また……やってしまった……
最強の戦士と名高い『ゴーマン・ダイスキー』にインタビューする機会を得て、私は舞い上がっていた。どんな話が聞けるだろう。彼の試合はあいにく見たことがないが、その強さが今世紀一とまで言われるほどの戦士だ。
「お会いできて誠に光栄です」
許可をいただいて控室にお邪魔し、私はまるで国王に対するように、丁寧に挨拶をした。
「瓦版記者のモミモミーノと申します。色々とお話を伺わせていただきます。どうぞよろしくお願いします」
椅子に腰かけ、大剣を床に突き立てた姿勢のまま、ゴーマンは「ふん」と鼻を鳴らした。
「瓦版か。まあいい、貴様のような路地裏の鼠にも、本物の『強さ』というものを教えてやるとしよう」
「へへっ! 恐縮でございます、ゴーマン様! そのお言葉だけで、あっしの薄汚い命に価値が生まれた心地でございますよ!」
私はすかさず揉み手をしながら、深々と頭を下げた。
ゴーマン・ダイスキー。その名の通り傲慢さを絵に描いたような男だが、筋骨隆々の体躯と背中の大剣、そして何より全身から溢れ出るような圧倒的な威圧感は本物だ。試合を見たことがない私でも、一目で「あ、これ関わっちゃいけないタイプの強者だ」と分かる。
「よし、まず何から聞きたい? わしの神速の剣技か? それとも鉄をも切り裂く腕力か?」
「いえ! もちろんそれらも家宝にしたいくらい伺いたいのですが……まずはズバリ、ゴーマン様が『最強』であり続けられる最大の理由、その秘密をお聞かせ願えますでしょうか!」
私がメモ帳とペンを構えると、ゴーマンは満足そうに口の端を上げた。
「フッ……いい質問だ。最強の理由、それはただ一つ……」
ゴーマンはゆっくりと立ち上がると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて私の目の前に立ちはだかり、それを口にした。
「絶対に負けを認めないことだ」
「へっ?」
思わず私は間抜けな声を出してしまった。
「まぁ、今日の試合を見てみればわかる」
そう言って最強戦士は自信たっぷりにサムズアップをしてみせた。
◇ ◇ ◇ ◇
コロシアムに挑戦者が姿を見せた。
ゴーマンさまに比べると体格が見劣りする、しかし私が対戦者なら間違いなく瞬殺されてしまいそうな美青年剣士だった。
「挑戦者、コジロー・ムサーシ!」
レフェリーが挑戦者の名を高らかに告げる。そして──
「最強の王者、ゴーマン・ダイスキー……。今日こそは倒されてくれんかな」
なんだかめんどくさそうに、ゴーマンさまを紹介した。
闘いが始まった。
私は一挙手一投足も見逃すまいと、スマホを向けた。
先制攻撃を仕掛けたのは挑戦者のほうだった。
華麗な跳躍から長剣を振り下ろし、技の名を叫ぶ。
「スワロー・リターン!」
すごい技だった。日本語で言うなら『燕返し』だ!
ずどーーーん!!
派手なエフェクトとともに、攻撃がゴーマンさまにクリーンヒットした。
生きているわけがない……
誰が見ても一撃必殺の技を喰らい、ゴーマンさまは──
「ハーッハッハ!」
砂煙の中、ゴーマンさまの哄笑がコロシアムに響いた。
砂煙が晴れ、そこに現れた光景に、私は開いた口がふさがらなかった。
ゴーマンさまは血まみれだ。明らかに脳天から真っ二つにされていた。
しかし彼は言い張った。
「俺は負けておらん!」
挑戦者が次の攻撃を繰り出した。
二刀流だ! 大谷翔平選手のごとくに投と打を同時に繰り出す!
どっかあーーーん!!!
またもや砂煙がものすごい勢いで、まるでワイパーのゴムが寿命のように何も見えなくなった。
挑戦者は余裕で剣を鞘にしまい、ゴーマンさまに背を向けた。
「俺の勝ちだ」
格好良く決めゼリフを吐くコジロー。しかし、風が吹いて砂煙が晴れると、そこには首から下が完全に灰となって風に舞っているゴーマンさまの生首が、地面にゴロゴロと転がっていた。
「ぬはははは! どこを見ておるのだコジロー! わしはまだここに居るぞ!」
「いや死んでるだろ! 生首だけじゃねえか!」
思わずコジローが素で突っ込んだ。
「何を言うか! 首から下などただの飾り! 心臓が止まろうが、肉体が灰になろうが、わしが『負けた』と認めぬ限り、わしの勝利は揺らがん! さあ来い、第二ラウンドだ!」
「どうやって戦うんだよその状態で! 噛みつく気か!?」
観客席は静まり返っていた。私もスマホを持つ手が震えている。
なるほど……これが「絶対に負けを認めない」という意味か。──強さの秘密でも何でもない、ただの異常なまでの往生際の悪さと、謎の超自然現象 (ゾンビ化)である!
レフェリーが困り果てた顔でゴーマンさまの生首に近づき、恐る恐るマイクを向けた。
「えー……王者ゴーマン選手、肉体の九割以上を喪失していますが……続行可能ですか?」
「当たり前だ! むしろ体が軽くなって全盛期のキレを取り戻したわ! ほら見ろ、視界も広くなった!」
「いや、地面に転がってるから視界めちゃくちゃ低いですけど……」
コジローは呆れたように大きなため息をつくと、長剣を再び引き抜いた。
「……面倒な奴だな。なら、その頭ごともみ消してやる」
「フッ、やってみるがいい!」
コジローが容赦なく踏み込んだ。
生首めがけて振り下ろされる必殺の一撃!
「必殺! サムライ・スライサー!!」
ズバババババッ!!!
轟音とともに爆風が巻き起こり、ゴーマンさまの生首は跡形もなく粉々になった。分子レベルで消滅したかのように、そこには何も残っていなかった。
コロシアムを包む静寂。
今度こそ勝負あった。誰がどう見ても完全なる消滅。コジローもやれやれと胸を撫で下ろし、勝ち誇ったように手を挙げかけた──その時である。
『──甘いわ、コジロー!!』
声は、コロシアム全体を包む空気そのものから響き渡っていた。
「な、なんだ!? どこから声が……!」
『フハハハ! 肉体を失い、概念となったわしの強大さにひれ伏すがいい! 概念となったわしに、貴様の剣など届くと思うか!? ゆえに、わしの勝ちだ!』
「概念になっちゃったよ!? もう戦士でも何でもねえだろ!!」
コジローが叫んだ。観客席からも「帰れー!」「成仏しろー!」と罵声が飛び交う。
しかし、概念と化したゴーマンさまは意に介さない。
『さあ認めろ! わしの勝ちだと!』
「認められるかバカ野郎! 実体がないやつに負けも勝ちもあるか!」
『ぬぬ……頑固な奴め。ならば力ずくで認めさせてやる!』
次の瞬間、コロシアムの天井の巨大スピーカーが「ガタタッ!」と揺れ、すさまじい怪現象が起きた。ゴーマンさまの概念が会場の電子機器に干渉し始めたのだ。
『これでも喰らえぇぇぇ!!』
バチバチバチッ!
コロシアムじゅうの電光掲示板に、巨大な赤文字で一斉に表示された。
【ゴーマン・ダイスキーの勝ち!!!!】
【ゴーマン・ダイスキーの勝ち!!!!】
【ゴーマン・ダイスキーの勝ち!!!!】
さらに、私のスマホの画面にも勝手に「ゴーマン様の超・大勝利!!!」という文字が激しく点滅し始めた。
「わ、あっしのスマホまで乗っ取られた!?」
「くそっ、なんて理不尽な奴だ……!」
コジローは頭を抱え、ついにガックリと膝をついた。剣技の天才も、概念と電子攻撃を繰り出す往生際ゼロの化け物には勝てなかったのだ。
「参った……俺の負けだ……もう嫌だこのオッサン……」
『勝利!! 10000勝0敗!! 最強王者はこのわしだーーーッ!!』
コロシアム内に勝ち誇ったゴーマンさまの声が木霊した。観客たちは失笑と呆れ顔でゾロゾロと席を立ち始めている。
……私は震える手でメモ帳を開き、ペンを走らせた。
『最強の秘密:絶対に負けを認めず、物理法則すら無視して相手の精神を折ること』
「……よし、歴史に残るクソ記事が書けそうだぞ」
私は揉み手をしながら、誰もいないリングに向かって深々と頭を下げた。
「さすがゴーマン様、今世紀一の地獄絵図でございました!」




