ドワーフが来た&人が集まリ始める
「ダンジ、あの若い奴ら、村作るって?」
「ドワルゴ、そうなんだよ」
「大丈夫なんか?まだ10代なんだろ?」
「あのさ、あいつらの職業知ってるか?1人は大農民。1人は大商人なんだよ」
「ほお。上位人気の職業だな。将来性はバッチリってわけか」
「もちろん、俺やフレイヤのバックアップありだし、セリア街の冒険者ギルドマスターも後ろ盾になっている。それに移民希望者が集まっている。彼らの経験も馬鹿にできない」
「何か特産品とか特徴はあるのか?」
「まだできたばかりで立ち上がっているともいえないレベルだがな、一応のインフラは整っているぞ。俺の作った魔道具も入りまくってるから、かなり先進的ではある」
「ふむ、ここレベルの設備を享受できるわけか」
「興味あるのか?一度見に行ったらどうだ。顔ぐらいなら知ってるだろ」
「うん、実はなここ10階層に来たがっているドワーフは多いんだよ」
「10階層では酒とか最前線の魔道具作ってるからな」
「だけど、欠員待ちだろ。来ても職がない」
「ああ」
「ダンジョンに関係の深い村ができるのならば、そういうドワーフたちに紹介したいんだが」
◇
「こんなに集まったの?ドワーフたち」
「これでも厳選したんだぜ。みんな、一流の腕もってる連中だ」
50人ほどのドワーフが集合していた。
これでも希望者の一部だという。
「いっそのこと、ドワーフ村を作ってみる?」
「おお、そうしてもらえるとありがてえ。ドワーフは少し人族とは習慣とかが違うからな」
「名前は北辰ドワーフ村でいいな?」
「ああ。問題ないぜ」
こうして、村の隣にドワーフ村が建設された。
ドワーフたちの特徴としては、地下を好むこと。
大量に水を使うことが多いので、地下水路を建設する必要があること。
この2点は最低条件であった。
「ドワーフと言えば鍛冶師なんだけど」
「もちろん、そうだ。だがな、ここに集まった最大の理由は酒造りだ。醸造をはじめ、新しい酒づくりに燃えてるやつらばかりだ」
ドワーフの多くはエールづくりに従事する。王国の水は汚い場合が多い。特に都市部では生水は危険だ。だから、水は必ず浄水するし、水よりもエールが好まれる。エールは火が通っているからだ。
「まずはエール部門なんだけど、森のダンジョンではホップを生産しているのを知ってるよね」
前にも述べたが、王国での主流はグルートという、ハーブを複雑に配合したものを使っていた。エールに風味を与え、保存性を確保するためだ。
しかし、ハーブ配合は領主やギルドが独占販売権を持ち、秘密にされていた。だから、新しいハーブの登場が長らく待ち望まれていたのだ。
「問題は、ダンジョンでの栽培物は量が限られること、それと、魔素の問題があるので、気軽にダンジョンの外に出せないこと」
森のダンジョンでのエール製造は質が高いが大量に作ることができない。雲母たちが望む村の将来像は数百人から数千人の村と多くの人の集まるレジャー施設だ。
「大量製造を前提にすると、いろいろとダンジョンとは違ったアプローチが必要になるよね」
「うむ」
「でね、エールだけじゃなくて研究部門を作りたいわけよ。まあ、最初はホップの研究からはじめたいけどね」
「ふむふむ、酒に関係しないのならばブーイングが起こるからな」
ホップだけでも種類が一つだけではない。
多くの種類があり、それぞれに特徴がある。
「それとさ、エール生産設備も必要だからね。鍛冶屋と魔道具屋も必要でしょ」
「となると、ドワーフ50人でも足りんかもしれんの」
「今は十分だけど、将来的にはそうであって欲しいね」
後年であるが、ドワーフ村は数百人の規模にまでふくれあがることになる。
【人が集まり始める】
こうして村経営がスタートした。
「農業がこんなに楽なもんだとはな」
豊富な農機具魔道具が村人を助ける。
「僕たちもみなさんの経験に助けられていますよ」
この世界の農業従事者から見れば、北辰村の設備は常識を遥かに越えたものであった。
勿論、農機具だけで農業をするわけではない。農業は自然が相手だ。天候に大きく左右されるし、土壌や水も問題、虫害、病気に気を配る必要がある。
だとしても、先進的な農機具魔導具には驚くほかない。
大抵は木製のクワ一つで荒れ地を開拓するのだ。それに比べれば、村の農業がいかに楽であるか。
これが森のダンジョンとなると、農業に関するこれらの懸念が一気に解決される。しかし、森から一歩外に出ると農業の過酷さが一気に襲いかかってくる。
「ダンジさん、森のダンジョンって本当にチートですよね」
「ああ、こうしてダンジョンの外に出ると実感するな」
「量を作ることができるのならば、森で農業したいですけど」
「そこがネックなんだよな。まあ、なかなか上手くはいかないってことだな」
ただ、雲母たちと村人たちは地道に働き続け、半年も経つと、村の外の人たちにも優秀な村の内容が漏れ伝わるようになってきた。
まず新しく集まってきたのは、村人の身内だ。村人たちのもといた限界集落。そこで食べていけない人たちは出稼ぎに出たり、街に移住したりしていた。
「凄い光景だべさ」
村に見学に来る人たちは一様に驚く。広々とした穀物畑、牧場、多種類の耕作物、そして、それに関わる人間の数の少なさ。王国の常識を遥かに上回るものであった。
「これが大農民様の開発した魔道具だべか」
「おおさ、凄いぞ。あっという間に畑が拓けて種が巻かれ、収穫もあっという間だべ」
「肥料、虫害、病気にも強いものが開発されてるべ。一度ここの農業を味わってみろ。もう外には戻れんべさ」
「しかもだ。これ食べてみろ」
「おおお!なんだべさ、これ!美味すぎるべ!」
「ハンバーガーってやつだべ。うめーだろ。全部、この村で生産したもんだべ」
勿論、人手不足だ。
続々と伝手をたどって移住希望者がやってきた。
この村が先進的な農業をしているから、というだけではない。そもそも、この世界では飢えている人がゴマンといるのだ。
この村には元々は限界集落の村人が集まってきたが、同程度の村がたくさんあるのだ。特に王国では人口増加が顕著だった。それに農業生産が追いついていなかった。農業にむいている土地はほぼ開拓していた。
後は、湿地帯とかカラカラに乾いた荒れ地とか木の生い茂る森とか簡単には拓けない土地ばかりだったのである。




