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第三十四章 世間知らずと超能力

 僕の反復横跳び修行は夜まで続いた。僕は終了の合図と共に地面にうつ伏せになる。

「まぁ今日はこれくらいにしてやるでござる」

「鬼畜すぎるだろ……!」

「明日は他の修行もするでござる。覚悟しとけであります」

「そんな――!!」


 ◆ 畑堀はたぼり 比奈斗ひなと ◆


「そろそろだな」

「おう!」

「いくわよ!」

 ドライスが鉄格子に手をつけた途端に入夏いるかそうの手から水が生成される。



「ウォンシー!」

「ウォプティ!!」



 二人の手から同時に水が発射された。水が鉄格子に当たった途端に煙が立ち込める。

「うぉ――――!」

 ドライスが鉄格子に力を入れた。初めは何も変化がなかったが次第に曲がっていく。

「いっけ――――!」

「でも煙のせいで何も見えないわ!」

「確かにそうだなこれでは狙いが定まらん」

 その時俺は普段から魔法を使っている為異変に気がついた。手の方向が少し下にずれていたのだ。


「まずい!入夏!颯!下に標準がズレてやがる!」

「流石にこれは無理だ!」

 ドライスが手を離す。ドライスの手には無数の火傷の跡が残ってた。

「無理か……」

 鉄格子は拳一つ分ほどの間になった。


「もうMPがない。これ以上は続けられん」

「くっそう。また明日になるのか……」

 地面に拳を突き刺しながら彦一ひこいちがつぶやく。しかし彦一とは反対にダファキンは冷静だった。

「次は私がやりましょう。ドライス様一人では危険です」

「いやそんなもんいらねぇ」

 ドライスはダファキンの顔も見ず吐き捨てるように言う。


「この鉄格子はオレ様がぶち壊す!何があっても絶対にな!」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!それじゃあずっと脱出できないわよ!体力か魔力、どちらかが欠ければ無理でしょ!?」

「人ん家のボディーガードをボコボコに返す気か!?お前らは!?」

 ドライスの言葉を聞いた入夏は何も言い返せずにその場で黙り込んだ。

「やっぱり待つしかねぇのかよ……」

 半仲間割れの様な状況を見て俺は呟くのであった。


 ◆ 草野くさの 照馬しょうま ◆


「少しは時間を有効に使わないとね」

 ――翌日早起きした僕は道具を揃える為に道具屋へ行こうと思った。比奈斗が道具は大体持っていた為、回復アイテムなどがほとんどないのだ。

「ていうか100円高いただの薬草ってどこでも売ってる気がするんだけど?」


 まぁあのおじさんの薬草が一般的に普及したってことか……。僕はそのまま道具屋へ入って行った。

「100円高いただの薬草ください!」

「100円高いただの薬草ぉ?なんだそりゃ?」


 店長は首を傾げる。癖で100円高いただの薬草って言ったぁぁぁ――――!!なんだっけあの薬草の正式名称……?

「どんな状態も直す草ありませんか!?」


 ラジング店長が言っていた言葉を思い出して言った。道具屋の店長は少し考えた後、一つの薬草を持ってきた。

「これのことか?」

 店長が持ってきたのは100円高いただの薬草より50円ほど安い薬草だった。僕達が知っている100円高いただの薬草ではなかった。

「こいつならどんな状態異常でも直せるぞ」

 あの薬草ただの劣化版だったじゃねぇかぁ――――!!


 *


 道具一式を購入した僕は道具屋を出た。僕の所持金はほとんどなくなってしまった。怪王人め……。金の恨みは重いぞ!

 僕は美味呼さんのいるところへと向かった。


 *


「よいか?これは昨日の応用でござる。とりあえずは力を抜いて走ることだけに集中しろでござる」

 美味呼みなこさんに言われて僕は全身の力を抜く。美味呼さんを見ると昨日の剣技の動きをしていた。

「慣れれば容易いでござる。試してみるがよい」


 美味呼さんに言われて僕はやってみる。しかし僕のスピードはそんなに速くなるはずがなくただ反復横跳びをしているだけであった。美味呼さんは全くできていない僕を見て目を丸くしていた。


「……ま、まぁいずれはできるようになるであろう……多分な」

 美味呼さんが苦笑する。しかし僕は黙々と練習を続けた。


 *


 ……一体どれくらいの時間がたったのだろうか。ずっと僕の修行を見守っていた美味呼さんが口を開いた。

「そろそろ休憩するでござる」

「え?」

「そんなにぶっ続けだといつかぶっ倒れるでござる」

「そんなことはないですよ~」

「とにかく、少し休むがよいでござる!」

「……わかりましたよ」


 美味呼さんの言う通り僕は修行をやめて少し休憩を取った。

「さっすがにきついな――」

 森を軽く散歩しているその時どこからか音がした。

『ガ、ガガッ!』

「なんだ!?」

 音がした方を見るとそれは比奈斗によって魔改造されたバッチだった。

「だれからだろう……。みんな捕まってるはずなのに……」

『私のことを忘れないでくださいよ―!!』

「わあぁ!?」

 バッチからは聞き覚えのある声が聞こえる。船の運転を担当していたシャチ蔵だった。


『誰とも通信できなかったんですけど……。なんかあったんですか―?』

 相変わらず能天気な声で聞いてくる。僕は少し迷ったが今の状況をすべて知らせることにした。

「KAIZINのボスにみんながさらわれたんだ!」

「なんですと……!!」

「だからこっち(アクウル)でいろいろと準備してるんだけど……。船で戻ってくれない?」

「ええ!一日ほどあれば戻れますよ!」

「ありがとうシャチ蔵!」

「照馬じゃないか。どうしたんじゃこんなところで?」

「うわぁ!?」

 背後から急におじいちゃんが現れた。どうやらここでおじいちゃん達は魔法を慣らしているらしい。


「調子はどうなの?」

「見ての通り絶好調じゃ!」

 おじいちゃんの後ろを見ると頭部を失った死体、風穴があいたり、干からびた死体が転がっていた。恐ろしい……

「明日くらいに出発だからね!ちゃんと忘れないようにね!」

 僕は森から一目散に逃げて行った。さすがにあの二人は駄目だ……


 ◆ 畑堀はたぼり 比奈斗ひなと ◆


 俺が特にやることもなく果てしなく続く水平線を眺めていると見覚えのある船があった。

「あれって……!」

「どうしたの?」

 俺の言葉を聞いて入夏がやって来る。俺たちが目撃したのはこの館から遠ざかっていく船であった。


「俺達はここにいるぞ――!!置いて行くんじゃねぇ―――――!!!」

「馬鹿!照馬の所に戻って体制を整えるだけよ!」

「ああそうか……。よかった――。置いて行かれたかと思った……」

「ここから向こう(アクウル)まで大体半日はかかるわ。つまり翌日ぐらいが決め手になるわ」

「なら明日に脱出するか!」

「いや今夜だ」

「なんでなのよ颯?」

「早めにここを出た方が照馬が戦う戦力を半減できる」

「その手があったか!」

「(彦一さん!静かにしてください。……来ます!)」

 ダファキンが彦一を止める。どうやら誰かが来るようだ。扉の奥から出てきたのは案の定怪王人だった。怪王人は不気味な声で話し始める。


「お前達の捕食は明日だ。いい感じの味になっとけよ」

「なんでお前に食べられる前提なんだよ!お前に食われるなんて嫌に決まっt――」

「うるさいなぁ!ただの食料がよぉ!」

 怪王人の背中から出てきた触手がドライスを叩く。ドライスの右腕に触手は半分までめり込んだ。ドライスがその場に崩れ落ちる。

「大丈夫か!?」

「俺に口答えした奴はこうだからな!フフフフフ……」

 満足した怪王人は扉の奥へ消えていった。

「こんな状態じゃ脱出なんて無理だ!」

「いや。まだいける」

「何だと?」

 彦一が怪訝な顔をする。


「颯、治してくれ。それだけで十分だ」

「馬鹿かお前!そんな無茶無理に決まっ――」

「馬鹿はお前だ。無茶をしなくちゃこんなところ脱出できるわけねぇだろ!とりあえず颯!治してくれ!」



「……ヒーリップ」



 ドライスの右腕が段々と癒えていく。ドライスの腕が完治すると鉄格子に視線を向ける。

「今夜だ。この檻の役目の終わるときは……」

「それまでどうする?」

「……しりとりでもするか」

「俺から始めるぞ……りんご」

「ゴミ」

「ミンチ」

「チート」

「『と』ですか……。『と』ってなにがありますか?」

「トイレとか?」

「トースター?」

「トイレットペーパー?」

「半分トイレじゃねぇか!?」

 俺が叫ぶ。

………………………………………………………………




 何やってんだ俺ら。




 ◆ 草野 照馬 ◆


「できた!!」

「この技はこれで完璧でござるな」

「ありがとう美味呼さん!」

「ああ。いつでも戻ってくるでござる!」

 僕は美味呼さんにお礼をしておじいちゃん達の元へ行く。

「準備はできたか?」

「うん!」

「それじゃあ行くぞぉ――――!!!」

 僕達はアクウルの城へと向かった。




「……明日にしようよ」

 そう言ったのは鮫子ざめこさんの後ろに隠れた少女、沙羅子さらしさんであった。

「なんで?こんなに快晴なのに……?」

「昼から嵐が来る……から……」

 沙羅さんんは自信がなさそうに言った。まさかこの人、天気予報できるの?


「……まぁそう言うことだから!ごめんなさいねぇー」

 鮫子さんは苦笑しながら沙羅子さんを奥の部屋へと連れて行こうとしたその時。


「待て!」


 呼ぶ止める声が背後から聞こえた。その声の主は……!

「上吉さん!?どうしたの?」

「頼む、訳を聞かせてくれ……」

「急にどうしたんですか!?」

 鮫子さんは足を止めてから目を丸くして上吉さんを見つめた。


「その子に何か特殊な能力があるのではないか?」

「……そうよ」

「なんじゃと!?」

 上吉さんの顔がみるみる青ざめていく。

「この子はね……。少しだけ予知能力があるのよ」

「能力者を作るこたぁ現在禁止されとるはずじゃぞ!?」

「能力者?」

「能力者は生物兵器として人間を改造された者のことじゃ。今は世界中で禁止されとるはず……」

「……まぁ私が改造したじゃないんだけどね!」

「「「へ?」」」

「ただ捨てられていた所を私が世話するって決まりで保護したんだけどね……。この能力がわかったのも割と最近なんだ……」

「なんじゃそんなんか……」

「誰が捨てたのか、誰が改造したのかも何もわからない……。まぁそれでも私の大切な妹なんだよ!」

「ほいで今日嵐が来る言うことか……」

「まぁ私も初めは信じなかったんだけどね!でもこれを見たら信じちゃうよね……」



––––数分後

 天気は悪化しやがて嵐になった。沙羅子さんの予言は本当だったのだ。借りたあの隕石は雨の時は使えない。故に止むのを待つしかないのだ。


「やべぇ……」

「でしょ?だからこれからこの後どう生活させればいいかわからなくて……」

「……!もしかしてKAIZIN討伐に参加する理由って……。まさか!?」

「そう。改造した者の容疑者その1、それが……KAIZINの王である怪王人よ!」


 鮫子は鋭い目つきで言った。その目には怒り、恨み、憎しみ……様々な感情が籠っていた。


 ◆ 畑堀 比奈斗 ◆


「パン!」

「比奈斗!それ『ン』で終わっちゃったぞ!」

 ドライスが俺を笑う。なんだよこいつ!さっきまで『プ』で15分くらい悩んでいたくせいよぉー!!


「罰ゲーム何にしようか……」

「腕立て50回とか?」

「黒歴史公開はどうだ?」

「死んでもやらねぇよ!!」

「ていうかいつのまにか天気が悪くなってるぞ」

 彦一の言う通り外を見ると天気は悪化していた。


「こんな嵐じゃ船も出せませんね」

「ならどうする?」

「天気がよくなるまで待つしかないだろ」

「そうだ!負けた人はてるてる坊主を作りましょう!」

「なんだその罰ゲーム!?」


 ……まぁ黒歴史を発表なんて公開処刑よりは100倍ましだ。俺は牢屋に置いてあるティッシュを取ると黙々とてるてる坊主を作り始めた。ここなんで日用品だけこんなにあるんだ……?みんなはさらにしりとりを続けずに話し始めた。


「一応今夜でいいな?ドライス、体調は?」

「ああ絶好調だぜ!」

「ならば予定に問題ないな?」

「そういうことになりますね」

「そろそろ日が暮れる頃だ!」

「あと何分くらいだ?」

「あと……六時間くらいかな?」

「お前の一時間は何秒なんだよ!?」

「そんなことより早く続きやりましょ?……プール」

「ループ」

「プロ」

「ロープ」

「……ふざけるなぁー!!」

 『プ』が回ってきたドライスは発狂していた。



「時間だな」

「みんな!行くぞ!」

 ドライスが鉄格子に手を当てた途端に颯と入夏の手から水魔法が放たれた。



「ウォンシー!」

「ウォプティ!!」



 水魔法が鉄格子に当たった所にドライスが手を当て力を入れる。段々と鉄格子の幅が広がっていく。

「角度間違えるんじゃねぇーぞ!!」

「そんなことあんたに言われなくてもわかってるわよ!!」

「それならひと安心だ!」


 鉄格子が広がると同時に水蒸気が出てくる。やがて周りは何も見えなくなった。何もできないを俺達は応援を送ることにした。

「いっけぇ–––––––!!」

「入夏、颯、魔法をやめろ」

「え?」

 入夏達の魔法が弱まる、ドライスはバッサバッサと翼を揺らす。その風に耐えるために入夏達の魔法が途絶える。


「少し緊張はしてるけどよぉ。オレ様はドライス!魔界から来たドラゴンなんだ!!」

 ドライスがさらに力を入れる。


––––やがてドライスが二人出られる程の幅に鉄格子はなっていた。

「これはなんでも開けすぎだろ!?」

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