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星と僕らの××の扉  作者: 楠木 勘兵衛
★第1章:新学期の春編
2/35

★第2話 傍にいるよ

修正(2024.08.29)→超大幅修正(2025.01.05)終


 ◆



 秋を超え冬に景色が様がわり。そして春を迎えた。新春の季節はまだ肌寒く、長そでは手放せない。

 僕は新しい制服を身に着ける。自分の部屋の棚の上には、勿菟君との写真と卒業証書の筒を飾っている。あの事件以降、勿菟君は僕に対して大人しい態度に変わった。今までの元気な彼はなりを潜めていた。彼の真意を読むことはできたけど、友達には変わりないし、自分にされて嫌なことは極力したくなかった。



「もう高校生か…」



 嬉しいのか嬉しくないのか、未だ実感は湧いていない。それより、早く学校に行かないと。中学から続けてるとにかく余裕持っての行動の継続が危ぶまれる。身だしなみを整え、鯉の血がべったりで新しく変えた赤いマフラーを身に着け、綺麗なリュックサックを背負う。初めての学校は気分が躍る。あれほど遅かった重かった気分を生み出した玄関の雰囲気は変わっていた。



悟川父「大丈夫??忘れ物確認した?」

「うん、大丈夫」

悟川父「ルナ、心のこと守ってあげてね…。心もルナが傍にいないと危ないから忘れないように気を付けてね」

ルナ『きゅう!』

「わかってるよ……。じゃあいってきます」



 父に見送りの言葉を貰う。ルナは元気そうに僕のマフラーに入り込む。僕は自分の家のドアノブに手をかけた。扉が開けば朝の陽ざしがめいいっぱい差し込んでいく。ここからが新しい世界の始まりだった。


 

 【これは僕が、僕らが、世界の厄災に向き合う物語】



 ◆



 いたって普通の閑静な住宅街。灰色の道を通り、僕は駅の繁華街の方へ足を進める。あるお店の近くを通れば、僕を待っていた人が大きく手を振る。



釣瓶「よー!心冶!」

「おはよう、燈爾君。朝から元気だね」

釣瓶「俺の家族は全員朝に強いからな。親父とお袋は俺の起きる1時間前に散歩で外出てるからな」

「あはは。健康的でいいね」



 待ち人の名は、あの事件の日に出会った別の中学校の彼、釣瓶つるべ燈爾とうじ君。あの日以降、何度か放課後に出会って親しくなり、お互いを下の名前で呼び合えるようになった。友達が1人増えたことはとっても嬉しかった。優しくて元気なところは勿菟君にそっくり。でも勉強は苦手らしく、一緒にどこかで勉強した時はいつも難しい問題の解説を頼まれてた。同じ系統の性格を持っていても、色々な差はあるもんだなって。勿菟君しか知らない状態だったから意外性しかなかった。



釣瓶「まさか受かるとは思わなかったな~。マジで心冶のおかげだぜ」

「君のその真面目さが功を奏したんだよ。僕はそうなりやすいように手伝いしただけ」

釣瓶「それだけでもありがたかったぜ?」



 受験の話に、今日までの春休みに何をしていたかの話、雑談をしながら駅を渡り歩き、電車に乗り込む。僕と燈爾君の家は同じ地域だけど、向かう学校は電車で3駅。もっと都会の方に進んでいく。


 僕らが目指す学校の名前は【福禍高校】。僕たちはあの高校の受験に見事合格したのだ。一般受験だから筆記だけだったし、それに特別科目の特殊歴史は大得意だ。自己採点で満点だったし、他3教科も全く困らなかった。


さて、僕は燈爾君と同じクラスになれるのだろうか。一度も学校見学は行ってないけど、禍福課を目指す特殊科が2クラス、工業科が3クラス、一番多いのは普通科の5クラスの合計10クラス。

普通科と工業科には非能力者だけのクラスが2つずつ。で、特殊科は全員が能力者。僕と燈爾君は特殊科を受けて見事合格。でも2クラスだから一緒になる確率は2分の1。外したくないなあ。



「あ、あそこだ」

釣瓶「おおー!勇星の校舎と全然雰囲気違うな」

「あそこは最新鋭で、こっちは伝統的な造りって感じだね」



 そうこうしているうちに僕たちは校舎の前にまで辿り着いた。赤銅しゃくどう色のレンガを基調に黒が似合う古い作りの校舎だ。創立当初からあの懐古かいこ的な雰囲気を維持いじしているとのこと。でも、古いままだとカビやヒビがあるから3年前に改装工事をして見た目そのままで中は綺麗らしい。



夜鈴よすず「1年生の皆様ご入学おめでとうございます~。玄関前にてクラスを振り分けていますので、そちらを参照に自分のクラスへ向かってくださいまし~」



 校門を超えた先の少し広い入口の間に、銅像が如くぬいぐるみ程の大きさをした雀がスーツを着てちんまりと高台みたいなものに座っている。いや座ってるの表現は合っているのか…?



釣瓶「あ、校長だ」

すずめ…?すごい雀の見た目だけど…」

釣瓶「夜鈴よすず涙祢なみね校長、理事長が助けた雀がたまたま人間並みの知能持ってて、なんやかんやで校長してるらしい」

「そのなんやかんやが気になるんだけど…」



 あの可愛らしい見た目の雀はなんと校長先生と役職持ちの雀だった。人間並みの知能があって従来の雀よりデカいことがまずツッコミどころだけど、これ以上の詮索せんさくは学校に慣れてからでいいか…な?すごい気になるけど。

 僕たちは足を進めて校舎の玄関前に辿り着く。まだ登校している人が少ないから、クラス表にはそこまで人は集まっていない。15クラスもあるから沢山人がいる時間帯に登校しないで心底良かったと思う。



釣瓶「えーっと、あった。あ、心冶、俺と同じクラスだ」

「本当?良かった…」



 僕と燈爾君は一緒のQ組だった。Q組って珍しい気がする。あと言いにくい。もう一つの特殊科はR組、他の科のクラスもS組やL組って、A組が普通だと思ったけど、この学校は不思議な部分が所々ある。さっきの雀の校長といい…



××「あ、Qクラスだ」



 隣の女子が呟く。彼女も僕たちと同じクラスみたいだ。女子は小中で苦い経験しかないから苦手だけど、これを機に少しは前向きに喋れるのかな。自分からは話せる自信ないから、何とも言えない想像にすぎないけど。



 ◆



 教室を探し出して、辺りを警戒しながら入る。クラス20人と中学時代よりは少人数。隣Rクラスはそれより少ない12人。少人数精鋭なのは高校だとそこまで珍しくはない…のかもしれない。中学時代の40人クラスと比べてはいけない。

 教室内は外観よりは大人しい色合い。真っ白の漆喰しっくいみたいな壁に机や椅子も、中学時代の教室とそこまで変わりばえは無い。机の上に生徒の名前のシールみたいな紙がある。自分の机を探し見つけて、そこに座る。

 出席番号は名前順だから、燈爾君とは少し離れてしまった。まあ同じクラスなだけでもとても嬉しいから、これ以上は望まない。


入学式はこの後すぐに行われる予定らしい。今この新しい空間で積極的に他人に話しかける人はいない。皆が新しい空間に放り出されている状況だからかな。緊張と人見知りで僕も遠くにいる燈爾君に話しかける勇気も気力もない。



「あ」



 自分の席は前から二番目、その一番前にいる人はクラスを確認した時に近くで呟いていた女子だった。ベージュの髪色に左右で大きな輪っかとおさげの髪型をしている。顔はよく見ていなかったけど、大きく輝いた種のような目が琥珀か金色に輝いているのは印象深かったので憶えてる。気になって配布されてたクラスの名前一覧を確認すると、僕の前の生徒は”小神こがみ雷子らいこ”と言うらしい。



「……」



 特にそれ以上の行動が思いつかなかった。ただ見かけて一緒のクラスだった、それだけだった。

 数分もすれば校内放送で入学式を行うとのこと。教室に入学案内としてやって来たのは、人ではなく自立型かのようなロボットだった。二足歩行に掃除機能がついてそうな体の重量感を見せるロボット。



AI『皆さん移動しますヨ。出席番号順に一列ヨロシク』



 そうロボットに言われて、みんなは素直に言われた通りに一列に廊下で並びだす。僕はルナを置いて行こうか悩みに直面した。この学校の制服は黒色と金色のボタンが装飾されている学ラン。また女子生徒も学ランで下はスカートかキュロットパンツの2種類という特殊な制服事情がある。

 今日来る時、ルナは僕のマフラーにいたけど、これは入学式では使えない。いや、でも、いける!ルナは自分の意思で体の大きさを変えることができる。それを利用してポケットに突っ込んでおこう。



「ルナ、小さくなって」

ルナ『きゅう』



 ルナは僕の意思を汲み取ってとっても小さくなる。ビー玉と同じ手のひらにキュッと収まる姿は、思わず潰してしまいそう。ゆっくりとポケットに入れてクラスメイトの列に並び、入学式を行う体育館に向かった。



 ◆



 この学園は本当に広い。学校案内に行ったわけじゃない(パンフレットは持ってる)から、何もかもが新鮮に見えるけど、この広さを東京に構えるなんて維持費も馬鹿にならないはずなのに、特別制度で学費を安くしているのは恐ろしい。体育館に移動するのはそこまで苦ではないけど、渡り廊下から見る外の景色はあまりに広い植物の景色が広がっていて、巨大な施設が幾つかそびえたっていてる。



AI『ここから向こうまで一列横並びでヨロシク。一番はあそこまで行ってネ』

××「はい…」



 僕たちQ組は真ん中の方に横一列で並ぶ。前に普通科のL~P組。後ろに工業科のS~U組。その間に挟まれた。20人クラスで、全員で右側に曲がって自分の位置にある椅子に座る。20人が横並びしても体育館の横幅は有り余っている…流石は準マンモス学校(燈爾君情報)。


 あとはゆっくり校長先生たちの話を聞くだけだ。儀式の場だけど何故か緊張が少し解ける。最初の挨拶にと淡々と儀式が進んでいく。何も起きないとはありがたい…皆の退屈そうな心の声とかちょくちょく聞こえるけど、これくらいは雑音だから平常心を保ってられる…



『・・・・あー!・・・・ましー!』



 前言撤回。前言撤回。平常心を保ってられない恐怖体験が現在進行形で起きてる。何処からの声なのか、多分地下か上の方から聞こえてくる。この体育館の不明な場所に、誰だか知らない純粋無垢な綺麗な声がはっきりと僕の頭に入って来る。

 何か助けを求める知らない悲痛な声。普通人間の心の声でもここまで透き通る硝子ガラスが突き刺さる程の声はしない。純真無垢な子供でもここまで痛くない。痛い。痛い。胸が苦しい。


 誰か助けを求めようにも、こんな重要な儀式の場でヘルプなんて声を上げられない。怖い。苦しい。悲痛な声がそのまま痛みを僕に与えてくる……。みんなの退屈な声よりずっとはっきり聞こえて耳が痛い…。



「…はぁ。はぁ」


小神「…大丈夫?先生呼ぶ?」

「……!…大丈夫です。心配かけてすみません」



 多分僕は息を荒げて苦しかった。ひたすらその純粋な声が僕の周りをうろついている。数多の声を遮って僕の耳に響いてる。

 その時、ふと僕の右手を誰かが握ってきた。隣を見れば女子生徒のクラスメイトが心配そうに僕のことを見て手をギュっと握っていた。僕の前の席にいた小神雷子さんだった。



小神「…辛そうな顔だよ」

「緊張しちゃって…青くなってるだけです。いつものことなので気にしないで・・・」

小神「心配だから、終わるまで握ってるね。ここからだと誰も見えないし」

「!?」



 まずい。小中学校で女子に散々悪口や噂を流され、女子に対して耐性も何もついていないまま育って15年。そんな僕にこうやって好意的に人助けをしてくれる女子なんて未知の存在だ。やばい、僕の顔がだんだんと熱くなってくる。恥ずかしい気持ちがこの僕の体中を血液を上げて温めてる。絶対変な人だって思われる。また蛆虫を見るような目をされてしまう。

 一旦落ち着こう。こうやっていじめられていた過去を掘り起こして自傷すれば、こんな思い上がりも沈没する。(哀しみ)


 僕がこんなにあたふた脳の思考回路を回転させている中、彼女は至極真面目に言った。



小神「これから一緒のクラスメイトだもん。辛いことあったら頼ってね。傍にいるから」



 本当に彼女は入学式が終わるまで僕の手を握っていた。傍からみたら何をしてるんだと思われるけど、このさりげない気遣いに僕は確かに救われたんだ。その時はずっと女子への恥ずかしさで声に意識を向けずに済んだのだ。



 ◆



 入学式を終えて今はクラスの自分の席に座っていた。どっと恐怖と羞恥で僕は疲れていた。リュックサックを枕にしてずっとうつぶせていた。本当はこの時間に話しかけたりして親睦を深めた方が良いんだろうけども、僕はまったくもって体が動かなかった。一体なんだったんだあの声は。”悲痛”と名ばかりに僕の心を悲しませて痛くてしかたなかった。



小神「えっと、その…」

「あ、僕は悟川って言います。名前は心冶です」



 前の方から小神さんが話しかけてきた。そう言えば、向こうは僕の名前を言ってなかった。多分プリント見ていないかもだし。顔を上げて自己紹介をする。



小神「じゃあ心冶君。今は体調大丈夫?」

「はい。もう大丈夫です。緊張が解けたので」

小神「そっか。あ、名前、私は小神だからね。これから3年間よろしく!」

「うん。小神さんよろしくね」



 高校生活で初めて話しかけてきたのは、まさかの女子生徒だった。とても優しい人がクラスにいてくれて、入学から幸先いいスタートなのかもしれない。


悟川ごかわ心冶しんや:男・15歳・168cm・7月21日生まれ・一人称【僕】出身地:東京(西側)

能力:人の心を読むなどの能力(人以外も制限はあるが読むことは可能※ただしポジティブ&好意的な声は聞こえない・また感情を高めてルナを武器として使用が可能)ただ普通のサトリの能力では無さそうで…?

心の中は騒がしいが、静かで優しい性格。昔は勿菟君以外の友達いなかった。人見知りはそこまでしないので話しかけやすいタイプではある。人の悪口や哀しみには敏感。また”特殊歴史”が得意科目で、文学小説は網羅している。幼い時に助けてくれた人を尊敬している。いなくなった母さんにまた会いたい。また絵がかなり上手いのだがあまり人に見せてくれない。

【好物】:海鮮丼・特殊歴史の小説を読むこと・クレーンゲーム(大得意)・映画鑑賞


▼良かったら「評価・ブクマ・いいね」してくださると小説活動の励みになります。とっても嬉しいのでお願いします。

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