オリハルコン包丁の製造
「思ったよりも防御力があるな。フレイヤの言う通り、中途半端な距離では物理攻撃が通らん」
「うむ。お主の包丁技、平気ではねのけておったの」
「この感じだと、接近しても俺の包丁では攻撃が通らんかもしれん」
「どうする?」
「うーん、ドワルゴに頼んでマグロ解体用の包丁を作ってもらうか」
◇
「強くて折れにくい剣がほしいって?そんなの当たり前の性質じゃろが」
「いや、過去最高性能のものが欲しいんだよ。攻撃対象は魔猪」
「ああ、魔猪か。あの皮膚はやっかいだな」
「俺の使った包丁なんだが、刃が通らない」
「ちょっと見せてみろ……素晴らしい鋼じゃの。最高級じゃねえか。これでもダメだってか」
ドワルゴは鉄の硬度や靭性をチェックできる。
「この包丁から魔法刃が射出されるんだが、魔法刃は包丁の強度に比例するんだ。魔猪には通用しなかった」
「なるほど。知ってると思うが、鉄は硬ければいいってもんではない。折れやすくなるからの。そこで粘り強さを性質に加える。さらに、錆びにくく温度変化に強いという性質も必要じゃ」
「ふむ。特殊ステンレス鋼か」
「ワシラの間では【オリハルコン】と呼ばれる合金が最高性能と言われておるの。オリハルコンは天然モノもあるが、殆ど見つからねえ。世に出回っているオリハルコン鋼は最高の鍛冶師の手で生み出したものじゃ」
「最高の鍛冶師か」
「ああ。伝説級じゃの」
「ドワルゴはどうなんだ」
「ワシがどうこうというよりも、現状では伝説級のドワーフはおらん」
「そうなのか」
「じゃがの、ダンジ、お主の料理を食べ続けてきて実感することがある。ワシのスキルは向上し続けておる。特に食べた直後は一時的にスキルが上がっている」
「そうじゃ。ダンジの料理にはスキルを向上させる力があるのじゃ。妾も長年スキルの向上は止まっておったが、ダンジと出会ってからスキルが向上し始めたのじゃ」
「ああ、自分で言うのもなんだが、俺もそれは感じていた」
「しばし待て。そうは言ってもオリハルコン級の金属は簡単にできるもんではない。土の精霊、ノームと相談する必要がある」
「ノームか。ケロ精霊だな」
「うむ。あのケロじゃ。特殊な金属が必要になるからの」
「作り方はわかっているのか」
「ああ。ドワーフならば誰でも知っておる。伝説級のスキルと材料が揃えばどのドワーフでも作れるはずじゃ」
◇
1か月後。
「ダンジ、どうじゃ!とうとうやり遂げたぞ!」
げっそりと痩せ目を血走らせたドワルゴが、頬を上気させて店に飛び込んできた。
「オリハルコン級の包丁か!」
「そうじゃ!」
ドワルゴが懐から取り出した包丁。鞘に収まっている。ドワルゴが包丁を鞘から取り出すと、包丁から切り刻まれるような緊張感が漂ってくる。
「おお、見るからにヤバそうな包丁じゃないか」
「ああ、その木に向かって包丁を振ってみろ。ああ、取り扱いは慎重にな」
「うむ」
この包丁、凄いなんてもんじゃなかった。森の太さ30cmほどの木に向かって何気に包丁を振ってみた。『スパン!』と音がしそうな勢いで木が切断された。
「なんだ、この切れ味。ナチュラルに包丁からえげつない魔法刃が繰り出されるじゃないか」
「切れすぎて普段遣いはムリじゃの。下手するとまな板とかキッチンとか壁とか、切断されまくることになる。無論、刃こぼれなどせんぞ」
「伝説級というか、妖刃って感じだな」
「気をつけて包丁を使えよ。包丁を扱う者のスキルと意思の強さに比例して切れ味が高まるからの」
「おお」
「ワシは1か月ほど休養する。ダンジ、わかっておるな」
「まかせとけって。引き続き、俺の特製メニューを届けるから」
俺はドワルゴのためにずっと丹念に調理した特別あつらえの料理を出していたのだ。
◇
さて、魔猪。
結果を言う。
いとも簡単に魔猪は真っ二つに切断された。
すぐさま、魔猪をマジックバッグに放り込み、店で解体を行う。体の構造がわかって初めて包丁スキル『解体』が使える。それまでは地道に魔猪をバラしていく。
一度、体の構造を把握すれば後は簡単だ。
「解体!」
新包丁を袈裟懸けすれば、部位ごとに瞬時に切り分けられる。
「解体したのはいいんだが」
俺は肉熟成室に吊り下げられた魔猪を見つつ熟成チェックを行ってみた。
「魔牛以上に熟成が必要そうだな」
魔牛だと熟成に1か月は必要だ。魔猪はチェックするまでもなくそれ以上の期間が必要なことはひと目でわかった。
魔猪の肉質は柔らかいのだが同時に簡単にはオリハルコン製以外の包丁が通らない。勿論、歯で噛み切れるものではない。
「魔猪の皮も硬いが、肉も本当に切れんな。そりゃ、強いはずだわ」
それでも、熟成期間を2ヶ月もおくと流石に肉が分解されて程よい噛みごたえになった。ここに至ってようやく普通の包丁で魔猪の肉を切断できるようになった。




