Data 06-A. 解かれ行く楔 Part1
「打ち取ったり!!! 愚か者め!!!」
なんだ、普通のおじいさんか。
頭上から突き立てられたナイフをサイドステップで即座に躱し、チョップでそれを弾き落とす。
という動作を行ったが、俺の手刀は見えない壁のようなものによって阻まれた。
そうか、俺たちプレイヤーはNPCには触れることはできないんだ。
勢い余ったじーさんは床へと倒れ伏し、片膝をついた。
「貴方は?」
「おのれきさま! 山賊団に名乗る名前などないわい!」
「俺たちは、ただの冒険者ですが」
「そんなはずはない! 儂は冒険者協会に属する聖騎士に聞いたのじゃ! きさまの死んだ魚のような目が何よりの証拠じゃ!」
し、失敬なじーさんだな。
俺を元にアレンジされたアバター……リアルでの俺も人から見たらそんな目なのか?
「私たちは、依頼を受けてきたんだよ!」
「それみたことか! 依頼を利用し村を乗っ取ろうという策謀じゃな!?」
Mariaの言葉にも耳を貸さないか。
このミッション、めんどくさ。
運営が用意した特殊クエストだろうか。
――――――
Data 06-A. 解かれ行く楔 Part1
――――――
どうしたものかと悩んでいると、先ほどの案内人の声が響く。
「村長~ 無事ですかい……?」
「おぉ!! 生きておったか!! こやつらにむごたらしく殺されたと思ったぞ!!」
案内人は意を決したかのように、真剣な表情となった。
「この度は……」
……。
「この度は!!! 申し訳ありませんでしたぁ!!!」
「たわけ!! 山賊に頭など下げるな!!」
「村長、この人達は求道者さまですよ……」
「……え?」
……。
「この度は!!! 申し訳ありませんでしたぁ!!!」
俺たちは客室へと案内され、誠心誠意の土下座を受けた。
「もういいよ! おじいちゃんも村を守るためだもんね!」
「め、女神さまですじゃ……! 生まれて初めて本物をお目にかかりましたのじゃ……!」
「もう、おおげさだよ~」
それにしても、この村長は誰かに唆されたというが。
さっきすれ違っていた一団がいたな……。
「一体、誰に唆されたというんですか?」
「正式に派遣されてきた求道者様ですぞ。 怪しき存在が【冒険者を装いこの村を狙ってる】と言っておりましたな」
冒険者協会。
つまり冒険者ギルドや組合のことだが、そこからきたプレイヤーにそう言われて信じ込んでしまったらしい。
彼らからすれば求道者は神の使徒のような存在。
嘘を吹き込むわけがないと思っているのだろう。
「本物の山賊が狙っているのでしょうが、勘違いをしてしまったこちらの責任でございます。 もしかして、貴方たちは依頼の件でこちらへ?」
「そうですが……」
「それは重ねてお詫びいたします。 実はですな……」
さきほどのプレイヤーの一団は街が出したクエストを受けてこの村にきたという。
近場に知性がある魔物の拠点ができてしまい、それの討伐という話だ。
そして、この村の採取場を荒らす魔物。
俺たちが受けたのはその魔物討伐だが、そいつらは魔物の拠点からの別動隊だろうという推測らしい。
依頼がブッキングになってしまったんだ。
「その一団が魔物達の討伐に成功すれば、俺たちはやることがなくなってしまうってことか」
「そんなぁ! せっかくきたのに!」
まぁ、それならそれでいい。
村人たちが安心して暮らせるなら、それが一番だ。
この人達の生活を見ていると、ゲームとはいえそんな風に考えてしまうな。
「代わりと言っては何ですがな、一先ず今回はこの村で最大のもてなしをさせてください」
「まぁ、こんな事もあるか」
「そうだね! 食べ物も美味しそうだし!」
そうして、Mariaと共に村の歓待を受けることに。
このゲーム、実は食べ物を楽しむのも醍醐味の一つだ。
見たことのない果実や野菜、料理を楽しむこともできる。
もちろん自分で作ることも、生産者となり極上の野菜を育てることも、絶品料理を制作することも可能だ。
「にーちゃん、つえぇのか? そんちょーがてもあしもでないってきいたぜ!」
「あぁ、彼も昔は強かったんだろうね」
「にーちゃんカッコイイ! さいしゅじょーにはいついくんだ?」
幼い少年へ、型を見せたり。
「すごーい! さいしゅじょーもとりかえしてくれる?」
「討伐隊がいるから、俺の出番はないだろうね」
「これ、きょうのおいわいのおはな、おにーちゃんにあげるね」
「嬉しいよ、ありがとう」
幼い少女から花の冠をもらった。
こうして、求道者を珍しがる幼き兄妹とも戯れ時間は過ぎていった。
討伐隊はまだ帰ってこないな。
Mariaも不安そうな表情だ。
「Maria、何かあった?」
「いや……大したことじゃないんだけど。 聖騎士なんていたかなー? って」
聖騎士……すれ違っていた求道者の一団には聖騎士の風貌のような男がいた。
村長は聖騎士からの情報で盗賊団が村を狙っていると言っていた……。
しかしMariaがプロフィールを見た際、その人物の職業は聖騎士ではなかったという。
「最近ずっとプレイしてたし私はそろそろ落ちようかな。 たまにはちゃんとした本睡眠も取らないとね! また明日!」
ゲーム中に体は睡眠しているとはいえ、やはり適度な休憩と本睡眠をおすすめされている。
「あぁ、また明日」
明日の約束をし、宿屋でMariaはログアウトしていった。
心なしか、顔が赤かった気がするが……。
宿屋で二人きりだからなんて、考えすぎか。
俺も落ちようかな……。
「求道者さま!」
「はい、どうぞ」
「まだ、いらっしゃいましたか!」
声の主が扉を開き、俺の姿を見た瞬間。
強張っていった彼の顔が柔らかいものに変わった。
「村長、どうかしたんですか?」
「村の子供が……採取場に向かったのかもしれませんのじゃ!!」
こんな夜中に……?
村の中と周囲を探しても子供は全く見当たらなかったらしい。
そして、今日は両親の誕生日。
討伐隊の帰りを待っていたら、日付が変わってしまう。
お祝いのために両親が好きなハーブを持って帰りたいと、しつこく言っていたらしい。
あの兄妹か……。
それにまだ討伐隊は帰っていない。
討伐が失敗した場合、若しくは残党がいた場合。
荒らされていた採取場もまだ安全とは言えない状況だ。
「俺が様子を見てきましょう」
「この馬へお乗りください」
……馬。
転落してから、俺は馬に乗れなくなってしまったんだ。
いや、いけるのか?
このゲームなら……。
馬に乗ろうした体が、動く……!
「よろしく頼む……!」
――――――
父と母の誕生日を迎えた幼き兄妹が、両親のお気に入りのハーブを摘みに暗闇をかき分けて採取場へと向かっていた。
周りに魔物もおらず二人は安心しきっていたが、彼らは狩人として息を潜めているに過ぎない。
そしてモニターの向こう側にある薄暗い部屋で一人の人間がその様子を見ていた。
(やれやれ……とうとう動き出したか)
「リリス、彼にガイドを」
画面越しに走る兄妹を見て、その存在はたのしそうにわらった。
(これから、どうなるかな)




