どうして、貴方はわたくしよりも下位貴族の令嬢に惹かれるの?
どうして、貴方はわたくしよりも、下位貴族の令嬢に惹かれるの?
レンディアナ・パレ公爵令嬢がイラついていた。
自分の婚約者ルイド王太子がリアナ・アデル男爵令嬢とにこやかに話をしている。
リアナがルイド王太子の手を握り締めて、嬉しそうに見上げている。
私という婚約者がいながら、どうして、あの女に手を握らせているの?
パレ公爵家の令嬢として、ルイド王太子の婚約者になったのが、15歳の時。
現在17歳。婚約者になって二年過ぎた。
王立学園に共に通っていたが、レンディアナとルイド王太子の関係は一言でいえば、よそよそしかった。
レンディアナは王立学園で、高位貴族の令息や令嬢達と積極的に交流を持ち、将来のラウド王国の王妃として、社交界のトップとしての地盤固めを積極的に行っていた。
それに比べて、ルイド王太子は下位貴族のクラスに入り浸り、民の声を聞く事は大事だと、特に平民の特待生の意見を聞いたり、まるで、二人は正反対の交流関係を築いていったのだ。
そんな中、ルイド王太子が親しくなったのが、リアナ・アデル男爵令嬢。
彼女と話すルイド王太子は楽しそうで。
レンディアナは、人を雇って、ルイド王太子とリアナ・アデル男爵令嬢の仲を探らせた。
万が一、自分を婚約破棄して、リアナを婚約者に。未来の王妃にとルイド王太子が考えていたら、まずいと思ったのである。
今の所、明らかな不貞をしているとか、そこまでの関係ではないとのこと。
アデリーヌ王妃にも相談した。
ルイド王太子の母であるアデリーヌ王妃。
アデリーヌ王妃にレンディアナは気に入られていた。
「貴方程、ルイドの相手に相応しい令嬢はいないわ」
「そうおっしゃって頂けて嬉しいですわ」
「それに比べて、ルイドは。本当に申し訳ないわね」
「いえ。わたくしにも至らない所がありますので」
「なんでもルイドは、休みの日は平民達を集めて演説をしているとか。人に身分の差別があるのはおかしい。私が王になった時は身分差別を無くして見せると」
「危ない考えですわ」
「そうよ。民はわたくし達の言う事を聞いていればいいの。長い間、このラウド王国は王政を敷いてきたわ。それが身分制度を無くすですって?我が王朝を潰す気かしら。
公爵家や侯爵家からもルイドの態度に苦情を言ってきているのよ。どうしてくれようかしら」
「ルイド王太子殿下にそのような思想を植え込んだのは?」
「どうもリアナという女の影響みたいなのよ」
早急に手を打たねばならない。
レンディアナはそう思った。
「わたくしからもルイド王太子殿下にお話ししてみますわ。それで解って貰えなかった時は」
「遠慮なくルイドを見捨てて頂戴。いえ、わたくしはルイドを見捨てるわ。我が王朝を守る為に」
「王妃様」
「貴方からまずは話をしてみて。わたくしからも話をしてみるわ」
「有難うございます」
数日後、王立学園でルイド王太子に呼び止められた。
「レンディアナ。君は母上に何を言ったんだ?母上からリアナと付き合うな。平等な世界を作る事は間違っていると説教された。私の生き方に文句を言われる筋合いはない」
「このラウド王国は長い間、王朝が貴族を従えて、民を治めて成り立ってきた国ですわ。それなのに、平等を歌うだなんて」
「人は平等だろう?生まれた時から。そうでなくてはならない」
「でしたら、ルイド王太子殿下は民に混じって生活できるとおっしゃいますの?」
「ああ、出来る。私は民に混じって苦労をしたい。民の苦労を解らなくて良き王になれないだろう」
「国王にはなるつもりですか?」
「当然だろう。誰かが上に立たねば、私が王国の上に立ち、平等な世界を作り上げねば。誰がやるんだ?」
「貴族達はどうなります?」
「貴族達?あいつら、民から美味い汁を吸っているだけじゃないか。貴族なんていらない。そう思わないか」
リアナがやって来て、ルイド王太子の手を握り締め、
「民は平等でなくてはなりません。私はそう思います」
レンディアナは、
「貴方様の考えは良く解りましたわ。我がパレ公爵家は公爵位を捨てることはありません。他の貴族も同様でしょう」
「だったら私が国王になった暁には爵位なんて認めない。皆、私の下で平等に生きるんだ」
頭がおかしいのではないかと思った。
「平等ならば、貴方は王族の位を捨てる事も出来るのですか?」
最後に確認してみた。
「私だけは特別だ。誰かが導かねば、誰が導くのだ?」
内心で思った。
自分だけは特別なのねと……
呆れ果てて、その場を後にした。
アデリーヌ王妃に面会を求めて、ルイド王太子の主張を報告した。
アデリーヌ王妃は、
「わたくしも説教をしたのだけれども、男爵令嬢に変な考え方を吹き込まれてしまったらしくて。あの子が望んでいるならば、民と共に暮らして貰いましょう。国王になる?アレを国王にしたら、王朝が滅びてしまうわ。誠に申し訳ないけれども、ルイドとの婚約は解消になるわ」
「有難うございます。わたくし、ルイド様と破滅の運命を共にする気はありません」
「ルイドの後釜を……フェリオ。ルイドの弟のフェリオ第二王子はどうかしら。隣国に留学していて、そろそろ婚約者を決めたいと思っていた所なの。まだ14歳なんだけれども、3歳の歳の差なんて、大人になれば気にならないわ」
「王国の為ならば、フェリオ第二王子殿下とわたくし婚約致します。父も母も反対はしないでしょう」
「それは良かったわ。至急、フェリオには帰国して貰って、貴方に会いに行かせるわね」
ルイド王太子の知らぬところで、婚約解消になり、レンディアナは帰国したフェリオ第二王子と会う事になった。
フェリオ第二王子は、
「私はとても嬉しくて嬉しくて。ずうううっと貴方の事を思っていましたから」
「え?わたくしの事を?」
「憧れでした。兄上の婚約者と知っていても、気持ちは抑えられなくて。その上、私に王位が回ってくるのでしょう。どうか、私を助けて、共に良い王国を作りましょう」
「フェリオ殿下は、民は皆平等でなくてはならない、貴族はいらないと言う馬鹿な考えを持ってはいないでしょうね」
「とんでもない。何故、平等でなくてはならないのです。貴族達の反感を買って、私たち王族はつるし上げられてしまうでしょう。ですから、良い政治をして、民達を導いて、暮らしやすい王国にするのが、私達、上に立つ者の仕事だと思っております」
「ああ、良かったわ。貴方が、まともで。わたくし嬉しいわ」
「貴方を前にしたら私は……私こそ、貴方と婚約が結べて嬉しいです」
真っ赤になるフェリオ第二王子。
可愛らしいとレンディアナは思った。
婚約解消されたと聞いてルイド王太子は慌てたように、パレ公爵家に訪ねて来た。
「婚約解消?いつの間に?私は承知していないぞ」
「リアナという女と婚姻したいのでしょう。丁度いいではありませんか」
「いやその、あの……」
「それに、近いうちに、貴方は王太子の位を下ろされるでしょう」
「どうしてなんで???私が何をしたと?」
「貴族達が国王陛下に訴えております。貴族を無くすと言っているルイド王太子殿下は未来の国王にふさわしくないと」
「私は国王になって、貴族も平民もない平等な世界を」
「国王陛下も王妃殿下も怒っておいでですわ。貴方を追い出して平民として暮らすようにしたいとおっしゃっておりました」
「平民として???私が?」
「リアナ嬢も貴方の事が好きみたいですから、お二人で平民として生きたら如何。よかったですわね。愛する人と共に生きる事が出来て。おめでとうございます」
「いやその…‥」
「わたくしはフェリオ第二王子殿下と婚約を結びましたわ。未来の王妃として、この王国の為に頑張りたいと思っておりますの」
「フェリオが???フェリオが王位を継ぐのか?」
「当然でしょう。貴方は貴族達から反感を買っているのですから。王位は継げないでしょう」
ふらふらとルイド王太子は、屋敷を出て行った。
愛も何も生まれなかったルイド王太子殿下。
貴方が平等な世界がいいと望んだのですから、これからは平民として生きて下さいませ。
わたくし達は平等の世界はまっぴらごめんですわ。
ルイドは王太子の位から落とされて平民として生きる事になった。
子種をまき散らされたら困るので、しっかりと子が出来ない処置をされてから、市井に放り出された。
リアナの家、アデル男爵家を頼ったが、リアナに追い出された。
「私、伯爵家から縁談が来ているの。だから、今更、頼られても困るんだけど」
あれだけ平等がいいと言っていたリアナ。
伯爵家からの縁談に飛びついたらしい。
がっくりしたルイド。どうやって生きていったらいいのか解らず、うろうろしていたら、ガタイの良い男達に馬車に乗せられた。
屑の美男が好きな変…辺境騎士団に回収されて連れていかれたのだ。
彼は顔だけは美しい金髪碧眼の美男だったから。
レンディアナはフェリオと一緒にテラスでお茶を飲む。
フェリオは王太子になった。
フェリオ王太子が、
「リアナという女、ゾイル伯爵に始末を母上が頼んだそうですよ。兄上に変な思考を植え付けた女。天国から地獄に落としてやると言っておりました」
「でも、貴方にとっては王位が手に入るのだから、よかったのではなくて?」
レンディアナの問いにフェリオ王太子が、
「王位だけでなくて、貴方も手に入ったのですから、兄上には感謝しないとね」
レンディアナは年下の婚約者の顔を見つめる。
まだ幼さが残っているフェリオ王太子。
でも……彼は余程、ルイドよりも、頼りになる。
「貴方と良い関係を築いていきたいわ。わたくし、ルイド様に相手にもされなかったから」
「寂しい思いはさせませんよ。私こそ、ずっと想っていた人が手に入ったのですから」
二人の恋はこれから……
レンディアナは幸せを感じながら、フェリオ王太子の整った顔を見つめるのであった。




