勇者パーティ、派遣される1
「今日の肉はまあまあじゃったの」
この国の王族は肉を手づかみで食べる。中年太りの腹をかかえた男は王国の王であった。ネチャネチャした手を自分の服にこすりつけ同じくネチャネチャした口元を袖で拭き取る。
「あなたは本当にお肉が好きなのですね。私はこの臭みがあまり好きではありませんわ」
などと宣うのは女王だ。クチャクチャとした音をたて豪快に肉を食べているのだが。
「もうお父様もお母様も肉ばかり食べていないで早くあの議題を考えてください」
こちらは食い散らかした骨を遠慮なく床に吐き出す王女だ。
王室の食堂の床は捨てまくる食べ物の残骸で一様に脂肪でベタベタしている。
「あの議題か。例のダンジョンの3階層で砂金が見つかったというやつか」
「そうですよ。ただの砂金ではありません。石といってもいい大きさのがたくさん見つかっているんですよ」
「あなた。早く占拠しませんと」
「まあ、まて。我ら以外で誰がその場所を占拠するっていうんだ?」
「もう。のんびりしすぎですわ。すでにいくつかの貴族が動いていますのよ」
「ふん。ウチ以外ではたどり着けんわ」
「あなた、召喚者に信を置きすぎているのではありませんこと?」
「そうですわ。前前回の召喚者、確か剣聖でしたわね、彼女が逃亡した先が例のダンジョン。捜索したら砂金がみつかったという流れなのですわ」
「だから、拘束の腕輪を強化したろ。あの娘達は我らが言うがままじゃ」
「確かに、召喚者は使い捨てです。でも、召喚するにもコストがかかりますのよ」
「コスト?税を少し上げるだけですむ話ではないか」
「まあ、そうなんですけど。召喚者は不要になればポイ捨てですが、お父様、それでもコストパフォーマンスを考えて頂かないと」
「あなた、宝石を買うお金が減るのは嫌ですわ」
「おまえ、少しは自重したらどうだ?」
「まあ。あなたの浮気癖を見逃しているのですよ。少しは私に感謝して頂けないと」
「浮気ではない。若いエキスを吸っておるのじゃ。余の健康法じゃ」
「で、お父様。召喚者を差し向けるのはいつなのですか?」
「命令は発しておる。近日中に用意でき次第、攻略に向かう手はずになっておる」
「早くして欲しいのですわ。金鉱山なんていくつあっても足りるっていうことはないのですわ」
◇
数日後、森のダンジョンの入口には多数の兵士と4人の若い女性が整列していた。
「森のダンジョンには召喚者を偽った女が逃亡中だ。今から捜索のために中に入る。計画通り、2階層までは整列して侵攻、ベースを作る。そこからは私達だけで3階層を捜索する。以上。全軍、前進!」
「おー!」
「俺、このダンジョン初めて入るんだが、特別なのか?やけにピリピリしてやがるが」
「知らんのか?S級ダンジョンである森のダンジョンを」
「S級?そんなに難易度が高いのか?」
「他のダンジョンの3倍は難易度が高いと思ったほうがいい……中に入ればすぐに雰囲気はわかるぞ」
「了解……なるほど。1階層なのに、空気がもったりしてるな。魔素濃度が高いってわけか」
「魔素酔いに注意しろよ。最初は気分が良くなるんだが、だんだん気持ちが悪くなるからな」
「ああ、魔素酔いは知っているよ」
◇
「うう、やっと2階層に突入か。さっきまで気分良かったのに。吐きそうだ」
「ああ、俺はフラフラしてる」
「よし、ここいらでベースを作るぞ」
「大丈夫なのか?こんなところでベース作って……うわっ、またゴブリンがやってきたぞ」
「ゴブリン襲来、反撃体制をとれ!」
「え、どっちから」
「あっちだよ!10体ほどが突っ込んでくるぞ」
……
「ふう。なんとか撃退したな」
「まだ2階層だっていうのに、他のダンジョンのゴブリンよりも強いな」
「ああ、同じ層で比較すると魔素濃度も高いが魔物も強いんだ。俺達は防御に徹するからな。そう心配するな」
……
「ウギャー!スライムが!」
「スライムが大量にテントに湧いてるぞ!ああ、トーマスがスライムに溶かされる!なんとかしろ!」
「駄目だ!すぐに退却しろ!」
「畜生!トーマス、すまん!」
……
「ふう。ようやく3階層ね。大丈夫かしら、兵士の皆さん」
「ベースは2階層の入口だから問題ないでしょ?」
「それにしても、ダンジョンって何度来ても慣れないわね」
「特にこのダンジョンは酷いですぅ。他よりも3倍は魔素が濃いって話だけど」
「私達、王都のそばのダンジョンだと地下10階には到達してるのよね。でも、ここの息苦しさは比じゃないわね」
「みんな、警戒。10時方向から魔物の群れ」
「感じとしてはヘルハウンドかしら。5体ほどいるわね」
「隊形確認。私が前列。優奈は中衛。美桜と彩花は後衛」
「いつも通り、優奈が瞬殺でしょ」
「黙って。来た!ファイアフレイム!あれ、2体うち漏らした。前衛の渚、頼むわよ!」
「まかせて。エリアブレード!」
「久しぶりね、渚の剣技」
「いつもなら優奈の魔法でまとめて瞬殺だもんね」
「噂通り、ここの魔物は強いってことかしら」
「S級は伊達じゃないってことね」
「魔素も濃いし、ちょっとフラフラしてきたわ」
「お嬢さん方。ようこそ」
「え、いつの間に?」
「あのさ、怪しいもんじゃないよ」
「何言ってるの!みんな、いくわよ!」
「ああ、こいつら戦闘狂だな。フレイヤ、頼むよ」
「わかったのじゃ。スリープ」




