港街へ1 ガルム大暴れ
食堂では野菜も肉も一通り揃ってきた。
だが、決定的に不足している食材がある。
海産物だ。
「この世界に海ってあるのか?」
「無論、あるのじゃ。この森からじゃと南へ6時間ほどかかるかの」
「それはおまえの足でか?」
「勿論じゃ」
「そうなると俺の足ではもっとかかるな。朝一で出発して日没までには間に合うかな?」
「調理魔道具が充実してきておる。数日ぐらいならば店を開けてもいいじゃろ」
店のことは調理を含めて店員で回せるようになってきた。サキュバス・インキュバスといった人型の魔物だけじゃない。ブラックハウンドがますます有能になってきている。2本足で業務をこなす奴もでてきているし、調理もやりはじめているのだ。あ、魔猫は相変わらずだが。
ということで、店は女神様にまかせて俺とフレイヤ、ガルムの三人で港町に行くことにした。
◇
店を早朝に出発し、少し日が傾く頃に港についた。
「思ったより早くついたな」
「うむ。お主の体力が上がっておるの」
「あれ?門のところに人だかりができてるんだが」
「あー、みなさん。ただいま港には入場規制がかかっております」
港街をぐるりと囲む外壁。中に入る門には他の街同様、門番がいる。入場するには身分証明書を見せればいいのだが、今日に限って入場できないようだ。
「港で怪物が暴れております」
怪物の名前はシーサーペントだという。
「知ってるか?」
「シーサーペントは大海蛇じゃの。外見は蛇に似ておる。ただ、蛇の仲間かどうかはよくわかっておらん。とにかく、でかいぞ。体長は30mほどある。成長しきると100mを越すこともあるといわれておる」
「危険そうだな」
「単純にでかいからの。気性も大人しくはない。しかし、あまり陸地に近い場所には棲息せんという話じゃったが」
「どっちにしても退治しなくちゃいかんだろ。俺達でできるか?」
「問題ないじゃろ。ガルムもおることじゃし」
「で、美味いのか?」
「食べるつもりか?うーむ、一度だけ食したことはあるが、まずい訳では無いがとにかく堅いの」
「ふーむ。魔猪と同じで熟成に時間がかかるとか?」
「わからん。魔物ではないしここはダンジョンでもないからすぐには消えてなくなったりはしないが」
「港の人たちの手に余るようなら、俺達でやってみるか。なあ、門番の人。退治できそうなんか?」
「いや、2週間ほど暴れまくっておってな。手がつけられん」
「俺達Sクラスダンジョンの深層でも潜れる実力があるんだが、俺達にやらせてみないか?」
「ほう。そこまで言うなら話を通してやろう」
ということで港街に入場できた。
◇
「諸君らが大海蛇退治に志願してくれたものたちか。なるほど。只者ならぬ気配があるな」
俺達は港街を守る警備隊の司令官のところにつれていかれた。
「で、どのように攻撃するつもりだ?」
「牛がのれる程度の大きさの船を貸してもらいたいのじゃ」
「牛だと?」
「今回は、こちらのものが攻撃を担当するからの。おい、ガルム。通常サイズを見せてやれ」
「わかっただ」『ぼわん』
「うわー!なんだ、このおっそろしい化け物は!すまん、命だけは!」
司令官と回りにいた警備兵たちは腰を抜かしてへなへなと地面に座り込んでしまった。
「落ち着け、司令官。危害は加えん。では、船を貸してくれるかの?」
「おお、大丈夫なのか?……しかし船員はどうするんだ?」
「不要じゃ。妾たちで船を動かす。下手にそばにおると巻き添えをくらうからの」
◇
こうして、牛サイズのガルムが乗れる程度の小型帆船を貸してもらうことになった。
「帆船じゃからの。操縦は風魔法ですいすいじゃ」
実際、凄い速度が出ている。おそらく、この帆船史上最高速度であろう。物凄い勢いで水しぶきをあげながら船が進む。運転も風魔法で無理やり船を捻じ曲げている。
とはいうものの、時速40kmぐらいだろうか。それでもこれ以上だと船がバラバラになりそうだ。通常だと最大時速20km程度で進む船なのだ。
「よし、このあたりじゃの。少し先の海中に大海蛇の気配があるわ。攻撃はガルムにまかせるからの。妾たちは結界を張って高みの見物じゃ」
そうフレイヤが言うやいなや、結界を張り巡らし殺気を周囲にばらまき始めた。すると、突然海上が盛り上がり、大海蛇が巨大な姿を現した。
「ガルム、頼むぞ」
「まかせろだべ」
そう言うとガルムは全身から『死の波動』を撒き散らした。
「グオオオオオオ!」
途端に大海蛇は体を大きくくねらせ、苦悶の雄叫びをあげた。しばらくのたうち回った挙げ句、大海蛇は白い腹を見せてプカリと海に浮かび上がった。
「凄いな、ガルムの死の波動。結界があっても死を感じたぞ」
「妾たちでも結界がないとお亡くなりになるからの。じゃが、ガルムも力を放出できて満足じゃろ?」
「だべ。しばらく力の出しどころがなかったがら、体がムズムズしておっただべ」




