街は悪人だらけだった&移住者
「フレイヤさんが、この世界の人間は信用できないのが多いって言ってたけど、その通りだな」
「肉丸チェックかけると、低位魔物みたいに赤色反応するやつがゴロゴロいるもんな」
肉丸チェックとは誠実度チェッカーのことで、対象の加害意思を判別できる。
「商人は駄目だな。騙そうとしている輩ばかりだ」
「こっちが若いと思ってニヤニヤしてるのも多いよね。カモ認定でもしてるのか、感じ悪い」
「商人ギルドも全滅だったし」
「美人の受付、あの人の腹が真っ黒だっていうのも驚いたよ」
「だよなー。清純そうで真面目そうなのに」
「僕、いまだってあの人から告白されたら、コロッといく自信あるよ」
「誠実度スキルもってるオレだってそうだよ。オレのチェックはなにかの間違いだ、この女性に限っては、と思い込む未来が見える」
「ショックだよなー。反面、クラスメイトの女子は見直したよね」
「ああ。オールグリーン」
「まあ、彼女たちがレッドだったら人間不信になるけどな」
「商人はあれだったけど、冒険者ギルドは良かったじゃないか」
「最初の印象は悪かったろ?ギルドに何人かの冒険者が屯してたけど、半分以上はレッドだったぜ」
「うん、ヤクザの事務所にきたんじゃないかと最初は思ったもの」
「でも、受付はグリーン」
「グレースさん。名前聞いちゃったもんね」
「あの人はミヤさんに続く天使だな」
「ミヤさんレベルの美貌で優しげな笑顔付き」
「抜け駆けすんなよ」
「てか、相手にされないわ」
「いいじゃねえか。夢を見たって」
「まあまあ。ギルマスも意外だったよな」
「2m近い体格、俺達の脚より太そうな上腕、ハゲで厳つい風貌、夜道で会いたくないよな」
「ああ、おしっこちびりそうになる。ヤクザの組長と言われても通るよな」
「でも、グリーンだった」
「ダンジさんと親しげに話していたけど、そのせいもあるのかね」
「ああ。ギルマスとか上位陣の冒険者がダンジさんの食堂にくるからな。女神様の御威光もあるし」
「ギルマスも商人を推薦してくれるって言ってたし。頼りになるよな」
「あとは村人が来てくれるかな」
◇
「初めまして。僕が北辰村の村長の雲母です」
雲母が村のリーダーとなった。これは自然な選考で、昔から何かあると先頭に立つのが雲母なのだ。職業が大農民ということもあるし、各種申請での村の代表者は雲母になっている。
「初めまして、オラが代表のアズールですじゃ」
ここは冒険者ギルド。
移民希望者の代表者と会うことになった。
「オラたち、年寄りばかりで……まだまだ体は動くんだけんど、何しろこのところ不作続きで……ですんで、ダメ元で村の移住に応募したんだけんど」
応募のあったのは限界集落の村長さんだった。若者はすべて街に出稼ぎに出ていってしまい、残った高齢者のみで村を守っている状態だった。
「僕たちもまだ村を立ち上げたばかりです。とりあえず、1か月のトライアルを乗り切りましょう。僕たちにはダンジョンと女神様の御加護があります。きっと上手くいくでしょう」
「おお!」
◇
「なんて美味しい料理なんじゃ!」
「体の隅々まで栄養が行き渡るようだ」
「いや、ちょっと待て!おおお、偏頭痛が治っていく!」
「古傷もだ!あのしつこい関節痛とともに、古傷が消えていくぞ!」
「女神様の奇跡だ……」
老人たちは北辰村に到着すると、まず歓迎の食事会に招かれた。そこで出される数々の料理。これが体調を整えるのに役立つのはすでに実証済みである。
それからはずっと村のターンである。
「これがワシらの住まいですか?大きくて透明な窓ガラス、見たことがありませんぞ」
「家にある高級魔道具の数々。エアコン、お風呂、トイレ……貴族レベルではないですか」
「おおお、これが大農民様の農業の仕方ですか!」
「強力な土魔法と農業用魔道具、とんでもない光景ですな」
いかな限界集落のものとはいえ、農業だけで長年生活してきた人たちだ。彼らなりの農業の仕方というものがある。
しかし、眼の前で展開される光景は彼らの経験を吹き飛ばしてしまうものだった。例えば、耕作といえば木製の農具で耕していく。亀のような遅さ。それでも、1日が終わればクタクタだ。ところが、この村では魔道具で一瞬である。だだっ広い耕地があっという間に耕される。
「これが大農民様の農業!」
唖然とする移民希望者を前に、
「力仕事は魔道具にまかせて、皆さんには植物の生育状況とか土壌状態とか培われた経験を教えていただいきたいのです」
雲母は農業スキルが発現するのだが、それをいかように使うのか、については経験不足なのである。
移民希望者の経験を吸収することで、将来的には、土壌PHチェックスキル・植物状態チェックスキル・防虫、病気、必要肥料をチェックし対策もたてられる、つまり農業用薬師スキルの3つが発現することになる。




