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誰があの子を殺したのか  作者: ロゼ


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戸田純一1

 いつものように愛犬の散歩をして家に帰る途中でそれを見つけた。


 まさかそれが、今世間を騒がせている事件に関する物だなんて思っていなかった。


「落し物を拾ったんですけど」


 近所の交番に行くと、いつもいる中年の人の良さそうなお巡りさんは不在で、少し頼りなさを感じる若いお巡りさんが対応してくれた。


 見つけた場所、日付、自分の名前や連絡先を渡された用紙に記入し、冗談半分に「発見者にお礼なんてあるもんなんですかね?」なんて聞いて交番を後にした。


 その翌朝、うちの電話が鳴り、「あなた、警察から電話よ」と戸惑った顔をした家内に言われ、落し物の持ち主でも見つかったのかと思って電話に出た。


 電話口の男性は中崎署の恩田と名乗り、落し物がどこにどういった形であったのかを細かく聞いてきた。


「あの落し物って、何か訳ありだったんですか? 普通、落し物のことで刑事さんが電話してくることなんてないですよね?」


 疑問に思っていることは聞いておかないと気持ちが悪い。


 そう思って聞いてみると、恩田刑事の口からは思ってもみなかった答えが返ってきた。


「中崎西高校で水死体で見つかった女子高生の事件は知っていますか? 戸田さんが発見した物はあの子の持ち物だったんですよ」


 その事件のことなら知っている。


 こんな田舎の町で起きたとは思えない凄惨な事件で、全国からマスコミが押し寄せてホテルや民宿はそういった関係者でいっぱいだと聞いている。


 先日定年退職を迎えて、退職金も入ったことだし少しだけのんびりさせてもらおうと思った矢先の事件で、家内が酷く怯えていた。


「あなたがこのタイミングで定年を迎えてくれてよかったのかもしれないわね。あなたがいてくれるだけで心強いし」


 家内がそう言ってくれたのは嬉しかった。


 元々は家内が行っていた犬の散歩も俺が引き受け、毎朝晩決まったコースを歩く。


 どうせ歩くのならと思ってゴミ拾いもしていた。


「普段、いつもあの道を通るんですか?」


「散歩コースなので」


「秋山まりさんのリュックサックは前日にもありましたか?」


「ゴミ拾いしながら歩いてますからね、あんなのが落ちていたら気づきますよ。間違いなく前日にはありませんでしたよ」


 秋山まりという少女のリュックを見つけたのはいつもの散歩コースの河川敷の草むらだった。


 草むらといってもある程度草は刈られているため、物があればすぐに見える。


 河川敷にはペットボトルや空き缶、食べ物の袋なんかをポイ捨てしていくやつらが多く、ゴミ拾いを始める前までは結構ゴミが散乱していた。


 愛犬で、もう老犬に差し掛かっているベールがゴミを誤飲でもしてしまったら危ないだろうと思って拾い始めたが、今では町が綺麗になっていくのが喜びに変わりつつある。


 あそこは毎日欠かさず通るコースだし、パンパンに膨らんだリュックがあれば嫌でも気づく。


 たまに高校生達が河川敷で遊んでいることがあるため、遊んだ帰りに置き忘れたのだろうと思って交番に届けたのだ。


 変に中を開けてもよくないかと思って、中身を確認することもなく交番に届けた、それだけだった。


「……こんなこと聞いていいのか分からないんですけどね、中には何が入ってたんですか? そこまで重くはなかったですが、パンパンに膨らんでましたよね?」


「教科書などと一緒に彼女の衣服が入ってました」


 亡くなった子は重しを付けられた状態だったと聞いている。


 衣服や財布、スマホなどが見つかっていないとニュースが告げていた。


「犯人が置いてったってことですか?」


「その辺はなんとも言えませんが、誰かが置いていったのだとしたら、事件に関係している人物である可能性は高いのではないかと」


 そんなこと素人の自分でも分かる。


 あのリュックの持ち主であった秋山まりという少女は約二週間前には亡くなっている。


 そんな子の持ち物が勝手に河川敷までやってくることはない。


 それを運んだ人間がいるということだ。


 どこか遠くに感じていた事件が、一気に身近に迫ってきたような恐怖を覚えた。


「散歩をしている時に不審な人物など見かけませんでしたか?」


 あの辺を散歩している時、たまにすれ違う人物はいる。


 だけどみな見知った人ばかりで、不審に感じる人間など誰一人いなかった。


 同じように犬の散歩をしている人が主で、他はあの時間ならば出勤途中だろうスーツ姿のサラリーマンなどを時折見かける程度。


 みんなどこかで見た覚えのある顔ばかりで、見慣れない人間などいなかった。


 恩田刑事にあのリュックがどこにどのような形で置いてあったのかを現場で直接教えて欲しいと言われ、後で河川敷で落ち合う約束をして電話を切った。


「あなた?」


 家内が不安げな顔をしてこちらを見ている。


「何でもないよ。ほら、落し物を拾って届けたと言ったろ? あの件について話を聞かれただけさ」


「そう? それならいいんだけど」


 家内は十年前に息子を癌で亡くしてからというもの、精神的に不安定な状態が続いている。


 子供が出来にくい体だと言われていたのに諦めることなく不妊治療を続け、やっと授かった子供だった。


 だから尚更ショックは大きく、十年経った今でもたまに狂ったように泣き出したり、塞ぎ込んで部屋にこもることがある。


 蝕まれてしまった心はそう簡単に治るものではない。


 親戚達は「まだか」と呆れた顔をするが、それだけ家内にとって息子の存在はかけがえのないもので、それを失ったショックは心を壊してしまうほど大きかったのだ。


 家内がまた不安定にならないように、余計なことは耳に入れないようにする。


 それが家内に寄り添うことを決めた俺のルールだ。


 秋山まりという少女の事件は我が家には関係がないことだし、あの事件で不安を感じていた家内に余計な話をして不安を増長させるわけにはいかない。


「海の見える場所に引っ越すのもいいかもしれないな」


 こんな物騒な町から去ることも含めて今後のことをしっかり考えなければ。

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