火の精霊も酒・お菓子両方大好き。風の精霊はめんどいやつだった
「どうじゃ。儂らの腕は」
「さすが、ドワーフだな。あんな綺麗なグラスとか宝石とか、凄すぎんぞ」
「まあ、儂らにはできんもんはないからの」
「ほう。じゃあさ、これは?」
「む。痛いところをついてきたの。この店の食器か」
「どう?こっちの硬質な輝きとこれはオフホワイトの柔らかい輝き」
「正直にいう。この店の食器はの、作り方がわからん。白すぎるし、固すぎる」
「俺もはっきり知ってるわけじゃないが、これは磁器と言って、特別の粘土を超高温で焼いたものだ。それが硬質な輝きを生む。そこに動物の骨を混ぜて焼くとこの柔らかい質感のものになる。前者は磁器、後者はボーンチャイナって呼んでいる」
「ふむ。まず、特別の粘土とは?」
「白くてキメの非常に細かい粘土さ。俺達はカオリンって呼んでいる」
「カオリンというのか。それはあっちの世界の特産品なんだな?こっちにもあるのかな」
「土の精霊に聞いてみるか?」
◇
「カオリンケロ?うーん、カオリンって名前の粘土は聞いたこと無いケロ。でも白い粘土なら探してみるケロ」
「お願いするケロ」
「だから、口真似するなケロ」
◇
「こうして白い粘土を何種類か探してくれたわけだが。これらがカオリンなのかどうかは焼いてみんとわからん。高温って焼くというのも難しいな」
「ガラスを溶解できるのなら、大丈夫なんじゃないか?」
「ガラスはな、溶かすのにさほど時間はかからねえ。しかし、磁器ってのは要するに陶器のグレードアップバージョンだろ?長時間の焼成が必要そうだ。となると、火魔法魔道具の魔石消費量が心配だな。窯ももっと耐火性の強いのが必要かもしれん」
「なるほど」
「魔石使い放題なら、火魔法は問題ないし、窯に耐火結界を張るってのもありだ。現にガラス製造には普通に使っているからな。要はコストに合うかどうかだな」
「ふむ。確かにコスト度外視というのも避けたいな。すると、窯の問題は耐火レンガって線か。どっちにせよ、耐火レンガを焼き上げるにはやっぱり耐火の窯が必要だろ」
「うむ。耐火レンガを焼き上げるために耐火結界にお世話になるか。少しずつ耐火性能をあげていけばいいからの」
「では、火魔法はどうする?」
「火の精霊に頼むのはどうかケロ」
「おお、サラマンダーか。奴なら長時間の高出力火魔法でも平気だな」
「そのサラマンダー、受けてくれるんか?」
「奴も甘党の酒好きだ。問題なかろう」
◇
「これ、くれるってか?」
「おお、サラマンダー、じゃんじゃんやってくれ」
「うーむ、さすがはドワーフおすすめの酒だけあるな。ゲロうまやんか」
「甘味もどうぞ」
「おお、おお、この白いクリームたっぷりのふんわりケーキと黒くていい香りのするのがかかったケーキ、どちらも美味すぎるな!脳天に響く味やんか。これを食べつつ、酒をあおる。最高やんけ!」
趣味嗜好は人それぞれである。
「これ、毎日でも提供するぞ」
「極楽やのー。で、頼み事って?」
「かくかくしかじか」
「そんなことか?俺が窯ん中で寝てるだけでいけると思うで。まかせろ」
というわけで、徐々に高温に耐える高いレンガが 作り上げられていった。その過程で、磁気に向く白粘土を特定し、カオリンと名付けることにした。
◇
で、ドワルゴはやっぱり1か月ほど顔を見せないと思ったら、いきなり店にやってきて果てた。箱に入った食器を抱えて。
「どうじゃ。渾身の作品じゃ。俺は寝る」
「ほう、素晴らしい磁気とボーンチャイナだな。ありがとう、これで店の食器、追加の目処がたったぞ」
「グーガー」
◇
「ねえ、ちょっとお願いがあるの」
「ねえ、ちょっとお願いがあるの」
「ねえ、ちょっとお願いがあるの」
「何?」
「風の精霊のシルフちゃんがね」
「風の精霊のシルフちゃんがね」
「風の精霊のシルフちゃんがね」
「お菓子欲しいんだって」
「お菓子欲しいんだって」
「お菓子欲しいんだって」
「いいぜ、呼んでこいよ」
「だって、恥ずかしがり屋さんだし」
「だって、恥ずかしがり屋さんだし」
「だって、恥ずかしがり屋さんだし」
「ああ?じゃあさ、これ君たちに渡すから」
「恥ずかしいから要らないって」
「恥ずかしいから要らないって」
「恥ずかしいから要らないって」
「どっちなんだよ」
「あのね、お願いしますから」
「食べてくださいって」
「言うのよ」
「は?めんどくさいやつだな」
「でも、いいことあるよ」
「でも、いいことあるよ」
「でも、いいことあるよ」
「ま、いいか。風の精霊さん。お願いしますから、このお菓子食べてください」
風がフンワリと吹いてきて、
同時にお菓子を運んでいった。
その時から、食堂の周囲には柔らかでいい香りの微風が流れるようになった。
「この風はね」
「病気にかからない風なのよ」
「元気もでるのよ」
「へー。じゃあ、毎日お願いしとくか、お菓子の進呈」




