表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/41

第22挑☆酸の泉で再会! 藤花の涙 前

 俺の名前は大一文字挑。大統領の屋敷で、大統領の護衛・羅忌と絶賛戦闘中だ。羅忌の従者の2人は俺と関根で倒した。残るは羅忌1人。


「3人で束になっても関係ありませんね」


 羅忌は、すっかりなくなってしまった天井から夜空へと舞い上がり、扇面から降りて扇子の要を持った。


「死になさい」


 羅忌が扇子を仰ぐと同時、酸の雨が俺たちに向かってきた! 屋根の影に隠れたくても、屋根がねえ!


 俺は毒液で、関根は蹴りの風圧で、赤鬼は炎の玉でそれぞれ酸の雨を弾く。自分の身を守るので精いっぱいだ。カイソンは藤花とモコ、ポワロンといっしょに廊下まで下がっている。


 酸の雨は降り続き、先程扇子で作られた巨大な穴に溜まった。酸の泉の出来上がりだ。ここには絶対に落ちれねえ。


 羅忌は再び扇面の上に乗り、俺たちを見下ろしている。


「ちんたらやっててても仕方ねえ、いっきに決めるしかねえな」


 俺が言うと、関根はバタフライポーションをズボンのポケットから取り出して飲んだ。赤鬼の野太刀が力強く赤く輝く。


 そのとき、何かが俺の背中を叩いた。


 なんだ⁉


 振り向くと、モコの触手。触手の先には、蕾がモコに作ってあげた花冠がある。


「これを使えってのか?」


 廊下に控えているモコを見た。目がない。何を訴えているのかよくわからん。だが、花冠を渡してきたってことは、使えるってことだよな?


 花冠の耐久力はほぼないに等しい。使うなら、チャンスは1回だけだ。


「私が羅忌の動きを封じる。仕損じるなよ」


 赤鬼が言うと、俺と関根はうなずいた。


 刹那、赤鬼の野太刀が火を噴く。羅忌めがけて炎が突進していく。


「無駄です」


 羅忌はひらひらと舞いながら、扇面に乗ったまま炎をかわしていく。だが、炎の追撃は止まらない。


 炎に追われて羅忌が広間の壁に近づいていく。同時に、赤鬼は炎を操りながら、地面を蹴り、壁を蹴って空中に飛んだ! 


「ふうん!」


 赤鬼の野太刀が羅忌の脳天めがけて振り下ろされる! だが、羅忌はそれをかわす。そのかわした先を読んで、関根が風刃切りを放っていた!


「なっ」


 羅忌はたまらずしゃがみこむ。黒髪の端が切れる。その低い位置に来た顔面に向かって、俺は毒液を絡めた花冠をブーメランのようにして投げた!


 体勢を崩した羅忌は、花冠をよけきれない! 羅忌は無理やり扇で花冠をガードした。


 そのガードごと、赤鬼が野太刀で断ち切る!


 扇が真っ二つに切れた。その向こう側にいた羅忌の身体も縦に切られた。羅忌は血を吹きながら、自らが作った酸の泉に落ちていく。


 ……かと思ったが、羅忌が酸の泉に着く前に、オオムラサキが羅忌と泉の間に滑り込み、羅忌の身体を乗せて空中に戻った。


「くっ……下民の分際でこの私に深手を負わすなど」


 羅忌は、オオムラサキの上で片膝を立てている。傷は相当深そうだ。武器の扇子も失ったし、もう戦えそうにねえ。


「もう、邪魔できねえだろ」


 俺たちは大統領のいる執務室に向かうべく、広間ではなく別のルートに向かおうとした。


 そのとき、廊下の奥から足音が聞こえて来た。1人や2人じゃねえ。


「なんだなんだ?」


 相当多い、この足音! まだそんなに敵がいるのかよ⁉ 


 俺たちはこちらに向かってくる足音の正体を確かめようと、廊下の奥のドアが開くのを待った。


 バンッと勢いよくドアが開く。そこから飛び出してきたのは。


「藤花!」


「蕾ちゃん⁉」


「蕾!」


 額から汗を流しながら、蕾が走って来た。蕾の親父や、農家の人たちも。


「蕾ちゃん……皆さん、どうして」


 驚いている藤花を、蕾は抱きしめた。


「藤花! 藤花……無事でよかった」


 藤花はおそるおそる、でもしっかりと蕾を抱きしめ返した。


「蕾ちゃん……ごめんね」


 蕾は藤花の腰に腕を回したまま、藤花の顔を見つめた。


「どうして藤花が謝るの?」


「だって、私……。私は、本当に世間知らずで、何にもわかってなくて。蕾ちゃんの力になりたいのに、なれなくて。1人で何にもできなくて、こんなにたくさんの人に迷惑かけて」


 蕾は首を横に振った。


「何言ってるの。みんな、藤花を心配して来ただけだよ。みんな、藤花が大好きなんだよ」


「……蕾ちゃん」


「私も……。藤花、ごめんね。藤花がモデルになるって言ったとき、私、自分1人じゃ何にもできないくせに。人の夢を奪うな! って、言った。……すごく、ひどいことを言ったと思ってる」


「……それは、本当のことだよ」


「ううん。私、藤花に嫉妬して、ひどいこと言ったの。最低だった。ずっと、あのときの自分が大嫌いで。藤花を遠ざける自分がすごく嫌で。なにもかも嫌いになって。ずっと、つらかった。藤花を傷つけて、本当にごめんなさい」


 蕾は藤花をまっすぐに見つめて謝った。藤花から涙がこぼれた。藤花は流れ落ちる涙をぬぐいながら、蕾に言った。


「蕾ちゃん……私、まだ、蕾ちゃんと友達でいられる? また、いっしょに、いられるかな」


 蕾も目の端に涙を浮かべながら笑った。


「当たり前じゃん! 私たち、ずっと友達だよ」


 藤花はもう一度蕾を抱きしめた。肩を震わせながら泣いている。


 ずっと、こうやって、会いたかったんだな。


「よかったね」


 2人の様子を見ながら、カイソンがつぶやいた。


「ああ」


 俺もうなずいた。


 そんななか、蕾の親父が俺たちに声をかけてきた。


「で、結局誘拐犯はこちらの方々で?」


 蕾の親父は赤鬼と関根を見ている。


「あ、いや……これは、なんつったらいいのかな」


 俺は後ろ頭を掻いた。


 そのときだった。


「愚民どもが、全員不法侵入ですよ」


 空から低い声がした。羅忌だ。いつのまにかオオムラサキの上で立ち上がっている。


 次の瞬間、羅忌の頬が大きく膨らんだ!


 あれはまさか、黒袴が使っていた酸の水鉄砲か⁉


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ