道を歩かぬ者
沈黙の支部長室。
八田剛と杉山庇紫は、言葉を探すように向かい合っていた。
「魔族の目的は絆の界核……でも、なぜ分体を?それに【賢者の石】って何なんですか?ここ数年でゲートが3つも開いて……大陸は混乱していて、ここも時間の問題です。今後どうすれば……」
八田の問いは、恐怖ではなく“理解できないこと”への焦りだった。
杉山は頭を抱え、答えられずにいた。
浮遊船の船底の装置を破壊した直後、本部長から無線が入っていた。
「杉山。そのまま南支部で待機しておけ。今後何が起こるか分からん。指示があるまで動くな。わかったな」
「……あ、おい!」
無線は切れていた。渋々南支部へ向かい、今に至る。
……コンコンコン……
ドアをノックしたのは、本部から来た大男だった。
「失礼いたします。大事なお話の途中で申し訳ありませんが、少しよろしいでしょうか?」
彼の名は【滝尾一】――人界で最も“王の名”に近い男。今は杉山の右腕として動いている。
「どした?進展あったのか?」
「いえ。進展はありませんが、望月様を攫った者が判明しました」
杉山が勢いよく立ち上がる。
「攫ったのは……魔神王リベルです。今、魔神王とやり合っても勝ち目はありません。上の見解では、分体だったこともあり、今回は手を引くとのことです」
八田と杉山は言葉を失い、立ち尽くす。
「杉山様、本部へ戻りましょう」
「この状況はどうするんだ?人々は混乱し、力も見られてしまったんだぞ」
「上からは、中心塔から【記憶消去電波メモリアリティー】を流すとのことです。まずは本部へ」
能力開発部署【スカイ・タートル】
上空に浮かぶ本部。
露詰舞葉は、眠る愛宮咲のそばで一睡もできずにいた。
朝。会議が始まる。
南支部長と杉山はまだ到着していない。
露詰の膝の上には咲が座っていた。
秘書が報告する。
「南大陸の損害は20%。死人は少ないですが、絆の界核の分体――望月様を失いました。本体が無事だったのは幸いですが、今後の警備強化が必要です。何か案はありますか?」
沈黙。
その中で、咲が露詰の顔を見て、静かに言う。
「せーやが、いま……かなしんでる。せーや、いまどこいるのー?」
露詰は涙をこらえながら、咲を抱きしめる。
助けに行こうと訴えるが、誰も賛同しない。
そこへ、杉山・八田・滝尾が到着。
【メモリアリティー】を起動し、ヘリで本部へ戻ってきた。
席に座ると、比嘉本部長が言い放つ。
「お前らはここから動くな。いいな」
杉山が立ち上がる。拳が震えていた。
「ふざけるな!あの子は2度も辛い思いをしてるんだぞ!」
「先ほどは諦めると言ったが、今君たちを失えば人族は終わる。情報収集を優先し、状況を見て動く。それまで動くな」
秘書が締める。
「本日の会議はここまでです。連絡次第、再招集いたします」
魔界・王の城の一室
星夜が目を覚ます。
見知らぬ天井、見知らぬ部屋。
そこに、影が立っていた。
「……だれ?」
影が近づく。魔神王リベルだった。
「おはよう、少年よ。突然だが、君の名前を教えてくれ」
「僕は望月星夜。6才」
「そうか。良い名前だ。君は、なぜここに呼ばれたか理解しているか?」
星夜は寝ぼけながらも、すべてを思い出す。
誘拐されたこと。ノエルとの戦い。仮面。刀。
ベッドから飛び上がり、拳を構える。
「お前が俺を殺そうとしたのか!」
リベルは笑う。
「殺す?誰を?何を言っている?私の目に狂いはなかった。君は魔王と渡り合い、刀に認められ、ピアスとも共鳴した。星夜君、君が生まれてくるのを長い時間待っていた。殺すなんて、ありえん」
星夜は耳を触る。ピアスがある。
腰に手を当てると、刀が現れる。
「君は私と同じだ。光の道を歩かぬ者――この世で、神の道を拒んだ者は2人しかいない。私と、君だ」
リベルが手を伸ばす。




