第四十二章 過去
「これぐらいでどうだ?」
「すごいよ颯さん!」
「こういう事はいつでも任せな」
数分後、颯さんが魚を大量に入れた箱を持って来た。
「この短時間でこんなに釣れるもんなのか……。おい!オレ様も少し手伝うぜ!」
颯さんはそのままスタスタと調理室へ向かった。ドライスが感心して片手なのに颯さんへとついて行った。そして颯さん達と入れ替わるようにして船の中から入夏がやって来た。
「調子はどう?……って今いるのは照馬だけなのね。どうせなら何か聞きたいこととかない?他の人の関係とか、結構知ってるんだから」
「そんなことより沙羅子について聞きたいんだけど……」
僕はこのチャンスを逃す訳にはいかない。何故なら鮫子さんを除いてこの女が一番知っていそうだからだ。
「沙羅子ねぇ……。あの子少し複雑なのよ」
「へぇー。確かに複雑そうだけど教えてよ!一応知っておいた方が役に立てるでしょ?」
「……まぁいいわよ。でも!ほかの人には絶対に言わないように!」
「わかった!」
「本当に言わない?」
「本当に言わないよ!」
「まず始めに聞いていると思うけど能力者を作ることは世界中で禁止されているのよ」
「それは知ってる」
「沙羅子はどうやら昔、家族と海に遊びに行ったときに怪王人に攫われたらしいの」
「そんなことなんでわかったの?」
「最近昔に起こった被害者の情報を調査していたところ、沙羅子の魔力とMPの値が一致していたのよ」
「ただの偶然じゃなくて?」
「この世に魔力とMPの値が一致する人は存在していないの」
「へー。でもなんで家族の元に返さないの?」
「家族は沙羅子失踪の数日後に腹部から臓器をえぐられた死体として地中から見つかったのよ」
「蘇生魔法とか使って復活できないの?」
おじいちゃんから昔聞いたことがある。この世には蘇生魔法があり、死者を復活できるとかどうか。
「蘇生魔法は老衰と一日以上経過した死体には使えないのよ。それに伝説級の魔法使いにしか蘇生魔法は扱えない。だからもう沙羅子の家族は……」
これ以上この話を続けるのはあまりよろしくない。僕は話題を変えようと別の質問をした。
「それならいつも鮫子の後ろに隠れているのはなんで?」
「沙羅子の証言によると攫われて気が付くと謎の部屋にいてそこに姿は覚えていないけど《《五人》》の化け物がいたらしい」
「そしてその一人が……!」
「そう。怪王人なの」
僕は生唾を飲み込んだ。
「能力者に改造された沙羅子はその施設で奴隷のように扱われ、脱走した先にいた鮫子に偶然拾われたってこと。それだから鮫子以外には心を開いてないのよ。だから今の私にもあの態度で初めて使ったのも鮫子の前なんだから……」
沙羅子は思っていたよりも二倍、いや四倍くらい昔が暗かった。もうこれ以上は聞いてはいけない気がする。
「あと聞きたいこととかある?予知できる時間とか?ちなみにそれは三日後まで見れるらしいけど」
「もうそれはいいから!!」
「あらそう」
「そういえばさっき五人の化け物がいたって言ったでしょ」
「それがどうしたの?」
「一人を魔王カエ~ルだと仮定して、怪王人は倒した。そうすると怪王人みたいなやつがあと三人いるってことでしょ?」
「そうわね」
「ならこれからもっとキツくなるんじゃ……」
僕が今後に向けて考えていると颯さんがやって来た。
「できたぞ。ってここにいるのは二人だけか」
「颯さんどうしたの?」
「料理が一応できたんだが……。とりあえず皆を呼んでくれ」
「わかった!」
「この話の続きはまた今度にしましょ」
僕達は颯さんに言われたまま皆を呼んだ。冒険を忘れてとりあえず颯さんの美味しい料理を堪能しよう。僕達は調理室へ向かった
*
しかしここでまさかの事件。僕達は郷里を見て絶句した。
「これは一体料理といっていいのだろうか?」
机には颯さんの作ったであろう魚料理。それと……
「ねぇドライス。これは一体……?」
「すまない。俺も必死に止めたが……この有様だ」
皿の上に載っていたのは、某オレンジ色のガキ大将が作る料理の同等かそれ以上のようなものであった。丸焦げを超えてもはや灰の魚に見る限り全身にびっしり棘が生えた黒い球状の魔物を三匹ほどそのど真ん中にトカゲのような生命体。もちろん生。滅茶苦茶生臭い。
「焼くのがめんどくさくてフレイムブレスで焼いた魚だ!あまりにも焼きすぎたからそのあとは焼いてない!どうだ!この手抜き料理かつ最高な料理は!」
「ジャ〇アンシチュー」
「ふざけんな!」
比奈斗の的確な突込みにドライスは怒鳴る。これを一体どうしろと?ご親切に人数分用意されている。
「さぁ!遠慮せずに食べろ!」
「……まさかこれが魔界の料理……?」
さすがのおじいちゃんでさえドン引きしている。確かにこの世の終わりのような見た目をしている。
「!?そういえば調味料を忘れていた!」
ドライスがさらに泥のような何かを追加する。それを見て全員この世の終わりのような顔をしている。
「……俺が先に行く」
彦一が覚悟を決め、排泄物のような色をした魚を口に運ぶ。
「あ、そういえば隠し味にブタンクの油を使っているんだぜ!」
「!?」
途端に彦一が倒れた。僕はまさかと思い覗き見眼鏡を使用する。
Lv.32
HP 13 (毒)
MP 190
攻撃力 200
防御力 182
素早さ 83
魔力 136
才能 炎系魔法(大)、風系魔法(中)
特技 わーぷ、ヒミンク
「やばい!彦一のHPが13しかないよ!あと謎に毒状態になってる!?」
「急げ!早く彦一を運ぶんだ!」
*
――数時間後
結局ドライスはみんなからボロクソ評価をもらい拗ねてどこかへ行った。正直言ってありがとう彦一。彼の犠牲は忘れない。




