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ただいま

空に刻まれた六芒星は消え、断罪の光柱も静かに消えていた。


地には、倒れた星夜。

胸元には魔族の契約紋が脈打ち、残っていた。


その背に、ミミの影が尾のように寄り添っていた。

彼女の肉体は崩れ、魔力の残滓だけが星夜に絡みついていた。


木々を裂いて、杉山・八田・滝尾が駆け込んできた。

滝尾の零域が残る魔力を凍らせ、八田が周囲の気配を断つ。


杉山が星夜に駆け寄り、膝をつく。

「……星夜!」


星夜は微かに目を開けた。

瞳は揺れ、仮面はイヤリングに戻り、涙が一筋流れていた。


「……ぼく……」


杉山は答えず、ただ彼を抱き起こす。

その胸元に刻まれた契約紋を見て、滝尾が静かに言う。


「魔族との契約……強制的に繋がれてます。どうしますか」


八田がミミの残滓を見て、目を伏せる。

「……一旦連れて帰りましょう」


森の奥に、星紋と零域の交差点が開く。

そこに、静かに“人界ゲート”が現れる。


光は弱く、揺れていた。

だが、3人は迷わずその中へと歩き出す。


杉山が星夜を背負い、滝尾が魔力の流れを凍らせ、八田が背後を警戒する。


ゲートの向こうには、人界の空。

まだ夜は深く、風は冷たい。



森の影が閉じ、魔族の気配が消えていく。

人界の空気が、4人を包み込んだ。


スカイタートルの寝室。

雲海の上、静かな空域に浮かぶその部屋は、体を休めるための寝室。


星夜は、3日間の眠りから目覚めた。

身体は重く、胸元の契約紋が淡く脈打っていた。


窓の外には、果てのない空と、ゆっくり流れる星の帯。

その光を見ながら、星夜はぽつりと呟いた。


「……人界に帰ってこれたんだ」


そのとき、微かな声が聞こえた。


「……うれしそうね」


星夜は顔を横に向ける。

そこにいたのは――ミミ。


彼女の身体は透けていた。

輪郭は淡く、影は落ちず、魔力の残滓だけが形を成していた。


「……ミミ……」


ミミは静かに言った。

「契約が成功してよかったわ。これからよろしくね」


星夜の瞳が揺れる。

「……は?」


ミミは続ける。

「あなたは私と繋がり不老になったの。あなたが生きる限り、私は隣にいる。契約って、そういうものなの」


星夜は拳を握る。

胸元の契約紋が、脈打ちを強める。


「……ふざけんなよ」


ミミは静かに見つめる。

「ふざけてない。あなたが最後に斬った瞬間、私も最後の力で契約を刻んだ。だから、今こうして話せてるのよ」


星夜は立ち上がり、怒りに震える。

「俺は……お前を斬ったんだ!それで終わりだったはずだろ!」


ミミは目を伏せる。

「終わらせたのは、命。でも、契約は魂。あなたが斬ったのは私の身体。私は、あなたの魂に残った」


星夜は壁を殴る。

「……勝手に、俺の中に残るなよ……!」


ミミは静かに言った。

「でも、あなたも……私を斬ったことで、私を“選んだ”んだよ」


星夜は目を見開き、言葉を失う。

その瞳には、怒りと悲しみと――恐れが混ざっていた。


窓の外、雲が流れる。

その音に混じって、ミミの影が少しだけ揺れた。


壁には拳の跡が残り、空気は魔力の残響で軋んでいた。


望月聖夜はベッドに座り、拳を握ったまま、窓の外を見ていた。

ミミの影はもう消えていた。

だが、胸元の契約紋はまだ脈打っている。


「……勝手に、俺の中に残るなよ……」


そのとき、扉が静かに開いた。


「せいちゃん……!」


最初に駆け込んできたのは、咲だった。

彼女は息を切らし、聖夜の姿を見て、目を潤ませた。


「よかった……生きてる……!」


聖夜は驚いたように顔を上げる。

「咲……?」


咲は聖夜の手を握ろうとするが、途中で止まる。

彼の胸元の契約紋が、淡く光っていたからだ。


「……そのひかり、きれい…………」


聖夜は目を伏せる。

「……ああ。そうだね」


その後ろから、露詰と杉山が入ってくる。

露詰は感情を隠しきれず、杉山は静かに部屋を見渡した。


「人力が乱れてるね。怒ったの?」

露詰が問いかける。


聖夜は答えない。

ただ、拳を握ったまま、窓の外を見ていた。


杉山がベッドの端に腰を下ろす。

「契約の影響は、まだ安定していないな。」


露詰が壁の拳跡を見て、苦笑する。

「まあ、聖夜らしいね。怒って、殴る前に体を安静にしないとね」


咲は静かに言った。

「……おかえり」


聖夜は目を閉じ、深く息を吐いた。

「……ただいま」



咲が、聖夜の手にそっと触れた。


「どこいってたの?」


「また話してあげる」


窓の外、雲が流れた。

その音に混じって、聖夜の拳が、少しだけ緩んだ。

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