表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白黒つけましょう?〜侯爵令嬢は平民騎士隊長を絶対に諦めない〜  作者: はな
婚約者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/29

最終話 俺の妻です


 王城の大聖堂には、朝から多くの人々が集まっていた。


 侯爵令嬢リリアーナの結婚式。

 そして花婿は、この王国でも珍しい存在だった。


 平民出身の騎士。


 その噂はすでに貴族たちの間で広がっており、式が始まる前の大聖堂には小さなざわめきが満ちている。


「本当にあの男なのか?」

「元三番隊隊長だろう」

「近衛に昇格したと聞いたぞ」

「平民で近衛とは……前代未聞だ」


 囁き合う声があちこちから聞こえてくる。

 だが、その中で年配の貴族がふと首を傾げた。


「……知らないのか?昔、王太子殿下の命を救った騎士だ」


 周囲の視線が集まり、その言葉がでた一瞬、空気が変わった。


 ざわめきが少し大きくなる。


「そんな話が……」

「本当なのか?」


 その時だった。

 大聖堂の入口付近で、人々が静かに道を開ける。


 そこに現れたのは、当の王太子だった。


 穏やかな笑みを浮かべながら、彼は軽く肩をすくめる。


「ああ、その話は事実だよ」


 静かな声だったが、不思議と大聖堂の空気は一瞬で静まり返った。


 王太子は懐かしむように目を細める。


「あの時、刺客は十数人いた。私は完全に囲まれていてね」


 少し間を置き、彼は祭壇の方──カイルを見た。


「……だが彼は退かず、私の前に立った騎士だ──命の恩人だよ」


 先ほどまでのざわめきは、もうどこにもない。

誰も軽口は叩かなかった。


 そんな空気の中、祭壇の前ではカイルが静かに立っている。

 いつもと同じ騎士の姿勢で背筋を伸ばし、微動だにしない。


 だが──その表情は、どこか落ち着かない。


 その様子を後方の席から眺めていた騎士団の面々が、小声でざわついていた。


「……隊長、緊張してないか?」

「してるな」

「してる」

「してるだろ」


 小さく笑いが漏れる。

 ラルクが腕を組みながら、にやりと口の端を上げた。


「昨日、絶対会ってるだろ」

「お前な」

「黙っとけ、聞こえる」

「でも隊長、顔固いぞ」

「戦場より緊張してる顔だ」


 隣の騎士が慌ててラルクを肘で突くも、くすくすと笑いが広がる。

 ラルクは祭壇のカイルを見て、肩をすくめた。


「まあ仕方ないさ」

「?」

「“触れられない距離”に置かれてる男の顔だ」


 騎士たちが一斉にカイルを見る。

 そして誰かが小さく呟いた。


「……ああ」

「確かに」

「昨日何かあった顔だ」

「でも安心しろ」

「何がだ」

「あと十分もすれば──合法になる」


 ラルクはにやりと口の端を上げ、わざとらしく肩をすくめて言った。

 一瞬の沈黙のあと、騎士たちの間で、こらえきれない笑いが広がった。


 その時だった。

 大聖堂の扉が、ゆっくりと開いた。


 一瞬で空気が静まる。


 純白のドレスに身を包んだリリアーナが、ゆっくりと歩みを進めてきた。


 堂々とした姿で、背筋を伸ばしている。

 迷いのない足取りでまっすぐに、祭壇へ向かって進んでいく。


 やがて彼女の視線が上がり──祭壇の前に立つカイルと目が合った。


 その瞬間、まるで周囲の音がすべて遠のいたようだった。


 カイルの表情が、わずかに緩む。

 リリアーナも、ほんの少しだけ微笑んだ。


 それだけで十分だった。


 やがて式が始まる。

 神父の声が、静かに大聖堂に響いた。


 誓いの言葉が読み上げられ、二人は向かい合う。


 指輪が差し出され、カイルは迷いなくそれを受け取り、リリアーナの指にそっとはめた。


 まるで壊れ物を扱うような、慎重な手つきだった。


「誓いますか」


 神父が問いかけると、カイルは迷いのない声で即座に答えた。


「誓う」

「あなたは?」


 神父はリリアーナを見ると、リリアーナはふっと微笑み、カイルを見上げた。


「ええ。とっくに」


 その言葉で小さな笑いが、大聖堂に広がった。

 神父も思わず苦笑する。


「では──誓いの口づけを」


 カイルは一瞬だけ彼女を見つめ、静かに身を屈めた。


 触れるのは、ほんの一瞬。


 けれどそれは、何よりも確かな誓いの口づけだった。


 その瞬間──拍手が、大聖堂いっぱいに響き渡った。


 祝宴は大いに賑わい、貴族たちも、騎士たちも、皆が笑顔で二人を祝福している。


 若い貴族の一人が、少し緊張した様子でカイルに声をかけた。


「お、おめでとうございます」


 カイルは静かに頷き、そして隣に立つリリアーナへ視線を向けた。

 その目は、どこか誇らしげだった。


「俺の妻です」


 ほんの少しだけ胸を張って言うその言葉に、周囲から温かな笑いと拍手が起こった。


 リリアーナは思わず肩をすくめながら笑う。


 それでも──カイルの隣に立つことが、どうしようもなく嬉しかった。


 祝福の声が広間を満たしている。


 その中で、カイルはふと彼女の手を握った。

 強くもなく、けれど離さないように。


 リリアーナは少し驚いたように彼を見上げるが、カイルは何も言わず、ただ静かに笑っていた。


 その横顔を見て、リリアーナもまた小さく笑う。


 ──この人となら、どんな未来でもきっと大丈夫。


 その時、カイルが小さく呟いた。


「──やっとだな」

「え?」


 リリアーナが首を傾げる。

 カイルは少しだけ照れたように笑い、彼は彼女の手を軽く握り直す。


「ずっと思ってた。いつか──堂々と、あなたを隣に立たせたいって」


 リリアーナの胸が、静かに熱くなる。

 そして二人は、顔を見合わせて笑った。


 祝福の拍手の中で、二人は並んで歩き出す。


 これから続く、長い人生へ。


 ──きっと騒がしくて。

 ──きっと幸せな未来へ。


 リリアーナとカイルの人生は、ここから始まる。




ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。


最後までお付き合いいただけて、とても嬉しいです。


もし少しでも「面白かった」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などいただけると今後の励みになります。


短いお話でしたが、リリアーナとカイルの物語を見届けてくださりありがとうございました。


実はこの作品、前作が個人的にかなりシリアスなお話だった反動で、「とにかく甘くて軽いラブコメを書きたい!」という衝動のまま書き始めたお話でした。


楽しんでいただけていたら嬉しいです。


ちなみに前作は雰囲気がかなり違い、シリアス寄りの物語になっています。もしご興味がありましたら、そちらも読んでいただけると嬉しいです。


※このあと、少しだけ後日談エピローグあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ