Date 09. 得体の知れない存在
「あれってさ……Irukaだよね?」
俺は、Mariaの言葉に生唾を飲み込んだ。
なぜあの時の映像が? 運営が録画していたのか?
――――――
Date 09. 得体の知れない存在
――――――
俺がその場にいても、誰にも気づかれることはない。
なぜなら……
「ホントこれ、誰なんだろうなー。 有名ギルドの人間なのかな」
「顔が見えないのがもったいないよな。 まさか、これが噂の凄腕プレイヤーか?」
……俺の顔は暗がりによる影で見えていなかった。
不幸中の幸いに一安心すると、隣ではMariaがウインドウを操作していた。
「このモニター……プレイヤーが選んだ動画を流せるみたい」
まさか、俺は最初から視られていたのか?
あの夜に対峙した不気味な男に。
おそらく……俺の正体を知るために動画を。
だが、あれはミッションだ。
プレイヤーはNPCへと触れることはできない。
それにあいつにはプロフィールがなかった。
非公開にされて見れなかったわけじゃない、最初から見るという選択すらできない。
項目そのものがなかったんだ。
だから、あいつはNPCのはずなんだ。
一時的にその場から離れ、俺はその出来事を再びMariaへと話した。
あのミッションの後に、一度彼女へと話したが事態の確認みたいなものだ。
「うーん。 運営に連絡した方が良いかも。 もしもってことがあるし……」
「あぁ、確かに……一報入れてみるよ」
そうだ。
彼女の言う通り運営に連絡することで何かわかるかもしれない。
ゲームプレイは監視されていても不思議ではない。
AIによる自動応答の問い合わせ……。
俺は事の経緯をAIに話した……。
【貴方の質問は優先事項として処理されました。 なるべく早く対応を行います】
「だってさ」
「それなら、早く分かりそうだね~」
しばらく待つと、運営からの回答のメールが……。
そして俺への通知が来ると同時に、その動画は消えた。
【この度は、個人による意図しない動画を流しましたことを謝罪します】
定型文のような返答が、ツラツラと並び……。
これからは人間が映っているものは、自分自身が映っているものに限り投稿可能という条件が追加された。
最後に詫びアイテムが添付されていた。
復活アイテムか。
デスペナルティを回避し、即復活または帰還できるらしい。
「良かったね、早く対応してもらえて」
「……あぁ」
村でのミッション。
あの男の件については触れられていない。
なぜだ……?
一抹の不安を憶えていると、また凄腕プレイヤーの噂が耳に入ってきた。
気になった俺はMariaへと尋ねることにした。
「謎の凄腕プレイヤーって、なんなのか知ってる?」
「このゲームってさ、一番最初のテストは運営内で行われていたじゃない?」
「あぁ、そういえば」
運営内でテストが行われたのちに、俺たち民間人へテスターの募集が開始されたんだよな。
「そのテストにさ、紛れ込んだ人たちが多くいたんだって」
「紛れ込んだ人たち……?」
「そ。 そして……開発者の武蔵 弓照さんによって、この世界が深層意識の夢の世界だと発表されたってわけなんだよ」
一番最初の極秘テストに、夢を通して紛れ込んでいた民間人たちがいたのか……。
「テストで人々を襲う、魔物の襲来があって。 そこで表立って活躍していないけど陰ながら人々を救っていた英雄がいたって噂なんだ」
そのプレイヤーが、民間人を含んだβテスト開始時からプレイしているという噂らしい。
噂の発端はNPCから広まったみたいだ。
考察勢による解析が行われ、凄腕プレイヤーだったという回答に行きついて噂になっていったという。
その噂が、今回の動画の件で再び話題になっているってことか。
英雄の特徴は、黒衣に身を包んで顔を隠し……おかしな魔術を使い戦っていたという。
「その姿からNPCにはNight・Casterって呼ばれてる」
夜の魔術師か……。
「で、私はそのプレイヤーがIrukaだったのかなって思ったんだ」
「確かに俺も夢は見ていたけど……人違いだと思う」
夢の中に鏡はないから自分の姿は確認できなかったが……俺は魔法使いではない。
目指しているのは、魔法剣士だ。
「だよねぇ。 ……それともう一個。 こっちは噂というより都市伝説なんだけど……」
……Mariaが少し真剣な表情へと変わり、俺は彼女の言葉の続きを待った。
「得体の知れない存在が、このゲーム内にいるっていう噂」
「得体の知れない、存在?」
「そう。 死んだ魔物を回収したり、マップに映らないプレイヤーがいたり……それと……」
……。
「NPCに触れることのできるプレイヤーがいたり……」
!?
腹の底にたまっていた悪寒が広がり、全身を駆け巡った。
刹那的に息が詰まり、俺は次の呼吸を止めていた。
「今回のIrukaの話をちゃんと聞いて……やっぱりおかしいって思って……」
「そっか。 教えてくれて助かったよ」
そんな一幕もあり。
胸に広がっていたワクワクは、おかしな件を経て疑念へと変わってしまったが……。
気を取り直して、俺たちはクリスシステム取得のためゲームを進めていた。
「今だ!」
「まかせて!」
連携を取り、凶暴なコボルトを倒した。
クリスシステムを発現させるにはある程度の成長が必要だ。
そのため、俺たちは電脳空間による拠点を出て、夢の世界で魔物退治にいそしんでいた。
「ナイス」「ナイスー!」
戦闘を終えてハイタッチを交わす。
周りからの視線を感じる、はしゃぎすぎたか?
「あの人達すげー」「テストプレイヤーかな?」
本来苦戦するはずの魔物をすぐに倒していたからか好奇の目を向けられる。
そのうち彼らも同じように序盤の敵はすぐに倒せるようになるはずだ。
さて、戦闘を続けるか。
俺たちは今、こんな風にテスト中と同じことをしているわけだけど。
やったことが完全に無意味だったわけではない。
テスターには専用の称号と【追憶のクリスタル】が送られる。
【追憶のクリスタル】とは、テスト時に経たスキルやアチーブメントを再取得できる。
しかし、それを使うようになれるのは1ヵ月後。
これは初回プレイ時にプレイヤー間の差をなくすためだ。
たくさんの実績やスキルが存在するが……。
多くのプレイヤーが、初期スキルやアチーブメントの獲得に苦労しなくなったところでこのテスターの特典が解放されるわけだ。
既存のスキルや実績をすでに獲得していた場合は、ささやかなゲーム内アイテムと交換できる。
端的に言えば、無意味ではなかったという心理的要因を考慮した記念みたいなものだろう。
将来的には、このアイテムを使用せずとっておく人たちもいそうだ。
そんなことを思い返しながら、戦闘を経てしばらく。
「感覚もだいぶ取り戻せたね~」
「そうだね、スキルや実績もかなり解放されたみたいだ」
明日には、クリスシステムが解放できそうだ!




