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結末の現場  作者: 高海 健一


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最終章

「ありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ。まさかこの短期間にアタシの落とし物が二つも集まるとは思わなかったよ。ご苦労様」

 事務所にて話すは昭裕と跡切だ。

「喉、痛まないですか?」

「うん、一応大丈夫。お湯は染みるけどね」

「本当に申し訳ありませんでした。トモ姉が馬鹿をしまして」

 昭裕は頭を深々と下げる。謝るしかない事態が生じていた。

「いいよ、いいよ。アタシも見通しが甘かったんだ。自業自得ってやつよ。少年が残留思念を消すのは予定事項だったのに当たり前のことを忘れてたんだから。それにもう一つの要素もね」

 そう話す跡切の首筋には、爪の跡があった。

 事の発端は、昭裕が扉の向こうに消えてすぐのことだ。扉が『ドアノブ』だけを残し、突然消失したのだ。

 結果、パニックに陥った朋香は彼女を宥めようとした跡切の首を締め付けてしまっていた。被害が最小で済んだのは、跡切の上背のおかげだ。

 扉が消えた原因は、昭裕が旧友の過ちを許し、その残留思念が消失したため、シャープペンシルとあちら側との関係が絶たれてしまったことにあるらしい。

 ちなみに話題の主、朋香は下宿にて謹慎中だ。本を読むことなく、ただひたすらにじっとしている。断食ならぬ、断読である。

「アタシも扉が消えたときには焦ったね。少年が閉じ込められたと思ったからさ」

 すぐに扉が消えたのは、あちらの時間の流れ方が現実の世界とは異なっているためらしかった。

「藤宮に感謝しないといけませんね」

「まあ、それが発端なんだけどね」

 扉が消失したのに昭裕が脱出できたのはもう一つの出入り口があったからだ。

 それはクラスメートの想いを受け止めるために事故現場で藤宮理美が無意識に作り上げたものだった。残留思念はそこから藤宮理美の心に入り込んだのだ。時間を含めた四次元の感覚ではまったくイメージできない構図だが、そういうことらしい。

「入り口は出口にもなるってことだね。残留思念が無くなったからもう閉じちゃっただろうけど。やれやれ、なんですぐに気づけなかったかなあ。そしたらこんな痛い思いをしなくて済んだのにさ。我ながら情けない話だよ」

 もう一つの出入り口が存在する可能性に跡切が気づいたのは、朋香にしっかりと首を絞められた後だった。

「ほんと、すみません」

 昭裕は加害者の身内として小さくなるしかない。

「まっ、済んだことだ。少年も無事に帰って来られたわけだし。七年後に遺体も無いまま、お葬式なんてことにならなくて良かったね」

「……今、さらりと怖いこと言いましたね。帰還できなかったら、どうなってたんです、俺?」

「さてね、アタシも生還者の話しか聞いたことないからねぇ」

「うわーい」

 自分はとんでもない事態にその身を晒していたのだ、と昭裕は改めて痛感する。

「ところでさっきから気になってたんだけど、その花束はもしかして――」

 跡切がいかにも興味津々という表情を見せた。

「ええ、藤宮家から招待を受けました。お昼から行ってきます」

「ほっほー。少年も隅に置けないねえ。やるじゃないの。……朋香くんに半殺しにされても知らないよ」

 被害者は語る。

「いえいえ、そんなんじゃないですよ。もちろん会うのは楽しみですけどね。……今度は違いますし」

「だね。少年を招待するってことは、あの子も日常に帰りつつあるってことだ」

 こちら側に帰還してから、すでに一週間以上経つ。昭裕はあれから一度も雨の夢を見ていない。唐突な眠気に襲われることもなかった。

「では、そろそろお暇します」

「うん、行ってきな。おっ、そうだ。少年、働きたくなったらいつでもおいで。コック長でも係長でも何でも好きな役職をやらせてあげよう」

 女探偵はそう言って舌なめずりする。

「じゃ、希望退職で。退職金は増しましでお願いしますね」

 昭裕はニヤリと笑い返し、軽やかな足取りで探偵事務所を後にした。

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