★第25話 妬ましき存在に終止符を
全部修正(2025.05.12)
→全部修正(2025/07/02)
色々リアルが忙しくなり始めているこの頃、何故暇なときに出さなかったのかと後悔をしています。
◆
[・・・]
悲鳴を頼りに走り続けていれば、荒れた花畑の中で向こうの世界で見た竜の化物をより小さくした奴が蛸背を捕らえ暴れまわっていた。あの面倒くさいと言う蛸背が、一番に体を動かし竜の攻撃を触手で裁いていた。攻撃能力皆無な車屋は見ていることしかできず、取り敢えず遠くにいる二人へ届けと声を上げ続けていた。
蛸背「マジでいたな。偽物の羽海!」
車屋「二人とも!条を助けたって!」
羽海「!」
羽海はひたすらに竜へ攻撃を始めた。鋭利な羽根と化した彼でも簡単には竜の体を切れなかった。悟川はヘイトを向けられている蛸背を武器を盾に救出し、避難していた車屋の方へ預ける。
悟川「何が何でこうなったの?」
車屋「探してたら急に現れたんだよね。理由はよく分からないね…」
『ギュウウウワアアアアアアアアア!!』
夕焼けが花畑を照らし多少の木々があること以外、何も無い平原がただただ続いていた。そのはずが、車屋が見た景色の先に威嚇と地団駄を繰り返す竜の化物が現れたのだ。悲鳴は現れた瞬間に出てしまったらしい。
それは悟川が羽海の過去の話を聞いた後のことだった。
竜の化物は対象を変え、執拗に羽海に攻撃をしている。止まってる場合では無いと、二人に離れてと伝えて悟川も応戦する。槍で貫こうにも、その鱗は強固で何一つ傷がつかない。通らない攻撃ばかりをしていても体力が減っていくだけなのは許容できない。
悟川「何か戦い方すごい似てる…」
悟川一つ疑問が浮かんでいた。竜の戦いと羽海の戦い方がよくよく似ていることに。幼馴染の蛇島達でさえ気が付かない程に溶け込んでいた。
悟川「やっぱりドッペルゲンガー的な」
ルナ『むきゅきゅ』
槍の姿のルナが声を出す。あの言葉は否定の意味。ルナはこっそりとまた悟川に言葉を贈る。
悟川「は?」
信じられない言葉に、思わず攻撃の動きを止めた。その後、すぐに竜の尻尾によって体を叩かれ花畑の先へ吹き飛ばされてしまった。咄嗟の攻撃に声も対応もできず地面に叩きつけられてしまった。骨や筋肉に衝撃が走り痛みが襲う。
悟川「いったぁ…急に何言うんだよお前」
ルナ『きゅきゅきゅ、むーきゅ』
悟川「そんなのあるわけないでしょ。だってさ、あれも…」
ルナ『きゅきゅきゅ!ずーきゅ!』
悟川「…わかった。ルナの言う通りにしてみるよ」
車屋「大丈夫にゃ?」
蛸背「疲れとれんてこれ。帰っても風呂入るん嫌やー」
悟川「二人とも…」
吹き飛ばされたところを、車屋が猫車で蛸背を詰めつつ駆け付けてきた。ルナの言葉の衝撃でそれどころではないのだが、急いでこのことを彼に教えなくてはいけないと、その使命感で痛みを我慢して立ち上がる。
しかし、化物への攻撃に異常なほど夢中で羽海は話を聞いてくれなさそうである。ルナはもう少し早く教えて欲しかったが、今はもう仕方がない。どうにかして声をかけたい。
悟川「ねぇ二人とも」
車屋「なーに?」
悟川「終わったら、ご飯奢るから!課題手伝うから協力して!!」
◆
猛攻撃が続いていく。羽一枚一枚が死を誘発し、行く道全てを切り裂こうとしている。死闘か圧が強く誰にも近づけない程に争いを繰り広げていた。出るなら一瞬で、悟川は意を決して羽海に飛びつき急いで竜の化物から引き離す。多少腕の中で暴れたが、それでも必死に引き離し遠くの方へ着地した。
化物の相手の代わりとして、出されたのはあの2人だった。
蛸背「はーこの前気になってた中華行けるなら最高やわ」
車屋「先延ばし課題のお手伝い嬉しー!歴史てんやわんやで本当困ってたんだよね」
2人に報酬を約束し、何とか囮をやってもらい話を聞いてもらう機会を得た。凄く楽しそうではあるが、対照的に悟川は無理やりにでも羽海を離し、肩を掴んで迫るように話しかける。最早脅しの声にも近い程に切羽が詰まっていた。
どうしても時間がない。あの2人には無理させている。急がなければ最善の道は閉ざされる。その気持ちが一心に現れていた。
悟川「ねぇ、話聞いて!」
羽海「聞いてるだろ!」
悟川「脱出するために、ちゃんと聞いて欲しいし、教えて欲しいことがあるの!」
羽海「何を教えろってんだよ!」
両者とも怒りに身を任せている。ここは冷静さを保たなければ話は続かない。悟川は一度深呼吸をして羽海に話したいことを伝える。ルナの言葉を信じその通りに言う。
悟川「アイツを殺す覚悟はあるの?」
羽海「ある」
悟川「じゃあ、その嫉妬を捨てることはできるの?」
羽海「は…ぇ?」
羽海は悟川の一つ目の言葉には即答。しかし、二つ目は答えに喉が詰まった。質問の意図を理解できなかったのか、それともその質問が飛ぶとは思わなかったのか、どちらにしろ羽海はその言葉に答えられず狼狽えるだけだった。
悟川「今も羽海君はあの人に嫉妬してる?」
羽海「………」
悟川「多分、その感情が君をこの世界に閉じ込めてる。捨てない限り例えあの化物を倒せても君は出れないよ」
羽海「なんで、なんでそんなことで」
悟川「それが君を殺したから」
羽海「…!」
悟川「無理に忘れたりはできないのも分かる。認めたくないって感情は誰にでもあるよ。でも、その、何て言えば良いのか分からないけど、でも、君には君を信じてくれる人がいるから。それだけは忘れないで。」
◆
[羽海利旺]
心の奥底でずっと思っていた。自分が酷い位に悪感情に固執している人間だと。それをまさか初めて出会った人間に、ある意味で見破られるとは思わなかった。
羽海?『君は最悪の人間だ。永遠にその心の中で分かるまで反省しなよ』
ニヤリと俺に向かって嗤うのは、俺によく似た俺。背も体格も全て一緒の俺が、反省をしろと閉じ込めたのがこの世界だった。綺麗な花畑で最初は戸惑っていた。人生を急にこの何も無い世界で過ごせだなんて、何を反省しろだって分からないままここを放浪していた。
蛇島たちは元気かと、家族は大丈夫なのかと、アイツは今も生きてるんだろうと、気になりながらもただ夕焼けだけが続く世界にいた。
茨賀崎「何で強いかって…分からないです。家族がやっていたことを自分も何となく一緒にしていただけです」
羨ましい。自分がこんな無気力な奴に組み敷かれている事実を受け入れることができない。こんな、こんな奴が俺の立場も努力も簡単に上を行って取り上げていることが。いっそのこと鼻につく位に傲慢だったらよかった。アイツはそんな力も地位も全くもって興味が無かった。
俺だけがこの不快に苛まれて、俺だけがアイツを素直に褒められないのが永遠に永遠に苦しかった。
悟川に話したことは本当に全てで、そして一部だけだ。この醜い嫉妬がバレたら最悪な奴だって思われる。蛇島にも椿本にも何も言えない。家族にも教師にもこんな恥を晒せるわけがない。
「・・・?」
茨賀崎「貴方だって充分強いですよ。禍福課に向いてるって僕は思いますけど」
うるせぇ。死んでくれよ。もういいや。もうこんなに嫌いならとことん嫌いになってやる。そして、
悟川「認めたくないって感情は誰にでもあるから。……君には君を信じてくれる人がいるから」
いつかは、アイツのあの動かない仏頂面を度肝抜かして驚かせてやる。俺に尊敬の感情を抱かずにはいられないようにしてやるんだって。
そういうことにしよう。そうすれば、少しは気持ちが軽くなれる。迷いすぎてた。ただただ俺の視野が狭かった。
「『こんなことなら、誰かにでも相談すれば良かったのかもな』」
俺は自分の羽を一枚握りしめる。綺麗な黒い羽根。今までずっとグロい気持ち悪い馬鹿なものだと思っていた。医者が言ってた、この性質変化は精神状態によるものだと。いつかこの感情の固執が終わるように。
『ンギュワアアアアアアアアアア』
化物が泣いている。悪かったな。俺はそうならないように生きる。色んなものを持っているのに、夢に向かって健気に努力をしていたくせに、それでも自分の傲慢で下だと思い込んでいた。贅沢な奴だよ本当に。
「自分が一番妬ましいよ」
竜は俺の羽の攻撃で硝子のように砕けて散っていった。一切抵抗することも無く、俺の一撃を全て受け入れるように体を広げていた。砕けたものが破片となり、その全てが俺の顔を鮮明によく映す。よーく見れば、俺の顔を映す鏡ではない。泣きじゃくって笑う俺の顔が嫌なほど分かる。
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[・・・]
破片へ向かい1人呟いたその言葉は、誰の耳にも届かず空間の遥か彼方へ吸い込まれて消えていった。ただ彼は、過去の自分に感謝と妬みを込めて、その破片が居なくなるまで延々と虚空ごと抱きしめていた。
花が風に揺られ、寂れた世界が真っ白になっていく。夕刻を表す日の暮れが、常識を覆し朝日へと返り咲いたのだ。もう暫くは、この世界に闇より深い夜は訪れないだろう。悟川も蛸背も車屋もただ彼の決別に真顔で見守ることをするだけだった。
にこりと小さく口角を上げ、また輝く朝日を心の中にひっそりと拝み続けるのだ。
羽海利旺:男・15歳・177cm・4月12日生まれ・一人称:俺・【出身地】:東京23区のどこか
【能力】翼(何でも切り裂ける程の鋭利な羽根を持っており、一枚一枚個別で動かせる。空も飛べる)
真面目で静かな性格。元々お喋りはしない人(椿本よりは話す)。努力家だが視野が狭い部分が多々ある。医者の家系で珍しい翼の能力者なこともありちやほやされていた。顔が良いのもあって今現在も凄いモテている。羽は心を許している相手以外に触られたくない。【好物】:苺大福・努力・御朱印巡り
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