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星と僕らの××の扉  作者: 楠木 勘兵衛
★第1章:新学期の春編
5/35

★第5話 災難・僕の能力

全部修正(2024.09.01)

→また全部修正(2025.02.25)

→ちょっと修正(2025/04/04)

→またまたちょっと修正(2025/06/17)


 ◇◆◇



[悟川心冶]


 入学早々の先生からの実力テストを終え、いつの間にか3日も経っていた。今日は金曜日。来週の月曜日から新1年生は【福禍高校】では寮生活が始まる。この土日で荷造りをして持ってこないと…。一応、自分の部屋の家具やらは入学して直ぐに注文してと紙がきたので、ちゃんと必要な家具を頼んで提出した。



 そんな僕は今、1人で家に帰っている最中だ。燈爾君はクラスのみんなと話してたし、お邪魔するのも悪いと思って教室から飛び出してしまった。自分から声をかけることは別に苦手じゃないけど、気まずさってものが僕の足を止めてしまった。



「先生の次の授業楽しみだなぁ…」



 僕のクラスの担任である水島先生は、僕の大好きな科目を教えてくれる。特殊歴史科というのは、扉が現れたあの時代から現代に至るまでの歴史とか、扉や災害に対する知識を学ぶ座学授業のこと。それとは別に禍福課を目指す特殊科では、能力を使った訓練を行う実技授業もある、これは早くて来週からって先生言ってた。


 本当に扉と言うのは人類史に突如現れた神秘だと僕は思う。授業でしっかり学ぶのが楽しくて、ついつい教科書や資料集を休み時間に読みふけってしまう。



水島『初回の授業だが、一応の自己紹介は手短に。俺は水島静史郎。禍福課と教師は兼業だ。以上、てことで授業を始める……』



 先生は会った時から淡々としていて、冷静で、あんまり話しかける勇気がはない。昔助けてもらった恩を、感謝の言葉を、また言いたい。僕のこと憶えているのかも聞きたい。



水島『およそ18世紀、突如として現れた”扉”という家にくっついているはずのものが、独り立ちしてその場に在った。その扉が何をしたのかは記録に無い。だが、その存在を起点に今の人類がある』



 18世紀、時刻は未明。ある農家の主婦が発見したことが全ての始まりで、世界が狂い始めた起点だった。この世界には扉と呼ばれる不思議なエンティティが気まぐれに現れる。時間も場所も問わず、そこらかしこに現れては中からとんでもない物を招き入れてくる。


 それのせいで世界は本当に大パニックに陥った。ある扉からは、町を飲み込む程のクジラが現れて水害を起こし、また別の所では、並行世界の軍隊が喧嘩を吹っかけてこようとしたり等々。その記録された扉の向こう側の者たちの90%は人類にとって災いを齎す存在だった。

 だから、僕たちは害をなすモノを普通に【Disaster Object】と呼ぶ。略称の【災害物ディジェクト】が一般的に使われている。



「(扉の出現は治安の悪さや人類の疲弊に比例するから。こうして一人で外を歩けるのも、昔の禍福課生が治安維持をしてくれたおかげなんだなあ)」



 僕は何度も授業のことを思い出す。だって楽しいから。その度に、昔の英雄に感謝をするんだ。やっぱりこういうのは文学を読んでいる時もそうだけど、心の底から純粋な少年の気持ちになれる。



「何持って行こうかなー。絶対本は持っていきたいし、あとルナの手入れ用と…?」



 もうすぐ家が見えるところで、不思議な感覚に襲われた。まるで、僕の後ろに何かあるのを察知した感覚が。それは一瞬だった。この静寂な住宅街で、ぞわりと僕の背筋が寒気に襲われた。違和感とか嫌悪感みたいな恐怖が、後ろから漂ってくる。



「(う。後ろ見るの怖い…)」



 何かが僕の後ろにいる。もしかして、扉かな。それとも扉から出てきた化物…ディジェクト…の可能性が高い。恐る恐る、好奇心も混じりながらに僕は後ろを振り向く。

 そこには真っ白のロングコートに、シルクのように綺麗な銀色の髪をした背格好が高い男性がいた。




 ◆




 なんだ。ただの人か。いやいや、人だからって安心できるわけないじゃん!!扉から出るのが必ずしもあのこいの化物とかなわけない。一番扱いにくい人型の奴だって現れる。油断しちゃダメだ。最悪、この場で戦う事にもなるって、頭の片隅に入れておかないと…。



「……」

『……』



 相手の顔が良く見える。すごく綺麗で端整な顔。上手く表現はできないけど、ただ綺麗なのは分かる。でもそれは、芸術作品に対する美しさって言うよりは、強制的に彼のことを”美しい”と脳内が勝手に判断してくる。その感覚が何とも不気味でおぞましい。



『…久しぶりに見たわ。生粋の若い人間』

「……」



 久しぶりに見た。対面した彼はそう言った。身長は多分20cmも違う。体格も向こうはがっしりとした大人の姿。しかも、生粋の人間に目を丸くして感動してるなんて、上位存在じゃなければでない言葉だ。これ絶対、戦うなんて無理だ……!死ぬ!!



『なあ、アンタ。道案内してくれないか?』

「え、あ、はい…」



 唐突に彼は僕に道案内を頼んできた。にやりと微笑む表情に、狂気よりも妖艶だ何だとポジティブな感情しか湧いてこない。思考を強制されているみたいで不気味な人間そのものだ。ルナも怖がって鞄から出てこようとしない。

 僕が独り怯えていても、向こうはお構いなしにくっついてくる。すごい。この絵面はどう考えても、陰キャに肩組んで脅しているヤンキーの図にしか見えない。



『へー。今はスマホってやつがあるんだ…』

「…その、目的地はどこまでで?」


『んーアンタ学生やろ?遠くまでは無理やもんなあ。近くの飯屋でええよ』

「飯…」



 スマホを知らない人なんだ。でもスマホの概念を知っているのなら、ほぼほぼ僕と同じ人間であることには間違いない。怖いけど道案内なら簡単だから、さっさと済ませて通報しておこう。

 僕はスマホで近くのレストランを検索する。命の危機に瀕してる状態だからか、あらゆることに一喜一憂してしまう。スマホって少し調べるだけでこんなに便利なんだ…(感激)



「あ、こことかどうですか?」

『ええな。んじゃあ、案内よろしくな。俺、土地勘無いし地理苦手やから』



 僕はこの人を連れて繁華街の方へ足を進める。家を通り過ぎた時には心の中で泣いた。この時ばかりはうざったいあのルナが傍にいて欲しいと思うのだ。



『ちなみにさ、ここって何県?』

「東京です…」

『東京?久しぶりに聞いたわ』



 東京が分かる。あと喋り方が関西弁。間違いなく別世界か何処かの日本人だ。親近感は湧くけど、油断は禁物だ。仲良くしようとした瞬間に絶対僕は無残に殺される未来が待ってるんだ。あんまり自分の情報を流すのも良くない。でも口答えしたら絶対死ぬ。折角の高校生活の始まりを捨てたくない。

 


『人生楽しいか?』

「え」

『良いことも悪いことも、愛して憎しむことができるんか?』

「まだ、分からないです」



 彼は急に怖いこと言ってきた。カランと空瓶の音がするように、彼は純粋に澄んだ瞳を僕に浴びせる。何処かの公園で和気あいあいと遊ぶ子供よりも純粋に、怖いと感じる程に僕を覗いてくる。



「ああ、ほらもうすぐですよ」

『せやなー』

「あの、お金とか大丈夫なんですか?」

『んー。友達に連絡したから多分大丈夫やな』

「友達…」



×『望みましょう平和を。叶えましょう平和を』



「!!?」



 唐突に知らない声。この繁華街にさしかかった場所から、放送音のように大きな声が響き渡る。選挙の演説か何かかと一瞬疑ったけど、そんなものではない。何故なら声の主は肉眼ではっきりと見えるから。

 僕よりもずっと、彼よりもずっと大きく家をも飲み込む体の鳥がビルの上で休んでいたからだ。そして定期的にあの鳥は鳴く真似のように、人の言葉を話している。

 鳥の周りにいた人達は、一様に悲鳴を上げて走り逃げていく。呑気に歩いているのは、鳥の対向車線の歩道側にいる僕と彼だけ。誰かが通報する声が聞こえる。誰かがスマホで動画を撮る光景を見る。



「どうしよう!!?」

『でけえなー』

「と、取り敢えず逃げましょ…」



 その言葉は宙に分解された。そう、僕と彼はあの鳥のくちばしに捕らえられ、この空を高く舞っていた。



「わあー宙に浮いてる~★」

『泣いてんの?』

「泣きますよ!!!!!!!!!この状況!!!!!!」



 たった一瞬の出来事でこんなことになってしまうなんて。今この鳥が気まぐれに僕を宙に放り出せば死んでしまう。重力によって簡単に死んでしまう!いともたやすく失われる人命、これだからこの世界の死者数は治安の良い日本でも多いままなんだ。



『空を飛ぶのは気持ちいいなー。姉さんにも見せたかったなあ』

「うぅ…呑気なこと考えてる場合じゃないって…」



 僕と彼のことを連れ去ろうとするこの鳥。見た目が何とも恐ろしくおぞましい。元来鳥というのは、羽毛で覆われた鳥類のもので、この鳥はもうその見た目がおかしかった。モノクロで、体中の構造全てが機械だった。点灯ランプに、パイプ管に、ガスを噴き出す排気口に、温度を測るパラメーターの全部全部がこの鳥を動かす原動力の形として生きている。



 鳥は羽を動かし轟音を空に響かせていく。鼓膜が破けてしまいそうで、反射的に手で耳を塞ぐ。そうでもしないとこの状況に冷静に対処できない気がして…。



『なあ、アンタ』

「は、はい!」


『この鳥何がしたいんやろうな』

「分かりませんよ。人の気持ち以外分からないので」


『え?人の気持ち分かるん?』

「あ、いや…。そういうの得意なだけです」


『いいなー。人の気持ち分かったらなーもっと簡単に想い通じ合えるやろうに』

「いいものです…かね」



 鳥に誘拐されている最中にする会話ではない。けれど、自分の冷静さを保つ為には気を逸らすしかない。こんなに轟音が聞こえてくるのに、彼の言葉は透き通るように、邪魔も無く耳に入ってくる。



 

「あの、貴方って…」

『”人間”だよ。皆がそう信じるから、僕は人間なんだよ』

「信じてるから、人間なんですか」

『………』



 数分か数十分が体感で流れていき、いつの間にか山奥に降ろされた。鳥が山に降りようとしてメキメキと体の重さで木をなぎ倒していく。どっぷりとその体を着地させ、ゆっくりと僕たちを地上に降ろしていった。



「ううーここどこー…」

『エライ運ばれたな~。んで、アンタは何が望みなん』



鳥『者ども、容易に平和を生み出せるもの…感銘を受けました』



「平和?」

『…』



鳥『安寧、安心、安定、心からなる安らぎを与える役目を貴方がたは持っているのです』



「(宗教みたい…)」

『ふわあ~』

「(欠伸してる)」



鳥『さあ、その心麗しき者どもよ。今こそ、この惨憺たる世界に…』



「(倒せる…のかな)」

『やめとき。コイツ、アンタが思ってるよりやばいで』

「…やめときます」

『てきとーに話し流して、警察か何か待てばええわ』



鳥『私は博士の思いを一心に、あらゆる世界の平和を築こうと渡り歩いてきた渡り鳥でございます。いついかなる時も、私を生み出した博士の目標である、永遠の平和を他者に与えたいのです。貴方達も分かるでしょう?多くの同じ存在に囲まれ接触し生きているなら、誰しもが抱えるこの不というもの。可哀想な生き物は世界中に無数と存在し、貴方もその内の一体であるのです。ここに来るまでに多くの嘆かわしい生き物たちの死骸を見てきました。直近の星は何とも哀れでした!戦いに汚染された世界を平和にするために、私は日夜奔走しましたが最早手遅れ、光に焼き尽くされ、炎と煙は舞い散り、豆は体中をえぐっていったのです。もう苦しみも憎しみも無い。悪いことなど絶対に起きない平和な世界を、私と共に創りましょう』



 この鳥は一体何が言いたいのかな。僕には分からない。きっと、平和の世界を信じて活動しているってことは分かるのだけども。でも、僕は碌に聞いてない。聞きたいともあまり思えない。こんなにつまらない言葉がいくつも流れてくるのは苦痛だって思ってしまう。


 当たり障りのない言葉。とっても綺麗な言葉をつらつらと並べて演説しているその姿が、なんだかとても、むずがゆくて仕方がない。ペラペラと話が続いていく。てか豆が体をえぐるってどんな世界なの?



 はやく帰りたい。一緒にいた人は欠伸をして遠くを見てるし。逃げてもばれないんじゃ…



「どうしてこんな”災難”な目に…」



鳥『さ、災難!!!!?』



 あ、何か引き金を引いてしまった気がする。が、時すでに遅し。鳥は僕は思わずつぶやいた言葉を噛み潰す勢いで何かまくし立てる。



鳥『何という事でしょう!!!やはりこの世界も既に争いで穢れているのですね!!!!!!なんともまあ嘆かわしい!!!!』



 この鳥に1万年前から人間同士の争いがあるって言ったら発狂するのかな。機械仕掛けの鳥はしくしくとわざとらしく泣いている。自分の羽で目元の漏れる液体を拭いている。というか鳥って泣くんだ。



鳥『こんなことあってはなりませぬううう!!!』


「ええ?」


『逃げるで』

「えええ?」



 僕は彼に手を引かれ、あの鳥から距離を離した。うおんうおんと泣く鳥は、何かが吹っ切れたのか大きくその両翼を伸ばす。自分の存在を誇示する様に高らかに。

 それとは変わって、僕は彼にされるがまま、この鬱蒼とした森を勢いつけて駆け抜ける。



「行く当てあるんですか」

『んーない』

「ええ…ただでさえ意味もなく森に連れていかれたのに…」



 ただ町に道案内をしていたのに、いつの間にか知らない森林の中に連れていかれ、降ろされたかと思えば、変なことを言い始めるし、何か逆鱗に触れさせてしまったかと思えばこうして逃げている。いや、逃げるのは正しいんだけど。この森に連れて来られる意味が分からない。




『いや、意味はあるで』

「どこに?」


『平和実現の為に、邪魔はされたくないってさ』

「邪魔…」


『ここなら普通の人間は入ってこない。なら、俺らに何か吹き込まれる心配もない。攻撃してくる奴もここまで直ぐには来れない。絶好の交渉の場、まあそれを自らでぶっ壊したんやけど』

 


 人を引き込むのが絶望的に下手やなと、彼は鳥を評価する。確かに、この鬱蒼とした森は人の手入れも行き届いていない自然の中だ。そこに扉や災害物ディジェクトがいるのなら禍福課は来るだろうけども。そうでなければ、誰一人寄り付くことはない。



『それにアイツも、むやみやたらに”ここ”を破壊はしたくないやろ』



 破壊?その疑問の答えは、今まさにこの肉眼で明らかになった。あの鳥は何かをしようとしている。この森の中でもはっきりと見えるくらいには巨大…いや、出くわした時よりも大きくなっていた。鳩胸を誇示し、嘴の中で真っ白の光が玉の形で輝いている。



「何アレ…」

『来るんか。んじゃあ、しっかり俺に捕まっときな』

「????」


「え、エエエエエエエエエエエエ!!」



 彼に担ぎ上げられ、僕たちは宙に浮かぶ。その跳躍は人間の域をいとも簡単に超えている。いや、能力者が5割を超えようとしているこの世界では、こんな大ジャンプは別に異常でもないけれど…。


 キュイーンと何処かで音がした。嫌な予感がして、鳥の方を見れば口の中で生成されていた光の玉は無かった。いや、無くなったのを僕が目視できなかっただけだ。それを認識した数秒後に、森一帯が一直線に燃え上がった。ゴオオと大きな音が轟き、火柱が続いている。



「嘘…」



 空を飛んでいる(抱っこ状態で宙に飛んでいる)から、その光景がよく分かる。そして彼が言っていた鳥が邪魔されたくないとここを選んだ理由も分かった。平和を願うあの鳥が、まさかあんな殺傷能力を持っていたなんて、自覚していたからこその攻撃なのかもしれない。


 あ、ふとあの鳥と目が合ってしまった。あんなにも遠いのに、合ってしまったと頭が言っている。



鳥『悪しき者!排除し平和を取り戻すのです!!!』


「なんかこっちに来た!!?」

『敵対したか。ほなもっと逃げな』



 鳥は僕らに向かって怒号をあげる。さっきまで平和を生み出せる何やらと言っていたけど、いとも簡単に僕らに対して睨みを利かせ、羽を動かして真っ直ぐにこちらへと向かってきた。


 彼もそれは充分理解しているようで、僕を抱えながらもっと逃げるスピードを上げた。揺れるので視界は酔うし、森を駆け抜けるとやっぱり枝に当たる。忍者が颯爽と木を渡り飛んでいく姿はかっこいいけど、現実だと案外こんなもんなんだ。いや、僕が単純に弱すぎるだけかもしれない。


 鳥は徐々に距離を詰めてくる。あらゆる森林をなぎ倒し、僕たちの頭上から血走ったその紅い目で、噴き上げる蒸気は音をたてる。鳥は僕らに何かを問いかける。



鳥『平和を否定するのですか!!それでも感情のある生き物なのですか!!』


「いや、知らないよ。」


鳥『何故なのですかあああああ!!!!!!!!』



 鳥は大きな声を上げて嘆く。自分の思う平和を理解しない僕に怒っている。何なら、翼の中から小さな機械が射出される。小鳥か雛のような存在がちょろちょろと出てきた。



「どう思うかも行動するかも勝手だけど、この世界の外から来た時点で、破壊を選択した時点で、災害です。この世界にいたらダメなんです」

ルナ『きゅう!!』


『ええーアンタ、何喧嘩売って…』




「アンタの言う平和は、僕たちがどうにかするから。余計なお世話はやめて」



 

鳥『な、何をおおおおおおおおおお!!』



××「よく言った少年」



 誰かの声が聞こえてきた。




 ◆




××「では、御退場願おうか。悪しき魔物の災害よ」



 遠くから知らない誰かの声がした。多分、僕の横側から。右へ首を振り向けば、全身機械に見える兵士姿の人が、僕を担ぐ人と同じように木の上を走っている。軍服に番号と記号、そして火の鳥の絵。間違いあれは公安禍福課の【おおとり】の制服だ!



「公安の人だ」

『げ、公安や…』


××「そこの白いの、後で来てもらうからな」


『へいへい…』



 あれ?公安の人と知り合いってことはこの世界に滞在してたってことなのかな。でも、ルナは怯えてたし僕も初めて対面した時は、悪寒やら恐怖やらを感じた。人間じゃないって思ってた。今も人間とは思えないけど、姿や体温とか息遣いも人間そのもの。



「(心を読む…時間的余裕はないか)」



鳥『大いなる権力!犬が!平和を乱す悪に生えた小汚い蛆虫の集いめ!!!』


××「酷い言い様だ。まるで己の考えこそが崇高だと信じ込む花畑の権化ごんげ闊歩かっぽしてるみたいだな」


鳥『くたばりたまえ!その骨を平和のいしずえかてにしてやる!』


水島「くたばるのはそっちだ馬鹿鳥」



 今度は知っている声が聞こえた。水島先生だ。僕らより前の方で丸太を持って走ってる。……丸太を持って走ってる??先生は僕と目がかち合うと、その腕に抱えていた丸太を空にぶん投げた。投げた丸太は一直線に鳥の方へと物凄いスピードで飛んでいき、見事に直撃した。



水島「2本目」

××「はいヨー」



 先生の隣から別の公安の禍福課生が出てきた。隣にいる人は青色。向こうにいるのは紫色。青色の人の単独行動ではない。ちゃんとグループで来てる。


 こ、これは扉への対策は複数人で行うべきの習わしを間近で見てるってことだ!!!

 僕は内心小躍りしたい気分だった。警察が変な人を取り締まるとこは見たことあるけど、奇跡的な確率かそれとも非能力者に囲まれた地域にいたからなのか、こんな現場を見ることは無いと思ってた。


 僕も禍福課生になったらこんなカッコいい先人たちの活躍を見れるのかな。



 先生は次々に丸太を投げていく。葉っぱや大きな枝がついていようがお構いなしに。あの木はさっき鳥が消し炭になぎ倒した森林の木を有効活用しているんだ。ただ鳥もやられてばかりじゃない。口から光線を小さく繰り出したり、生み出した小鳥を先生たちに襲わせている。僕と白い人の所には一切落ちてこないのは、一応平和を実行させようと連れ出したことが関係しているのかも。



××「【捕縛/命令コマンド】:鳳籠とりかご


鳥『わ、私を捕縛なんぞ許されぬ!博士の御意向の達成が!許されぬううう!!』


××「ピーピー鳴くのは本物の鳥と変わらんな。」



 青い人は手の中でバチバチと太い導線のようなものを作り出し、弱った鳥に向かって放った。捕縛するネットへの姿を変え、空へ射ち上がったネットは、鳥の全てを捕らえる。痺れの効果があるのか、鳥は大きな悲鳴を上げながら森へ倒れていく。小鳥は電撃に耐えられず破壊されていった。



鳥『くっ、この悪しき者どもが蔓延り跋扈する世界などあってはならぬ!冷酷や冷徹や!!また必ずや、博士の思いを成就させるためにも…』



水島「森へ帰れ馬鹿鳥」



 先生はそう言うと、いつの間にか用意していた多分”鳥がこっちへ入ってきた馬鹿でかい扉”を倒れ込んだ鳥に向けて蹴り倒した。その扉の中へ鳥は恨み節を吐きながら吸い込まれていった。完全に気配も無くなると、扉はすうっと消えていった。


 今日はとても災難な目にあった。




 ◇◆◇




 木から降り、扉が消えた場所に公安と先生と白い人と僕がいる。公安の禍福課生は何か記録を漁って会話をしている。僕は気まずさあって先生の方に駆け寄り話しかけた。



「先生、あの、凄くかっこよかったです…」

水島「そうか。怪我はないか?」

「はい。あの人?に運ばれていたので」

水島「……アイツが人ではないと分かるのか」

「? 何となくですけどね」



 多分先生は僕の能力を知ってる。その根拠は昔に出会ったからではない。僕のクラスの担任教師だから、生徒の能力を知っているのは当然かなって。


 クラスの皆や友達には言えない。勿菟君にも言えなかった。自分の力が、誰かにとって不利益になるもので、不気味に思えるものだと、幼いころから理解していたから。打ち明けた先が怖い。その未来への恐怖で、自分を隠し続ける。それが今に至るまで。そしてこの先もきっと。



「(でも自分は隠して、友達の能力は知ってるっていうのは不平等…。ルナを武器にするって能力なら怖がられないし…今度聞かれたらそう答えよう)」


水島「おい」

「あ、はい!すいません、考え込んでました」


水島「一応、生徒の能力は、親御さんからの説明やこちら側の調査で粗方まとめて記録して有る」

「はい」

水島「だが、この世界の能力と言うのは枝分かれも可能だ。随時更新する必要がある。また、生徒本人が隠している場合も記入する義務がある。勿論口外はしないと約束する」

「はい…」



僕の能力を先生がどこまで知っているのかは分からない。覚であることは記録に載っているのかな。ルナみたいな変な生き物が生まれた時から一緒なのも知ってるのかな。



水島「木枯こがらし

木枯『はいはーい』



 先生はあの白い人を呼びつける。僕に道案内をしてと頼んで、逃げようと言ってくれた自称人間の人。名前は木枯と先生がそう呼んで反応したから多分そう。



木枯『何や……っってグフウゥッ!!』

「!?」



 先生は躊躇なく木枯さんの顔に指を突っ込んだ。比喩表現でもなく、本当に言葉のそのままに。人差し指と中指で額に思いっきり差し込んで、ゆっくりと顎の方へ顔を一直線に穴を広げるように引きずっていく。木枯さんも驚いた声はしたけど、抵抗しようとはしない。奇妙すぎる光景が僕の目の前で起きている。


 ズロロロと音を立てて、木枯さんの顔が歪んでいく。スライムみたいな粘液が出た液体が穴から広がるように地面へ垂れていく。人なんかじゃない。



水島「コイツは有害性が認められなかった外世界の奴だ。なんて名称を与えられるか知ってるか?」

「え、えっと、【異世界招福者(物)】です。対義語は【異世界招渦者(物)】ですね…」

水島「正解。しっかり勉強をしているな。授業態度から答えられるとは思ったが…。まあその言葉は普段使いはされないな。だいたい”異世界来訪者”やら”災害”、”化物”呼びだからな…」


木枯『~~~~!』


水島「お前はコイツを初見で人間だと思ったか?」

「半分思いました。人間の姿で声に体温を持っています。でも、ずうっと人間とは違うと嫌な気分がつきまとってました」

水島「それは単なる勘か?」


「……僕は、心を読めます。先生も知ってると思いますが。でも、僕の覚は不完全です。まず、人以外の心を詳しく読み取れません。犬や猫も音や雰囲気で心の内の感情は判断できますが、何を考えているのかは分かりません。次に人の心が読めると言いましたが、ポジティブな声だけは聞こえません。これも動物と同じで雰囲気は分かりますが、何を言っているのかは…」


水島「ほう。それで、コイツが人間でないと」


「心を読むことはしてないです。でも、人間とは絶対に違う。外側と中身が別の生き物だなってのは分かりました」


水島「そうか。じゃあ今読んでみろ」

「え」

水島「大丈夫だ。読んで精神が削れるような化物ではない」

「…」



 僕は先生の言う通りに顔がぐちゃぐちゃになった木枯さんの心を読む。僕が心を読むと、まずハートの模様が見える。自己がしっかりしている人なら大きく、逆に自己が無い人はとても小さく見える。次に見た目。元気な人は綺麗で傷があっても目立っていない。色も鮮やかで綺麗。勿論、鬱気味の人はその逆の心なのが大体。そしてわざとらしくその人が考えてることが、ハートから漫画の台詞のように出てくる。


 木枯さんのはハートは見えるけど、台詞と見た目は分からない。影のようになっていて何も分からない。この場合は絶対人間の心じゃないもの。



「形しか分からないので、人じゃないです」

水島「そうか。教えてくれたこと感謝する。もういいぞ木枯」


木枯『え?もういいの?』



 ぬるりと先生は彼の顔から指を離す。するとものの数秒で彼の顔は崩される前に完璧に戻っていた。何事もなかったかのようにすまし顔をしている。



木枯『はい。彼の言っとったことは全部書いたで』

「え!?書いてたんですか?顔がすごいことになってたのに」

木枯『俺は軟体動物って言うやつと似とってなあ。こうやって体の一部をちょちょいって』



 木枯さんは器用に服の裾から人間の手とは別の触手を出す。本当にこの人は人間じゃ無いんだ。そう確信させられた。今までの発言も、人間じゃないから不可思議で少し違和感が感じるものが多かったのかな。



水島「協力ご苦労。俺は生徒を家まで帰す。アンタは監督者の所に帰れ」

木枯『それならもう連絡してるで。大阪から新幹線で来るって言ってましたわ』

水島「後で叱られてしまえ」

木枯『嫌や。”関西忍者共”の拳は痛いねん』



 あー大変大変と鼻歌を歌いながら彼は公安の人達と一緒にいなくなった。


 ◆


 僕は先生に連れられて家へと帰った。僕の家がある地域まで、公安の人が用意したタクシーで向かいそこからは先生と歩き。



「先生はどうして…」

水島「連絡があったから向かった。自分の生徒を殺されるわけにはいかないからな」

「……」


水島「どうしたそんなにまじまじと見て」

「いえ、先生が昔僕を助けてくれた人に似ているので…」



 僕は先生を無自覚に見つめていた。人違いとは思えないけど、でも本当に違うかもしれないし。



水島「”誰かを助けたいって気持ちがあるのならできる”…そんな言葉を小さい子にかけた記憶はあるな」

「!!」

水島「それで、お前が特殊科ここに来たってことは、その気持ちがあるってことか?それともまた別か?」


「ありますよ。僕は、”貴方のような強く人を救う人に成りたい”って思ってます。でも、しっかりこの進路を目指したのは中3なんですけどね。燈爾君と出会って…怒られたけど学校に鯉の化物が出てそれを倒した時に、先生の言葉とあの日の記憶を思い出したんです」


水島「……」


「僕、あの日以降ずっと今まで禍福課とか扉とか意外と無縁だったんです。漠然と抱えていたこの憧れと夢を僕はあの学校で叶えたいです」


水島「いいじゃないか。その真っ直ぐな夢と希望」


「絶対先生に並んでみせますから」



水島「……(間違えた俺を真似るなんてな)」

「?」

水島「何でもない。さっさと帰ろう。荷造りちゃんとしろよ」

「はい!」


※色々修正していたら何故か2話分に話が膨らんでいました。作るのに一週間もかかってしまいました。元が1万文字近くいっていたのもあって直すの本当に骨が折れる作業でした。


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