「エヴォ・ロジック」の無限の可能性
「ここが、スビアの家か」
庭には多数の花々が植えられており自然を愛するエルフらしい造りになっている。ギルドの建物がレンガ造りだったのに対して、こっちは木を基調にしている。
「それで、秘策ってなんだ?」
「見てれば分かるわ」
サナが、ドアをノックすると「人に会う気分じゃないの」と、ボソッとした返事。サナが「フリージアをお持ちしました」と付け加えると、数秒後にドアが開く。そこには、俺たちと同い年くらいのエルフの女性の姿があった。
「いらっしゃい。同胞よ」
まるで魔法のようだ。花一つで、ここまで対応が変わるとは。俺の疑問を感じ取ったのか、「フリージアは、エルフが愛する花なのよ」とサナ。なるほど、同胞であると示し、警戒心を解いたのか。さすが、俺の愛するサナだ。
「それで、用事は何かしら?」
「村の領主から商工ギルドを紹介されて……」
「なるほど。長の私がここにいると聞いた、ということか。さあ、家に入りなさい。話は長くなりそうだから」
スビアの家は、いたるところに薬草が積み上げられている。ふわりと、気を静める匂いが漂い、体がリラックスするのを感じる。確かあの「死神」は、彼女が薬草売りだと言っていたな。そして、病の流行を止められないとも。その心労からか、彼女の顔色が悪い。
「ここまでの話をまとめると、君たちはここで知見を得たい。だが、流行り病であるカテリアの影響もあり、早く済ませたい」
「ええ、そうです。ところで、街を歩いて気づいたんですが、高齢者を見ませんでした。これには、何か理由が……?」
俺は「カテリア」という病原体を避けるために家に籠っているとばかり思っていた。だが、真実は違った。
「カテリアは数十年前にも流行ったの。その時、大勢の人が亡くなったわ。だから、高齢者は少ない。いいえ、いないに等しいのよ」
スビアは苦々しげだ。もし、今回の流行を抑えられなければ、マルーンから人はいなくなるかもしれない。そうすれば、王国中に影響が広がる。もちろん、俺たちがいた村も。
「もちろん、医者たちは奮闘しているわ。でも、過去のカテリア・ショックの影響で医療の継承は中途半端なの。つまり、当時の病で医者も大勢亡くなったから。教会は、祈祷や清めの塩で救われるというけれど……」
どうやら、マルーンの司教は神が病から救ってくれると信者に教えているらしい。それだけなら信仰の自由の範囲だが、清めの塩を認めるということは、あの「死神」の片棒を担いでいることになる。
「分かりました、カテリア対策に加わります」
「カイル! あなたの目的は進化論の論文を書くためでしょ?」とサナ。
「シンカロン……? はじめて聞く言葉だ。しかし、カテリア対策に加わるのはありがたいが、身の安全は保証できない」
「ええ、分かっています。この病が王国中に広まらないように、手伝わせてください」
俺には、「エヴォ・ロジック」がある。うまく使えば、カテリアの流行を抑えられる。病原体を分析するチャンスでもある。一つの種への対策ができれば、応用して他の流行り病対策にもできる。さあ、王国全土を救う大勝負の始まりだ。




