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星と僕らの××の扉  作者: 楠木 勘兵衛
★第2章.嫉妬にまみれた体育祭編
22/35

★第22話 惨状に微笑む

全部修正(2025/04/16)

→さらに全部修正(2025/06/29)


 ◆


[布紙包治]


 こういうのを青天の霹靂へきれきって言うんだろうか。それとも霹靂一閃だろうか。今そんな呑気なこと考えていい場合では無いけど、こうも目の前でおぞましさを伴う光景を見せつけられたら、現実逃避の一つや二つの考えが生まれても仕方がない。



「え、っと一応R組の勝利で…あー怪我人が多いな…。AIず、ちゃっちゃと回収するぞ」

AI「了解シマシタ。早急に治療をしまショウ」


蛇島「お前、本当に何してんだよ!」



クラスメイトが嫌に声を荒げている。胸倉掴んで喧嘩寸前。流石にこの場で変にいざこざを起こされては困る。ここは諫めないとな。R組の担任は最悪なことに体調不良で結構休んでるんだよな―。



「お前ら争うなら向こうでやってくれ。今は怪我人が優先だ。お前らは怪我人いないな。次まで15分あるから休めよ」


羽海「はーい」

蛇島「お前…!」

椿本「蛇君。落ち着いて」


 喧嘩を売られてたのは羽海か。悟川が変に感じるって言ってたその対象。確かに俺から見ても随分不気味な雰囲気だ。正直、人間のはずなのにな、嫌って言う程コイツから人外の気配を感じる。俺はそんなに禍福課の仕事してるわけじゃ無いんだけどな。まだ成って若いってのに、こうも感じるのは職業病か?この場にいる学生も勘が良い奴以外は、全くわかってないみたいだな。


 コイツを止めるのか。見かけだけの奴じゃない。絶対に何か隠してる。だが、俺が今暴いても向こうが有利だ。会場ここには弱い命が多すぎる。



「(応援してるぜ…悟川)」



 どうやって解決に導くのか存じ上げないし想像できないが、少しは期待した方が良いか。水島先輩が何処にいるのか分かんねぇし、ここは俺がやらないとな。


「行くぞAIども」

AI「了解シマシタ」



 今はこの場の処理しないとな。はー…、マダム先生に色々言われそう。



 ◆



[・・・]



 驚異的で一瞬の全滅結果に、観客も動揺を隠せてはいなかった。このスタジアムの如く広い会場には座れる席の他に一番上に立って見れる場所がある。流石に1年生の戦いには満席になる程の観客はいないが、ちまちまと人の数は決勝戦に近づくほど増えていった。それも、一番の目玉である3年生の時間までに暇が生じているからである。



▼▼『ねぇえーつまんないし帰ろうよ』



 長い白色の外套に、フードを深くかぶってつまらなさそうに会場を見ている。そんな誰かが隣にいる同じような格好で赤子を腕に抱えた連れに、帰ろうと嫌そうな声を上げた。しかし連れはそんな彼を人睨みして返答をする。



××『見ていないとダメだ。君だけで何処か行ってくれ』

▼▼『むすぅ。酷い奴。あんなのほっとけばいいだろ』



 どうやら会場の誰かと知り合いなのか、この惨状に対して無関心に突き放す言葉をかける。その態度に連れはため息をつく。



××『ほっといて困るのはあの方だ。仕事のミスで首を失いたくないだろう。私はそうだ。君もそうだろ』

△△『(きゃっきゃ!)』



 布を被る連れは抱えている子供をあやす。嬉しそうな子供の声が、その場に広がる。観衆が見る悲劇の光景とはまさに対照的な睦まじく健気な姿。炎をまとった男は頬を膨らまし、つまらないと罵ったグラウンドの人間を、鉄の棒に腕を置き暇つぶしとまた見下す。



××『ちなみにアイツは君そっくりだね』

▼▼『ふーん』



 ◆



[・・・]


 禍福課の仕事で一番に掲げられる言葉は、”やわい新芽を早急にめ”というものだ。意味としては、危ない奴が出た”瞬間”に殺すということ。どれほど疑いが深くとも、分かりきっていたとしても、向こうがこちらに敵意を見せるか姿を現すまでは、先に潰すことをしてはいけない。見切り発車の事案を無くすための訓戒くんかいとも言えるだろう。


 例えこの会場の寂れた廊下で、危険と噂が漂っている人間がいたとしても迂闊な行動に出ることは許されない。



羽海「何か御用ですか?水島先生」

水島「人知れない場所にいるのを不思議に思っただけだ」

羽海「そうですか…」



 彼はふわふわとした口調に、ぐるぐると渦を描いた目でにらみつけてくる。先程クラスメイトといざこざを起こしていた羽海とは思えない程に態度が変わっていた。彼はただ誰もいない廊下を1人でうろついていた。それを遠目に監視含めて見ていた水島は気になって話しかけたのだ。



羽海「先生は苦しい時、哀しい時、どうやって乗り越えたんですか?」



 重苦しい空気が漂い、その中で羽海は先生に問いかけた。学生の質問の中でも重く苦しい答えに悩むものだった。その質問に顔をわずかに強張こわばらせすぐに平然とした態度に変え水島は応える。



水島「ただ前を向いただけだ」



 その答えがぽつりと、しばし沈黙の時間が流れる。羽海の渦を描いた目の瞳孔がふうっと細くなる。

 5月の終わり頃、春の温もりが夏の暑さへと移り変わっている今の時期。軽く運動をするだけで額からは汗をかく。エアコンなど用意されていないこの廊下で、蒸し暑い空気がうようよと体中を不愉快に駆け回っている。



羽海「俺先生のことよく知らないんですよね」

水島「授業を持ってはいるが」

羽海「それでも知らないんですよ。でも、こうして無理にでも元気な貴方の姿を見れたのは良いものですね」

水島「何が言いたい」



 もう全てを諦めて哀れみを詰めこんで、彼はにやりと弧を引いてニヤリと微笑む。



羽海「そうだ。先生、貴方に面白い話を残したくて」

水島「………」

羽海「この世界にはどんな願いも叶えてくれる【願い星】がいるようですよ。辛い人生を送る人の下に祝福を届けてくださるって。信じるかは先生にお任せします」



 願い星。奇妙な話を彼は持ち掛けた。水島はとうに信じていないが、その言葉が心の底に記憶の縁に染みついたことは確実だった。



羽海「それでは先生さようなら。(次会う時はきっと…)」



 羽海は先生に別れの言葉を贈ったが、真意は全くもって気づかれることは無かった。



【ここだけの話】

・福禍高校の先生も寮生活。寮内はペット可だが、クラスメイトのアレルギーに配慮をするように説明を受ける。現状、Q組の寮では鳥羽が文鳥を飼っているのみ。

・水島先生は米をこよなく愛する米狂信者。炊き込みご飯は最強。塩むすびこそ至高。


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