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星と僕らの××の扉  作者: 楠木 勘兵衛
★第1章:新学期の春編
8/35

★第8話 薄っぺらな夢

全部修正(2025.03.02)

→ちょっと修正(2025.03.25)



  ◆


[・・・]


 もし、自分が選択肢を間違えたら。

 もし、あの日、あの人に出会えなかったら。

 もし、大切な人を守れなかったら。

 もし、生きていたいと希望を持っていなかったら。

 間違えない人間はいない。失敗しない人間はいない。ただし、認めない人間はいる。



 あらゆる可能性が、誰かの人生の結末への道を作っていく。

 


 君はこの先、どういう人間に成るのかい?

 

 是非とも××年後に

 

 教えて?

 



 ◇




[悟川心冶]


 

 僕はふと目が覚める。スマホの時計を見ればまた5時だ。僕はもう一度睡眠の体勢に入る。

 なんだか奇妙な夢を見てしまった。真っ暗な世界で、誰かの言葉が木霊していた。森の草木が揺れる音のような、海が波を打つ音のような、なんだか心がとても落ち着く温かい声。



「何だったのかな…」



 今までに見たことのない夢。どの夢よりも気持ちが幸せな気持ちになれた。不思議だ。また僕に眠気が襲い掛かって来る。次は大人になって禍福課になった夢が見たいなあ。一体、どんな大人になっているのかな。一体、どんな禍福課になっているのかな。未来を考えることがこんなに楽しいとは、昔の僕では分からないだろうなあ。





 今日はいたって普通の時間割だ。僕は腕を後ろに伸ばす。今日も昼休みの後半は歴史授業があるし楽しみだ。



恋山「今日はここまで。次の授業までにプリントを終わらせてくること。動画を見ておくことね」



 丁度英語の授業が終わり、昼休みの時間になった。ちなみに英語の恋山先生は水島先生と高校時代の先輩後輩の関係らしくよく会話しているのを廊下で見かけたりしてる。



釣瓶「なあ。たまにはさ、別の場所で飯食べようぜ」

「いいね」



いつもなら学食か、内設しているコンビニで色々買って食べてるけど、今日は釣瓶君が気分転換に別の所で食べようと提案しそれに僕は賛成した。ということで、僕たちはコンビニでご飯とお菓子を買い、中庭のベンチに向かった。



「中庭、他学年の人もいるねー」

釣瓶「でも普通科の人ばっかりだな。まあクラスが多いからだけど」



 中庭はグラウンドや広場より狭いけど、それでもこの場所には人が多くいた。この場にはほとんどが2年の普通科の生徒がいる。若干気まずいながらも、空いていたベンチで買った物を食べていく。



「この後は…」

釣瓶「確か数学で、実技のやつは来週スタートだからまた歴史か…3時間はきついって」

「やった!」

釣瓶「本当好きだよなあの授業。俺も嫌いじゃないけど」

「だって楽しいじゃん。知ってて損無いし」

釣瓶「そうだけども。心冶が毎回授業張り切ってるから先生も異様に楽しそうにしてるからな」

「そうだっけ?」

釣瓶「めっちゃそう。雰囲気が言ってる」



 楽しく喋りながら昼休みの時間が過ぎていく。10分も経てば買ってきたご飯は全て食べきってしまった。ホッと一息ついて中庭から校舎へ戻ろうしたその瞬間。

 ガシャンと大きな音が聞こえた。この場にいた誰もが大きな音に驚き、楽しそうに会話していたのが一瞬にして途切れ沈黙。



釣瓶「何か変な音聞こえたよな?」

「うん」



 一体何処から音がしたんだろうか。僕は何処からその音が聞こえたのか、辺りを見渡す。でも、特に誰かが音を立てた気配はない。この場じゃない。中庭のもっと周りの方、見えない何処か。

 僕は人がやった音なのか確認しようと、能力を使う。ルナがいれば半径1km内の人の心が聞ける。もし音をたてたのが人なら、多少は悪意や罪悪感の声が聞こえてくるはず。



「……」


××『殺してやる』


「やばい!」

釣瓶「え?何が?」

「あ、えっと、取り敢えずこっち!」



 僕の元へとんでもない声が聞こえた。人を殺害しようとする声。これは心の声に過ぎず、きっと僕が向かっても平然を装っているかもしれない。それでも、それほどに抱く殺意に僕は向かうしかなかった。この脳に響く危険信号を信じて。



「あ、あれだ」



 中庭から校舎へ、声がした方角の場所を目指し進んでいく。中庭からかなり離れた場所へ行き、僕たち特殊科棟の一階の端っこ。誰も寄り付かない【無人廊下】の先に辿り着いた。



釣瓶「はあ、はあ。急にどうした?」

「あれ」

釣瓶「!」



 僕は指を小さく指す。その先には、同じ特殊科の人が何か取っ組み合いをしている場面だった。掴みかかっている方は、とても立派な羽が生えていて、腕に巻かれた白色腕章に金色の菱形ピンがついている。あれは僕たちと同じ1年生。そして、向こうの掴まれている方は、腕章に金色の丸型ピン。だからあれは2年生……!!?

 今目の前で、1年生が先輩に喧嘩を売っている。衝撃の光景を見ようとここに来たのは僕だけども、あまりにも予想だにしていなかったので目が飛び出すくらい驚いてしまった。



釣瓶「止めねえと…」


××「お前、何舐めた態度でこの学校にいるんだ」

○○「あ、あの…」

××「楽に稼げるからってさあ。誠意の無い人間が何へらへらしてんだ」



「…」

釣瓶「…」



 その光景は確かに衝撃的で、そして異様だった。1年生が無謀に喧嘩を売っているシーンではあるけども、それを無理に止めようとする自分はいなかった。どうしてか、彼の言葉に自分を止める程の正義感を感じたから。でもやっぱり、止めないと被害が出る。今にも掴みかかっている彼が、その人を簡単に殺めてしまいそうだから。



「あ、あの!!」

××「あ”?」

「怒りたいかもしれませんが、人に怪我をさせたりしては貴方に傷がつきます」

××「……」


「先輩も困ってますから、放してください」



 彼はゆっくりと先輩を放した。先輩は震えて立てないまま、床にへたり込んでいる。そうなっても仕方ない位に、彼の周りには痛みを伴う程の凍てつく空気が漂っていた。僕も無意識に足がすくんでいる。



××「アンタは、なぜ特殊科ここに来た。なぜ選んだ」

「…それは」



 急な問いだった。何故、この学校に来たのかを。僕はすぐに答えを口にできなかった。彼のさっきの言葉を聞いたら、とても自分のことを言うことはできなかった。嘘をつくには、彼の目は誠実に見えたから。


 僕は確かに、あの時出会った先生の姿に憧れて禍福課を目指したいと夢を持っていた。でもそれは、小さい時に思った儚い夢。子供なら誰しも憧れのモノになりたいと思う夢に過ぎなかった。ここで、その夢を持っていたからと言ったら、僕は勿菟君の努力を否定することになる。持っていても努力をしなかった自分が、ずっと禍福課を目指すために毎日努力を欠かさなかった勿菟君のことを、能力が無くてもできるって証明しようとする彼の勇姿を否定視してしまう。そんなの許せない。



××「じゃあアンタも同じだ。大した目標も夢も無く適当に生きる人間なんだろ」

「……!」

釣瓶「あんた!さっきから何決めつけてんだよ!」


××「世の中にはこういう奴らばかりだ。大した考えも意思もなく、成り行きと安定ばかりを求める人間ばかりだ。憧れも努力も無い。精神の曲がった連中がいるから腐敗するんだろうな」

釣瓶「どんなに腐ったスタートでも、その後は真面目にやってる奴はいるんだよ。子供だろうと大人だろうと」

××「初めから誠意の無い奴が、勤勉も慈悲もあるとは思わないけどな」



 そう言って、彼は先輩の胸倉を離し何処かへと行ってしまった。僕は何も答えられなかった。燈爾君に反論させてしまった。僕もしっかり反論して止めていれば…。



釣瓶「やばいな、あれ隣のR組のやつだ。推薦で入ってきた優秀さん」

「…ごめんね」

釣瓶「なんで謝るんだよ。俺はムカついたから反論しただけだ」


○○「あ、ありがとうね」

釣瓶「いえいえ。先輩は大丈夫でしたか?」

○○「うん。あ、えっと、君たちもあの子には気を付けてね…」



 僕たちは先輩からお礼と忠告を貰う。頭を下げながら先輩は戻っていった。僕は何も言えず、燈爾君に流されるまま自分達の教室に戻ることにした。その道中、隣のR組の教室が見えたけど、あの人はいなかった。




 ◆



 今思えば僕はとても薄っぺらい理由でこの学校に来た。

 もし、燈爾君に出会えなかったら僕はきっとここにいない。あの日、たまたま出会って、進路の悩みを伝えて、燈爾君が教えてくれたから。だから僕は学校へ迫る敵を倒せた。だから僕は燻っていたあの夢をまた燃え上がらせることができたんだ。

 先生も、まさかこの学校にいるとは思わなかった。だって、あの時に出会ったのは多分先生が高校生だったから、次会えるなんて確証は無かった。まさか担任の先生と教え子の立場で再会するとは思ってなかったんだ。



「僕、つくづく運が良い方なんだなあ」

釣瓶「まだ考えてんのか?あんなの気にしなくて良いんだよ」

「でもさ」


 僕は寮に戻っても悶々と自分のことを考えていた。意外と僕は信念というか軸が無くて、その上で葉っぱみたいにぼんやりと夢がある状態。謂わばぼんやりしたじぶんしかない。


 燈爾君と外の庭にあるベンチで夕焼けを黄昏ているだけ。



「燈爾君は夢とかあるの?」

釣瓶「俺?」

「特殊科を選んだってことは禍福課を目指すってことだし」


釣瓶「俺は、兄を超えたいだけだよ」

「お兄さんのことを?」

釣瓶「兄貴はさ、俺と違って勤勉だし。炎の威力が出ない俺の家系で、唯一家燃やせるくらい炎を出せるんだよ。親はすげえ喜んでた」

「…」



 それを話す燈爾君は、すごく寂しそうな顔をしていた。自分の力とお兄さんのことを比べて生きていたのかな。僕には兄弟がいないから、燈爾君の気持ちの全てを理解することはできないけど。



釣瓶「別に親は兄贔屓あにびいきはしてなかったけど。でも、やっぱ家族で同じ能力の奴がいると、強さが浮き彫りで、どうしても比較しちゃうんだよなあ。俺には才能が無いんだ」

「でも、この学校を選んだじゃん」

釣瓶「兄貴がここにいたんだよ。同じところに行けば、俺も同じようになれるのかなって…。あ、あとお前が行くって言ってたから」

「……」

釣瓶「あーあ。俺もアイツに言えた立場じゃないな。誠実さの欠片もねえ」



「燈爾君の家族ってみんなその炎の威力無いの?」

釣瓶「…ああ。祖父ちゃんも祖母ちゃんも無理だから。本当に兄貴だけ」

「多分だけど、お兄さん死に物狂いで努力して手に入れた力だと思う」

釣瓶「え」


「燈爾君も知ってるでしょ。能力の”枝分かれ”ってやつ」

釣瓶「一応。能力が成長と共に多少変化するってやつだろ?」

「その”成長”は体が大きくなることだけじゃない。誰かが努力して成長させた場合も枝分かれするから」

釣瓶「じゃあ兄貴は隠れて努力して、その成長の証として強い火力を得たってことか」

「僕はそう思う。だから燈爾君も努力すればできるよ!」


釣瓶「…今からでもやるか、火力上げる練習」

「うん。僕も自分の能力鍛えたいし、君の練習…絶対手伝うから!」



 僕たちはベンチから立ち上がり手を取る。お互いの顔を見つめて決心をする。



釣瓶「俺は兄貴を超える位、強くてかっこいい禍福課になる!」

「…僕は、先生みたいな強くて誰かを助けられる禍福課になる!!」



釣瓶「え、お前先生に憧れてたの??」

「あ!えっと、昔助けられたことがあって…」

釣瓶「初耳なんだけど?え?詳しく聞かせてくれ??」

「わかったから…取り敢えず今日はジョギングでもしようよ。先生が能力テストで言ってた持続性と耐久性を鍛えるために」


 僕たちは寮に戻る。部屋からジャージを取り出すためだ。今日が丁度金曜日で良かった。



 ◇


[・・・]


 寮のベランダにて。



××「ねえ水速君!」

水速「あ?」

××「今日、綺麗な羽を持ってる1年生みたけど知ってる?」

水速「知らねえ」

××「え~?情報通の君が知らないわけないじゃん」


水速「……そいつは、羽海はねうみ利旺りおう。世にも珍しいよくの能力者だ」

××「翼の能力者か…手懐けたりできるのかな??」

水速「鳥羽が人間を操れるわけねえだろ」


鳥羽「てへへ。で、ベランダから何を見てたの?」

水速「……元気そうな奴らがいたのを見かけただけだ。それより、どうやって俺の部屋のベランダに忍び込んだ」

鳥羽「え?飛び越した」


水速「帰れ!!!!!!」


【この世界の用語】

能力:基本何でもあり。強いのもあれば弱いのもある。能力の有無で色々言われる社会だが、能力があってもその中でも色々言われる。悲しい。

能力の枝分かれ:生まれ持った能力を起点に様々なことができるようになること。努力必須。

扉:神出鬼没。何が出るかは分からない。扉への論文や噂など、色々言われているものがある。

外界:主人公たちがいる地球じゃない世界全ての総称。

地球:主人公たちが住む世界。この星明確な意思があるのでは?と言われている。


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