★第32話 特訓開始
◆
[寒野坂神社・渡夜湖]
[悟川心冶]
水島「全員、学校から貰ったアレはあるな」
「はい。制服ですよね」
水島「神社内の部屋を貸す。そこで荷物を置いて着替えてこい」
先生に言われて僕たちは学生の制服から、男女に分かれて新しく貰った禍福課の制服に着替えた。後マフラーを巻いておく。
神社内の部屋は隅からとても綺麗で、鼻を立てれば木の良い匂いがしている。着替えている最中、僕はちらりと男子の2人を見たけど、しっかり体が鍛えられていた…。僕もそこそこ以上には努力してるのに差が出ている。僕が誇れるのは槍を投げたりしてるから発達してる謎の肩の力くらいで体格は成長を感じられていない。ちょっとつらい。
禍福課の制服は戦闘服型のしっかりしたシルエット。ベルトの部分には色々入るポケット付き。色は皆違っていて、僕は黒に差し色でオレンジが入っている。首元まで布面積があるから傷を隠せて便利。まあでも見られないようにするにはもう少し壁が欲しいからマフラー着けてきたけどね。おかげで凄い暑い。
水島「改めて紹介する。こちらは今回お前らの相手となる講師。水の能力つかいの錦城源浩講師だ」
錦城「好きに呼んでもらって構わんぞー。おじいちゃんと愛称をつけても直良し」
錦城さんはいぇーいとピースをしている。お年寄りの方だけど、凄い現代に適合してる。先生はため息をついてるけど…よく振り回されてたのかな。
河野「それで先生。どんなことを爺ちゃんとやるんね」
水島「俺はあくまで監視だ。やることは講師の爺さんに聞くことだな」
先生はあくまで見守るだけなんだ。先生がいるのは知らない人とのいざこざがないように、取り敢えず監視するために来たってことでいいのかな。
錦城「そんじゃ一旦は実力を測ろうか。静史郎、生徒の拾い役任せるぞ」
水島「了解…」
先生は錦城さんの隣から移動して、僕たちの奥後ろ側へ仁王立ちする。実力を測るということは、先生が最初に僕たちにやらせたあの実力試しと似たようなものの可能性が高い。あの人にどれくらいの力があるのか未知数。ただ、先生の憧れの人の師匠となれば、油断も隙も出してはいけない相手に他ならない。
僕はルナを忍ばせ、いつでも武器の状態にできる準備をしておく。いや、もうしておいた方が良い。体術なんてほぼほぼやったこと無いし、柔道も武術も素人同然。間合いを瞬間で詰められたら今の僕は絶対に勝てない。利旺君の羽を目で追うのも精いっぱいだった僕だ。
錦城「時としてお主たち、一体どういう目的を持って禍福課を目指そうと思った?」
唐突に僕たちへ錦城さんは問いかけた。どういった目的を持って禍福課を目指したのかと。この言葉を考えると、初めて出会った偽物の羽海君を思い出す。『大した目標も夢も無く適当に生きる人間なんだろ』と僕へ向けて言ったことを。今はもう崇高な志とまではいかないけど、やっぱり禍福課になって誰かを救いたいって思ってる自分がいる。
百沢「私は母親が元禍福課だからかな。憧れてやりたかった(後、仕事的に幼馴染から逃げれるし)」
河野「あたしは水中での討伐活動をより効率的にーとか?給料良いし皆に強い発明道具あげたいんね」
喰田「俺はお父さんに褒められたいから…姉ちゃんのことも守りたいし…」
白星「私は、大切な人を…守りたいだけです。他は特に…」
「僕は憧れた人の様に誰かを助けられる存在になりたいからです…!」
各々の目的を話し終えると、錦城さんは蓄えた白髭をわしゃわしゃと触りほうほうと相槌を打つ。ずっと手で握っていた木の杖を、上部分から棒の部分へ持ち変える。
まずい音がする!戦いを見せる音…でも雑音が凄い混じってる。雑音?人なら聞こえないはずなのに。
錦城「遅いぞ」
「!!?」
思考の遥か先で錦城さんは攻撃に入っていた。僕は反射的に槍を横にして杖の攻撃を防いでいた。咄嗟の判断に救われた。一秒でも遅れていたら頭を叩かれた!
錦城「中々の判断能力じゃな」
次から次に足や杖を巧みに交互に出して攻撃される。防ごうにも判断と行動に誤差が生じて全部を流すことができない。蹴りを一発、杖を二発喰らってる。物凄い激痛はきてないけど、赤く腫れる位にはジンジン痛みが脈を打ってる。
白星「心冶様!」
錦城「次に動けるのはお主か」
横から白星君が増援に来た。錦城さんはすぐに気づいて二人相手を苦にもせずに淡々と始める。
錦城「鎖を出し先に付いた星をぶつける…ただそれだけか」
白星「っ!!?」
白星君の攻撃をいとも容易く受け流し、なんなら白星君の手から伸びた鎖を掴み引き寄せ、腹へ一発蹴りをおみまいし、更に鎖を勢いよく振り回し…僕の方へぶつけてきた!!?
「だっ!!!」
マズイこのままじゃ神社のお社に思いっきりぶつかる!!勢いを殺さないといけないけど、体勢が悪すぎる。
水島「おらよっと」
「だ、先生…ありがとうございます」
白星「すみません…」
水島「反省会は後でしろ。まぁもう片はついてるが」
先生がそう言えば、嫌な予感が体に走る。そしてその通りの結果になった。喰田君たちは全員が錦城さんの水の能力で拘束され身動き一つとれず敗北していた。数十分もかからないで、僕たちは錦城さんに力で敵わなかった。
◆
神社に設置されたベンチに横並び5人で座る。夏の風が少々生温かい空気を包んで木々を揺らしている。実力試しの結果とその反省会を行うのだ。錦城さんが幾つか良い点と改善点、目指すならと色々な意見を先生と一緒にくれた。
箇条書きするならば、僕は反射神経や人の感情の機微を読むのが上手い。しかし考えすぎて行動に遅れが出ていることと槍の武器は汎用性が少し劣ると。白星君はサポートや攻撃も積極的で冷静、ただ攻撃数や技のレパートリーが極端に少ない。
河野さんは判断能力や引き際を考えるのが上手い、ただ水中外での戦いが貧弱すぎる(それは能力的に仕方がない)。百沢さんは攻撃手段が皆無な代わりに能力が色々と友好な場面があるといっていた。一切能力を見せてない気がするけど事前に先生が伝えていたのかな。
最後に喰田君は、力を出したくないと思う気持ちが強すぎるあまり行動に何も移せていないと言われていた。線引きが分からないことは難しいけども、慣れる為に鍛錬を積むべしと励ましの言葉を贈られていた。力の制御ができない…お腹が凄く空くことに何か関係しているのかも。
錦城「えーこれよりワシと静史郎で1週間取り敢えずは基礎的な戦いを伝授させとく。静史郎は喰田と悟川を。後はワシが相手する」
水島「了解です」
錦城「さてさて、期末試験まで共に励んでいくぞ」
僕は喰田君と一緒に先生と鍛錬を積むことになった。気弱そうに喰田君は僕の服の裾を掴んで後ろで小さくなってる。湖の水が揺らめいている。トンボが水面に浮かぶ葉に捕まり、太陽の光を透明な羽根が反射させ輝いてる。
喰田「あんまり戦いたくない…」
「それいったら禍福課なれないよ。後方支援とか役割決めは最低でも仮免許を取った後にするから」
喰田「むぅ。そうだけど皆に迷惑かけたくないから」
「迷惑って…どういう能力なの?」
喰田「まぁ、その…えっと」
喰田君の言葉が詰まる。迷惑をかけてしまうと懸念がある能力だとするなら、とても強い力だったり条件で人を容易に傷つけたりとか色々考えられるものはある。なら言うのを躊躇するのも分かる。僕だって人に嫌われるのを恐れて武器以外に人の心が読めるってこと伝えていないし。……ここは、あの時僕のことを救ってくれた燈爾君の言葉を借りよう。
「じゃあ、いつか話せる時がきたら教えて。僕もあんまり人前にひけらかせるものじゃないから、いつかお互いに」
喰田「うん…!」
喰田君の心から喜びの音が聞こえてきた。繊細だって燈爾君のお兄さんからの言葉があったけど、本当にそうだ。僕以外に能力を人前で話せない仲間がいるって知れたのは僕も嬉しいかも。
水島「俺が相手か。悟川は何回か相手してるがやっぱ行動と思考に誤差がある。それはまぁ自分自身の意識問題。まず解決したいのは、攻撃の種類を増やすことだ」
「はい!」
水島「悟川が普段使いしてる槍、最大の利点は圧倒的なリーチだ」
「リーチ…長さですか」
水島「近接系の奴が相手だった場合、ソイツの範囲外から攻撃できる。掴む棒が長いからな複数の敵を牽制するのも投擲にも役立つ。多用途性が高く、突くことに特化した貫通力も高い武器だ。決定打を与えるのにはもってこいだろうな」
「ほうほう…!」
水島「ただし」
「ただ…?」
水島「懐に入られた時の弱さが命取りだ。狭い場所や密着なんてあまりにもそのデカさが仇になって不利になる。あと折れやすい。単調な攻撃ばかり。超地味」
「な。なるほど…(地味もデメリットに入れて良いのかな?)」
先生は僕が使ってる武器のメリットデメリットを教えてくれた。確かに槍はデカいし長いからこういう野外では強いけど、室内になると高さなどに制限が付く。その場面ではメリットを中々活かすことができない。でも別に槍ばかりの姿じゃない。薙刀になったこともある。
ただどうやって姿が変わったのかそのロジックが分からない。
喰田「先生。俺のシャベルとかどうです?」
水島「ギャグ要員にでもなるつもりか?」
…ルナに聞いてみないと分からないか。実際、僕が敵を倒すとかそういった目的があって姿を変えてる。高校生の今になるまで何かと戦う機会が無かったから気づけなかったものだ。
「ルナ…」
ルナ『んきゅう?』
穂先がゴムのように柔らかくなり、僕の方へ顔を向けるように曲がる。
「どうやったら他の姿になれるの?前にやったとき無意識だったから」
ルナ『きゅきゅ…きゅ!むきゅきゅ』
「えーっとつまり、想像すればそうなれるってそんな簡単なことで良いの?」
ルナ『むむ。むきゅーきゅきゅ!きゅむ』
「…やっぱそう簡単ではないんだ」
ルナが言うには、僕がルナの姿を想像すれば自分はすぐにその姿へ変えれるとのこと。しかし、その姿を鮮明に深く分かっていないと、お祭りの縁日によくある空気を膨らましてできた風船型の武器になってしまうとのこと。
じゃあ何で僕は槍の姿をここまで本物の様にイメージできてるの?と頭に疑問がよぎったが、ルナがそれを察知しどうしてなのかを解説する。曰く、この姿は生まれた頃から自分に備わっていた知識らしい。僕の戦いたいという感情に応えるために、色々瞬時に考えた結果、その事前に知っていた槍の姿になったとのこと。薙刀も多少知識があったから。
「なんでそういうの最初から言ってくれなかったの?」
ルナ『みゅーみゅむ』
「聞いてこなかったから?えーまぁそうだけど、そうだけど!」
水島「……」
ルナってそういう狡い性格してたっけ。まぁ僕が真剣に向き合わずにやれペット扱いしてたのが悪いんだけども。というか事前に持ってるのが槍と薙刀の知識って何?そんな数ある武器の中でもそこを取るのって珍しくない!?チョイス謎すぎるでしょ。誰それ入れ知恵したの!
水島「おい」
「はっ!すいません。色々一人で考えてました」
水島「……」
「先生?」
水島「とりあえず、基礎的な体力増強と体術の相手をしてやる。全力で来い。何も失うことがないようにな」
◇
[・・・]
湖を挟んで向かい側では、白星・百沢・河野が錦城から下された鍛錬内容に各々が励んでいた・
錦城「ほれほれ、水を避けないとなぁ。お主は的が増えるから一個一個動かせるようにならんと」
百沢「ぴゃ!眼に水…!」
百沢は自分自身の体に目を生やすことができる。360度自分の周りの景色が見える他、追跡や遠視に監視など目にできることならだいたいできてしまう。能力に名称を付けるのならば体に目を幾つも持つ妖怪”百目鬼”だろうか。目から入る情報収集は正にもってこいのもの。
鍛錬の内容としては、攻撃手段を生み出すよりもまずは自分ができることの弱点を減らすこと。彼女の場合、体中特に腕に目が出現する為、着こむと満足に能力が使えない。なので腕など出した露出がある服装をしているのだが、目の感覚は共有されている。水や何かで目つぶしをされてしまえば、全ての目が閉じてしまい、一瞬の隙を生み出してしまう。その為、目を一つ一つ瞑れるように特訓をするのだ。
今は錦城が生み出した水発射装置で360度、気まぐれで襲ってくる水に耐える鍛錬を行っている。
錦城「お主はそうじゃな。毎日湖10周以上が良いかもな。発明は怠らんように」
河野「だいぶデカいなこの湖…」
錦城「変な生き物がおるけど刺激しなければ死なないぞ」
河野「いやヤバいところやんね。まぁ行くけど」
河野は水中で発動する能力の為、よりその能力が活かせるよう水中での活動時間を増やすのが目的である。また、水中での動き方をスムーズにするのも、水中での戦いや救助活動の円滑に繋がる。
河野は変な生き物が住み着く綺麗な渡夜湖へ鮮やかに入水していった。
錦城「お主は…より自分自身の能力を知るべきじゃな」
白星「より…ですか」
白星はあまりに少ない攻撃パターンを増やすのが目的。何故ならばと問われれば、星の能力は希少なものの、翼の能力者と一緒で様々な攻撃の仕方があるからだ。それを参考にすることにデメリットはほぼ存在しない。
錦城「今の時代はワシらジジイ時代よりも、異世界の化物により特攻している能力者が増えておる。さらに多種多様化も加速し、より複雑でより強固な能力。比例して化物の質も高くなっている。激しい戦闘が増すのも時間の問題だ」
白星「……」
白星は無言のまま、錦城の言葉を聞き続ける。昨今の能力者の増加具合、質の向上化、攻撃対象が異世界からの者のみと狭くなっていること、全て異世界からの化物を退治する為に、何世代も経ている間により先鋭化が針の進みを加速させている。
彼らは今その先鋭の前に立とうとしている時期なのだ。
錦城「さてどれから学んでいこうか。星の能力だ。多くの戦い方を知識として身に付ければ、強大な力にも対抗できるだろうな」
白星「わかりました。大切な人を守る為、精進してまいります」
錦城「(大切な人を守る。だが、こやつはそれ以上のことを考えておるな。復讐に近い感情…まぁおおよそこやつの”中”にいる何かが作用しているのか)」
白星「どうかなさいましたか?」
錦城「いや、何も。さーワシも後進育成の為に励むとしようか」
錦城「(人の因縁が因果に向かう。因果応報というのはいつの時代でもやってくるものじゃな。星しかり、”サトリ”しかり…)」
◇
[悟川心冶]
水島「昼休憩だ」
百沢「はー疲れたー。目閉じる練習むずかしー」
河野「お疲れんね。あたしは湖の魚見れて楽しかったんね」
白星「昼ですか。良かったらお供しても?」
「うん。いいよ。晴鬼君も一緒に食べよう」
喰田「…!(こくり)」
お昼休憩になり、僕たちは湖の場所から少し離れ、神社に設置されたベンチに座って友達と昼食をとる。結構能力使って湖の上を滑走したから体力は使った。疲れを落とすのにはやっぱ定番のおにぎりと麦茶!個人的意見だけど、このコンビが一番幸せを感じる。
「い、っただきまーす」
??『ちょわあああああああああああ!!!』
「へぶっ!?」
喰田「うわああ!」
おにぎりを食べようとした瞬間。顔に凄い勢いで何かが衝突した。衝撃に驚いておにぎりが吹っ飛んだけど、白星君が綺麗に回収してくれた。ありがとう。ご飯が無駄になるのは絶対嫌だからファインプレーに感謝感激しかない。
白星「心冶様お顔に何か蠢く生命体が」
「そんな虫みたいに言わないで…」
??『そうでございますわ。私にはちゃんとした名前がありますもの!』
僕の顔からしがみついていた何かが離れる。僕の膝の上にちんまりと乗りフンスと息巻いて離れている二人の方を見ている。僕はその後姿を見下している。
長い黒髪に淡い黄緑色と朱色の着物が混じった…十二単?を着ている。特徴的なのは何といっても、とても小さい恰好。両手で包めるくらいには本当に小さい。
言姫『私は言姫!この世界に幽閉されしお姉さまを助ける為に来たのですわ!!』
白星「言姫と…」
喰田「すっごい小さい」
まさかの手のひらサイズのお姫様が空から降ってきたのだ。
錦城源浩:男・??歳・148cm・8月25日生まれ・【一人称】:ワシ/俺・【出身地】:不明
【能力】:水を操るなどの能力?
現代社会を生きる為に陽気な性格。昔はかなり尖っていたがすっかり落ち着いた。本人曰く、若い頃はひたすらモテていたらしく、最悪刺されて監禁されるところだったらしい。人間かどうかたまに疑わしい発言と身体能力を見せる。水島とは祖父との縁で師弟関係がある。悟川の能力に何か既視感があるようで…
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