するシルバーグレイのスーツに清楚かつエレガントなフリルブラウス(もちろんシフォンよ!)。

 着替えて姿見で全身チェック。ストッキングにも伝染無し。


 今日も完璧、キャリアビューティースタイル。


 いつ急な会議が入ろうとも、どんな難しい商談が始まろうとも、突然の取材のアポが入っても。


 ええ、ええ、しっかりこなしますとも!

 自分の城を買ったからにはがっつり稼ぎますとも!



 最後にバッグの中身をチェック、忘れ物が無いのを確認したら、これも戦闘服の一部、7センチヒールを履いて、玄関を出る。



 おひとりさまのお城を出ながら一言。


「さあ、今日もしっかり働いて稼ぎますよー」



 頭のどこかでは、お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、お母さんが困った顔しているのとあわせて、子供の頃から聞き慣れた言葉がテロップのように流れているけれど、それにはごめんなさいをして、玄関の扉に鍵をかける。


 ガチャリ、その音と一緒に気持ちを切り替えて。



 わたしは今日も、ガッツリ派手に稼ぎます!




 ・・・なーんて、ほんと毎日毎朝、自分を鼓舞してわたしなりに頑張ってたんだけどねえ・・・。




 それが何でかまあ、いろいろありまして。

 ええ、ほーんとイロイロありまして。


 ちょっとマジでシャレになんないでしょ、なんなの一体この状況!? みたいな?


 異世界ってなあに? なんのお約束? 何フラグ? っていうか三十路近いのにアイタタタ!?


 って状況になりまして。ええ、はい。



 まあ、それに至った経緯だとかシャレになんない状況はおいおいの話として。


 ほんっとーに愕然としたのよ。


 聞くこと、見るもの、すべてに培ってきた一般常識とともに自分のアイデンティティを破壊されていくような気すらしたわね。うん。


 で、そうして自分が置かれた状況(まあ、シンプルに異世界突入しちゃいました! だけどさ、ふん!)を理解するに比例して、バカみたいに泣いたし喚きそうになったしゴネたし怒ったりもしたのよね。


 それでもまあ、最終的には今すぐ元の世界に帰りたいっていう、自分の当然の希望が叶うことは無理だとなんとか納得しまして。

 それを腹立たしくも思ったけど、わたしも三十路に近い大人ですから。

 今思えば結構無理しちゃってたんだなあ、と思うけど、デキル大人の女を何年もやっていたことだし。


 まあ、そんなこんなで譲歩して、救済策が必ず出ることが前提の現状維持を条件として、そのイロイロな状況を受け止めることになったんだけどね。


 でもって始めてみれば、その状況(言いたくないけど異世界生活よ!)が案外自分には向いていると気付いたりもしたわけよ。


 そこで、今さらながら「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、お母さん、ごめんなさい。でもって家訓を口酸っぱくして言い続けてくれてありがとう」なんて感謝して、毎日平穏に過ごしてたんだけどねえ・・・。


 でもって、ながーいながーい現状維持の為に、毎朝呪文のように家訓を口にして努力も惜しまなかった(つもり)んだけどねえ・・・。



 それがどうしてこうなったのやら。



 目の前を流れるのどかな田園風景をなんとなしに見ながら、この世界にきてほんと久々に。


 随分「()かなくなった」溜息をわたしってば漏らしちゃったりしてるわけよ。



「セーメ様、どうなっちゃってんのよ」


 というぼやきと共に・・・。







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