夕焼け
呟いた言葉はひとりでに歩き、前を歩く青年へと届いてしまったようだった。
「寂しいの?」
「え?」
そうとも知らずに自分の世界へと浸っていた私は、異常に驚いてしまった。
「いや、君が寂しいと言っていたから…」
「え? 私、口に出していました?」
「うん。僕の耳に聞こえてきたよ」
あまりの恥ずかしさに二の句が継げない。顔が熱くなるのが分かった。
誰に聞かせるつもりでもなく、ただ心の中で思っていた言葉。それが自分ひとりの言葉でなくなっていたとは…。
けれど、私の心は何故か落ち着いた。もしかすると誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。孤独に渦巻くその思いを。
「どうして、聞こえてしまったんでしょう?」
「うーん…。多分、僕と君が同じ光景を見ていて、同じ思いを抱いていたからじゃないかな?」
私の質問に青年はさらりと答えた。
同じ光景を見ていて、同じ思いを抱いていたから……。
これ以上説得力のある言葉はないのではないだろうか。不思議と私の心は波打った。
「じゃあ、あなたも一人なんですか?」
「…うん。この夕焼けを見て、悲しいと思えるほどにはね」
「この、夕焼けを見て……」
青年の顔を紅く染め上げる夕焼けの空を見つめた。夕陽はあまりにも眩しく、とてもじゃないが直視できない。
紅く紅い夕焼け色の空は、確かに悲しくなるような光景だった。彼と私はこの光景を共に見ていたのだ。同じ思いを抱いているとも知らずに。
それはとても幸福なことのように思えた。
孤独ではないと思わせてくれることだった。
「あの」
私は少しだけ勇気を出してみることにした。
これほどまでに幸せな充足感を与えてもらったのは初めてだったから、お礼を言いたかったのだ。そして、できることならば彼にもっと近づきたかった。
「ん?」
さきほどと変わらぬ穏やかな表情で、青年は私の言葉を待っていてくれる。焦らそうとするのではなく、ただ自然に言葉が出るのを待ってくれている。
なんて不思議な出逢いだったのだろう。
そう思いながら、やっと出てきてくれた素直な言葉で彼に語りかけた………。
結構前に書いたものです。
この続編…それもすごく短いものですが、載せるのでよろしければご覧下さい。