第三章
「じゃあ、アキくーん。頑張ってねー」
夕刻より賄い付きの食堂でアルバイトをする予定になっている朋香が手を振り去ってゆく。ただいまの時刻は午後三時過ぎ。見送っているのは、跡切と昭裕である。仕事の依頼後、どういう流れか駅前のファミリーレストランにて三人で昼ご飯を食べることになり、いつの間にやらこんな時刻になっていた。お手洗いからなかなか戻ってこない跡切に代わって、食事代は昭裕が支払った。女子たちはよく食べた。
そして、探偵助手としての仕事が始まった。
「うん、初仕事だ。頑張ってね。少年」
夕方、昭裕とは違って正式な依頼人――これは跡切の弁だ――が来るらしかった。
「ええと、俺は何をしたらいいんでしょうか? 探偵業のノウハウなんか全く分からないんですけど」
テーブルを布巾で拭きながら、昭裕は質問する。
「大丈夫、大丈夫。とりあえず接客をそれなりに頑張ってくれたらいいから。というわけで『俺』は自重してね。一人称は『僕』か『私』にしてちょうだいな」
「はあ、わかりました。……なら『ボク』でいかせてもらいます。――跡切所長」
「わぁ!」
叫びと共に跡切の耳がぴくりと動いた。
「? 所長?」
「わお!」
またしても耳が動く。昭裕はその動きに気づいた。器用な人だと思ってから、しばし考える。
「……跡切さん?」
「がっくし」
「……もしかして、初めて所長と呼ばれたとか言いませんよね、所長」
「あぁ、なんて甘美な響きなの。『長』。それは自分より下がいるという確固たる証」
跡切はうっとりとした顔をしている。
「うわー。最低だなあ、この人」
事務所の実情を図らずも理解してしまった昭裕だった。
コンコン。午後五時きっかりにドアがノックされた。
「はーい、少々お待ちください。ほらほら早くドア開けて」
「は、はい」
昭裕は跡切の言葉に急ぎ足になろうとし、結果、その前にドアにたどり着いた。
「いらっしゃいませ」
こんな平凡な挨拶で良かったのかな、と昭裕は悩みながらドアを開ける。
外はまだ明るい。
「初めまして」
目前に一人の少女がいた。男の昭裕も知っている私立女子校の制服を着ている。お嬢様学校として有名なところだ。少女は綺麗なお辞儀をしてみせた。長い黒髪に天使の輪が見える。
(おおう、美人さんだ)
依頼人は落ち着いた雰囲気を漂わせている(少なくとも昭裕にはそう思えた)女子高生だった。
「筑紫明日飛さんですね」
昭裕の背後から、跡切が顔を覗かせる。成年男子の平均身長とほぼ同一な昭裕よりも跡切は背が高い。
「はい、筑紫です。今日はよろしくお願いします」
少女のその落ち着いたトーンに昭裕はちょっと圧されてしまう。どこぞのはとことは大違いだと思う。爪の垢を提供してもらうべきだろうか。
さて、室内にて、女探偵と少女はテーブルを挟んで向き合った。助手は依頼人に麦茶を出した後は所長の斜め後ろ(壁ぎりぎり)で立ったまま待機だ。ちなみに茶は自動販売機で購入したものでしっかりきちんと冷えている。買いに行ったのは昭裕で、金を出したのも昭裕である。
……昭裕の財布内エンゲル係数はうなぎ登り中だ。
「さて、依頼は鳥を捕まえて欲しい。そういうことでしたね」
「ええ、そうです」
(……鳥の捕獲)
話の中身に昭裕は少し当惑する。奇妙な偶然もあるものだ。
「電話口でも言いましたが、ウチがペット探し専門の探偵事務所ではないことはおわかりですね」
少女がこくりと頷く。
「はい、もちろんです。ここは……普通じゃない事件を解決してくれるところだと。人伝にそう聞きました。だから、来たんです」
「なら、あなたの依頼に絡んでいる事件とやらを教えて下さい。もちろん、アタシは探偵の務めとして守秘義務はしっかりと守ります。その点はご安心を」
おおぅ、それっぽいと昭裕は無表情を装いつつも感心していた。跡切と朋香がすでに知り合いだったためか、先程の自分たちの会話はどこか三者懇談染みたところがあったが今は違う。
加えて四畳半探偵事務所の知名度がそれなりにあることにも昭裕は驚嘆していた。
「わかりました。ありがとうございます」
そう言った後、少女は思案顔になった。話の切り出しを考えているのだろうか。少女の両手が膝の上でグーの形になる。開かれたのはしばらくしてからだった。
「あの、なにか紙はありますか? 折り紙の代わりになるものならどんなものでもいいのですが」
「助手」
跡切が片手をあげる。ようやくの出番だ。昭裕は部屋の隅に積んであった新聞紙の束から広告を引っ張り出し、その中から使えそうなものを探し出す。
「これでいいですか」
少女に見せたのはパチンコ屋の広告だ。A4サイズで紙質は硬い。一番折り紙に近い感じだろう。
「はい。ありがとうございます」
少女はそれを受け取ったが、すぐに困った顔を見せた。
お嬢様学校に通う子にパチンコ屋の広告というのはまずかっただろうかと今更になって昭裕は焦る。
「どうかしましたか?」
優しい声色で跡切が声をかける。
「いえ、今気づいたんですけど。私、知りませんでした」
少女は申し訳なさそうにする。
「何をです?」
「飛行機の作り方です」
結局、男の子だった昭裕が『紙』飛行機を作ることになった。十年程のブランクがあったが、無事完成する。
「できました、けど」
紙飛行機を作らねばならない理由はまだ聞いていない。
「あの、飛ばしてみてくれませんか?」
少女に請われ、昭裕は所長を見た。
「いいわ、やってちょうだい」
ゴーサインが出る。
昭裕は部屋の隅から、対角線上の隅に向けて紙飛行機を緩やかに放つ。
スッ。
かなり正確に左右対称に折れていたようだ。紙飛行機は何のひねりも見せずに直線的に飛んだ。そのまま壁に当たり落下する。狭い室内であるだけに、飛行時間は一秒あるなしだ。
(ま、こんなもんか)
「わあ、きれいにまっすぐ飛びましたね」
「うん、飛んだ飛んだ」
探偵助手としての初の褒め言葉は、紙飛行機作りにあった。
(なんか虚しいですよ)
せめてもの救いは少女の声のトーンが先程より若干高かったことぐらいか。
「はい、どうぞ」
壁に当たった際に少し曲がってしまった先端を修正してから、昭裕は少女に飛行機を手渡す。
「ありがとうございます」
笑った顔は可愛らしいものだった。少女は掌にのせていた紙飛行機をそっと左手でつまみなおす。
「少し待ってもらえますか」
「ええ、もちろん」跡切が頷く。
無為な時間は一分程だった。
「おまたせしました」
少女がおもむろに紙飛行機を天井に向かって投げる。床に対して垂直に近い角度だ。
昭裕はロケットを折ったつもりはない。
――ダメだよ、そんな投げ方じゃ。
否定の言葉が喉を駆け上がり、
「だ、へ?」
急停止する。実際に昭裕の口から出たのは、間抜けな一声だけだった。
紙飛行機が予想外の軌道を見せつけたからだ。
まず最初に天井付近で曲線を描き、それは背面飛行に入った。次に壁近くで急落下し、錐揉み状態になるが床ぎりぎりのところで体勢を立て直し、再び舞い上がる。
狭い室内が大空に変化した。
「わっ!」
昭裕の鼻先を掠めるように通り過ぎ、
「おー」
跡切の腕で機首を極端に上げ、コブラを披露する。
しばらくして紙飛行機はテーブルの上に軟着陸した。
およそ五分間は飛んでいただろう。どう考えても紙飛行機の挙動ではない。
「うん。面白いものを見せてもらったわ」
「……」
昭裕は呆然としていた。
「ほら、しゃきっと背筋伸ばしなさい」
「あぁ、はい。すいません」
昭裕はいつの間にか目前に立っていた上司におでこを突かれてようやく我に返る。今まで保持していた世界観とは反する現象に心を奪われていたのだ。
「驚かせてしまってごめんなさい」
「い、いえ。お構いなく」
「コラッ。依頼人に気を遣わせてるんじゃないの。そっか、筑紫さん、あなたは神隠しに遭ったのね」
昭裕の頭をすごく軽めにポカリとやってから、再度着座した跡切はいきなりそう断言する。
少女は目を見開き、驚きの表情を見せることでその問いかけを肯定した。
そうして昔話が始まった。
「八年前、私は公園で遊んでいました。でもふと気づいたときには、見知らぬ景色の中にいたんです。あぜ道に独り立っていました。……どうやってそこに行ったのかは今でもわかりません。あぜ道はどこまでも続いていて、その周囲には黄金色に染まった稲穂が広がっていました。私は泣きながらあぜ道を歩き続け、お腹の減った時には稲穂のお米を食べました。もちろん生で硬くはありましたけど、甘くておいしかったです。それから、稲穂をベッドにして寝たりもしました。チクチクすると思ったけど、とっても柔らかでした。そして目覚めたとき、一人の女の人に会ったんです。すごく綺麗な人でしたけど、不思議な格好をしていました。和装とも洋装とも判別できない作りの服を着ていて、胸元には曲玉みたいなものを飾っていました。私はその人に迷子になったと言いました。何でもするから家に帰してほしいと頼みました。すると、あの人は私に笑みを見せて、頷いてくれました。その途端、景色が溶け出して公園が見え始めたんです。私は帰ってこられました。……ほんの一日程度の出来事だと感じてたのに、どうしてだか一週間も経っていましたけどね。つまりは、所長さんが言った神隠しです。それからなんです、この力につきまとわれているのは」
話し終えた少女は、お茶に口をつけた。
「ふーん、あの女も頑張るわねー」
呆れたとも感心したともわからない口調で跡切が言い放つ。
「えっ、会ったことあるんですか、あの人に」
探偵の言葉に麦茶を飲むのを慌てて中断し、少女が聞き返してくる。
「直接にはないわ。でも、あなたのようにアイツに出会ってしまったヒトは何人か知ってる。みんな何らかの力を背負わされていた。――あなたの力は、そうね……。付喪神を作れる力でしょう」
「付喪神。……古くなったものに命が宿る現象でしたか」
昔、朋香にむりやり押しつけられた小説にそういうものが登場していた。そのことを昭裕は思い出していた。
「助手、正解よ。アタシたちはたった今、体験してしまったけれど世間一般では一種の民間信仰とされている概念ね。……ただ、筑紫さんの場合は少し違うわ。簡単に言えば、長い時の経過というプロセスをすっ飛ばして短時間で触れているモノを付喪神――命を持つ物――に変化させることができる。そうですね?」
跡切は紙飛行機をいじりながら少女に確認を求めた。
「はい。所長さんの言うとおりです。私の左手小指と一分間継続して接触していたモノはさっきみたいに勝手に動き出してしまいます。でも、生き物には効果がないし、私の指から離れたらせいぜい五分間ぐらいしか動きません。……だから、大したことない、こんなの見て見ぬ振りをすれば普通に生きていけると思ってました……」
「でも、そうも言ってられなくなったわけだ」
跡切が紙飛行機を放つ。それは昭裕が投げた時と同じく、すぐに落下してしまう。
探偵は問うた。
「筑紫さん、あなたはなにをしてしまったの?」
少女は視線を膝上の両手に移した。その手は互いをしっかりと握り込んでいる。
「……十日ほど前です。私はちっちゃな女の子に会いました。その子は泣きながら、地面に穴を掘っていました。足下には白い紙の箱があって、インコが横たわっていました。お墓を作ろうとしていたんです、その子。私はその子を慰めようと嘘をつきました。その鳥は生きてるよ、お外に出たいから死んだ振りをしてるだけだよって。そう言ったら女の子は信じてくれました。だから、私はこの力を使ったんです。もう生きていないモノになら効くかもしれない。そう思ったんです。一種の賭けでしたけど、見事インコは飛び立ちました。あとはどこかに落っこちてるインコのお墓を私が代わりに作ればいい。……それですべてうまくいくはずでした。でも、私は見つけられなかった。地面のどこにもいなかった。まだ、……動き続けてるんです」
「ふむ、なるほど。そういうことか。あなたも愚かなことをしたものね。ほっとけばよかったのに。あなたは要らぬ事に首を突っ込んだのよ」
跡切は少女の告白をあっさりと断罪した。
「ちょっと跡切さん、言い過ぎじゃないですか」
昭裕はつい跡切に突っかかってしまう。所長と呼ぶのを忘れる程度には頭に血が上っていた。
遺骸が動いているのがどうしたというのだ。それで女の子が悲しみから解放されるなら万々歳ではないか。そう思っていた。
跡切は臨時助手の言葉に怒りはしなかったが、ため息はついてみせた。ついでに首も左右に何度か振られる。
「まったく、やれやれだね。少年、仮にも探偵助手を務めるのならば、よく考えてから発言したまえよ。そのインコが普通の鳥っぽく振る舞ってるならわざわざ依頼をしに来ると思うかね? それこそ見て見ぬ振りをすればいいじゃないのさ。そうだろう?」
「――えっ!? じゃあ、まさか」
頭の中で点と点がつながる。頭に上っていた血が一気に下がった。
「里奈ちゃんを怪我させた鳥って、まさか……」
「十中八九、そのインコでしょう。ああ、里奈ちゃんていうのは、この助手兼大学生である、伊東昭裕が家庭教師をしてる小学生の女の子のことよ」
その説明を受け、少女は顔をくしゃっとさせた。落ち着いた雰囲気が微塵もなくなる。
「ごめんなさい、ごめんなさい――」
少女の目から涙が零れ、制服のスカートを濡らす。
「そ、それだけじゃないんです。私の学校ではもう色々な噂が流れ始めてるんです。小鳥がカラスや猫を襲って食べてるとか。人間の髪の毛を無理矢理抜き去ってゆくとか。……それにクラブが一緒の、二年の先輩が実際に被害にあいました。襲われたんです。友達とふざけながら歩いてて、偶然にも衝突は避けられたそうですが、びっくりして転んで肘を擦りむきました。先輩は確かにインコだったと言ってました。薄汚れたインコだったと」
「カラスと猫の話は噂じゃないわね」
跡切はティッシュの箱を少女の前に置いた。
「並木通りで、実際に動物の死体、しかも傷つけられたものがいくつも見つかってるそうよ。警察関係者から聞いた話だから間違いないわ」
「……並木通り」
昭裕も知っている場所だ。道幅約七メートルの遊歩道で、左右には桜の木が植わっている。徒歩でおよそ十分の行程で、大学から駅に向かうカップルが遠回りのためによく利用する。昭裕も一度大友と歩いたことがあった。場違いさに二人して少々後悔してしまったのは、忘れるべき思い出である。
「お、女の子がお墓を作っていたのも並木通りでした」
少女はしゃくり上げながらもそう補足した。彼女の学校は並木通りからそれほど離れていない場所にある。彼女たちが寄り道をするのにそこは格好の場所だろう。
「助手、お茶の追加をお願いできる?」
そう言って、跡切は助手に自分の鼻をつまんで見せた。
「はい」
昭裕は返事をし、すぐに外に出た。少女はこれから盛大に鼻をかむはずだ。年の近い異性がいては恥ずかしさを覚えるかも知れない。話の続きは気になるが、しばらくは戻らない方が良さそうだ。
そうして近所を少しぶらぶらしてから戻ってみると、少女はすでに椅子から立ち上がっていた。頃合いを見計らったつもりだったが、少し遅かったようだ。
「遅い!」
叱責が飛んでくる。
「すみません」
そんなこと言われてもなあ、と心中でぼやきながら、お茶を跡切に渡す。女の子のお色直しにかかる時間など男にわかるはずがない。
「まあいいわ。駅まで筑紫さんを送ってちょうだい。寄り道は無しよ」
「私一人でも大丈夫です」
そう言う少女の目はまだ赤かった。
「いいから、いいから! さぁ、今日はもうお帰りなさいな」
所長命令に従い、昭裕は少女を駅まで送る。野郎の願望としては美少女の横が良いのだが、渾身の努力で厚かましさを打ち負かし斜め後ろを立ち位置とした。
ほっそりとした制服姿がとぼとぼと前を歩いている。
落ち込んでるんだろうな。
そう推察していると少女が急に振り向いた。長い髪が躍る。
「あの、助手さん。……今から並木通りに行きませんか」
きっとしたまなじりで昭裕を見つめてくる。予想とは違う反応だ。赤くなった目と合わさって迫力があったが、
「それは――ダメです」
昭裕は申し出を拒絶してみせた。
寄り道は無しよ、という跡切の言葉を昭裕は正確に理解し始めていた。
「俺、いやボクと所長を信じてください。お願いします」
腹に力を込めて、見つめ返す。
「……ごめんなさい。無理を言いました」
少女の視線が落下する。
「今日は帰りましょう、ね」
「はい」
昭裕は少女が改札の奥に消えるまでしっかりと見送った。
「ただいま戻りました」
「お帰り、助手くん。どうだったかね?」
跡切は椅子に座り、お茶を缶のまま飲んでいた。
「並木通りに行きませんかって誘われましたよ」
「あぁ、言っちゃったかぁ」
天井を見上げた跡切は缶の底を額に当てた。
「むろん断りましたけど」
「当たり前よ。そのために少年をつけたんだからね。うーん、泣かせばめげて余計な行動しなくなると思ったんだけどなぁ。無茶なことはするなとも君が出かけてる間に忠告したんだけど、まだ不十分だったか。いやまったく人間心理は難しいわ」
缶がテーブルに置かれた。軽い音からしてもう空のようだ。
「早く解決しましょう、跡切さん」
椅子にどすんと座り、昭裕はグラスに残った麦茶を一気に飲み干す。すでにぬるくなっていた。誰が使っていたグラスかはわからない。もう他人事で済ますことはできない心境だった。
「おぉ、やる気満々だねえ。けっこうけっこう。ところで教え子の里奈ちゃん、髪の毛は長い方かい?」
「背中の中程ぐらいまでありますから、結構長いんじゃないかと。それが何か?」
「そっかそっか。筑紫さんと同じぐらいだね。うんうんうん。……でさ、話は変わるけど、少年はゾンビ映画の類って見たことあるかい? もしくはその手のゲームをやった経験は?」
指鉄砲――構えからしてライフルのようだ――で昭裕は脳天を撃たれた。
「……多少はわかります。あまり得意じゃないですけど。それが何か?」
「うん。あいつらはさ、死んだ人間やら犬やらなわけだけど、元同僚である生き物を喰い殺そうとしてくるでしょう」
今度は両手をかぎ爪状にして顔の前で構えてみせる。ゾンビのつもりだろう。表情から察するに、茶目っ気を会話に加えたかったようだ。
「まあ、大体そんな感じでしょうね」
「うん。でね、やっぱり食べたら出さないとダメだと思うわけよ!」
「へっ?」いや、ちょっと待て。
「ウンPとオシッP、をよ」
Pの部分だけ声が大きかった。
「……所長、中途半端な隠語は止めましょう。どう贔屓目に見てもセクハラ上司以外の何者でもないです」
昭裕は半ば義務的に突っ込みを入れる。
「あら、そぉ。……糞尿の方がよかったかしら……。とどのつまり、アタシが言いたいのはね、あいつらは噛んで来るだけで肉は食ってないんじゃないか。そう言うことよ。少年は想像できる? ゾンビがトイレで温水洗浄便座を使ってるところを?」
「えーと、無理というか想像したくないです」
水圧で尻の肉が刮げる様を昭裕は慌てて脳裏から追放した。
「とどのつまり、あいつらは生き物が内包してる不可視のエネルギーみたいなのを摂取したいだけなんだと思う。自分たちの活動可能時間を延ばすためにね。噛みつき攻撃なんかは生者と接触するためにやってるに過ぎない。まあ、どっちにしても襲われた側は死んじゃうわけだけど」
「簡潔に言えば、インコがカラスや猫を襲っているのは自身の活動のためであると」
「単純に言えば、ね。ただ人を襲った理由は別だと思う。『人間の髪の毛を抜き去る』って噂は、髪の長い人だけが狙われた結果生まれたものかもしれない。補足すると、襲われた筑紫さんの先輩とやらも髪が長いらしいわ。けれど、人が襲われたという事実がある一方、この近辺でここ最近人が殺されたり、大怪我を負ったというニュースはまるでない。カラスや猫を殺せる程に強いなら、人にもそれなりのダメージを与えられるはずなのにそれがない。つまり、インコが人に近づくのは何か別の理由があるのよ。アタシはそう推理してみた。さて、その理由は何だろう?」
「……筑紫さんを捜してる?」
昭裕は少女の後ろ姿を思い浮かべた。真っ直ぐで艶のある長い髪の毛が揺れていた。
「そっ、ご名答」
「……インコは筑紫さんに会ってどうするつもりなんです?」
「するつもりじゃなくて、してもらいたい。還してもらいたいんでしょうね」
「どこにです?」「どこだろね?」
質問に質問を重ねられたため、昭裕は少し知恵を絞ってみた。どこだ。腕を組み、目を細め、自分の足先をにらんでみる。ちょっとした探偵気分だ。
「普通に考えれば、飼い主の女の子の所ですかね」
「普通じゃなければ」
「もう……亡くなっているわけだし、天国?」
言いながら、昭裕は首を傾げてしまう。それはないなと思う。動物は宗教など持っていない。
「ふふーん。少年はけっこうメルヘンだね」
「……ほっといてください」
「あっはっは。ごめんごめん。でも、いい線行ってるかもよ、今の意見。アタシの推理に実に近い」
「はあ、そうですか」現実から乖離した話に昭裕はただ頷くしかない。
「うん、そうなんだ。では、筑紫さんの力に着目してみよう。あれは彼女が訪れてしまった世界を源流とする力なんだ。さっきはあんまり脅かすようなことばかり言ってたらマズいかなと黙ってたけど、過去にアタシが見聞きした事例と照らし合わせて考えるに彼女は既に契約を結んでしまっている」
「……契約ですか?」
「そう、契約だ。彼女はあの世界に行き、あの世界の食べ物を口にしてしまった。その行為自体が契約書に判を押したも同然のことになるのさ。その時点で彼女はあちらの住人になってしまっている。それが契約の中身。だから、こっちに戻ってくる者にはそれなりの責務が代わりに課せられるの。今、彼女はそれを実行中なのよ。本人は理解してないでしょうけど」
「契約の中身を教えないで、しかも気づかぬ間に判を押させるなんて犯罪じゃないですか」
出鱈目すぎる。怒るというよりも呆れてしまう話だ。
「で、責務というのはどんな内容なんです?」
「向こうに他の住人を送ること。人質交換みたいなものね」
「じゃあ、筑紫さんの責務は、インコをあの世界とやらに連れて行くことですか」
「さすが、大学生。その結論で合ってます。それにね、インコ自身もあちらに行きたいと本能的に感じてるはずよ。筑紫さんの力で蘇ったインコはもう完璧にあちらの住人だから、こっちの世界の食べ物ではエネルギーの吸収効率がめちゃくちゃ悪いはず。今頃、お腹ペコペコでしょうね。そして、インコが筑紫さんを捜し求めるのは、あちらの気配を彼女が帯びていたからよ。還るための唯一の足掛かりだとわかっているのね」
褒められた(?)昭裕は、首を傾げた。
「結論はそれで良しとしても、過程の方が大事でしょう。あの世界っていうのはどこに? どうやって行くんです?」
先が見渡せないどこまでも続く稲作地帯など今の日本、いや地球上のどこにもない景色だろう。たぶん、それは異世界というものだ。筑紫明日飛の力を見た今なら、信じられる。
「おぉ、気づいた、気づいた」
口調からして、やはり褒められてはいなかったようだ。
「でも、大丈夫。そこらへんのノウハウはちゃんとあるから。アタシはこう見えても経験豊富だからね。やらないといけないことはわかってるわ。まず、最初にアタシたちがやるべきことは――」
「――ことは何ですっ!?」
昭裕は身を乗り出した。結構やる気なのだ。
「もちろん、晩ご飯を食べることよ」
跡切はまじめな顔でそう言いきった。
「……緊張感、ぷりーず」
昭裕は脱力しながら、壁に目をやる。時計の針は午後八時を指していた。
確かに飯時だった。
四畳半探偵事務所の二階は生活空間だった。部屋数はむろん一つ。色褪せた畳がちょっと渋い。
そこに一階奥のたいそう狭いキッチンで作った一品を持って昭裕は参上した。
「どうぞ」
皿を卓袱台に置く。
「素朴な味チャーハンです」
その具材は侘びしく、乏しく、切ないものだ。肉類はなく、一番歯ごたえのあるのは細く切った沢庵漬けである。冷蔵庫に残っている食材ではこれが限界だったが、
「う、うまいわ」
跡切は涙を流し、がっついていた。
もちろん昭裕も食しているが、それは生命維持のためと散財させられた昼食代を少しでも回収するためである。無表情のまま、スプーンを口に運ぶ。
「少年は大学生なんかやめて、アタシ専属のコック長になりなさいよ。長よ、長。偉いわよぉ」
「……それは名ばかり管理職と言うのでは?」
悲しいかな、冷蔵庫の中身で生活レベルは推測できた。
「……あの、ひとつ下卑たこと聞いてもいいですか?」
「スリーサイズ以外ならオッケーだよん」
「……」
うん、受け流そう。昭裕はそう判断し、質問を再開する。
「筑紫さんへの請求金額は如何ほどですか? 宜しければ教えてください」
「気になる?」
跡切がごくりと最後の米粒を飲み込む。あっという間に完食していた。
「正直、気になります」
色んな意味でだ。なにせ自分は次の依頼主であるし、その依頼料は今回助手をすることでチャラになる。それに矛盾するようだが、筑紫明日飛はまだ高校生なのだ。高額な依頼料を請求するのはいかがなものかと感じていた。まあ、冷蔵庫の食材はもう少し増やすべきだけれども。
「依頼料については、少年がお茶を買いに行ってる間に請求したわ。成功報酬として、これだけをね」
跡切は昭裕に右手の人差し指、中指、薬指の合計三本を立てて見せた。
「三万円ですか」
昭裕はほっとする。それぐらいの金額ならば、高校生であっても支払えるはずだ。
「!!」
――けれど跡切は仰天していた。
「しょ、少年の人非人! さっ、三千円に決まってるでしょう」
恐ろしいものを見るような目つきをされる。
(えっと)
昭裕はちょっとだけ考えてみる。自分が間違っているかどうかを、世間の感覚からずれているかどうかを、だ。
……うん。九分九厘、自分は正しい。
「所長、敢えて言わせてもらいます」
チャーハンの最後のひとかたまりを頑張って嚥下してから、昭裕は上申する。
「所長はアホです。アホ決定です。アホの子に相違ありません」
思いっきり言ってやった。こちらの勢いに跡切が呆然とする。
「そ、そうかな? ポッポー。……そうなの? そうだったの?」
「そうです!」
――だって、そうだろう。三千円はいくら何でも安すぎる。逆に信用を得られないほどの額だ。安物買いの銭失い。そんなレベルに自らの仕事を貶めて、この人は一体何をしたいのだ? そんな想いが昭裕の胸中を支配する。
「いいですか。筑紫さんがやってきたのが午後五時。所長と俺がとりあえず話をやめたのが午後八時。すでに三時間経ってます。掛ける二名で六時間。三千円を六時間で割ったら、五百円。時給五百円です! 最低賃金にボロ負けです。俺を頭数にいれなくても千円にしかなりませんよ。まだ解決もしてないのに。生活設計をちゃんとしてください。あんたはトモ姉の上位バージョンですか!!」
スーパー駄目人間め。頭痛の種がここにも存在していた。
これが詐欺ならば、被害者は警察を頼らずに泣き寝入りするかもしれない。労力と時間の無駄だ。
「だって、あの子は高校生よ。そんな、さ、三万円なんて大金……ポンと払えるものなの?」
一カ所だけ真上からスポットライトが当たる状態で、ひざまずき頭を垂れる。そんな演出が似合う空気を跡切は醸し出していた。
「そりゃ持ってない子もいるでしょうけど、持ってる子も普通に大勢います。その程度の金額です。ついでに言えば、筑紫さんの通ってる高校は名士の娘もいたりするお嬢様学校なんですよ! ボンビーは自分の生活を一に心配して下さい。清貧は人生の敗北フラグですからね!」
昭裕が追い打ちを掛けると、跡切の体がプルプルと震え出した。
「ア、アタシの月の食費は六千円なのに。……だから、だから二月が大好きな月だったりするぐらいなのに。世の中、おかしい。おかしすぎるわ。……ええい、こうなったら今晩中に解決してみせようじゃないの。さあ、少年。やっちゃうわよ」
跡切がガバッと立ち上がる。どうやら逆境を糧に復活したようだ。
「さあ、『インコを捕まえるぞ』大作戦の策を練るわよ。少年、皿を流しに片しちゃって」
「わかりました」
昭裕は手早く皿を洗い、二階に戻る。
「うん?」
どういうわけか、卓袱台が部屋の隅に押しのけられている。
そうして昭裕は押し倒された。
「え?」
つやつやとした長い黒髪。すらりとした細い手足。ヒダの付いたスカートにブラウス。
どことなく古臭さを感じさせるファッションにて深夜の並木通りに佇むは――、
伊東昭裕その人だった。
人生初めての女装である。幼い時のワンピース着用と違って、今回は完全体である。
「まずアタシたちがやること。それは、インコを捕まえることよ」
数時間前の事務所二階での出来事だ。跡切は抵抗する昭裕の服を巧みに剥ぎ取りながら、説明を開始していた。
「や、やめてください」
昭裕の声が上擦る。
「それには囮が必要なのよね」
馬乗りになった跡切は昭裕の頬を優しく撫で、
「少年は線が細いなあ。うん、いいよいいよ」
舌舐めずりする。
「ひぃー。ま、まさか。それは」
跡切が手に持っているものに気づき、昭裕は戦く。
カツラが蛍光灯の光を受けて輝いていた。
「うふふ、新世界にようこそー」
「あひぃぃぃ」
「だーめよ、ダメ。泣いても喚いても誰も来ないわ。ここにいるのは、アタシとあなたの二人だけ。無駄よ、無駄無駄。ふっふっふ。諦めなさい。もう! 大人しくしないと、可愛くお化粧できないじゃない。ねっ、アキちゃん、静かになさいな。優しくしてあげるから」
口紅が接近してくる。
「しくしくしく」
七月の、とある晩、昭裕の真っ当な人生は終わった。
「一つ注意しておくことがあるわ」
生まれ変わった昭裕に、跡切はまじめな顔をして忠告した。
「インコが『人』間違いをするのは、たぶん焦り錯乱しているから。今まで大きな怪我人が出なかったからと言って、今回もそうだとは限らない。時間が経つほどに事態は深刻化してゆくと想定される。だから、徹底的に用心するようにね」
言い終わるや否や、ニヤニヤと笑い出す。
「しっかし、ほんとによく似合うわねえ」
「ほ、ほっといてくださいよぉ」
叫ぶ声もか細く可愛らしいものだった。デビューは目前だ。
時刻は午前一時に達しようとしていた。
昭裕は並木通りに設置されているベンチに座っていた。もう一時間近くはそうしている。
はっきり言って、苦行であった。
蒸し暑く、蚊も多い夏の夜。そんな環境の中でじっとしているのだ。苦しさを覚えない現代人はいないだろう。スマートフォンは跡切の指示で事務所に置いてきているので、退屈しのぎもできない。注意散漫になっていては、咄嗟に動けないからというのがその理由である。
幸いなのは、例の噂が広がっているためか単純に深夜であるためかはわからないが、行き交う人が全くいないことだ。こんな女装姿を見られては堪らない。
(でもなあ、これはちょっともう限界かも)
昭裕はついに音を上げた。足も腕も既に数カ所に渡って蚊に刺されている。痒くてたまらない。背中は汗でびっしょりだ。カツラも蒸し蒸ししている。
――今日はここらで切り上げてもう帰りません?
そう提案しようとし、腰をベンチから浮かせる。
直後――、
「伏せて!」
木陰に隠れていた跡切の鋭い声が昭裕の耳朶を打った。
昭裕は反射的に地面に身を投げ出す。
コンマ数秒後、カツンという硬質な音が並木通りに鳴り響いた。音の発生源は昭裕の間近くだ。
(状況、状況、状況!)
昭裕は勢いに任せたまま地面を数回転がった後、顔を、正確には目元を腕で隠しつつ、その隙間から周囲を見た。音を発生させた主は今どこにいるのか。眼球を激しく巡らせる。
(あれかっ!? もうあんな所にいるのかよ)
運良く見つけられた。空だ。空にいる。昭裕はそれが実在していたことを自身の目で確認し、息をのむ。
街灯に照らされる中、くすんだ黄色をメインカラーとしたものが急降下してきていた。位置エネルギーを味方につけている。
速い。
件のインコだったものに違いない。
(やばいっ、これは避けないと絶対マズい)
気持ちは急くものの体はすぐに反応してくれなかった。動けない。慣れないスカートが脚を拘束していた。
(あぁ、……走馬燈はまだ見たくないなあ)
インコのくちばしは鈍い光を放っていた。
「せいっ!」
気合いとともに網目状の物が飛んでくる。跡切による投網だ。網は見事にインコだったものに絡まる。
間一髪、横からの衝撃に死鳥は標的を逃し、地面に墜落する。
「あ、動けた」
昭裕は動かなくなった遺骸を想像しながら腹筋を使って上体を起こす。
(立ち上がるより四つん這いで行った方が早いかな?)
念のため、網を押さえておくべきだろう。体をひねって、網の方に向く。
その時だ。
――ジャッ!
昭裕は何かが裂ける音と風切り音を聞いた。同時に頬がチクリと痛んだ。
何が起きたのか、視認できなかった昭裕は結果から過程を理解しようとし、愕然としてしまう。
「……まさかだけど切り裂いたのか? 小鳥にそんなことができるのか?」
あろうことか網が裂けていた。中にエモノはいない。
「少年、怪我はない?」
傍に来た跡切にそう言われ、昭裕は頬に手をやった。
「あっ、血」
指先がほんのわずかだが、赤く染まっている。
「見せなさいっ」
跡切は昭裕の顎をぱっと掴み、顔をくいっと固定した。しばし助手の頬を凝視してから、フゥ、とため息をつく。
「傷は浅い。かすり傷ね。でも事務所に戻ったらしっかり消毒しときましょう。破傷風は怖いし」
「お願いします。ふぅー、危うくこっちが包帯ぐるぐる巻きのミイラになるところでした。いや、この場合はゾンビなのか」
昭裕は軽口を叩きつつ、立ち上がった。伸びをする。頬の痛みはもう意識を集中しないとわからない程度になっている。ここまでの伝聞から鑑みるに、インコに傷つけられても同類になってしまうことはないだろう。
「あーあ。見事に素直に逃げられたわねぇ。簡単にオカマだと見抜かれちゃったか」
「……オカマじゃないです」
昭裕の抗議を右から左に流し、跡切は周囲を見回した。
「羽根の一枚も落としてないか。……あらあらまあ」
突然、停止した跡切の視線を昭裕は追った。
「まじかよ」
膝がカクカクと笑いだす。軽口を叩いた自分を馬鹿だと罵りたくなる。
ベンチの背もたれには一筋のヒビがあった。
座る前には確実になかった傷だった。
「相手が元小鳥だと思って甘く見てたわ」
「すみません。俺がもっと早く動いて網を押さえていれば。まさかあんなに素早いなんて」
二人は事務所に戻り、反省会をしていた。
一階にて、双方共にパイプ椅子に座り、テーブルに力なく突っ伏している。
昭裕の頬には絆創膏が貼ってあった。
「それでも逃げてたでしょうね。別に少年は悪くないわ。悪いのはアタシ。一番重要なファクターを軽視してたんだから。あのインコみたいに――死してからあっち側の住人になったもの――には普通の物理的な攻撃はほとんど効かないのよ。小物だから力ずくでいけるだろうって気を抜いてたアタシの責任だわ」
「物理攻撃が効かないって……」
昭裕は唖然とする。それはひどい反則ではないか。
「ラスボスを倒すには専用の武具がいるってやつよ。じゃじゃーん」
「ああ、伝説の勇者の生まれ変わりが聖剣を探して世界中を巡ったり、狼男を倒すには銀の弾丸が必要ってヤツですね」
昭裕のぼやきに跡切はついと顔を上げて、目をぱちくりとさせた。
「……伝説の勇者。聖剣。銀。そうか、その手があったわね。……あぁ、でもなあ。探偵の面目丸つぶれだな、これ。でも、それしか手はないか。少年、ナイス発言だ。いきなりだけど対策の糸口がつかめたわ」
「ほ、ほんとですか」
昭裕もがばっと顔を上げる。落ち込んでいた気分が高揚する。
「うん、ほんとほんと」
跡切の声も嬉し気だった。
その時、ノックの音がした。こちらの返事を待つことなく、事務所のドアが開かれる。
「跡切さん、アキくん。います?」
ノックの主は朋香だった。おそらく連絡の付かない昭裕を心配し、事務所を再訪したのだろう。その表情は少し不安げなものだったが、
「……あらあらあらまあまあまあ、わおー!!」
入室するやいなや豹変する。
昭裕は熟視されていた。凝視されていた。
「……わあ!」
視線の意味するところに気づき、はだけた胸を隠すかのように昭裕は急ぎ床にしゃがみ込む。
「いや! やめて。見ないで!」
昭裕はいまだ女装姿であった。
撮影会が始まった。




