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異世界進化論!~チートスキルで全部系統樹的に解決したら、いつの間にか世界革命が始まっていました~  作者: 雨宮 徹


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スキル「エヴォ・ロジック」発動!

「そんな!」



 領主とのやりとりを聞いたサナの第一声だった。お帰りのキスどころではなく、彼女は立ちたくしている。森が人質にされているのだから無理もない。



「安心しろ。スキルでなんとかしてみせる。それに、これは俺の力がどこまで通用するか試す、いい機会だ」



 帰り道で改めて考えた。領主バルトロのやり方は強引だが、裏を返せば見られない範囲でスキルを使いたい放題ということだ。「エヴォ・ロジック」は、単に作物を育てるだけがすべてではない。時短だけではなく、無限の可能性が秘められている。進化の道筋が分かるということは、木材の最適化にも使える。そして、改良された木材で今までにない建築物ができるかもしれない。



「明日には、種なしスイカができあがる。森で食べながら、今後を考えればいいさ」



 すべてをネガティブにとらえることはない。今できることに全力を尽くす。その先にスローライフが待っていると信じて。





 翌朝、雑談をしながら森に向かっていると、どこからかコツコツと音が聞こえる。



「これ、なんの音かしら?」


「たぶん、あれだな」



 俺の視線の先では小鳥が巣穴を作ろうと、せっせと木の幹をつついていた。木漏れ日のもと、くちばしを動かす姿は前世のキツツキを思わせる。異世界だから、名前は違う。正しい名前は知らない。



「あの木、カイルのスキルで柔らかくできないかしら?」


「できる。だが、あの木そのものにも影響が出る。時に自然は厳しい。あの鳥が穴を開けられるかは分からない。だが、それができた時、あの鳥は壁を乗り越え強くなる」



 俺は、こっそりとスキルを使って木の現状を把握する。同時に小鳥の力も。木から樹形図が見えるのは不思議な感覚だった。双方の力関係からすると、巣穴は無事にできあがるだろう。だが、来年はどうなるか分からない。



 木は穴を開けられないように、樹皮を堅くするだろう。この力比べが続き、徐々に種は変わっていくのだ。それは、俺も同じだ。スキルでは、俺の未来を見通すことはできない。だが、スキルの限界が分かってしまっては、つまらない。世の中は分からないことがあるからこそ、生き甲斐があるのだ。





 いつもの泉に着くと、二人でスイカにかぶりつく。種を気にしなくていいのは便利だ。




「エヴォ・ロジック」



 スイカを中心に無数の樹形図が浮かび上がり、スイカの可能性を示す。一つの枝が目にとまる。



「今度は何をするつもり?」


「ああ、塩をかけなくても適度な甘さになるように調整しようと思って」


「トマトといい、甘いのが好きね」


「甘いだけがすべてじゃない。物によっては、酸っぱかったり、辛いほうがいい」



 そう言いながら、「俺はサナに対しては甘すぎるのかもな」と思った。まあ、変えなくていいものもある。甘くていいんだ、俺は。サナが隣で微笑む。それで、俺の心は満たされるのだから。





「さて、スイカも食べ終わったし、今後について考えるか」


「バルトロ様は、もっと作物を作って欲しいのよね?」


「まあ、そうだ。それも、普通とは違うものだ。他のと味が一緒じゃあ、納得しないだろうな。だが、一つ案はある。たとえば、トマトの収穫時間を短縮する。そうすれば、今までにない味のトマトが量産できる」



 しかし、さっきからトマトにこだわってばかりだ。別の切り口が必要だ。芽がでないジャガイモもありだし、切っても涙が出ない玉ねぎも面白い。「エヴォ・ロジック」の使い道を考えるのは、やはり楽しい。スキル自体は万能ではないが、想像力があふれ出して止まらない。



「あとは、家でゆっくり考えるか」


「おい、お前たち。そこで何してる?」



 それは、農夫のゲオルグのものだった。手には錆びれかけた鍬を持っている。眉間にはシワがある。



「何してるって言われても。スイカ食べてるだけだぞ」


「じゃあ、なぜ種が辺りにない?」


「それは……」



 改良したから、とは言えない。何とかごまかすしかない。



「すべて飲み込んだんだ。意外とうまいぞ」


「何をバカなことを。俺は見たぞ。お前たちが、種のないスイカを食べているところを」



 まさか、見られていたのか!? 気づかなかった。そして、何より問題なのは、ゲオルグが熱心な信者ということだ。つまり、この話は間違いなく司祭のウルリヒの耳に入る。異端だと糾弾されるのは避けられない。どうする?



「分かった、お前にも種のないスイカの作り方を教える。そうすれば、村のみんなから尊敬されるだろ?」


「何を言ってる! 俺を邪神の考えに染めるつもりか? その手には乗らないぞ」



 まずい。非常にまずい。ゲオルグの関心を他に向けなくては。



「じゃあ、これならどうだ? お前に作物の育ちがよくなる肥料の配合を教える」


「何? そんなことができるはずはない。俺のやり方に間違いはない!」


「時間をくれ。明日には、肥料を提供する。お前の作物のためになるものを」



 彼の関心は逸れたようだが、怪しげな目つきで睨んでくる。


 大丈夫、「エヴォ・ロジック」を使えば、適切な配分の肥料を作れる。普段から効率を重視している彼なら、この誘いにのるはずだ。



 しばらくの沈黙。



「分かった、一日だけだ。もし、できなければ、司祭に報告する」



 ひとまず、延命できた。あとは家に帰ったら、即スキルを使えばいい。俺とサナのスローライフを壊すわけにはいかない。



「サナ、急ぐぞ」


「ええ」



 俺たちは家に向かう。暗雲が立ち込める中を。

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