Data 01. 夢見た世界
地平と空を別つように、おびただしい数の魔物が押し寄せる。
それを迎え撃つは特殊な技能を有した人間達。
まるで、世界の命運と人類の存続をかけたような戦いだ。
鼓動を支配する緊迫感に胸を締め付けられる状況だけど……。
生きてる。
俺は矢面の戦線に立っているわけではない。
しかしこの場に立ち、この場所で地を踏んでいると、俺は生きているという実感が湧いてくる。
楽しいわけでもなく、苦しいわけでもなく、ただここにくると生きた心地がするんだ。
敵勢力を押し返していき、歓喜の声が徐々に広がっていく。
そして……。
「俺たちの勝利だ!!!」
仲間の一人がかちどきを上げた。
勝ったのか。
遠くからの声で自分たちの勝利に気づいた……。
――――――
「夢か」
朝だ。
いつもと変わらぬ穏やかな日差しが目元に差し込み、目を覚ました。
そう、夢。
子供なら誰しもが空想するような、異能を扱い戦うような夢。
最近そんな世界の夢を、よく見るんだ。
夢特有の疲労感を残しながらも身支度を整えて、学校へ行く準備を済ませていく。
「いくか」
朝食を食べ終えて、俺はマンションの一室から踏み出した。
今日もいつもと変わらぬ一日が、外の空気と共に俺を迎えてくれた。
――――――
Data 01. 夢見た世界
――――――
教室でテンションの高い男子生徒が昨晩のことを話している。
「なぁ、あの夢見たか!?」
「俺、今日は見れなかったんだよな」
「マジかよ、ネットでの噂すげぇぞ」
……夢の噂。
そうだ。
あの夢を見ているのは俺だけではないんだよな。
時折、ものすごい現実のような夢を見る。
そんな一文がSNSに掲載されて、同じような体験をしているという話からこの話題は一気に広まっていった。
そして周りも同じような世界の夢を見ている事に、俺は僅かな安心感を覚えていた。
「夢の宴会で出た料理が美味くてよ~」
「ほんとそればっかだなぁ」
俺が眠っている間に見たのは、戦いの夢。
たまたま、今日はその夢だっただけだ。
あの夢には色々なものがある。
食事を楽しむ夢。
スローライフを楽しむ夢。
仲間とのバカ騒ぎを楽しむ夢。
知り合いや友人が全く同じ夢を見ていた、なんてことも珍しくはない。
俺たち学生の間でも、そんな夢の世界の噂でもちきりだ。
授業が始まり、太陽の動きと共につつがなく学校の時間は進んでいく。
「で、大化の改新を終えたわけだが。 この時、悪者にされた勢力があってな~。 いいとこなんだが……時間か」
窓際で空を歩く雲の散歩を眺めていると、いつの間にか授業を終えていた。
帰ろう。
「帰るのか? つってもリハビリか」
「あぁ、まぁな」
「またいつでも部活こいよ!」
「ありがとう」
俺を気遣ってくれるようなクラスメイト兼、部活仲間へと感謝の意をつぶやいて俺は教室の扉を開ける。
すると、女生徒が俺へとぶつかってきた。
「おっと、ごめんごめん! 飛鳥馬くんは帰るのかい?」
「リハビリがあるんだ……」
「そっか……今度のクラス会の打ち上げは……」
「ごめん、帰るよ」
「あ……」
……友人から呼ばれている彼女を背にして、俺は教室を出た。
俺……【入鹿 飛鳥馬】は、クラスになじめていない。
また夢の世界に行きたい。
今日も夢を見ることはできるだろうか。
電車のリズムに揺られながら、いつの間にかそんなことを考えていた。
あの夢のおかげで、俺は嫌なことを忘れることができる。
入部した馬術部で乗馬中に転落した俺は……足をやってしまった。
それには原因があって他の生徒が絡んでいる。
馬に乗っている途中に、俺を疎ましく思っていた生徒が馬を驚かせたんだ。
その生徒は停学処分を受け、顔を合わせていない。
……あの夢を考えているときは、そんな嫌な出来事も忘れることができる。
そして、入院中に学年が上がりクラス替え。
馴染めないまま、ひと月が過ぎた。
全く難儀な人生だ。
リハビリの先生から頼まれたお土産を購入するため、途中下車する。
その先生は少しでも嫌なことを忘れさせようとお使いを頼んだんだろうな。
それは俺にとってもいい気分転換だ。
お土産を購入し終えて街を歩いていると、ビルにある街頭ビジョンが何かの宣伝をしていた。
『異能を発現させるシステム、クリスシステムと呼ばれた。』
『起死回生の一手を得た人類は、形勢逆転を経て繫栄していく。』
『新たな文明で、自分だけのクリスシステムを発現させよう!!』
ゲーム……?
俺もゲームは好きだ。
高校に入ってからはやらなくなったけど、中学生の頃は忙しい中、隙を見つけてはよくプレイしていた。
ゲームか……。
久しくやっていないけど、たまにはしてみるか?
ちょっと面白そうだし……。
『新世代型フルダイブVRMMO!!! 近日公開!!! 詳細は公式サイトをチェックしてね!』
フルダイブVRMMO……?
なんだよ、それ……めちゃくちゃ面白そうだ!
秒で消え失せた俺の軽い興味は、心臓を捕まれたような強い好奇心へと変わっていた。
――――――
と、あれから家に帰って調べたものの。
その完全フルダイブゲームは社内でのテストを終えて、次回テストプレイヤーの抽選が始まっていた。
もちろん俺はそれに応募した。
そして……今日はその抽選発表日。
なんかドキドキする。
試合や発表会、文化祭。
人前で何かを披露するときの様に、胸のビートがヒートする。
なんか勢いでラッパーになってしまいそうだ。
き、きてる。
当選者発表のメールが。
俺は精神統一し意を決して、そのメールをクリックした。
「おいおい、冗談だろ」
二度ほど目をこすり、そのメールに再度目を向ければ。
<【落選】となります。>
何よりも衝撃的な二文字が再び目に飛び込んでくる。
落選だけにLuckせんのかい。
思わずラッパーなめんなよクソガキと言われるようなツッコミを入れてしまった。
落選か……。
――――――
「というワケで、リハビリを休んでいたんですねこれが」
「はっはっは」
笑いながら頭をはたかれた。
何をするか無礼者。
「に、睨まないでくださいよ。 お土産もありますよ~」
心を読まれたのか睨まれた。
俺は即座にお土産の高級タルトを差し出した。
忍法変わり身の術。
「まぁ、勘弁してあげよう! 限定商品も手に入れてきてくれた事だしね」
この長い髪の女性は俺のリハビリの先生。
【依部原・クリス・奈瑠美】さん。
医学に精通し、名前にミドルネームを持っている様に外国人の血も入って間もない人だ。
本人はそんな素振りもせず気楽にしてるが、なんか生まれがお嬢様らしい。
そして、幼いころから良くしてくれている近所のお姉さんだ。
俺がただの洋梨ならこの人は、岡山県産高級白桃とでも言おうか。
「それで気落ちしていたってワケね」
「恥ずかしい話ですが」
また昔みたいに走れると思ったけど……それはだいぶ後になりそうだ。
「使ってみるかい?」
……?
「だから、そのゲームをやってみるかい?」




