港街へ2 海産物の充実
大海蛇は流石に巨大すぎてマジックバッグには収納できなかった。それで岸壁まで船で運んで、適当な大きさに切って収納した。
「確かにフレイヤの言う通り、皮が固いな。あの魔猪より固そうだぞ。魔猪ではスッパリと通ったオリハルコン製の包丁がちょっと引っかかったからな」
「これは見事な攻撃であったな!大海蛇をあっさり一撃で粉砕するとは!」
司令官がやってきて俺達に称賛と感謝を述べてくれた。
「こんなデカい獲物だから、焼き肉パーティしましょうか?」
「おお、しかし、大海蛇は固くて我々では……」
「ああ、それはまかせてください」
俺は大海蛇の半分ほどを外に出し、皮を剥ぎ取った。そして、俺は熟成魔法をかけた。
熟成魔法は俺が練り上げた会心の魔法だ。
肉の熟成はそれぞれの肉の持つ酵素による内部分解によって起こる。そして、外部の雑菌による腐敗を防ぐ。この二つの働きを魔法で実現したのだ。
冷凍熟成室での熟成と比べると少し味が落ちる。それでも、短期間の熟成としては出色の出来栄えを約束してくれる。
「焼いてみました。食べてみてください」
「おお、全然固くないぞ。淡白だがしっかりと味ののった美味い鶏肉のような感じだな」
「大海蛇の半分だけ置いていきますので、市民の皆さんに振舞ってあげてください」
半分とはいうものに、軽く千人が満足できる量だ。
「そうか、誠に感謝する。御礼といっては何だが、なんでも言ってくれ。できることなら何でもするぞ」
「俺たちは海産物が欲しいんですよ」
「うーむ、それは数日待ってくれんか。漁に出られなかったからな」
「了解。じゃあ、2週間後ぐらいに再訪しますよ」
◇
これで俺は様々な種類の海産物を手に入れた。
また、カツオ節というかいろいろな魚の雑節を作ってみた。それぞれ味の特徴があり、ますます俺の調理の幅が広がることになる。
特に自家製うま味調味料の完成を見たことが大きい。うま味調味料はイノシン酸、グルタミン酸、グアニル酸を適量混ぜたものだ。
具体的には
イノシン酸 鰹節、雑節
グルタミン酸 昆布
グアニル酸 しいたけ、キノコ
これらを乾燥させて粉砕、微粒粉にしたものが自家製うま味調味料となる。
「ほお。この粉をかけただけでずいぶんとコクが増すの」
俺達が食べているのは、うどんだ。
強力粉よりの粘りのある小麦を使用し、ツルツルもっちり腰のあるうどんを冷水で締め、うま味調味料と醤油、ネギ、生姜あたりでさっぱりと啜り込む。
「らあめんとやらも美味いが、このうどんとやらも実にいい食感ではないか。妾はこちらのほうが好みじゃの」
「ラーメンはどっちかというと麺よりスープ重点料理だからな。こっちは麺が命だ。ちょっとタイプが違うんだ」
そういうことを言うとラーメン派の人は一言言いたくなるかもしれない。つけ麺みたいなものもあるし、決してラーメンをディスってるわけじゃない。ラーメンも美味い。
でも、外国の人などは豚骨ラーメンをスープ料理ととらえ、下手すると麺を残したりするらしい。ラーメンの麺を特徴づけるカンスイには癖があるしな。それにラーメンの原価はかなりスープよりであろう。
なんにせよ、これでしばらくは海産物には困らない。たっぷりとマジックバッグに貯蔵したからな。
ただ、寄生虫が怖いので冷凍室を作った。ここで魚をカチンカチンに凍らす。すると寄生虫が死滅するのだ。
「海鮮丼か。生の魚がこれだけ美味いとはの」
「寄生虫とかは心配ないからな。ちゃんと処理してある」
「この魚はモチモチして口の中に旨味がどばーと広がるの」
「鯛か。2日ほど熟成させたんだ」
勿論、魚の名前は前世に似た魚からつけている。
「この魚のハラワタも甘くてほんの少し苦みがあって美味いの」
「さんまのハラワタだな。その甘味は本来の内臓の持つ脂肪分などの味だ。処理を誤ると苦いだけのものになるからな。あれは不味い」
ハラワタの苦みの好きな人もいるようだが、俺は苦手だ。ただ苦みしか感じられないし、あの苦みは内臓の鮮度が落ちて胆嚢が破れて胆汁が漏れたからなんだ。
俺は決して苦みに弱くない。コーヒーなど苦みマシマシのが好きだし。だが、サンマに限らず魚の内臓の苦みはちょっと質が悪く感じる。
「まだまだ魚の料理は続くぞ。どんどん食べてくれ」
その他、イカの姿焼き、イカ墨料理、マグロの漬け丼、アジフライ、ぶりの照り焼き、サバの味噌煮……など無限に続く魚料理を堪能していく。
「魚がこんなにバリエーションのある美味しいものだとは思わなかったのじゃ」
「本当ですわ」
「だべ」
「ウニャ。バウ」
なお、大海蛇は期間限定の珍味として格安で放出した。マジックバッグには1トンほどの大海蛇の肉が収まっており、少々のことでは目減りしない。
確かに不味いものではないが、ダンジョンの魔物たちにとっては海産物というだけで珍味なんだ。そして、他にも美味しい海産物がたくさんある。
だから、大海蛇は人気料理の一つ、というところに収まった。
【米麹に挑戦】
港街で大量に海産物をゲットした。刺し身も食べ放題だ。そうなると、日本酒が欲しくなる。しかし、麹が見つからない。そこで、米麹の自作にチャレンジしてみることにした。
米麹の作成は簡単じゃないが、作り方はわかっている。というか、作りかたの一つを知っている。
米ぬかをタッパに入れて30度程度の気温と適度な湿度のもとに置く。
カビが生えてくる。
そのカビを選別する。
麹菌は白色→黄色→黄緑→うぐいす色に変化するのが普通。特定しやすい。
黒いカビはおそらくケカビで不可。
ただ、黒麹カビもあって甘酒に使える。
保存は冷凍庫で。
酵母菌を取り出したら、蒸したお米に投下。
そのままかき混ぜつつ保温を継続。
1日程度で白や緑のフワフワが。
米麹の完成である。
ただ、残念なことに日本酒の製造は難しい。ワインなんかとは難易度がダンチだ。ワインは極端なことを言うとブドウをほっとけばワインになる。日本酒はそういうわけにはいかない。
一応、製造工程はテレビで見て大まかには記憶しているんだが、だからといって簡単に作れるわけじゃない。日本酒は先送りだ。
そのかわりと言っては何だが、醤油や味噌づくりに再チャレンジした。今まででも醤油や味噌はあったんだが、思い描いているものではなかった。かなりの違和感があったんだ。ちょうど、中国醤油に感じるような違和感。
そこで、米麹を使って醸造してみると、かなり思い描いた味に近づいた。一度でも満足な味を再現できれば、あとはその経験を魔道具に活かすことができる。




