第35話 機転と土の試練
約3600文字しかないの意外。ちょっと巻きで作っちゃいました。
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[悟川心冶]
この練習漬け1週間の時間は長いようで、案外すぐに終わってしまった。先生やうみお爺さんが出す練習内容は、基本は水中活動や水中歩行で、そこから個別の能力を見られた。かなりきつかったけど、でも経験に放った。あの1日目以来、特に化け物が襲って来たりはしなかった。
そして本番、会場は学校でもかなり離れた場所であり、一番大きなグラウンド。体育祭では3年生が使っていた場所、その名も【想像の楽園】。
既に僕を含め皆が戦闘用の制服に着替え会場前の広場で待機していた。会場の周りには大きな映像を映すモニターが設置されている。
水島「5人ずつ試験を見る。ルールは簡単、練習相手になった人を無力化するかどこかにある馬鹿デカい旗を取るかの2択だ。よく選べよ。逆に相手に全員倒されるか降参を選んだ場合は不合格とし夏休みは補修漬け確定だ」
傘木「補修は嫌や!」
車屋「じゃあ頑張るしかないねー」
蛸背「ほな一応本気出しますか」
釣瓶「……」
水島「順番は土→風→火→水だ。該当する奴は早速行ってもらう」
小神「わ、私だ…」
「小神さん、頑張って」
小神「うん!」
◇
[三人称視点]
最初に行うのは土の試験。オーリーによって作られたのは森林エリアであり、対戦相手の敵役は練習期間でもお世話になった土山先生であった。
そして会場に繰り出されるのは、小神雷子・糸居時雨・大田生慈郎・標聡汰・水速衣流衣の5人。各々が緊張や焦り、無表情と反応を見せる中、無情にも本番の時がやって来た。
先生と生徒が定められた位置につくのを確認すると、担任の水島先生は用意されたマイクを持ち放送として彼らに声をかける。
水島「それでは、開始」
水速・標「…!」
小神「え」
担任の合図と共に、真っ先に水速と標が動き出した。取り残された3人は声をかける暇もなく森林に置いてけぼりにされてしまった。
小神「たはぁー」
糸居「行っちゃった」
大田「全然2人変わってないね」
小神「まぁーいまさら追いかけても居場所分からないし、とりま私達は生き残って作戦たてよう。時間的にあの山にすぐ行けるようにしなきゃ…」
◆
土山「さてと…?」
がさがさと草むらが揺れる。一人、いや二人の人間が足跡を立てている。音の大きさに差はあれど、先生の方へ向かっているのは明らかであり、対処をする姿勢を取る前に動きを標識看板によって封じられてしまった。
土山「この能力は標君のね」
水速「俺より先にやるな」
標「早い者勝ちに決まってるだろバーカ。狙ったのなら誰よりも対処すんのが禍福課の仕事だろ?お・前・な・らよく知ってると思うけど」
水速「何だてめぇ。一々煽ってチームワーク乱したいのか?かまってちゃんがよぉ」
土山「いや、ちょっと私そっちのけで喧嘩するのやめなさいよ」
両方は仲がすこぶる悪かった。それは練習で設けられた1週間の時からずっと変わっていなかった。何かと戦闘になると、子供の様に無邪気に駆け回る標と、落ち着いて冷静に対処する水速では行動に違いがありすぎた。まさに水と油の関係であり、メンバーや対戦相手の土山先生の悩みの種でもあった。
敵役(先生)をそっちのけで喧嘩の姿勢になるなど、本来ならば御法度だ。
小神「うーーーーーーーーーん」
大田「大丈夫?仙人になっちゃうよ」
未だアイデアが出ず悶々として小神は頭を抱えていた。この戦いは意外と簡単なことが思いつきそうなはず、なのに彼女はより頭で深く考えてしまっていた。
小神「は!」
そして天啓は彼女の下にひらめきとして降り注いだ。
小神「あの山の上に旗、ここからちょうど吹っ飛べば球を投げた時の曲線の軌道を描ける絶好の位置」
糸居「つまり人か何かをここから飛ばすってこと?」
小神「そう!いよっし、アイデア思いついた。糸居君、大田君手伝って」
作戦はいたって単純だった。大田が周りの土を使い3本の柱を作り、それに糸居が糸を生み出し巻き付けまるで巨大なパチンコ装置を創り上げる。
これは人を一人吹き飛ばせる大きさだった。
大田「できたよ…!」
糸居「でもこれ、誰を?何を飛ばすの?」
小神「私が飛ぶ!」
◆
標「先生の能力うぜぇー…」
土山「褒めてくれてどうも。都心じゃアスファルト舗装だらけであんまり使えないのよねコレ」
標「じゃあ何で東京来たんですか」
土山「それはもう憧れよ。それに都心では扱いが難しいだけで、少しでもこうやって土肌があるならいかんなく発揮できるけど?」
動きを封じられていようが、先生の攻撃はやまない。大地を簡単に操り、柱を形成しては飛び回る2人に投げつける。大田よりも強いその能力は試験組でも強い2人を相手にするには充分ではあった。
小神「とりゃああああ!」
どこからか小神の叫び声が聞こえた。音のした方向、つまりは上空を見上げれば大きく飛ぶ彼女の姿があった。糸居の糸と大田の力により射ち上がった小神は飛んでいった先の旗を目指していた。これには、二人は予想外の反応を示し、先生も釘付けになっていた。
土山「な、飛んできたあ!?」
標「嘘だろアイツ」
水速「……」
小神「しゃー…ここまで温めてた私の秘儀。いま解放!」
小神「【閃光雷線】!!」
小神の周りに雷が発生する。全身に雷をまとい、姿勢を地に平行にし、まるでスーパーマンが飛ぶような体形になる。すると、もとの飛んだ勢いと合わせかなりのスピードが出ていた。その速さを維持したまま彼女は飛び続けていた。
悟川「わあぁ…!」
目指すは、あの山の旗。相手を無力化するか、旗を取るかの2択。小神は最初からこっちを狙っていた。
能力には差が生じると、より質が高い方の能力が幅を利かせ効果を発揮する。一番若い新任教師の土山先生と言えど、免許を取りプロとして活躍をしている相手である。自分達の”生半可な本気”では、いともたやすく潰される危険があったからだ。
小神「(正直、あの2人が前に出てくれてよかった。2人とも我が強いけど、それ以上に私より力が強いから…全員を活かすのも得点ならこれが最善策!)」
小神はその勢いのまま、あの山の旗に手を伸ばす。
土山「させない」
先生は、封じ込められていた止まれ標識を自力で打ち破り、すかさず小神の方へ走り出した。先生の能力は大地を操るもの。この森林エリアでは、彼女に完全有利を与えてしまう。それをどうにかするために先手必勝で封じ込めたのだが、油断と力の差により、自由を許してしまったのだ。
失態を取り返そうと、標と水速の考えは一致しすぐさま先生の後を追いかけた。
水速「力を貸せ、時間稼ぎで良い」
標「仕方ねぇな…!」
標は先生に追いつく様、木々を使い移動する。並行して走り、先生に向けて標識を下す。
標「【標識発令:指定方向以外通行禁止】!!」
土山「わあ!」
目の間には、青色に白の矢印で右を示す道路標識が現れ、不意をつかれた先生は見事に右側へ逸れた。すぐさま軌道修正に入ろうとするが、それは時間稼ぎ、はたまた目くらましにはちょうど良かった。伏兵の如く水速が上から何かを投げつけた。
水速「これしかやることないんで許してくださいね」
土山「爆弾!?」
投げつけたのは、見た目時限爆弾のものだった。焦って手に取ってしまったが、すぐさまに時間は0になり大爆発…ではなく、小規模の爆発と身体の時間速度が極端に遅くなる効果付きだった。
土山「あはは、別の意味で”時限”爆弾ね…。隠してたの?」
水速「ええそれは。不意打ち戦法を親父から教わったもので…」
水速の不意打ちからの時間低速により、小神は邪魔なく旗を入手することができたのだった。
◆
小神「皆、ありがとうね!」
糸居「うん…!」
大田「合格もらえて本当に良かったよ」
小神は大いに手伝ってくれた糸居と大田にハイタッチをし、合格の喜びを分かち合っている。その後ろ、先生を挟んであまり活躍できず、しかも小神の機転の為に足止め係になっていた2人は喜びの表情を一切見せていなかった。
標「出し抜かれたか」
水速「変にこだわるからだろ」
標「あ”!?」
土山「はいはい。喧嘩はやめなさい。皆で今度は合宿頑張るんでしょ?協力プレイで足を引っ張るようじゃプロにはなれないよ」
先生からお叱りの言葉を受ける。対象の2人はそっぽを向いて不貞腐れているが、分かっていての思春期からの反抗姿だろう。先生はため息をつきながらも苦笑いをし、二人に反省点を伝える。
土山「標君は即断即決で行動的なのは良いけど他人に噛みつかない」
標「……っ」
土山「水速君はサポートできるけど、単独行動ばっかりしすぎ」
水速「…」
土山「どっちも共通して自分が強いから一人でできるって過信しすぎなところが衝突を生んでる。少しは他人に頼ったりしてみてほしいなープロの禍福課はこれくらいできるんだけど」
悪い顔で笑えば、尚更ふくれっ面で二人は遥か彼方を見ている。彼らの前を気にせず歩く連携がとれた3人は、試験合格にウキウキと小躍りしている。これにて1番最初の試験組が終了した。
土山奏:女・24歳・166cm・10月23日生まれ・【一人称】私・出身地:北海道
【能力】:大地を操る能力(文字通り土を操る。コンクリやアスファルトは不可)
新任の教師で国語科担当。元気で頑張りやでちょっとおっちょこちょいな性格。友達運があまりなく、恋山先生以外の女子に毎度悩まされている。特に地元の女子。水島先生からは強さで一目置かれている。
【好物】:クロワッサン・漢字やことわざ・スイーツ巡り・映画巡り・テーマパークで遊ぶこと
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