精霊たちはお菓子とお酒がお好き
さて、お菓子といえば水の精霊さん。
店の裏には果樹園があり、
そこの中心に精霊の泉が水をたたえている。
「お菓子もってきたよー」
ピューと集まってくる精霊さんたち。
お菓子の回りをぐるぐる大変な勢いで回っている。
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
「今日はお友達もいるの」
「今日はお友達もいるの」
「今日はお友達もいるの」
「友達?」
「いい香りやんか。オラにも分けてケロ」
草むらからゴソゴソと小人が出てきた。
なんだか、癖のある喋り方をする。
「土の精霊さんです」
「土の精霊さんです」
「土の精霊さんです」
身長15㎝程。
随分と老人の姿をしている。
赤い三角帽子をかぶり、豊かな髭が目立つ。
「はい、どうぞ」
俺は追加の皿を出して土の精霊さんにも
チョコレートケーキを渡す。
「おいら、ノームっていうケロ」
「名前があるんだ」
「私達にもあるわよ」
「私達にもあるわよ」
「私達にもあるわよ」
「私達はウンディーネ」
「私達はウンディーネ」
「私達はウンディーネ」
水の精霊さんたちとは付き合いは半年以上だが、
初めて名前を聞いた。
「名前というか、種族名じゃの」
ふーむ。
「このダンジョン、植物が急速な成長を遂げるじゃろ?あれは半分はダンジョンの神秘じゃが、半分はこのノームが活躍してるのじゃ」
「ノームって1人しかいないのに?」
「無数におるのじゃ。でも、ノームは1人で全部、全部で1人、みんながつながっておる。そういう種族なのじゃ」
「よくわからんが、今ノームがケーキを食べているが、これはノーム全員が味わっているということか?」
「そういうことじゃの」
「クンクン、クンクン」
「なんじゃ、ノーム。何かダンジが気になるか?」
「酒の香りがするケロ」
「ああ、リンゴ酒がマジックバッグに入ってるんだ。飲む?」
「コクコク」
「はい、どうぞ」
「ゴクゴク。うおっ、美味すぎるケロ」
「ああ、そりゃ良かった」
「なあ。友達のドワーフに作り方教えてやってケロ」
「ドワーフ?いいぜ」
「ドワーフは精霊じゃが、男しかおらんのじゃ」
「じゃあ、どこから生まれてくるんだよ」
「ダンジョンの石から生まれるのじゃ」
「石から?」
「うむ。ちょっと変わった精霊での。鍛冶と酒が大好きなのじゃ。での、ダンジョンを飛び出して人間の街で活躍しておるぞ」
「へえ」
◇
「ハイホー、儂がドワーフのドワルゴじゃ。美味い酒を飲めるということで街から飛んできたのじゃ」
「ああ、土の精霊の言ってたドワーフね。ついでにウチで飯食べていったら?」
「おお、すまんの。しかし、まずは酒が飲みたい」
「そうか。じゃあ、色々あるんだけど、全部飲んでみる?」
「おお、話が早くて助かるぞ」
「はい、りんご酒と蒸留りんご酒。ワインとブランデー。ラム酒」
「おおおお!なんじゃ、この蒸留酒とやらは!物凄い酒精ではないか!しかもじゃ、口当たりが良くてグビグビ行ってしまうぞ!」
「美味いか?」
「勿論じゃ!強いだけじゃないの!酒精の強さにまけない強烈で鮮烈な味があるの!」
「おお、それは良かった」
「うむ、是非とも作り方を教えてくれ!」
「蒸留酒自体は難しくないぞ。この機械で酒精をどんどん凝縮していくんだ」
「なんと」
実際に自分でも動かしてみる。
「ほお……なんと簡単に酒精が凝縮されるものじゃ。このまま凝縮していくとどうなる?」
「蒸留を何度も繰り返すと、純粋な酒精になる。身も蓋もない味だぞ。それはそれで医療用に使うか、薄めて何かで味付けするかだな」
「ふーむ。なあ、蒸留酒ならば何でも蒸留できるわけか」
「ああ」
「ふふふ、頼む。オレは昔から色々な酒を作りたかった。チャレンジしたいんだ」
「うんうん、俺もそういう熱血漢を求めてたんだ。酒の種類をどんどん広めてくれ」
◇
ドワルゴのもと、瞬く間に酒の種類が増えた。
まずはエール。
「遠くの国の話じゃがの、エールに特有のハーブを合わせているという話を聞いたことがある。ホップとかいったの」
そのホップをドワーフの知り合いの商人に
探させ、種をいくつか手に入れた。
「エールがこれだけ美味いんだ。ホップの僅かな違いがすぐにエールに反映される。だから、どのホップがいいなんて決められない」
ということで、エールだけでもホップが違うだけの多くのエールが生まれつつある。
ホップは薬草でもある。
種類が多く、「ホップ香」は、ホップの種類によって異なるが、シトラシー(柑橘のような香り)、フローラル(花のような香り)、スパイシー(香辛料のような香り)、グラッシー(青草のような香り)の香りがある。
次は、ウィスキー。
「ウィスキーとはエールの蒸留酒だ。俺が名付けた」
これはエールのホップ投入前のものを使う。
だから、ある程度は簡単なんだが、
「ウィスキーはな、熟成が大切なんだよ。まず、樽の選定。木のフレーバーが大事だ。それから、焦がした樽を使うともっと趣が出る。そのままだとキツすぎるから、一旦焦げを落ち着かせて使ったりな」
「ほお。そんなに繊細なのか。熟成はどの位?」
「数ヶ月から長いと50年100年に及ぶな」
「100年か!センチュリー酒となると、天界に献上するものだな」
「ドワルゴが進めているのはトウモロコシを主体に作る酒か」
「うむ。やっぱり、貧乏人の飲む酒が必要だ。しかし、手を抜く気はねえ。しっかりした酒を作るつもりだ」
「命名してやろう。それはバーボンだな」
「バーボン?気のせいか、甘みのある独特のフレーバーが浮かんでくるぞ」
「バーボン熟成に新品の焦がした樽を使用して、その樽をウィスキーに使うのもいい手だぞ」
結局、ドワルゴは樽の選定に忙しく、
蒸留酒はウィスキーとバーボンで手一杯だった。
「こんなに酒づくりが奥深いなんて思っていなかったぞ。なあ、助手を連れてきたいがかまわんか?」
「何人でも」
こうして、10階層の一角にスピリットバレー
が出来上がり、多くのドワーフが集うのであった。




