第32話 水面に浮かぶ
◆
[寒野坂神社・渡夜湖]
[悟川心冶]
水島「全員、学校から貰ったアレはあるな」
「はい。制服ですよね」
水島「神社内の部屋を貸す。そこで荷物を置いて着替えてこい」
先生に言われて僕たちは学生の制服から、男女に分かれて新しく貰った禍福課の制服に着替えた。神社内の部屋は隅からとても綺麗で、鼻を立てれば木の良い匂いがしている。着替えている最中、僕はちらりと男子の2人を見たけど、しっかり体が鍛えられていた…。僕もそこそこ以上には努力してるのに差が出ている。僕が誇れるのは槍を投げたりしてるから発達してる謎の肩の力くらいで体格は成長を感じられていない。ちょっとつらい。
禍福課の制服は戦闘服型のしっかりしたシルエット。ベルトの部分には色々入るポケット付き。色は皆違っていて、僕は黒に差し色でオレンジが入っている。首元まで布面積があるから傷を隠せて便利。
水島「改めて紹介する。こちらは今回お前らの相手となる講師。水の能力つかいの錦城海英講師だ」
錦城「うみひろ爺ちゃんで良いぞお」
うみお爺さんはいぇーいとピースをしている。お年寄りの方だけど、凄い現代に適合してる気がする。先生はため息をついてるけど…よく振り回されてたのかな。
河野「それで先生。どんなことをうみ爺ちゃんとやるんね」
水島「俺はあくまで監視だ。やることは爺さんに聞くことだな」
先生はあくまで見守るだけなんだ。先生がいるのは知らない人とのいざこざがないように監視するために来たってことでいいのかな。
錦城「んじゃお主たち。その湖に体を向けるんじゃ」
「はい…」
うみお爺さんに言われて僕たちは横並びに湖の前に立つ。改めて見ても結構大きい湖だ。琵琶湖みたいに地図から凄い見える位に大きいわけではないけど、一周にはKmかかるのは直感でも分かる程に長い距離だ。
錦城「今からあの花が括ってある柵まで走って来い」
「え」
河野「ぐっと湖を周ればまあ行けなくないけど」
錦城「遠回りはワシは好かん。道のりで行ってもらおう」
「」え
百沢「湖通っていくの?マジ刺激的じゃん」
白星「泳ぐでは効率が悪いですから…」
喰田「上歩くってことぉ??」
まさかのこの湖の上を歩いて道のりで向こうを目指すってこと…。それってできるのかなあ?
錦城「水面上の活躍機会は水がある場でしか役に立たない。しかし、屋根を伝うよりかは平面でやりやすい。そうじゃろう。ただそれをするだけじゃ」
「常識を超えてる…」
錦城「能力社会な時点でまともな常識も何も無いじゃろ」
それもそうだ。異世界から化物災害やら何やら溢れ出てるのに、常識何て考えてる暇はない。でも水面とか屋根の上を走れるって絶対カッコいい気がする。移動においても手段が増えるのは目的地への時間短縮になるはずだし。この特訓は有益なのかも。
喰田「む、無理だってこれ…」
錦城「ばあっ!!」
喰田「いやあああああ!!!?」
間隣でとんでもない悲鳴が聞こえて、思わず体が跳ねてしまった。喰田君に発破かけるように後ろからうみお爺さんが驚かしたのだ。その悲鳴を上げたまま勢いよく柵を飛び越えて、水面を走っている。
「湖の上、は、走ってる!?」
河野「あの子そんな力あったんね…」
喰田「ひいい!怖い!!あ、着いた…」
喰田君は勢いのままあの指定された柵の方まで走っていった。息を切らしながら柵にしがみついてる。
「す、すごい」
錦城「身体能力が向上する奴はああやって簡単に行けるぞ」
「僕も…できるのかな」
錦城「試さなければ何も得られんぞ。ほれどんどん行ってこい」
百沢「えー私のじゃ無理かな…」
河野「ふふん。ここはあたしにお任せあれ」
百沢「おっ。もしかして体育祭のアレしてくれるの?」
河野「勿論んね。水のエスコートはあたしの役目だからね」
百沢「ひゅー頼りにしてるよマリンガール」
河野さんは背中に背負っていたリュックを変形させる。それには見覚えがあった。体育祭で見た小神さんを乗せるために出した変形ボートだ。
また河野さんが湖に入りその背中にあるボートに百沢さんが乗った。前とは違ってゆっくり目的地の方まで百沢さんを乗せて泳いでいった。
次に白星君が綺麗なフォームで柵を飛び越え、水面に普通に立っている。星を腕から出しているけどそれでどうやって浮いてるの??
白星「よっと…行きますか心冶様?私の力なら二人でも大丈夫ですが」
「ちょ、ちょっと待っててね」
僕は白星君に待機の声をかけ、少し離れる。ポケットからルナを取り出し声をかける。自分の能力で水面の上を立てる自信がない。多少能力を使用して強くなってるのかもしれないけども…ピンポイントでそれができる可能性は低い。
「ルナの力でコレいけるのかな…サトリ自体には攻撃性へっぽこで何も無いし」
ルナ『きゅうきゅう!』
「え、いつもの感じで大丈夫なの?そんな…敵とかいないのに」
ルナ『きゅきゅきゅ…!』
「何その悪巧みボイス」
目を閉じているはずなのに、凄い悪い顔してるのが謎に分かる。何か秘儀でもあるっていうのかな。
ルナ『きゅきゅ』
「え、そんなことできるようになったの?僕がルナが?」
ルナ『きゅきゅう!きゅ、きゅきゅきゅ』
「あの夢のおかげで謎の成長を遂げたって…いや二度もアレ味わいたくないけど…わかった試してみる」
確かにあの悪夢みたいな世界から戻ってから、ルナは前よりも一回り成長していた。その日の夜に定規や体重計で計ったけど全部数値が上がっていた。それが新しい力を得たと繋がってるのは疑問だけど、ものは試しよう!これって傍から見たらご都合主義かもしれないけど…。
「よし。行きます!」
僕は意気込んでルナを服と首元の間に入れて思いっきり湖の方に柵を飛び越える。思うことはただ一つ。いや、正確に言えばイメージをすること!自分が水面に立てる姿を思い描くこと。
「ど、どう?」
白星「しっかり水面の上に立ってますね。」
「本当?やった!」
見事に僕は水面に足を着けている。普通は重力で水には必ず沈むのが常識だけど、それに逆らって湖に立っているのは楽しい。一度も経験したことない。空を反射して映る綺麗な水色の湖の上に自分が立つ影が浮かんでいる。魚が数匹こっちに向かって泳いでくれば、影に怯えてそそくさといなくなる。
「ふふふっ…」
白星「武器だけでなくそのようなお召し物を出せるとはとても便利な能力ですね」
「え、あ、(なんかマントとマフラー合体したやつが!)」
白星君に言われて気が付いた。マントといってもそこまで長くないけど、口元まで隠れて布の先をヒラヒラさせている。今まで変形させていた武器じゃない。
ルナ『(きゅう)』
「ルナ…すごい成長だね」
ルナ『(きゅふふっ)』
白星「行きましょうか」
「うん。というか白星君の能力でどうやって水面立ててるの?」
白星「私の星は少しだけですが重力を操れるので、それを使って自分の重重力を軽くしています」
「白星君のも充分強い能力だね。かっこいい」
白星「ありがとうございます」
◆
僕たちが目的の場所に辿り着くと、後ろからうみお爺さんが優雅に歩いてここまで来ていた。いやスタート地点からだいぶ離れてたけど…もう一瞬で?
錦城「湖の上立てたようじゃな。一人はまあしょうがない」
百沢「てへへ」
河野「それで次はどういった感じなんね?」
錦城「そうじゃな…ほれ」
「!」
うみお爺さんが杖で空を指す。皆誘導されて上を見れば、水の丸い塊がふよふよと幾つも浮いている。
錦城「的当てくらいできるじゃろ。逃げる標的・飛び回る標的を上手く狙い射ちできれば、逃亡を許さず尚且つ新たな被害を抑えることも可能じゃな。それができるには肩が強靭でなければのう…」
「なら頑張ります!」
肩の力と言えば槍投げも薙刀ぶん回しもやってる僕が率先していかなければ。でも今ルナは謎マントになってるから無理では…?
錦城「一部投げができない子ようにコレ用意してきたわい」
喰田「コレって」
百沢「ダーツじゃ~ん良いね~おじいちゃんセンスある」
錦城「じゃろうて!」
「ダーツか…小さいけどいけるかな」
ルナ『(むきゅきゅ)』
「うん。頑張る」
流石にルナが一部体を千切って武器になることはできないけど、用意されているのならこれで勝負しなきゃ。
「おりゃあ!!」
錦城「ほほう。中々の腕前のようじゃな」
「投げるのは慣れてるので」
いくつかちゃんと当たってる。まだ制度がブレブレだけど。的当ての授業とかしたことないし、今度自主練でやってみようかな。
白星「…っ!」
錦城「ふむふむ。お主も悪くない。その星はかなり伸びるようじゃの」
白星「個人で特訓しましたので」
錦城「その調子じゃな。さらに仕上げればかなり応用が利くはずじゃ」
白星「ありがとうございます」
百沢「もうちょっと右」
河野「あいよ」
百沢「で、一歩後ろ」
河野「ほいほい」
百沢「えい!」
錦城「ほほーう。君はかなり目が良さそうじゃな眼の良さは戦いにおいて有利。千里眼や目で監視ができるのは司令塔としても役に立てる。精進あるのみじゃ」
百沢「そうですか?まあーそういう能力なので」
錦城「君の能力は水害において八面六臂の活躍になるのう」
河野「えっへへ。あたしも頑張るんね」
各々が浮かぶ水の塊に向かってダーツを投げる。飛んでいったダーツは水を弾き飛ばすと、またうみお爺さんの手の下に戻っていく。この湖の水を能力で操ってるのかな。
喰田「あ、あう…」
「大丈夫?晴鬼君」
喰田「脱臼しないか怖くて…あと人とか動物にあたらないか」
「大丈夫だよ。お爺さんがフォローしてくれるし…あ、先生」
水島「喰田は気力を落とせ。気張ってると嫌程力が出て悲惨なことになるぞ」
「(そこまで言うんですか?)」
喰田「はい…」
皆でひたすら練習していく。今日は肩慣らしとしてこれだけってお爺さんが言ってたし、取り敢えずは的当ての正確性をもっと向上させないと。目標目指してぶん投げる!
錦城「あーそういえばお主の能力…」
「え?あの」
急にうみお爺さんに話しかけられて、投げようとした手が止まった。
錦城「言わんでいい。なんだが懐かしいような、随分久しぶりに同じような力に出会えてワシは嬉しいわい」
「同じ…?」
錦城「ワシの空似だったらすまんのう。誰に言いふらすつもりは無いから安心せい」
「……」
錦城さんには僕の能力はどう見えてるのかな。サトリ…は相手には気づかれないし気づきにくいし、見せてもこうして武器にして戦う感じだから。傍から見たら単なる武器を生み出す能力と認識されていると思う。燈爾君や小神さんもその認識だし。
錦城「(あの気配はまさか…。あの子の子孫がちゃんといたのか。あの人たちとやったことは無駄ではなかったのか…いやそれとも、)」
◆
水島「昼休憩だ」
百沢「はー疲れたー。目伸ばしすぎていたたっ」
河野「お疲れんね。あたしは湖の魚見れて楽しかったんね」
白星「昼ですか。良かったらお供しても?」
「うん。いいよ。晴鬼君も一緒に食べよう」
喰田「…!(こくり)」
お昼休憩になり、僕たちは湖の場所から少し離れ、神社に設置されたベンチに座って友達と昼食をとる。結構能力使って湖の上を滑走したから体力は使った。疲れを落とすのにはやっぱ定番のおにぎりと麦茶!個人的意見だけど、このコンビが一番幸せを感じる。
「い、っただきまーす」
??『ちょわあああああああああああ!!!』
「へぶっ!?」
喰田「うわああ!」
おにぎりを食べようとした瞬間。顔に凄い勢いで何かが衝突した。衝撃に驚いておにぎりが吹っ飛んだけど、白星君が綺麗に回収してくれた。ありがとう。ご飯が無駄になるのは絶対嫌だからファインプレーに感謝感激しかない。
白星「心冶様お顔に何か蠢く生命体が」
「そんな虫みたいに言わないで…」
??『そうでございますわ。私にはちゃんとした名前がありますもの!』
僕の顔からしがみついていた何かが離れる。僕の膝の上にちんまりと乗りフンスと息巻いて離れている二人の方を見ている。僕はその後姿を見下している。
長い黒髪に淡い黄緑色と朱色の着物が混じった…十二単?を着ている。特徴的なのは何といっても、とても小さい恰好。両手で包めるくらいには本当に小さい。
言姫『私は言姫!この世界に幽閉されしお姉さまを助ける為に来たのですわ!!』
白星「言姫と…」
喰田「すっごい小さい」
まさかの手のひらサイズのお姫様が空から降ってきたのだ。
錦城海英:男・??歳・148cm・8月25日生まれ・【一人称】:ワシ/俺・【出身地】:不明
【能力】:水を操るなどの能力?
現代社会を生きる為に陽気な性格。昔はかなり尖っていたがすっかり落ち着いた。本人曰く、若い頃はひたすらモテていたらしく、最悪刺されて監禁されるところだったらしい。人間かどうかたまに疑わしい発言と身体能力を見せる。水島とは祖父との縁で師弟関係がある。悟川の能力に何か既視感があるようで…
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