★第13話 求められるもの
修正(2024.08.31)
完全修正(2025.03.27)
◆
[悟川心冶]
第一種目のモグラたたきの結果は2位に終わった。10クラス中2位と考えれば、結構頑張ったけども、1位との差は600点。その圧倒的な差は、次のやる気を削いでしまう程に”格”のようなものがあった。
布紙『はーい。次ここ2年生が使うから、1年生は教室にいったん戻って休憩してねー。次の種目までは他学年のを見るのもありかもね』
布紙先生の放送で、皆が一斉に教室に戻る。この仮想空間はそのまま2年生が利用するみたいだ。他学年のモグラたたきってどんなものなのかな…。
小神「次の種目は…ちょっと後だね」
河野「普通科の大玉転がしとか、工業科の試作ロボット的当て大会とか色々あるんね」
小神「次の私達がやるのって、R組との対戦だよね…」
河野「そりゃあ、特殊科はQとRの2つしかないからね」
小神さんは勝てるかなと心配そうな顔をしていた。教室に戻っても、誰も他学年のを見る為に出る気配はない。だって、先生に話があると呼び止められたから。小神さん達の会話でもあったけど、次に僕たちがやる種目はR組との対戦。何をやるのかは本番のルーレットの結果が出るまで分からない。モグラたたきで600点も差がついている以上、生半可な覚悟では大敗を受けるだけなんだ。
水島「よし、全員いるな」
先生が教室に入り、皆の空気が少しぴりっとする。後、副担任の恋山先生もやって来た。
水島「どうだった。第一種目は」
小神「…楽しかったけど、大変でした」
水島「だろうな。あれは過去に96年に神奈川に現れた災害を、当時の強さそのままに再現して利用したからな」
「!」
あのモグラの中に大阪のおばちゃんみたいな見た目がいた時、ほんの少しだけ引っかかってた。ゲームでよくあるユーモアと言われればそうだけど、あれは多分既視感によるものだった。
禍福課が発足して、海外や公的にも認められつつあった90年代に現れたモグラの化物。ちょっと思い出してきた…。本当にあの試合みたいに壁や地面から現れて、殴られては消えてまた現れるの繰り返し。果てしない戦いに禍福課は体力を削られ、しかも叩いて消す程、能力に耐性を持って強くなっていった。結果的に出現した扉の中に、数百キロを超えるモグラの好物(肉食動物だからミミズや蛙など)を献上して帰ってもらったあの災害エンティティ!
水島「お前らが400点を取ったのは、当時の事件で言えばエンカウントして戦い始めて約20分でもらえた得点だな」
恋山「ちなみに、R組の1000点は戦って約1時間くらいで、最終的にあのモグラは5時間の連闘だったの」
水島「別に、お前らが貧弱だ、R組に勝てないだ、なんだと責めるつもりはない。元よりR組は推薦入学者で構成されているからな。授業で使うまでぺーぺーだったお前らとは、経験で”少しの”差がある」
水島「俺は寧ろ褒めたいな。慧性・根性・社会性を求められる禍福課を目指すひよっことして、自然と役割分担ができていた部分があった」
先生が褒めている部分は、多分あの最後の10分間のことだ。(本文はダイジェストだったけど)攻撃ができるクラスメイトは、そのままモグラを相手した。攻撃を専門にしていないクラスメイトは総勢で先生を抑えるようになっていた。自然と誰かがお願いしたらそうなった。
水島「禍福課は一人で戦うこともあるが、それは少数。基本的には複数人による連携で災害と向き合うものだ。町や国を守っている偉大な英雄的側面が強いが、一番はそこにいる人の命を守ることが絶対だ」
水島「俺は学年1位獲れとは言わない。求められるものは己の能力を使い向き合う経験と、学校活動を通してのクラスの団結力だ。俺はお前らがこの3回ある体育祭をどう利用するか見てるだけだ」
恋山「怪我無く、能力の反動無く健康に。皆がやって楽しく、やってみて自分の力を発揮できたと、そう思えるくらい体育祭に挑んで欲しいです」
「……」
水速「…」
車屋「にゃー…」
蛸背「ふわあ~」
向き合う経験と団結力…楽しく、やってみて自分の力を発揮できたと、そう思えるくらいに挑んでほしい…。自分が今までサトリの能力以外は持っていないと思ってて、向き合おうとしなかった昔から、嫌でも付き合って行かないといけない今になったんだ。
ふと、思ったのが、あの羽海君はこの体育祭を楽しんでいるのかどうかだ。最初に覗いたあの心は、言葉に驚いただけだった。今思い返してみれば、彼の心は遠くからでも分かる位、嫉妬の感情をまとわせていた。
「(体育祭でクラスに貢献しながら、もっと、彼のことも知らなきゃ…)」
体が震えるくらい、何故か嫌な予感がした。もしかしたら、あの嫉妬心がこの体育祭で爆発するんじゃないかって。先輩1人にあの殺意を見せていた彼が、何か不祥事を起こさないか気になって仕方がない。一方的に疑うのは良くないって分かっているけども、でも僕の心臓がずっと胸騒ぎしてるんだ。
◇
[蛇島誉壹]
あの種目の戦いを一言で表すなら、圧巻だった思う。悪い意味で。
禍福課に求められるものと言えば、一番はお互いの協力による団結力だ。その次に個人の能力の強さだ。その考えは、大人から教科書から教わったことだけど、それを一番心がけていたのは、羽海利旺だ。
アイツは自他共に認める努力家だ。死ぬほど負けず嫌いで、誰よりも優しい奴だった。それがいつの間にか、ある日を境に歪んでいった。それが単なる俺の錯覚だったら良かった。
羽海『出来ないこと、出来ること、みんな違うだろ。だから補い合って、より完璧に近づける。誰も怪我をしない、誰も死なないように、安全にかっこよく助けられるようになれる』
そう言って、目を輝かせて語っていた昔が懐かしい。
羽海「強ければ、弱い奴らの無駄な出番など無い。圧倒的な強さが完璧の結果を生み出す。絶対的で圧倒的であるほど、皆が縋りつき傘となる」
そんなこと言う人だったっけ。いや、俺が昔のアイツに憧れすぎていて受け入れられないだけ……だよな。そうだよな?
アイツの変わった全てを、俺はどうしても受け入れられない。どうしてか、気味悪く感じてしまう。あんなに、皆で頑張って平和を目指そうと進んで人の手を取ったアイツが、人の手を振り払って独善的で孤独を望むようになってしまった。
椿本「蛇島君…大丈夫?」
「あっ…おう。大丈夫だぜ。この通り、兄弟も元気元気~…」
椿本「まだ今日は一度も顔を見て無いけど、貴方の兄弟」
俺に話しかけてきたのは椿本冬香。俺と羽海と同じ【務瑠貝中学校】の同級生だ。普段からポーカーフェイスで多くを語らない、日本人形みたいな白い肌と黒い髪が印象的な奴だ。
そして何より、人の感情や体調変化によく気づく。勘が良いおかげで、何も隠せない。俺の髪の毛先が蛇になるという能力の性質のせいもあるけど。
椿本「また彼のことで悩んでいたの?」
「まあな。小、中の途中まで見てきたアイツと180度変わってるからな」
椿本「それはそうね。中学時代の彼しか知らないけど。それでも分かる位には変わってる…」
俺と椿本は自然とアイツの顔を見る。たった一人で教室の窓から外を眺めている。気配に鋭いアイツのことだから、こっちの視線は気づいてるだろうなあ。
誰もアイツに近づかない。アイツも誰も寄せ付けない。同じクラスで切磋琢磨しあう仲になるはずが、致命的な溝ができあがっている。
これじゃあ、協力も団結もありゃしない。個人の強さも必要とは言われてるが、世界や国の危機を救うには一人の両手じゃすくいきれないのにな。
さて、どうしたもんか。
蛇島誉壹:男・15歳・171cm・7月8日生まれ・【一人称】俺・出身地:東京(23区のどっか)
【能力】:目と目が合った動くモノを止めるなどの能力(髪の毛先が蛇になり、そいつや自分が睨むと効果を発揮する)
爽やかだけど素直じゃない性格のヤキモキパリピボーイ。同じクラスに中学時代の同級生が2人もいる(しかも推薦入学者で)自分の能力にはあまり自信がない。だから、彼が褒めてくれた時はとっても嬉しかった。結構綺麗好きで、蛇の能力の影響で外気温の高低差に弱い。
【好物】:ささみ・唐揚げ・洋楽・洋ドラマ・友達
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