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星と僕らの××の扉  作者: 楠木 勘兵衛
第3章.手のひら姫様と期末試験編
34/35

第34話 小さな仲間、大きなフラグ



[悟川心冶]


小神「ちっちゃ!可愛いー!」

車屋「マスコットみたいだーね」

多白「雛人形のようですね…!」

釣瓶「親指姫…よりはデカいか…」

鳥羽「鳥に乗れるお姫様!絶対様になるよ」


 突如現れ、クラスで預かることになった小さなお姫様に嬉々として反応を見せる数人。


蛸背「まさか担任がこういったこと勧めるなんてなー」

糸居「危なくないなら良いと思う…僕は」

大田「オレも…」

煙山「ふーん・・・小さくて潰れそう」


 特に敵意も何も無く、お姫様に対して控えめな反応も数人。


水速「……」

標「(興味なし)」


 全くもって言姫さんに意識向けていない人が2人…。全員にして反応が三者三葉。言姫さんは沢山の大きな人間に囲まれてあわあわと困惑している。自分の何十倍の大きさに囲まれたら誰だって驚いて怯むよ。


小神「お名前なんて言うの?」

言姫『こ、言姫でしゅ…わ!えっと種族は小人族で、お家に幸福と奇跡をもたらすのですわ。ここに住む皆様に幸福を与えられるよう頑張りますわ』


 自己紹介をして、皆に拍手で迎えられる。僕は内心ほっとした。人によっては異世界からの災害や化け物で家族を殺されたり、自分が酷い目に遭った経験がある場合もあるから、皆が嫌な顔をしなくて本当に良かった。


 その後、女子の皆と一緒にお風呂へ入れられたり長い髪を丁寧にとかされたりと凄く可愛がられていた。



 ◆



 散々揉まれて目が回っている言姫さんを回収し、僕の部屋に案内した。人工の照明は付けず、月の明かりだけが僕の部屋を窓越しに照らしている。僕は言姫さんを自分の勉強机にそっと降ろす。



言姫『悟川様』

「どうしたの?」


 冷静になった言姫さんに話しかけられた。


言姫『私、皆様方に出会えてよかったですわ』

「それは解決した後の方に言うものじゃない?」

言姫『そうかもしれませんわ。私少々舞い上がっているのかもしれないですわ。初めての景色でしたもの。皆様、私が知ってる考えとは違っていて楽しいのです』


 言姫さんはくすくすと笑っている。自分の知らない世界に飛び出ることは、殆どが未知への恐怖を伴うはずなのに、彼女は嬉しそうな顔で知らないものに興味津々みたいだ。


 こっそり心の声を読んだら、人型なのが条件にあったのか楽しそうな音が心地よく聞こえてきた。異世界からでも人に当てはまる範囲なら聞けるものなんだなぁ。


言姫『そうですわ。これ、良かったら使ってくださいまし』

「?」


 言姫さんは十二単の袖口から小さな小槌を出した。そしてそれを僕にさしだした。キーホルダー程度の小ささに、和風な柄が施されている綺麗な木でできている小槌だ。

 それを僕は受け取ると急に光だし、小槌は僕の手にピッタリな大きさになった。


「こ、これは?」

言姫『私たち小人族が持っている変化の小槌ですわ。面が2つ異なる大きさをしていますの。大きい方は、叩いたものを増やし伸ばし大きくし、逆に小さい方は減らし縮こめ小さくいたしますの』


「そんな凄いの僕に渡していいの?小人族の大事なものでしょ?」

言姫『私、生まれてこの方使ったことが無いのですの。いつもお姉さまの部屋で暮らしていますから戦いもなにも分からないのですわ。お姉さまは小槌に頼ったりはしないので尚更使い時に困っていましたの』


「でも、なんか申し訳ないから…借りてるってことで」

言姫『うふふっ。構いませんわ』


 取り敢えず、大切な物を借りたという程で僕は言姫さんからこの【変化の小槌】を頂いた。それを机に置き、もう夜11時と針が示していたので、そろそろ寝ようと僕はベットに入った。言姫さんは僕が用意した簡易的なハンカチとティッシュのベットで、これまた袖口から出した自前の枕を使って眠った。


 まさか異世界から来た存在と、同じ屋根の下一緒に住むことになるとは。



 ◆



 翌日、僕はまた先生がいる神社の方へ向かった。昨日は色々あったけど、今日は特に何事もなく能力練習を終えた。皆とも結構会話がはずむようになり協力プレイもつまづきはあったけど致命的なものは無いと評価を貰えた。


 そして2,3日が経ち、僕は午前から神社で練習をし、寮に戻った午後は筆記試験の課題と復習をする生活になっていた。一通り勉強を終えたら、自分の部屋にあるテレビで多白さんから借りているDVDを1,2話見て寝ているのも追加で。


釣瓶「はぁああああ~」

「最近ため息多いね。疲れとれてる?」

釣瓶「まーちゃんと寝てはいるぜ。寝ては」


 今日の午後8時。夕ご飯を食べた後、僕は燈爾君と一緒に1階の共有勉強ルームで筆記試験の対策勉強ををしている。


 燈爾君は練習期間が始まってからあまり笑顔を見ていない。ため息もよく吐いてる。心の声をこっそり読めば、何やら劣等感の感情がにじみ出ていた。劣等…もしかして前に言ってたお兄さんとかが関係しているのだろうか。でも、自分は一人っ子だし劣等感を抱いた記憶が無いので、迂闊うかつなアドバイスはできない。無暗に探るのはやめておこうと、僕はそれ以上の詮索をしなかった。


「あ、ここ間違えてるよ」

釣瓶「え、これが答えじゃないの?」


「禍福課が相手しないといけないのは全部で4つだよ。3つじゃない」

釣瓶「マジか。えっと、【異世界招渦者(物)】と【異世界招福者(物)】と【犯罪を犯した人間】…」

「【招来不明の遺物】ね」

釣瓶「なんかそういうのあったな」


「現代でいう呪物やら、曰く付きの物って感じ。ほとんどプロの禍福課とか公安に回収されるから滅多に見れないけどね」

釣瓶「何か呪われそうだから出遭いたくないな」


 燈爾君とテストの話しをしながら、残った課題を片付ける。僕はもうこの特殊歴史科の対策ワークだけ。元々事前勉強用に残していただけで、決して忘れていたわけではない。


「今日はもうこれくらいにしよっか。あと6ページ位でしょ?」

釣瓶「おう。心冶のおかげで中学より断然課題やるようになったわ。俺が余裕を持って課題を全部終わらせるとかマジ信じられね」

「そんなに?あんまり燈爾君の昔話聞いたこと無いから分からないけど、ちゃんとやれるようになって良かったよ」

釣瓶「あっはは…、、、」


 燈爾君は乾いた笑いを見せながら、机に広げていた勉強道具を片付け、一緒に共有スペースから出る。この後はもうあれをやるしかない。


「そうだ。今日も見ていく?」

釣瓶「いいぜ。じゃあ片づけてから行くわ」

「うん。待ってる」


 寝る前のアニメ消化だ。やっと【ミルキー星のリンダ君】DVDが6巻まで見終わった。まだ半分位だから巻で見ないと…。

 僕は一旦燈爾君と別れて自分の部屋に戻る。言姫さんは優雅に折り紙をしていて小さな机には折り鶴がいくつか置いてある。僕は荷物を片付けてテレビにDVDを用意する。


言姫『またあのお星さまを見られますの?』

「うん。合宿前には見終わりたいからね。ルナ、扇風機付けて」

ルナ『きゅー!』


 言姫さんを部屋に迎えた時、ルナは少し戸惑っていた。急な存在に気が引けていたのかもしれない。でもすぐに打ち解け一緒に寝るようにまで仲良くなっていた。今も扇風機をつけると器用に動いて机に上り、言姫さんの折り紙を興味津々で見つめている。


ルナ『きゅう?』

言姫『うふふ、良いでしょう。今度は悟川様に見せてもらった折り紙の本でもっと色んなものを折りますのよ』

ルナ『むきゅきゅ』

言姫『良かったら一緒にやってみますの?』

ルナ『きゅ~う!』


 とても仲睦まじい光景が机の上で広がっている。ルナを今まで家族以外に相手させてなかった反動で、友達のような存在になりつつある言姫さんにえらく懐いていた。いや、出会いとか交流を与えなかったのは申し訳ないけど。


「ルナ」

ルナ『きゅう?』

「良かったね」

ルナ『むきゅ、むきゅきゅ、きゅう』

「そう…」


 ルナは僕の言葉に対して饒舌に喋った。言葉の真意は”言姫さんと出会えて嬉しいけど、君が落ち込む必要はない”と。まさか自分の心配の気持ちを読まれていたなんて。まぁサトリで人の心そのものだから仕方ないか。


釣瓶「来たぜー」



 ◆



 扉の向こう側からノックと燈爾君の声が聞こえた。僕はルナがバレない様に言姫さんと一緒にクローゼットの上部分にある棚に言姫さんとルナを置く。ちゃんと掃除してあるか確認し、静かにするよう注意を呼び掛ける。


「静かにね」

言姫『わかりましたわ。さぁ、今からお屋敷を図工いたしますわよ』

ルナ『きゅう!』


 色々と散らかったものを片付けて僕は部屋の扉を開ける。そこにはお菓子の袋を抱えた燈爾君がいた。


釣瓶「とりま謎に持ってたこれ食べようぜ」

「あ、チョコがけのポテチじゃん。意外と美味しいよねこれ」


 燈爾君を椅子に座らせ、僕はテレビの電源を入れる。画面をリモコンでポチポチと変え、アニメの映像を映す。色々入ってる広告を聞き流せば、本編の映像が始まった。


「燈爾君はどう?能力強くなったりしてる?」

釣瓶「んー…まぁ。あ、最近はこうやって戦いじゃなくても物を炙れる位には強くなったかもな」


 そう言って袋から取り出したポテチをすっと手の上で炙った。確かに表面にコーティングされたチョコが溶けている。燈爾君はそれをぺろりと口の中にいれてそこまで味変わってないと感想を言った。


「はい、ティッシュ」

釣瓶「ありがと」


カペラ『あ、海の方から何か上がって来たよ!』

クルサ『何か新発見があるのかもしれません。見に行きましょう』

ミモザ『もしかしたら危ないかもしれないわ。慎重にね』


 テレビの向こう側、キャラが海が見える高台でその海岸に上がった何かを見ようと走っているシーンが流れる。ちなみにこのアニメは2次元の平面ではなく、人形であり腕を棒で動かし口は手でパクパクとさせている。背景の物も多分全部手作り。星を散りばめ細部までこだわったそのセットは、ファンタジーのはずなのにのめり込む程しっかり作られていた。


釣瓶「そういえばタコダッタ族全然でないな」

「ね。結構中盤かその後に出るのかもって思ってたけど…おかしいなぁ記憶だと凄い出てた印象があるんだけどな」


カペラ『わぁあ生きてるのかな?』

クルサ『何本も、これは足なのでしょうか。だとするなら…』

ミモザ『見て2人とも。目が閉じてるからきっと気絶してるんだわ』


 画面の前、浜辺に打ち上げられた蛸のような生き物を3人?のミルキー星人が集って見ている。その蛸に僕ははっきりと見覚えがあった。それに燈爾君も同様の反応を示していた。


 浜辺にうち上がっていたのは、記憶の中にあったタコダッタ族の子だ。鮮やかな蜜柑ミカンの橙色に幾つもの足。


???『あれ、僕はいったい?』

カペラ『起きたよ!体大丈夫?』

???『うん。君たちはだーれ?』


クルサ『僕たちはこのミルキー星に住むミルキー星人です。貴方はもしかしてクルクル海に住むタコダッタ族ですね?』


ダコタ『うん。僕はタコダッタ族のダコタ!えっと、お星さまの皆、よろしくね』


 ダコタと名乗った彼は3人と仲良さそうに会話をしている。この回は自分の記憶には全く無かった初めての出会いの話だった。最初から色々仲が良い設定かと思っていたけど、お互い初対面を描写されていたことに驚きの感情を抱いた。



釣瓶「やっと出たな」

「ね」


釣瓶「そう言えば、タコダッタ族って短命でめっちゃ海にいる設定だったよな」

「そうだね。寿命がミルキー星人と全然違うから子孫を残そうって、ダコタ君も5人兄妹だし」


釣瓶「なんか昔見た気がするんだけど、その種族差があって未来で悪い世界になるかもって考察動画とかあったんだよな」

「まあ意外と重い設定あるもんね。タコダッタ族の食糧不足とか一蓮托生の生態とか、海洋汚染とか」


釣瓶「俺らの世界も実はこれくらい闇を抱えてて、いつバッドエンドになってもおかしくなかったりしてな」

「ありえそうだけどね」


 そう。このアニメの設定が現実風刺を盛り込んだSF要素有りの可愛いアニメ仕立てにしているように、僕たち地球も平和の中にたっぷり苦しみや闇がある。


釣瓶「そんで、その悪い方向に行った世界が俺らの所に災害としてやって来る可能性もあるかもな」

「…いや、無いでしょ。だって今まで無かったんだよ?どの学術でも歴史でも、一度たりとも僕たちのパラレルワールドは来てないんだから、多分絶対来ないよ」


釣瓶「そうかなー?もしかしてこれフラグ?」

「大きなフラグだね」

釣瓶「あっはは。全面戦争にならないよう祈っとくか」

「そもそも来ないでほしいよ…」



 それはそれは、大きな大きな冗談みたいなフラグがたった。



言姫ことひめ:女・?歳・13cm

小人族の異世界訪問者。ですわ口調でお姉さまが大好き。好奇心旺盛でルナや女子組と仲良し。


▼良かったら「評価・ブクマ・いいね」してくださると小説活動の励みになります。とっても嬉しいのでお願いします。

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