序章 世間知らずのおつかい
「起きなされ……」
寝ている中、誰かが語り掛けてきた。
「起きなされ…………」
次は更に大きな声で語り掛けてきた。
……これはまさか僕しか聞けない天からのささやき声!?この僕が選ばれる時が来たというのか!?
「さっさと起きるんじゃ!」
天の声の主に殴られた。……殴られた?神って物理攻撃使えたのか?でなければこの声は……。
「おじいちゃんだ!」
僕はベッドから飛び起きる。おじいちゃんはあきれたような顔で言う。
「もう朝じゃ。布団から出ないなら落雷を当ててやろうか?」
「それだけはやめて!」
もうこれ以上寝ている間に雷撃されるのは嫌だ。僕はすぐに布団から出た。
「手のかかるやつじゃ……」
そう言うとおじいちゃんは部屋を出て、階段でリビングへ向かって行った。
僕の名前は、草野 照馬。12歳だ。今はおじいちゃんと一緒にいつも暮らしている。
だが一つだけ僕は誰にも負けない自信があるものがある。それはポテチだ。
僕は、一週間に十袋くらいはポテチを食べている。しかも、あの口の中でサクサクっとした食感!さらに噛むと口の中に広がってくあの旨み!……だから僕はこれからもポテチをずっと食べて、会社が倒産しないように守っていきたいと思う。(何言ってんだコイツ)
――でもこの頃、僕は簡単にポテチのことを守れるとこの時は思っていた。
いつも通り、服を着替えて姿見の前へ行った。姿見には藤色の髪の毛に白い服の上に黒いマントを着た男が映し出されている。この黒いマントはおじいちゃん曰く「ただの厨二病じゃ」らしい。なら何でこの家に置いてあったんだろうねぇ……?
リビングへ向かうと食卓にはパンや目玉焼き、スープが並べてあった。僕は席に座り、料理に食いついた。
この老人は僕のおじいちゃん。草野 繁蔵。74歳だ。昔は伝説の雷使いとして活躍していたらしい。
「のう照馬」
おじいちゃんが僕に話しかけてきた。いつも通りニュースの話をするのかと思ったが、あんなことを言うとは思わなかった。
「おつかいに行ってきてほしい」
「へ?」
一瞬時間が止まった気がした。僕は透かさずこの言葉にカウンターを放った。
「そんなのおじいちゃんが行きな――」
「照馬、お前が行け」
ミス!おじいちゃんには効かなかった!
「隣町へパンを買いに行ってほしい」
「はぁ。パンね……」
おつかい = 家におらずに外に行ってこい
この世界は剣と魔法と魔物の世界。……とは少し違う。読者の皆様がいる世界程の技術が無駄なところだけ発展している世界だ。もちろん外のには凶暴な魔物がいる。
「そのためにお前に戦闘の仕方を教えてたい」
「へ? 銭湯?」
「戦闘じゃ! 戦闘! とりあえずそのために外に出ろ、わしが教えてやる」
「おじいちゃん戦えるの!?」
「そうに決まっとるじゃろ?」
外に出るとおじいちゃんが二本の木刀を持って仁王立ちしていた。そして僕に木刀を渡してきた。
「コイツを使え。ただの木刀じゃが、おつかい程度ならこれで十分だろう」
おつかい程度?コイツ……おつかいを何だと思ってやがる…
「まず、その木刀でこの人形を叩くのじゃ」
「え?実戦じゃないの?」
「馬鹿野郎!お前がそんなに戦えるわけなかろう」
おじいちゃんは案山子のような人型の人形を僕の立っている場所から数メートル離れたところに設置した。
「全力でやってみろ」
その態度絶対に後悔させてやるからな……僕は木刀を持った。そして助走をつけて全力で切りかかった。
この僕にかかったらこれくらいこんなものよ……どうだ思い知ったか!
僕は人形が置いてある方を見る。しかし人形は傷一つなしで平然と立っていた。
「何!?」
「正しい使い方をしないと傷つかないようになっておる。」
どんな材質になればそんな性質になるんだよ……次こそあの人形をどこかの勇者が使う力任せの剣技を見せてやる……。
照馬は力を溜めている。
人形はじっとこちらを見ている。
照馬は力を溜めている。
人形はじっとこちらを見ている。
照馬の攻撃!
人形には効果がなかった!
「上から思いっきり振りかぶるんじゃ」
「そんなことわかってるよ」
――数分後
人形は傷一つつかずに僕の前に仁王立ちしている。なんだよこの人形!誰がどうしたらこんなもん作れるんだよ?僕が肩で呼吸している中、人形はただ立っている。
――十分後
剣が人形に刺さった。このやり方か……人形をうまく観察して……弱いところをたたく!
僕は人形の後頭部を狙って叩いた。すると人形はその場に倒れた。倒れた?あの人形が?
「よっしゃ――――――――――!!」
「よくやった。次はわしとの実戦じゃ。」
実戦!これは勝てる気がする! 人形を壊したこの僕の前に出る者はいない!
おじいちゃんは木刀を持っていたおじいちゃんに鋭い眼差しを向けた。
「おじいちゃん、本気で来い……」
とりあえずおじいちゃんを挑発した。
「いいのか? 思いっきりやって?」
「なんだ? 怖いのか?」
あの人形を倒した僕がそんなに怖いのか……
「フフフフフ……」
「怖いんじゃ」
「手加減してやらんこともないぞ?」
「この力がなぁ!!」
おじいちゃんから今まで感じなかったすごいオーラが出てきた。オーラだけで僕は飛ばされそうになった。でも、僕はあの憎たらしい人形を壊したんだ!負けるはずがない!
「……始めじゃ――――っ‼︎‼︎」
おじいちゃんが始めの合図をした。僕にかかればおじいちゃんになら、勝てるような気がする!
おじいちゃんは木刀で飛びかかってきた。僕は必死で逃げる。これくらい離れればいいだろう。
「イナッ!!」
雷撃呪文イナだ。僕に向かって落雷が落ちてくる。
――ドォーン!!
雷が僕の数メートル前に降り注いだ。雷が落ちたところは焼け野原になっている。
「ひどすぎるだろ!」
「一応手加減はしてるつもりなんじゃが……」
これで手加減してるってどうなってんだよ。
「おぬしが望んだことじゃろ?」
鋭い視線が僕にぶっ刺さった。この鋭さは現実だったら死んでるな……
「どんどん行くぞ――――!」
おじいちゃんがすごい速度で走ってきた。逃げてもおじいちゃんの魔法がやって来る。
それから約1時間おじいちゃんに容赦なく滅多撃ちにされて僕の初めての戦闘は終わった。ちなみに整えたばかりの髪の毛は逃げるのに必死になりすぎてぐしゃぐしゃになっていた。
僕は荷物を準備してから隣町へ向かった。
僕の冒険の始まりだ!
――まぁただのおつかいだけれど……