★第7話 能力テスト!?
全部修正(2025.03.02)
◆
[悟川心冶]
きままに流されているともう4月から時が経っていた。今は昼休みで燈爾君と教室でのんびり過ごしている最中だ。
釣瓶「5月中盤は体育祭だなー」
「そうだね」
釣瓶「兄貴の見たことあるけど祭りだったな。【勇星高校】はガチの運動大会だったけど」
「そっちはテレビで見たことあるよ」
釣瓶「いち高校の学校イベントが世間に見られるってさ、何か恥ずかしいよな」
「そうだね。失敗も移されたらたまったもんじゃないし」
燈爾君の言う通り、この学校では毎年5月後半に体育祭が行われる。経験した燈爾君曰く、エンタメ性を意識した祭り体系らしい。お祭りなんて一回行ったきりだから、似たような経験ができるのは楽しみだ。
「昼休みの後は…あ、特殊実技だ」
釣瓶「まだやってないやつだな。おかげで歴史の方を代わりにやらされて大変なんだよな」
「そう?凄く楽しい授業だと思うけど」
釣瓶「そりゃあ好きな奴は好きだと思うけど」
昼休みの終わる鐘が鳴る。僕は自分の席の中から次の授業の教科書などを取り出す。燈爾君はもとの席に戻っていった。教室にいなかったクラスメイトが続々と戻り次の授業の用意をしながら席へついていく。
本来はこの時間に2時間も特殊実技(普通科で言う体育の授業)があるけど、先生はまだ準備ができていないと言って全部歴史に変わっていた。特殊実技は毎週2時間、金曜は3時間。7時間あるのがデフォなこの学校の時間割で3分の1を占めている。
ガラガラと扉が開かれる。先生が来た。教室は一斉に静かになる。
水島「今日は座学無しだ」
皆「「「エエエエエエエエエエエエ!?」」」
小神「じゃあ今日は何をするんですか?」
水島「もうすぐ体育祭だ。この2時間で体力テストを行う。着替えてすぐにグラウンドへ行け」
それだけ言って先生はいなくなった。僕たちは唖然としながら、急いでグラウンドへ行かねばと更衣室に向かった。
◆
爆速で着替えグラウンドへ到着すると涼しい顔で先生が待っていた。
水島「来たか」
「体力テストってあれですか?長座とか反復横跳びとか…」
水島「んなもん禍福課目指す奴が今さらやって何になる」
「え」
水島「元のやつでも50メートル走か持久走だけで良い。お前ら、今からやるテストは初級中の初級だ。だらしない態度で挑むなら減点させてもらうからな」
そしてここから先生の鬼の体力テストが始まった。
第一種目【威力検査】:自分の能力の威力を測る。凄く単純なテスト。先生は何やら見知らぬ器具を取り出して、僕たちに向ける。
水島「これは人間の出す能力のエネルギーを計測するやつだ。自分の能力を発動させたときにどれほど威力が出ているのか、簡単だろ」
「(握力測定かな…?)」
水島「握力測定もできる機能付きだ」
「(できるんだ…)」
まあるい大きな鉄の玉に取っ手が左右対称に設置されている。この取っ手の部分を握り能力を出すらしい。
水島「小神やってみろ」
小神「は、はい!」
先生に指名され、小神さんはあの器具を受け取る。取っ手を握り力を籠め始めた。
水島「自分の能力の出し方は分かってるだろ?それと同じことをこの玉に向けて出せ」
小神「…頑張り、ます」
小神さんは力を籠め、取っ手を強く握る。バチバチと周りから雷が見えてきた。ぎゅううっと目を瞑って頑張っている。器具の表面に出ている赤色のデジタル数字がじょじょに数値を上げていく。
小神「も、もう無理です!」
水島「ご苦労。39%か禍福課としては及第点だな」
小神「こ、この全力で及第点!?」
小神さんは息を切らしながら器具を先生に渡す。その表面に書かれていた数値は39という数字。先生曰くこの数値で禍福課生の及第点だと。一気に緊張が走る。ここにいるのは皆禍福課生を目指す仲間、その目指す者の為の力がこうして数値かされると現実を突きつけられる気分だ。
水島「他にもあるからな。全員回しながらやっていけ。手を抜くなよ」
先生が威力検査の器具が入ったカゴを僕たちの足元に置く。一人一人、その器具を取り出し各々がその検査を始めていった。
河野「あたしはこういうの無理だねー。てか水中以外だとてんで駄目」(威力5%)
多白「私は落第点でしょうか…(威力38%)」
××「凄いねコレ。力を吸収してるって感じ(威力22%)」
××「めんどー。てか自分は水とか植物だすとかそんなんや無いんやけどなあ(威力41%)」
××「あっはは面白いねーこれ(威力44%)」
××「……(威力56%)」
傘木「俺は…へなちょこ…(威力30%)」
白星「私は……(威力58%)」
皆が数値を出して先生に報告していく。一つ一つ記録していっている。僕もやらないと。
「燈爾君はどう?」
釣瓶「聞いて驚くなよ…」
「?」
近くにいた燈爾君は神妙な顔で自分の数値を眺めている。燈爾君と言えば火の能力。0から火を生み出せるだけでも凄いのに、攻撃や照明に使える万能さもある。ただ、入学直ぐの実力試しで出した火はお世辞にも強いというものではなかった。本人も威力には自信ないと言ってたし。
釣瓶「見ても笑うなよ」
「うん…」
釣瓶「俺、威力15%しかない…」
「え」
前に見たことあるから、僕としてはそこまで驚かなかった。でも、いざ数値として見せられると小神さんよりずっと低い数値が出ていた。
「僕もやらないと」
釣瓶「心冶はどんくらい出るのかなあ?」
「期待しても凄いのは出せないよ…」
僕は両手で取っ手を握る。強く強く握る。でも困ったことがある。僕は何か手から生み出す能力じゃないことだ。覚の能力で全力出すってどうやれば良いの??今ここに居る皆の心を一度に読むレベルで力を出さないといけないの??目が疲れるけど…それは関係無いか。
「(ルナ)」
ルナ『(きゅう?)』
僕はルナに話しかける。テレパシーなんて大したもんではないけど、ルナとだけは心の中で意思疎通ができる。ルナに声をかけたのは自分の力の具現化を行うのがこの子だからだ。中学の時、実力試しの時にやったあの力業。流石に鳥の化物には場所や状況が悪くてできなかったけど。
「(力籠めるよ)」
ルナ『(きゅうう?)』
「いよっし」
ある一つの強い感情がルナの姿を変え、武器にする。普通の覚の能力から逸脱したあの力。それを試せばいい。僕は強く取っ手を握り、その手に力を籠める。この器具にありったけの”自信”を注ぎ込む。
「う…うぐぐぐっ!」
釣瓶「おー!すげー!」
「はーっどうだ…」
釣瓶「威力60%だってよ。すげえな!」
僕の検査数値は60%だった。多分、凄いのかな?僕の記録を見て燈爾君ははしゃいでいる。嬉しそう。僕は器具を持って先生に報告をした。
水島「60か…」
「何か頑張ったらこんな感じになりました…」
水島「ご苦労。それじゃあ次のテストをする」
皆「「はーい」」
水島「(ただの覚で、最強格の”星”と”時”の能力を超えた…?)」
其の後、続々と能力のテストを行っていった。強風に耐えるテストに、能力の持続性を試すテスト、的に能力を当てる正確性を試すテストなどなど。2時間の授業の中で延々と続けていた。
小神「も、もう死ぬ…」
釣瓶「手が擦り切れるレベルだって…これ」
多白「中々のモノですねこれは」
皆が疲弊している。だって、今の今までこれ程の能力を一日で使っただろうか。高校生になるまでは皆普通の学校だろうし。(※特殊科は高校以上にしか存在しない)能力を公的に使うには許可証または免許が必要だから、僕が中学時代にやったアレ(第1話参照)は怒られて当然のこと。本当にその日の夜はずっと反省と後悔をしてた。
水島「よし。じゃあ最後のテストだ。直線50m走」
小神「最後は普通のテストだ…」
水島「能力を使って瞬発性を見せるテストだ。ただ走ってんじゃ遅い」
水島「並び順は…河野はここで、車屋はここ…よしこれでいい」
「?」
河野「せんせー。うちの機械使っても良いですか?」
水島「許可する」
河野「やったー!」
小神「良いんだ……」
僕たちはいつの間にか引かれていた白線スタートラインの後ろ側に並ぶ。一応皆で名前順に2列で並んだが、先生は順番を調整する。名前順でも身長順でもなく、男女も謎のバラバラで分けられた。
「……」
××「…」
僕と一緒に走るのは、まだ一度も話したことのないクラスメイトの水速流衣君だ。真っ黒の短くツンツンした髪にほんのり薄い青紫色が混じっていて、キリっとした切れ長の
紫に輝く目をしている。僕よりも背格好は高くすらっとしていて、初めて見た時からずっと近寄りがたいオーラが出てる人。
彼が誰かと親しく話しているところは殆ど見たことがない。誰かと話す場面なんて事務的なものばかりで、僕も含めて誰も彼に近寄ろうとはしなかった。その彼と僕が走るのは一番最後。
先生は注目と言い、皆は先生の方へ振り返る。
水島「今日は全員擦り切れる位には力を使ったな。もし強大な災害がこっちに来た場合は、最悪1日ずっと能力を使い続けなければならなくなる。強さも大事だが、一番は持ちこたえる強さが重要だ」
「……」
水島「強かろうと、最後に立って腕を掲げる人間が正義で勝利だ。この世界、この職業で生きるならそうなってもらう」
水島「外界からの敵から守るこの仕事を甘く見るなよ」
…先生は真剣な目で語る。自分達が目指そうとしている夢の現実を。
水島「そんじゃ始めるぞ」
◆
禍福課というのが生まれたのは、だいたい80年代か90年代の中で、その職業の細部まで定義をしたのはこの学校を創設した理事長だ。最初こそ、黎明期故に法律の整備がされてなかったり、学校での育成無しの状況だったから大変だったらしい。これは父さんも言ってた。
徐々に受け入れられ、法整備に学校での育成を始め、公安としても設置されたりと、充実し始め、能力を持っているのならば誰もが目指す職業ナンバー1に10年間ランクインする程へと成長していった。
禍福課が生まれる前は、正義感の強い素人が闘ったり、自衛隊や警察の仕事だったらしい。今でもその2つの組織とは事件の後処理や災害の被害者の援助救助の為に協力してる。でも、本当にこの職業が生まれてよかったと思う。これ以上国からの仕事の負担が増えるなんて大変だし。
この学校も昔は、地域の安全を守る為と能力が使える学生が集まって【夕顔安心クラブ】で活動していたらしい。いつも廊下にあるその歴史の写真をなぞっている。
素人が挑んで死んだ事件は幾らでもあった。子供が扉に吸い込まれ、二度と帰ってこなくなった事件もあった。集団で死んだ話も、小さい命が奪われた話も。交通事故や自然災害、虐待にいじめと同じように最悪な”もの”がこの世界に増えてしまった。だから生まれたのが禍福課。
外界からやって来るものは、僕たちの世界の常識の範囲のものではない。人智を超え、倫理を欠き、愉快に僕たちの世界の平穏を脅かすものばかり。無論、悪い奴だけがこの世界に来るわけでは無いけども、それでも全体を見ればとんでもない化物ばかりだ。
その常識を外れた存在に、禍福課は挑まないといけない。時には化け物を、時には超常現象を。僕は、その危ない道に進もうとしている。ヒーロー的な側面が強いせいで、命や人権が軽くあしらわれている部分も時折あるけど。
水速「おい」
「あ、ごめんなさい。考え事してて…」
水速「いいからやるぞ」
禍福課のことについてずっと考えていたら、もう僕たちが走る順番が回ってきた。僕は頬を叩き気持ちを切り替える。
多白「それでは行きますよ」
「はい…!」
多白「よーい……ドン!!」
出遅れは無かった。先に足が進んでいたのは水速君だった。それを隣でちゃんと認識していた。次に水速君を認識したのは、ずっと目の先のゴール地点だった。
「え」
水島「1秒06」
水速「遅いか…」
水島「まさか」
水速「俺には遅い」
思わず困惑の声が漏れてしまったけれど、そんなことで足を遅くしてはいけない。僕は兎に角がむしゃらに、自分の力を信じて走る。ただの覚能力の僕が走ろうとしても、それは普通の人と何ら変わらない。雷は出ない。炎は出ない。河野さんみたいに機械で前に進むサポートは持っていない。
ただ、一つだけ普通の覚能力とは違うものがある。これが一体何なのかは分からない。本来の覚の能力から逸脱しているものかもしれない。でも、今はこれに頼らなきゃいけないし、この先もずっとこの力を使っていく。
ルナ『きゅう!』
「……!!」
がむしゃらに走る。完走を目的に、僕はただ走る。そう思った時、ふわりと体が軽くなった気分になった。足取りも軽く、前へ進むスピードも速くなる。気が付いたら僕は思っていたよりも早くゴールをしていた。
「速かった…」
水島「ん。5秒51」
「え、そんなに?」
中学生の時に計った記録は8秒56だった。その時より3秒も速度が上がっている。1年間で、僕は全く鍛錬をしていないのに。やっぱり、自分のこの力が…。
水島「今日はHR無しだ。着替えたらさっさと帰るように」
皆「「はーい」」
釣瓶「めっちゃ速かったな!」
「そうかな?水速君の方がずっと…」
釣瓶「アイツだけ規格外だったな。俺でも6秒ジャストなのに」
「燈爾君も速いね」
釣瓶「こんなへっぽこ威力の炎でも、意外と速くなれるもんだな」
「これから大変だね」
釣瓶「なー。擦り切れる位能力使う授業が毎週あるんだからな」
「でもそれくらいじゃないと戦えないもんね」
釣瓶「だな」
今こうしてほんの少し実感した。自分達がこれから茨で過酷な道を歩もうとしていることを。怖いし耐えられるか分からないけど、僕は先に歩んだ人々の背を追いかけていきたい。
立派に誰かを救える優しい禍福課を目指す。その先に先生がいるから、並べるように。
多白雪:女・15歳・166cm・2月28日生まれ・一人称【私】出身地:神奈川
【能力】:冷気を操る能力(気温を寒くさせるもの。また少量の雪や氷を生み出し攻撃可能。)
良い所のお嬢様。多趣味で教養が深い。世間知らずなところもあり天然なところも。暑いのが苦手で最悪溶ける。反対に寒さには強い。弟が1人いる。
好物:氷菓・猫・映画鑑賞・アニメ鑑賞
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