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星と僕らの××の扉  作者: 楠木 勘兵衛
★第1章:新学期の春編
4/35

★第4話 軽くなれるように

超修正(2025.01.07)

→また修正(2025.02.22)終


 ◆



[水島]

 1チームから6チームまで、それぞれのチームに【17の悪夢】を一体ずつ扉から送った。あくまで学園の天才支配者(笑)オーリーが生み出したサンプルか何かだ。

 特殊科を選んだということは『特殊歴史ペキュリアヒストリー』で頻出する【17の悪夢】の化物を知っていないといけない。さっき何アレと言った生徒がいるが、これはまあ歴史好きじゃなければ普通の小中学校では習わないか。



悟川「わっ。【冷炎のゼスト】だ」

「……」



 知ってる奴はいるだろうな。あそこまで目を輝かせているのはガチ勢か。…あの生徒、どこかで見た事ある気がする。それも、ずいぶん昔の時に。まあ後で思い出せばいい。今はやるべきことをやればいい。


 今回の実力を試すテストは事前に理事長に頼まれたものだ。テストをやるのは特殊科のみだが、2・3年生も1年間の復習としてやる予定だ。



「んじゃ制限時間50分。程よく頑張りな」



 俺はその場を離れ、全ての箱庭の中継地点となる場所で待機する。オーリーから監視カメラを用意してもらい、それぞれがどのような行動をしているのか確認をする。一人で全てを見れない故、オーリーに頼ることになったが、あまり借りや色々を作りたくはない。



 数十分が経過。まずは1チーム。3人中2人が特殊条件下で発動する能力だったため早々に戦うのを放棄、もう1人の水速流衣みはやるいに全てを任せ、ソイツもそれを受け入れ爆速で戦いを収めた。その爆速さは”時の能力”か…珍しい。


 あとの2チーム目はしっかりと協力プレイでクリア。3チーム目は蛸背たこせじょうの面倒くさいで協力プレイが崩壊しかけ、1人がファインプレーで乗り越えた。4チーム目は1チームと同じで1人が全てを収めた。そのMVPは白星しらほしノアか、しかも星の能力らしき力…今回の生徒は珍しい奴らが多いな。



白星『大丈夫ですか。お2人とも』

多白おおしろ『ありがとうございます…お強いですね』

傘木かさぎ『活躍無かった…』



 そもそも一般受験の合格者は能力を開示しない。予め知ることができるのは、推薦受験者の能力だけ。故にこうやってテストを行うことで、試験では知ることができなかった奴の能力を知れる。本来は入試試験でやるべきなのだが、理事長の思い付きは面倒だ。それは忍術学園の世界だけにしてほしい。



 ただ、最後の6チーム目はまだ終わっていない。本物よりずっと弱く設定されているのだが、未だに傷の一つもついていない。



「オーリー、記録は」

オーリー『しっかり撮っています。後程、Q組の能力全てを載せたリストを送ります』

「ん」



 さーてどうなるかな。こいつ等を無事に禍福課の人間にする…それが俺の使命。俺がなれなかった、行けなかった未来。こいつ等にはどうか、無事にその先に。魅せてくれよ。




 ◆




[悟川]

「二人とも大丈夫!!?」



 地上に降りたってすぐに、僕より前にいた燈爾君と小神さんが吹き飛ばされてしまった。壁に衝突したが、その壁は柔軟な素材なのか背中を強く打ち付ける音はしなかった。怪我もなさそうだ。



「…っ!」

ゼスト『排除』


「ルナ…いやでも、わ!」



 迷いが攻撃を与える隙を生む。僕はルナを出すか迷ってしまったその隙に、ゼストによって攻撃されてしまった。2人と同じように壁の方まで吹き飛ばされる。まだ一発も相手にダメージを与えられていない。その蹂躙される時間がただただ過ぎていく。障害物を隠れ蓑に利用しても、すぐに解析されてばれてしまうばかりだ。こんなのを昔の人は相手したのか。



 今は何とか振り切って、小神さんや燈爾君と集まって作戦会議をする。



小神「あが…あんなに強いの?」

「もともとは13体もいるし。そのゼストを討伐したのはソ連軍だもん」

小神「軍が討伐したのを私達がやるって無茶だよ…」

釣瓶「先生もすげぇことするよな」


「そう言えば、二人ともまだ能力使ってないよね?」


小神「あ、確かに。逃げてばっかだった」

釣瓶「俺は火操れるぜ。0から生み出せるタイプだけど、火力には自信ない」

小神「私は雷の能力。バチバチ感電させれる感じ…。心冶君は?」


「あ、えと、」



 ある意味で墓穴ぼけつを掘ってしまった。僕は誰にも能力を伝えたことが無い。勿菟君にも燈爾君にも、言わないまま生きてきた。自分の通ってた小中学校に全く能力者がいなかったのも理由だけど、一番は母さんの約束だった。



『私と同じサトリの能力に生まれたんだね。でも、その力を見せびらかしたり簡単に言ったらダメだよ。サトリは人の心を読むものだから、人によっては拒絶されてしまうから』



 そう言われて僕はむやみやたらに自分の能力を言わなかった。内気な僕は尚更人に話せないまま。知ってるのは家族と近所に住んでる”不思議な兄妹”と、”知り合いの女性”だけ。父さんも気弱だけど秘密は絶対守るから、家族の能力は誰にも言ってない。


 今ここで言っても、別にやばい事態にはならない。そのはずなのに、一つ真実を言うのに、喉元に留まるだけで、口にすることができなかった。何でこんなに怖がってるんだ。情報の共有は、事態を好転させるのに必要不可欠なのに。



小神「あ、言えないなら大丈夫だよ。私も昔から自分の力好きじゃないし」

「…ごめん。でも、僕は扉とか禍福課の歴史大好きだから、アイツの倒し方は分かる…はず」

小神「よし。私と釣瓶君で何とかして、心冶君はサポートお願い!」



 小神さんに気を遣わせてしまった。僕の心に罪悪感が沈殿ちんでんする。でも、小神さんから僕に対するネガティブな声は聞こえなかった。自分の能力が好きじゃないのは本当なのかもしれない。



ゼスト『敵を再発見。排除する』


釣瓶「コイツ炎効く!?」

「火炎放射レベルなら確か喰らった記録ある!」

釣瓶「マジか、俺の死ぬ気の全力レベルじゃん。まあやるぜ!!」



 死ぬ気の全力ってそれ危ないのでは…??僕たちはゼストに再び見つかり、攻撃が始まる。流石にやられっぱなしとはいけない。こちらも反撃しなければならない。



釣瓶「喰らえ!俺の全力【焔火ほむらび】!」



 真っ先に燈爾君が前に出て攻撃をする。群青色の髪が赤くなり、その手から炎を繰り出す。その火力は本人が自称していたようにお世辞にも強い炎とは言えない強さで、近くにいる僕たちにほんのり温かい温度が伝わってくる。本当に火力に自信がないみたいだ。しかし、ゼストは火傷を少々負うだけで、腕で炎を振り払ってしまった。



「あんま効いてなさそうなんだけど」

釣瓶「今の全力は下ぶれただけだし!次は…」

「あと、火炎放射を喰らった記録は確かにあるけど、討伐できた記録はないよ」

釣瓶「叙述トリックみたいなのやめてー!!!?」



 ゼストは炎に対して普通に耐性がある。それを先に言うべきだった。



釣瓶「なんか弱点は!?」



 あの化物は1体ではそこまで強くない。高い知能を持っていて、集団で行動していた。そして、地球にやって来て狙ったのは、兵士でもない、能力者でもない。か弱い町や村の住民だった。女子供に老人をいたぶって虐殺し大きな被害を出した。能力者が増加し始めたばかりの20世紀では、上手く対抗ができなかった。だから軍を派遣し、一つの村を犠牲に13体の討伐を終えた。

 その時に、水や炎、はたまた気温で色々試したらしいがどれも効かず。でも、確か、唯一効いたのが。



小神「私も…っやる!【バチバチサンダー】!!」



 小神さんが髪の毛を金色に輝かせ雷を放出する。無条件に0から何かを生み出せるのは、メジャーな代名詞だけど意外といない。2人はそれができる珍しいタイプみたいだ。

 ただ、特殊歴史や能力の図鑑を見ていて、雷の能力はどの書籍でも、現代において社会を支える重要な能力であるが癖があって扱いづらいと書いてある。



 小神さんが出した雷はゼストに…当たらなかった。ゼストの目の前の地面に落ちただけだった。小神さんは目をつぶっている。もしかして、目を瞑りながら撃った?なら命中しないのも頷ける。




小神「ごめん!雨じゃないと命中率低くて…!」

「(ポケ○ンかな?)」

釣瓶「それってどんくらい低いのー!?」



 燈爾君が小神さんに大きな声で話しかける。確かに雷はすごい灰色の積乱雲に溜まっているし、落ちるのは曇り空とか豪雨の時だ。それにポケ○ンでも雨が降ってないと確率30%でほぼ当たらないし。



小神「5%!!雨だったら90%なのに!」

釣瓶「ひっっっっく」

小神「てへ」



 てへで済む状況ではない。



小神「ごめーん!ワタシがポンコツじゃったばっかりにこんなんになって

「方言出てる…」

小神「え、あ、あはは。せっかく東京北から標準語が良いかなって」

「に、似合ってる…よ!」

小神「えへへ。ありがとの」

釣瓶「今その話してる場合じゃないよねー!?」



 燈爾君の言葉にハッと意識を戻す。そうだ、方言とか考えてる場合じゃなかった。体操着のポケットには小さなルナがいる。最悪バレる承知でこの能力を使わないといけない。いつの間にかこの箱庭の壁が遠くなっている。果てしない程に遠くなってる!



「あ!」


釣瓶「どうした!?」

「思い出した!ゼストの弱点」

釣瓶「でかした!」


ゼスト『弱点…そんなものはない』


「小神さん」

小神「え」

「えっと、小神さんが一番頑張らないといけない…です」

小神「私が?え、そういうこと?」



 思い出した。ゼストが唯一防げず、そのまま討伐された記録。そこには感電によるショック死と書かれてた。雷を扱える小神さんにしかできない業だ。



「できるかな…小神さ…ん」

小神「え、うん!が、頑張るよ…」



 小神さんの体が小刻みに震えていた。顔も凄く青くなってた。心の声も聞こえてくる。自分にはできない、また傷つけるって聞こえてくる。



小神「行くよ…【バチバチサンダー】!!

釣瓶「アッチャー!!!」

「燈爾君!?」



 小神さんはまた目を瞑って雷を放つ。その目の瞑り方はまさに恐怖を堪える顔だった。またゼストではなく、今度は少し離れた燈爾君にクリティカルヒットした。流石に雷を人に当てるのはまずいと思ったが、ちょっと黒焦げになった程度で、息はしてるし元気そうだ。



釣瓶「冷静に分析するなー!」

「ごめーん!」



小神「っは。あ、ごめんね!!」

「小神さん!?」



 小神さんは僕たちを置いて何処かへと走り去ってしまった。燈爾君に雷が当たったことへの謝罪を言ってたけど、何か思いつめて涙を堪えている表情カオが、僕にはしっかりと見えていた。


「待って小神さん!」

「どした!?」


 僕は小神さんを走って追いかけた。ゼストのことよりも、思いつめた顔の小神さんを助けたい気持ちが先行してしまった。燈爾君も状況を掴めていないけど、同じように追いかけて来た。



水島「オーリー」

オーリー『ゼストの一時的妨害、障害物の増加を実行しマス』



 僕たちは逃げた小神さんを追いかけていると、突如として地面から岩のような四角の障害物が這い上がってきた。色んな長さと高さが伸びてきて驚いているうちに小神さんを見失ってしまった。ゼストも最初は僕たちを追いかけていたが、その内障害物に呑まれてしまった。


 小神さん何処に行ったのかな。はやく見つけなきゃ。そう思っていたら僕は自分の能力の本来の使い方を思い出した。いつも聞いているじゃないか。心の声を、勿菟君も言ってた助けを呼ぶ哀しみの声を。



小神『ごめんなさい。ごめんなさい』



「あ、小神さん!」

釣瓶「え?何が?」

「あっちから小神さんの声がする」

釣瓶「お前耳良すぎるだろ」



 燈爾君にまだ能力は伝えていないけど、そう解釈してくれるのはありがたいかな。障害物の山々を超えて、一つ正方形の大きな障害物に辿り着く。後ろに回ってみれば、座り込んですすり泣いている小神さんがいた。



 ◆



 小神さんは座り込んですすり泣いている。僕は初めて人の心の読む力を、人を助けるために使いたくなった。今までこの力を良いものだって思ってなかったのに。向き合うこともしなかったのに。今更になって僕は、この力で、彼女の心を覗いた。



小神『また傷つけちゃった。酷いことしちゃった。私はやっぱり酷い人なんだ…』


「小神さん」


小神「あ!ごめんね!私逃げてた…」

「後上さん何かあったの?”酷いこと”って昔何かあったの?」



 小神さんは観念したように渋々僕にその酷いことを教えてくれた。

 小さい頃から小神さんは犬のコーギー”ワット”を飼っているらしい。7歳の時にワットと一緒に散歩をしていた時、急にワットが小神さんから離れて駆けだしてしまったのだ。リードも自分の手から離れてしまい、何処かに行ってしまう!と内心焦った自分は、咄嗟にワットに向かって雷を放ってしまったのだ。その雷はワットに命中し、何とか家族の下に帰って動物病院に行き、幸い命は助かったが、片足が不自由になってしまったと。



小神「あの時、ワットが苦しそうな声がしたから…それ以来怖くて、自分の力で大切な人傷つけたのが怖くて…」



 彼女は自分の能力のせいで、自分の大切な家族を傷つけてしまった。それがずっとトラウマで自分の能力と向き合えていないみたいだった。僕も同じだ。自分の力に向き合えなかった。大切な存在を傷つけてしまった。家族が離れたのを引き留められなかった後悔。経験は違えど、結果は同じようなものだ。



「眼を瞑ったって、体を縮こまらせても、過去は変わらないよ」

小神「…」

「過去には戻れない。残酷だよね。でも、前に行かないといけないから。自分の力に向き合うしか無いんだ。禍福課になるならそうしないと、次は傷つけないように気を付けよう」

小神「…そうだね」



 これは入学式にくれた彼女の言葉だ。優しさと辛さは分け合うものって、僕に教えてくれた。小神さんあ僕の言葉に縮こまらせていた体をゆっくりと上げる。重い腰を上げて僕の方を見ている。



小神「私、いつもワットに言ってたんだ。いつか絶対にかっこいい禍福課になりたいって。関西の禍福課の学校は遠いし寮じゃないから、どうせなら寮で行ったことない東京のここに行きたいって。でもそんな思いに反して、私は自分の能力を使うことに怯えてた。禍福課になるには、自分の力が、使えなきゃ…」

「”辛いことは分け合おう”でしょ?教えてくれた言葉。そうやって分け合って軽くなれば、少しは前向きに力が使えるんじゃないかな」

小神「!」



 そうだ。今生きている以上に、次が存在する。僕たちの人生の道はまだ続いている。子供の時の恐怖心も、一生悩む後悔も、見なければ足を引っ張るだけの茨だ。でも茨の道だって歩ける方法を人間は知ってる。でも、その辛かったことや怖かったことを、誰かに話して軽くなれるのなら、きっと自分に溜まっている後悔や苦しみは緩和されるんだ。



小神「そうだね。辛いことは過去だけじゃないもんね。まだすぐには克服はできないけど、”次”にはちゃんと気を付けるよ。うん、ちょっと心軽くなれたかも!」



 彼女はニカッと笑う。まだ乗り越えはできないけど、足を止めることを止めた意思表示をしている。彼女に励ましで送った言葉は、あの時の僕を助けてくれた温かい救いの言葉だ。それを小神さんにも僕が送りたい。



釣瓶「暗い話は終わりかー?俺はピンピンしてるし大丈夫だぜ」

「あ、ごめんね。小神さん、僕たちと一緒にアイツを倒そう」

小神「うん!」



 僕たちは持ち直し、もう一度あのゼストに向き合う。向こうは敵を見失って片っ端から障害物を排除し、僕たちを排除しようとしている。しっかりと作戦を立てる時間がある。



釣瓶「んで、小神の雷が必要なんだろ?どうやってやるんだ?」

「僕がアイツを貫く。その為に、二人は力を貸して」

小神「貫くの?」


「まずは僕と燈爾君がゼストを引き留める。小神さんは裏をかいて雷を当てて、敵が怯んでる隙に僕があの体を貫かせて全身を感電させる。アイツは表面と中身の間に絶縁体が仕込まれてるから、中までやらないといけないんだ」


小神「なるほどね。了解」

釣瓶「いよっしゃやるか!」



 僕たちの反撃開始だ!




 ◆




 障害物がはけていく。あのオーリーってAIがどかしたのかもしれない。元の平らだけの箱庭になり。ゼストとかち合う。ゼスト自体はすごく小心者で弱い者いじめが好きな性格だと書かれていた。確かにか弱い存在ばかりを痛めつけ虐殺し、軍の圧倒的な力の前にひれ伏し完膚なきまでに負けた。


 僕たちにもやれるはずだ。



ゼスト『排除!排除!』


釣瓶「こっちだ!化物!」

「相手するよ!」



 僕と燈爾君は動き出す。ゼストが繰り出す爆弾やロケットを燈爾君が燃やしていく。僕はこっそりルナを取り出し、攻撃をかわしつつ別行動をしている小神さんを気づかせないよう自分にヘイトを向かせるようにする。



「ルナいける?」

ルナ『きゅう…』

「気持ちが固まってないとダメ?」

ルナ『きゅ』

「…はあ。僕は、アイツを絶対倒す!!」

ルナ『きゅ~!』



 今までは助けたいという気持ちで形を変えたルナだけど、今度の僕はアイツを絶対に倒す闘争心と殺意をたぎらせる。ルナは僕の感情に答え、あの槍の姿に変わる。そして走る足を急カーブさせ、ゼストの前にまで急接近する。



ゼスト『な!』

「小神さん!」


小神「いくよ…【轟雷神撃トドロキサンダー】!!!!!」



 バアーン!と雷を放出する轟音が聞こえる。雷は真っ直ぐに、ゼストの方に向かい見事に命中した!小神さんはその目を開けて前を見たんだ。天候は雨じゃないけど、目を開けて前を見る彼女には勝つための電気が通る道が見えていたんだ。



ゼスト『くっ…こんなもの!私の中には…!』

「喰らうんだよね。その中も!!」



 僕は感電して苦しむゼストの胸元に思いっきり槍を突き刺す。鋼鉄の体を突き刺すのは困難だけど、力でねじ伏せれば問題ない!!!脳筋最高!!!



「おりゃあ!!」

ゼスト『ぐ、あああああああ!』



 胸元に風穴を開け、強い電撃は精密な体の方に流れ込む。全身金属故に体中に一瞬にして伝わり、悲鳴を上げてしばらくして機能停止した。



小神「やったー!勝ったんじゃ―!勝ったんじゃけぇ!」

釣瓶「かっこよかったぜ!」

「良かった…」



 作戦は見事に成功した。これほど嬉しいことはない。小神さんもちゃんと目を開けて雷を当ててたし、上手くいって本当に良かった。



水島『おめでとう。一番時間がかかっていたが、その分しっかりと見ごたえがあったな』

小神「先生!」

水島『すでに他の生徒は教室に戻ってる。制服に戻してお前らも教室に帰りな』


「「「ありがとうございました!」」」




水島「…」

オーリー『どうされました?』

水島「(眼を瞑ったって、体を縮こまらせても、過去は変わらないよ)…あはは。子供のくせに大人びた言葉を…俺はもうどうでもいい」




 ◆




 僕たちは先生にお礼を言って、どこからともなく出現した出入口から退場する。箱庭は少しずつ解体されていく。それを少し眺めて、僕たちは制服に着替えて教室に戻る。更衣室で着替えている間に、こっそり僕は槍の姿になったルナを元に戻し、制服のポケットに入れた。あんまり突っ込まれなくて良かった。


 教室に戻って早々、遅れた僕たちの方に人が立ちふさがった。同じクラスメイトの河野さん。僕より幾分小さい背丈に茶色の髪で、貝殻のゴムで頭の上の方に小さなポニーテールをしている。そんな彼女は水色の目をキラキラさせて詰め寄ってくる。



河野「あたし、見てたんだ。終わって暇だったから」

「え、見てたの?」

河野「じっくりね。この伸び伸びスコープで見て聞いてたんね。何か”お話”してたみたいだったけど」



 河野さんの言う”お話”は多分、小神さんのあの弱っていた時の話だ。


河野「なんだか思い悩んでた姿だったけど、悟川君が元気づけたようだったんね。なんの話してたの?恋の悩み?」

「いや、違います」

河野「深く詮索はしないけど、あんまり抱え込むと、変な奴らに漬け込まれちゃうんね」



 人の辛い部分を話すことは他人の僕にはできない。幸い彼女もそれ以上は知ろうとしなかった。僕から河野さんは離れる。するすると流れるように小神さんの方に近づく。なにやらニヤニヤと個性的な顔をして。


河野「それでそれで、どうだったんね!」

小神「ち、ち、ちち、違うからああああああ!!!!!!!!!」


「あ」



 なにが小神さんを怒らせたのか。僕にも燈爾君にも分からなかった。ただただ無情に、河野さんの言葉に小神さんの何かが触れて、教室内に雷が光った。そして先生が教室に戻ってきた時には、生徒全員が黒焦げになっている状態だった。先生は全く気にせずその後の話をしていた。す、ストイック…。けほっ…。


 あと、小神さんはちゃんと皆に謝ってた。皆も謝ってた。これは波乱万丈な高校生活になりそうだ。


小神こがみ雷子らいこ:女・15歳・157cm・6月26日生まれ・一人称【私/ウチ】出身地:広島

能力:雷を操るなどの能力(帯電し放電する。寝癖がいつもすごい。冬は特に凄い。寝る時はゴム手袋必須)

朗らかで優しい性格。しかし、お好み焼きになると性格が変わる。方言は控えめだが、徐々に出てくる予定。某赤色配管工の作品が超好き。辛いことも良いことも分け合うのがモットー。犬のワットとは今でもずっと仲良し。

好物:そうめん・お好み焼き・ゲーム・可愛いモノ


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