第四十三章 国の命令
「みなさーん!そろそろ到着しますよ!」
シャチ蔵の言葉に彦一が起き上がる。
「やっと着くのか……」
「彦一!あなた生きていたの!?」
「入夏様!?勝手に殺さないでくださいよ!」
「てっきりドライスの料理で死んだものかと思ったのよ」
「同じく」
僕は入夏の意見に激しく同意した。ドライスはどこか悲しそうな顔をしていたがまあ気にしない。僕達はそのままアクウルの港に船を止めた。
*
船から降りると、僕達は王城へと足を運ぶ。怪王人を討伐したことを王様へ伝える為だ。王城の中へ入ると兵士達は僕達に深く礼をする。僕達は軽く会釈しながら廊下を進む。どうやらあの少年たちが怪王人の事は王に知らせているようだ。僕達はそのまま扉へ向かい開く。扉の奥にはもちろん玉座に座る少し太ったおじちゃんがいた。しかし、いつものようなのん気な顔をしておらず険しい顔をしていた。
「ただいまお父様」
「よくぞ帰ってきた。入夏……あとその他」
「「「「「「「雑ッ!?」」」」」」」
王様の一言にその他はツッコむ。もっとあるだろ!?見るからに出発した時より多いぞ!?
「そして彦一」
「はい!何でしょうか国王様!」
「隣国との状況が悪くなってきたようじゃ」
「なんですと……!?」
彦一の表情が青ざめる。僕は気になって彦一に尋ねた。
「なんかあったの?」
「ああ、俺達の国アクウルは見ての通り港にできている」
「それがどうしたの?」
「約二百年前の事……。その時はこの国は存在せずに北東に山に囲まれた国、マウカがあった。マウカはカニスと貿易を行っていた。しかし、約五十年後にその国の間にアクウルが建国された。そして、アクウルはカニスと貿易を始めた。マウカより距離が近くて、海沿いのアクウルはカニスへ最短距離で貿易を始め、マウカの貿易先は段々と消えていった。そして貿易先を取り戻すための争いが今でも続いているってことだ」
想像の百倍くらい壮大だった。僕はてっきり国王同士がプリンで喧嘩を始めた程度だと思っていた。
「でも五年前の戦争で敗北して、国がかなり衰退したんじゃないの?」
「その通りだ入夏。しかし噂によるとマウカが魔王軍に軍事援助を受けて、人間離れした兵士を大量に手に入れてこちらに進軍させるつもりらしい」
「それって早く対処した方がいいんじゃないか!?」
今まで黙っていた比奈斗が叫ぶ。比奈斗の言葉を聞いた王様はふぉふぉふぉと笑い答える。
「あと二週間ほど猶予があるらしい。だから進軍の前に照馬くん達がそちらへ攻めて欲しいんじゃ」
「でもなんで僕達なんかが!?」
「怪王人を討伐した照馬くん達なら余裕でしょ?」
「まぁそうかもしれないですけど……」
「他の人もついて行くからいいでしょ?ね?」
「わしらもついて行くとするかのう」
「茂蔵たちもぜひそうして欲しい」
「でも!おじいちゃん達を巻き込むわけにはいかないよ!!」
「しかし。戦力は多くて困らんじゃろう?」
「とりあえずおじいちゃん達には怪我をさせたくないんだ!」
「……照馬くんがそこまで言ってくれるなら待っておくとするかのう」
「いや。茂蔵達はなんとしても照馬くんについて行って欲しい。これは命令だ」
王様がおじいちゃんを睨む。しかし、おじいちゃんは吐き捨てるように言った。
「わしはこの国の者じゃないので命令は受けんぞ!」
「わしもじゃ!国が滅んだら元も子もないじゃろう!」
「それがお前たちの答えか……」
「いいのか?」
「後悔しても知らんぞ……」
「ああ。わしは何と言われようがここに残る」
王様とおじいちゃんが睨み合う。その状況に危機感を覚えた入夏は急いで話題を変える。
「そんなことよりお父様!照馬達へ怪王人討伐の宴をしましょう!」
「そうだそうだそのことを言う予定だったね。さっきの話だけど、明後日ぐらいに行ってもらえないかな?できるだけ急ぎたいんだけど」
「わかりました!」
「……そして、ドライスと颯。ちょっと話がある。残っておいてくれないか?」
「ああ、わかりました」
「照馬くん達はみんなが用意してくれた宴でゆっくりしていってね!」
「ありがとうございます!」
一言お礼をした後、僕達は城下町へ駆け出した。
この後ある厄災に気が付きもせずに……