★第23話 誰とも知らぬ偽物さん?
全部修正(2025/04/21)
→全部修正(2025/06/29)
◆
[悟川心冶]
はーお手洗いお手洗い。R組の戦い見れなかったのは残念だけど、ちょっとお腹が痛くなっちゃったから、これは仕方ないよね。グラウンド会場の廊下は湿気と気温が凄い。人気が多い所は涼しい風とミストがあるから良いけど、こうも少し離れると一気に体感温度が変わってくる。
ついに真正面から羽海君と戦うんだ。2回戦目の時に見たあの個別で羽を動かせる能力、そしてその恐ろしいまでの精密な操作。対策を講じなければ、簡単にやられるのは目に見えている。気を付けて相手しないと。
「ん?」
何やら会場からざわついた声が聞こえる。やばい、人の声が多い。心の声があらゆる方向からざわざわと僕の耳や心に聞こえてくる。どうしよう。処理しきれない。
僕は少々頭を狼狽えて、壁際に寄りかかる。やばいなあ、グラウンドの方に行っても声が聞こえてくるには変わらないし、今こうやって動かないのもマズイ。
「どうしよう…動こうにも体が、うっ気持ち悪い」
頭がくらくらする。一度にこんな人数の声は聞いたことが無い。大抵人が多い場所は歓声ばかりなのに、ここまで変な声だけが響いてるのは不思議でしょうがない。誰もこない場所だしどうしようもないなー。15分しか休憩時間ないのに。
▼▼『(それにしても、人じゃない奴が紛れ込んでも案外気が付かないんだな。皆して馬鹿みてぇ~)』
××『(大人は気が付いてるだろ。禍福課のみだが)』
××『(あの羽海って奴の化けの皮、誰が気が付くんだろうな~)』
「?」
誰の声?凄く周りの声よりもはっきりしてて、僕の頭に凄く鮮明に入ってくる。でも知らない人の声のはずなのに、やけに既視感というかそういうのに近い感覚がする。
…羽海君が人じゃない?何言ってるんだろ。でも、本当かもしれない。知らない人だけど、羽海君のこと知ってるみたいだし。これは百聞は一見に如かずかも。
車屋「あ、また顔色悪そうにゃー奴いるよ」
蛸背「おー本当やな。大丈夫か?」
「うーん、ちょっと目が回っただけ。でも運んでくれたら嬉しいです」
蛸背「やって。朝火運んでやって」
車屋「あいよーおんぶでいいよね?」
「ありがとう…車屋君」
少し頭が冴えてきた時、まさかの救世主として車屋君と蛸背君が通りかかってくれた。僕は車屋君におんぶされてグラウンドの方に向かう。凄い心配されたけど、人の声がずっと聞こえてきてまいちゃった♪、なーんて言えないし。
そのまま僕は甘えてグラウンドまでおんぶされていった。高校生になってこれはちょっと恥ずかしいけど。
◆
グラウンドの地面はさらさらと乾燥したきめ細やかな砂が広がってる。少し生暖かい風が吹けば、砂埃をまき散らして飛んでいく。
まだ3分だけ時間がある。僕はもう決めていた。彼に詳細を聞かないと気がすまなかった。
羽海「やあ」
「あ、羽海君…」
蛸背「(前の戦いからやけに落ち着いた顔しとるわコイツ)」
車屋「(性格コロコロ変わってて不思議~)」
2人の声も聞こえてくる。確かに最初に会った時とか、2回戦目の時とかで全然態度が違う。今までずっと人に対して厳しくて怖い顔して接してきたのに、凄くニコニコした顔で僕に話しかけてきた。
怖くても、真実は知りたい。心を覗いた時に見たあの禍々しい程の黄緑色の煙と、人間とも思えない嫉妬の塊。
「ねぇ、羽海君」
羽海「なに?」
「君、本当に羽海君なの?」
蛸背「何言ってるんや。そんな替え玉みたいな話あるわけないやろ」
車屋「……あるんじゃないの」
蛸背「なんや朝火まで何か勘でも働いとんのか」
試合開始まで後1分。長い時の様に感じるこの空間。自分の周り以外の声はことごとく耳が投げ捨てていた。苦しい位に絞めつけてくる。あれ、羽海君の目って渦巻いてたっけ?いつの間に、羽海君からこんなに”人”を感じなくなってたっけ。
「ねえ誰なの」
きっとこれを聞いたのは悪手だったかもしれない。彼はにやりと笑う。嗤う。彼の心の底から深い深い悲しみにもっと早く気が付けば良かった。
水島「離れろ!」
「!!」
目の前に羽海君はいなかった。姿かたちが一切原形もとどめていない。ただそこには、黄緑色の荒々しい鱗を身にまとった竜の化物がいた。先生の叫び声が戦いの開始を告げていた。
『ウワアアアアア!!』
僕にはあの化物の雄叫びが、どうしても悲鳴に聞こえて仕方なかった。
【ここだけの話】
牛視君は女子もうらやむ程に爪が綺麗。
白星君と色身さんの関係性は、河野さん曰く熟年夫婦らしい。それについて白星君はやんわり否定してた。
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