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第21挑☆大統領の秘密兵器 オオムラサキ現る 前

 俺の名前は大一文字挑。ヘーアンの国の大統領と話すため、赤鬼の操縦するヘリに乗って大統領の屋敷に侵入した。


 大統領の屋敷内には、当然警備の人間たちがいる。ヘリで庭に降り立とうとしたとき、当然庭に武装者たちが集合して、こっちに向かって銃で発砲してくる。


 だがな、こっちには赤鬼がいる。


「一掃する」


 赤鬼はアカオニシジミの能力を使って、庭にいる武装者たちに火をつけた。


「ぐわあああああ!」


 意識がある中でいきなり火だるまになるんだ、混乱するわな。


 そのまま燃え尽きる者もいれば、火を消そうと暴れる者、庭の池に飛び込む者。ヘリが着陸して俺たちが降りてきても、誰も俺たちに向かってこない。


「楽勝だぜっ」


 俺たちは難なく屋敷の中に入った。


「先頭は俺が行く」


 関根が先に走り、出てくる武装者たちを蹴り倒していく。一撃で相手の意識を刈り取るんだ、やっぱりこいつの蹴りはすげえ。


 後方から来る敵は、赤鬼が対処する。建物の中だからか、炎は使わないが、野太刀がある。出てくる敵を簡単に斬り刻んでいる。


 俺とカイソンは、藤花をかばいながら走っていた。屋敷は広くて迷路みたいだが、藤花が案内してくれる。大統領のもとまで一直線だ。


「この奥です。きっと、父は執務室にいます」


 藤花が指さした方向には広間がある。その向こう、正面の廊下の奥に、扉が見える。あそこか!


 俺たちはいっきに走り抜けようとした。


 広間に入ろうとした瞬間、広間が真っ暗になった。


「なんだ!?」


 俺たちは立ち止まり、思わず天井を見上げる。


 照明が消えた!?


 いや、ちがう!


 照明が隠されている。


「なんだ、ありゃ……!」


 広がった羽根は、広間を覆い隠すほど巨大。10メートルはあるかもしれねえ。羽根が動くと、その表面は青紫色に白色のまだら模様。


 ポワロンが叫んだ。


「あれは、オオムラサキ! SRのバタフライよ!」


「SRだって!?」


「チョーさん、下にも!」


 カイソンに言われて左右を見ると、モコの3倍は大きいイモムシが2体。緑色の身体をのそのそ動かしながら出て来た。頭には長い2本の角。黒い鼻に、


「こいつら、目がある!」


黒い目が2つ。見た目はモコの数十倍可愛い。しかし、でっけえな、こいつら!


「この幼虫たちも、オオムラサキよ。こんな、1体でも珍しいのに、3体もいるなんて……」


 ポワロンが驚いている。


 俺たちのバタフライはというと、俺にはヒューイットソンキララシジミの幼虫、モコ。カイソンには、いない。前大統領の洋館までついてきたヒメギフチョウは、バトルの後いなくなってしまった。赤鬼にはアカオニシジミ、関根にはセナキバネセセリ。


「オオムラサキか、良いバタフライだ」


 赤鬼が言うと、関根がうなずいた。


「はい。手に入れておいて損はないですね」


 ふいに、紫色の着物に白い袴を履いた、黒い長髪の男が現れた。両脇には、黒い着物に黒い袴を履いた男2人を従えている。


「これはこれは、藤花様を直接返しにいらっしゃったんですか?」


「違う! 大統領と直接話をしに来たんだ」


 俺が答えると、長髪の男は紫色の扇子を広げて口元を隠した。


「お前は、昨日大統領を殴った男……チョー、とかいいましたかね」


「そうだよ。てめーは誰だ」


「私は大統領の絶対防御であり最高兵器、羅忌らき。私と戦うことはすなわち死を意味します。おとなしく藤花様を返せば、無残に殺すようなことはしませんが、どうしますか?」


「待って」


 藤花が前に出た。


「藤花!?」


「羅忌、パパを呼んで。話がしたいのです」


「藤花様、何をおっしゃっているのですか? 話があるのはそちらの犯罪者たちでしょう。そんなもの、聞く必要はありません」


「私が、話をしたいと言っているんです」


「……わかりませんね、藤花様はその者たちに捕らわれているのではないのですか?」


「それは……」


「ぐちゃぐちゃうっせえ! いいから、大統領を呼べよ!」


 俺が怒鳴ると、羅忌は眉をひそめた。


「いずれにしても、こんな犯罪者たちがいる場に大統領を呼ぶことはできませんよ」


「ならば、力ずくで通るまで」


 それまで黙っていた赤鬼が、野太刀をかまえて前に出た。羅忌とやる気だ。関根も戦闘モードに入る。


「カイソン、藤花を頼む」


「了解っす」


 カイソンは藤花をかばうようにして、後方に下がった。


「行くぞ、モコ」


 モコの触手が俺の腕に伸びる。腕の色が紫色に変わり、指先から毒液があふれ出す。


 次の瞬間、赤鬼は正面の羅忌、関根は右の黒袴、俺は左の黒袴に向かって走り出した。


 羅忌の持っている扇子が光り、羅忌の背丈より巨大化する。羅忌がくるりと舞えば、扇子と赤鬼の野太刀が火花を散らしながら衝突する。その衝撃は風となって広間に広がる。


 その風を受けながら、俺は自分の相手に向かって右の拳を繰り出した。


「おらあっ!」


 ところが、俺の拳は空を切る。相手は俺の肩口を掴んで開店した。


 やべえ!


 そう思ったときには俺の身体は宙を舞っていた。背中から倒れたが、ダメージは少ない。俺が倒れた瞬間を狙って、相手の掌底が降ってくる。顔面をめがけてくるものはわずかな差で避けながら、相手の手首を掴もうと、俺も手を出す。


 相手の右手首を掴んだ! 俺の毒手で手首を破壊すれば……!?


「なに!?」


 相手は簡単に俺の手を振り払って、反対の拳を突き出してきた。俺は身体を回転させて素早く起き上がった。


 俺にまともに掴まれたのに、あの手首、まったくダメージがねえ。


「どういうことだ……!?」


「チョー、オオムラサキの幼虫の能力は、酸よ!」


 まさか!


 身体から酸を出すことによって、毒を打ち消した!?


 相手の男はにやりと笑い、頬を膨らませた。


「マジか!」


 男は水鉄砲のように、酸を噴き出した。俺が避けると、酸が後方の壁に当たり、壁に大きな穴を開けた。


 相手の男はにやにや笑っている。


「オオムラサキは酸だけではない。体術を超強化してくれる」


 刹那、男が目の前に飛んできた。嘘だろ、こいつ……!


 見えない速さで拳が飛んできた。俺はとっさに両腕を組んでガードしたが、ガードの上から拳をくらっちまった。


「ぐうううっ」


 俺の身体が後方に吹き飛ぶ。なんて重てぇパンチだよ、関根の蹴りよりヤバくねえか? 俺じゃなかったら、腕折れてるぞ。


 一息つく間もなく、相手が俺を追いかけて拳を乱れ打ってくる。なんとか隙を見て打ち返すも、あっさりガードされる。毒液を飛ばしても、酸で相殺される。


 こいつはやっかいだぜ。


 パンチを連打しながら、相手の男が言った。


「これならどうだ」


 次の瞬間、相手の拳が俺の身体より大きくなった。


 大きく見えた、じゃねえ。本当に大きくなりやがったんだ。その拳が、俺を潰しにかかってきた。


 避けられねえ!


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