536年
旅の途中、奇妙な村に寄った。
小さな村だが暮らしている人々は皆が笑顔で居るのだ。
奇妙な村だ。
私は道行く人々に問う。
「何故、そんなに笑っていられるのですか?」
すると彼らは口を揃えて言った。
「わかりませんか。私達は幸福なんです」
「そうですとも。なにせ、この世界で生きている事が出来るのですから」
「こんな情勢でも生きていられるのですから、本当に幸せでございます」
虚ろな目。
骨と皮ばかりの体。
肉の焼けるにおい。
焼けたと同時に群がっていく人々。
私はもう一度問う。
「何故、そんなに笑っていられるのですか?」
すると村人たちはよく焼けた肉を頬張りながら答えた。
「わかりませんか。私達は幸福なんです」
「そうですとも。なにせ、この世界で今日も生きることが出来たのですから」
「私達は何としてでも生きていたいのですから」
もう聞いても無駄だろう。
きっと、私が何度問おうとも答えは変わることはない。
話は平行線だ。
そう理解した私はそのまま村を去った。
「中々にしぶといな。この星の生き物は」
宇宙船に戻りながら日誌を書く。
『この星の生き物は自死を選ばない。何があっても生きようとする。とても力強い生き物だ』
書ききった日誌に私は少し考えた後に付け加える。
『死後の世界を流布すれば案外あっさりと全滅する可能性もあるが、試すのは今ではないだろう』
今、侵略をしたところで未開の星が手に入るだけだ。
ならば、もっとこの星の文明が発展し侵略価値が増えてからでもいいだろう。
そう考えた私は母船に合図を送ってこの星を引き上げた。
母船がこの星から引き上げる。
母船の影が消えて太陽が静かにこの星を温かく包むのを私は見つめていた。
次来るのがいつになるのかを考えながら。
*
536年
人類史上最悪の年と呼ばれるこの頃に地球を覆っていた奇妙な靄の正体は未だはっきりとした正体は分かっていない。
536年という年を某所で見かけて思いつきました。
村人たちが何を食べていたかはわざわざ書きません。




