第二章 ポテチ没収魔王
家に帰るとおじいちゃんが家の前に待っていた。
「ただいま」
おじいちゃんは違う真面目な顔をしている。
「中に入れ」
おじいちゃんはそれだけ言うと家の中へ入っていった。
なんでそんな顔をしているのかが気になって、おじいちゃんに続いて入った。
「ここに座れ」
言われた通り僕ははリビングの椅子に腰かけた。
「照馬、お前はポテチが好きか?」
それはもちろん僕は迷わず言った。
「ポテチ?好きに決まってるでしょ!あのパリパリッとした食感に口の中に広がる塩!最高でしょ!?」
「ものすごい愛じゃな……。しかし!これからポテチがもう食べられなくなるかもしれん」
「へ?」
……僕の頭がフリーズした。
「えええぇぇ!?ポテチが食べられないだとぉ!?まさか借金でもしたの!?」
「借金なんてしておらん。それはのう……」
「それは……?」
「なんと、魔王が復活してしまったのじゃ!」
「魔王?急に頭がおかしくなった?」
「それはお前じゃ!」
おじいちゃんに頭をポカンと叩かれた。誰が頭がおかしいイキッたクソガキだ!?
「それで魔王がどうしたの?」
「魔王の名は……」
魔王なら、凄く厳ついような名前してそうだな……。例えばダークネスファインデーモンキングとか!
「『魔王カエ~ル』じゃ。」
「…………へ?」
――少しの沈黙が僕達の間に起きた。
「なんだよ!魔王カエ~ルって、誰だよこんな名前つけたやつ!」
ネーミングセンスどうなってんだよ!しかし、おじいちゃんはそんなふざけた名前を発しながらも冷静だった。
「魔王カエ~ルは世界征服を試みているらしい」
「へー、なんで?」
僕は初めは興味がなかったのだが、この冒険の始まった理由はこれとしか言いようがない。
「奴は世界征服をして、世界中のポテチ工場を破壊し、自分専用の《《五つ》》のポテチ工場を築き上げたそうだ。そして自分だけポテチをたくさん食べるということじゃ。要するにこのまま放置していたら、世界中のポテチが全て没収され、魔王カエ~ルの胃袋の中に収まるということじゃ。」
世界中のポテチが没収され、一生ポテチが食べれなくなるってこと!?
「なんて非道で最低なやつだ!許せん!」
「ポテチだけでこんなにもやる気を出すとは……!」
おじいちゃんはとても驚いていたが、僕は許せないに決まっている。みんなの大好き(強制)なポテチが一生食べられなくなるだと!?そんなこと、誰が一生耐えれることなのか……。もしかして今日ポテチがなくなっていたこともそれが影響!?
「それの魔王カエ~ルが復活したって一体どういうこと!?」
まずなんで出現したのでなく、復活したなのだろう?
「よくぞ言った!教えてやるぞい!!」
おじいちゃんは急に元気になって僕に教えてくれた。
「魔王カエ~ルは約百年前に起こった戦争『ジャガイモ収穫期』を引き起した、原因として倒された魔王じゃ」
「ジャガイモ収穫期?」
「ジャガイモ収穫期は魔王カエ~ルが本格的に世界征服を始め、軍事力が一気に高まった時の事じゃ。そして、その魔王が復活したというニュースが流れてきたのじゃ」
「見た目とかは?」
「体長3m、緑の肌をした二足歩行の生き物。カエルのような奇妙な“眼”が二つ付いている……との情報じゃ」
おじいちゃんはテレビを指差す。テレビには僕が隣町ですれ違った男と瓜二つであった。察した僕の顔はみるみる青ざめる。
「ということは……」
「今の時代で再び同じことをする可能性が高いという事じゃ!」
「!?」
「魔王カエ~ルのポテチへの執着は凄まじい。照馬。お前は奴をどう思う?」
おじいちゃんに聞かれるが僕の考えはただ一つ。
「許せるわけねーだろ!絶対に討伐してやる!」
僕は玄関へ駆け出す。
「馬鹿者!」
流石におじいちゃんに止められた。
「そのためにお前に特技を授けよう!とりあえずそのために外に出ろ、わしが教えてやるぞい!」
一語一句前回と同じなのは触れないことにして僕は外に出た。
「照馬。お前は『ステータス』の確認方法を知っておるか?」
「ステータス?」
「そうじゃ。それはのうお前の能力値をおおよそ知ることができる」
「へーどうやって確認するの?」
「これじゃ。」
おじいちゃんは何かを取り出した。それは磨きこまれた古いプラスチックの塊だった。
「いやそこは水晶玉とかじゃねーのかよ!なんでプラスチック!?」
「特売セールで売ってたからじゃ。ちなみに透けてるものだったら何でもよい。球体
が一番見えやすいがな。照馬、お前はこの玉を握りつぶすように力を込めて握るのじゃ」
「壊れない?」
「たぶん大丈夫じゃろう」
いやめっちゃ心配なんだけど!不安に思いながら僕はプラスチックの塊を握り締めた。
……すると、何か文字が浮き上がってきた。
Lv.
HP
MP
攻撃力
防御力
素早さ
魔力
才能
特技
なんかわからないけどすげー!
「何も書いてないよ?」
「今計算中じゃ」
よく見ると真ん中に『Now loading…』と書いてある。なんだよこの表記!ソシャゲか何かかよ!
……もしかして!これは僕だけステータスが高いパターンだ!そしてこの世界を夢想していくって奴か……
Lv.3
HP 120
MP 50
攻撃力 23
防御力 30
素早さ 26
魔力 40
才能 炎系魔法(大)、回復魔法(小)
特技 なし
おおっこれは!まさか!!
「どう?おじいちゃん?」
少し期待して聞いたがおじいちゃんが言ったことはなんと―――
「普通じゃな。」
「え?」
……さっきのことは聞かなかったことにしよう。
「それより特技を教えて!」
「照馬は炎系魔法の才能があるようじゃな」
「炎……!」
炎はいろんな面で役立つからぜひ習得したい。それにカッコイイ。
「他にはどんな属性が存在しているの?」
「炎系魔法のほかには、水系魔法、雷系魔法、土系魔法、風系魔法、治癒系魔法、光系魔法、闇系魔法が存在しているんじゃ。あと滅多に習得できない氷系魔法があるぞい」
「氷系魔法が滅多に習得できないの?」
「氷系魔法は炎系魔法の温度を操る力、水系魔法の水を使った応用のようなもんなんじゃ。じゃから氷系魔法を使うには炎系魔法と水系魔法は必須じゃな。仮に習得したとしても人間の魔力では拳一つ分の氷塊ぐらいしか生成できんのじゃ」
「おじいちゃん、この(大)と(小)って何が違うの?」
「それは習得可能な魔法の上限じゃな。そこが高ければ高いほど威力の高い魔法を習得できる」
「なら序盤から無双できるってこと!?」
「違う」
やっぱそうか……そんなに世界は甘くなかった。
「とにかく教えて!特技の使い方を!」
「わかった」
「まず自分が使いたい魔法を想像する……そして技名をいうのじゃ!……イナッ!!」
おじいちゃんが呪文を唱えると、おじいちゃんが手をかざしたところに雷が落ちてきた。
「すげー!僕もやってみる!……ファイア!!」
――特に何も起こらなかった……だと!?
「技名が違う」
「知るかっ!!」
「炎系魔法の一番最初に覚える技の名は『ファイン』じゃ」
「ファイン?なんでそんな名前なの?」
「知らん。深く考えるな。お前のやってみろ。」
……もしかして“ファイア”と“イン”を足して“ファイン”?いや、深く考えるなって言われたしな……深く考えないでおこう。
「分かった!いくぞー!ファイン!!」
火花のような、小さな炎が一瞬だけ出た。
「出たぞ――!!」
「それはショボすぎる」
しかし、僕にはそんなことは聞こえていなかった。僕が初めて打った魔法……それは僕の冒険で活躍することになる。
「他に何か教えて!」
「ならホームシックな照馬のために特技をもう一つ教えよう」
「誰がホームシックだよ!!」
「その名の通り『わーぷ』じゃ」
「わーぷ?名前だせ~。誰だよ考えたやつ!」
「わしじゃ」
「え?」
「わしじゃ。まずこの機械の上に乗る」
いかにもワープしそうな装置におじいちゃんが乗った。
「そうすると次からそこへ行けるようになる。そしてわーぷというといつでもそこへ行けるぞ」
そしておじいちゃんは装置から降りて唱えた。
「わーぷ!!!」
その途端、青く光っておじいちゃんが消えた。そして先ほどおじいちゃんが乗っていた装置の中からおじいちゃんが出てきた。
「おおおおっ!!」
「これが一番覚えやすい特技じゃ」
僕もおじいちゃんに言われた通りやってみると、装置の中から出てこれた。
「すげー!!」
「他も同じような物じゃ。ちなみにこの装置は『わーぷくん』と呼ぶ」
「名前だせー」
「もちろんこれもかつて『TENSAINOOIBORE』と言われたわしが作った装置じゃ!」
「それディスられてない……?とりあえず行ってくるよ!」
「どこに?」
「魔王討伐に決まってるでしょ?」
「そうじゃったな。思いっきり忘れてた」
「それがこの物語のメインだろ!!次こそ行ってくる!」
……おじいちゃんは完全に忘れていたようだった。おじいちゃんは頭をポリポリ搔きながら僕を引き留める。
「あ、そうそう」
「?」
「ここから南東の方角にある『ハンドジャイ』という町へ行け。そして、『上吉』という爺に会いに行ってこいつを渡してくれ」
おじいちゃんが僕に手紙を渡してきた。これで準備完了だ。
「今度こそ本当に出発するぞ!」
「あとコイツも」
「まだあんのかよ!?」
おじいちゃんは僕に皮でできた鞄を渡して来た。
「何これ?」
「道具袋じゃ。わしが若いころに買って一度使って押し入れに四十九年間封印されていたやつじゃ。一度使っただけじゃからまだ丈夫じゃ。たいていのものはこれに入れておけ」
「はーい」
僕はおじいちゃんから道具袋を受け取ると背中に背負って歩き始めた。
「次こそ長い旅へ出発だー!」
「おー」
おじいちゃんも乗りに乗って言ってくれた。こんな話、どこにでもありそうだけど……
「そういえばなんで魔王カエ~ルは復活したの?」
「ニュースによるとまだ判明はしてないが原因はポテチが食べたくなったのではないかと言われている」
「しょうもない魔王だ……」
でも、しょうもない理由でも、ポテチを失うなら──止めるしかない。
僕はポテチを没収した魔王に恨みの念を抱いていた。




