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男子小学生の初恋 後編



ハズキは久し振りに転生前の自分の息子と娘の夢を見た。

「お母さんのカレー美味しい」と口いっぱいに頬張りながら自分を見つめるキレイな瞳。息子はお替りし過ぎでリバースしてしまってたっけ。あの時は怒っちゃったけど、今ではそんな馬鹿な思い出も涙が出る程幸せだったと思う。

リオと私は血の繋がりが無いけれど、彼は、あの子達から貰った物と同じ幸せを毎日くれる。世の中、自分の思うようになる事の方が少ないけれど、リオには幸せでいて欲しい。




リオはハズキからお小遣いをもらって、近所の駄菓子屋で豪遊して家路についていた。

公園の横を通り過ぎようとした時、ヒナノが1人でしゃがんでいるのを発見した。

「ヒナノ〜!」

突然、名前を呼ばれてヒナノが振り返る。長いポニーテールの髪が勢いよく揺れた。

「何してんの?」

走り寄ってヒナノを見下ろすと、彼女の前には段ボール箱の中で体を丸めて横たわる仔犬がいた。

「わ!捨て犬?」

「多分……」

「ガリガリだ」

雑種だと思われる短毛種だが、栄養が行き届いていない為に毛はボロボロで所々はげてしまい、うっすらとアバラが浮いている。

「どうしよう……ウチの家はペット禁止だから連れて帰れない。でも、このままじゃあ……」

「ちょっと待ってて!ヤマトくんかハズキちゃん呼んでくる!」



「まあ!今どき……こんな事する人が未だいるのね」

ハズキは段ボール箱の中を見て声を荒げた。

「家に連れて帰っていいでしょ?」

リオはハズキの反応に安堵して、念の為確認した。

「駄目よ!」

「えっ!」

予想外の返事にリオは戸惑って、思わずヒナノの反応を見た。ヒナノは不安そうにしている。焦ったリオはハズキに詰め寄った。

「何で?!」

「病気かも知れないでしょ?まず、病院よ」




「病気は無かったの?」

「うん。でも、栄養失調で衰弱してるって」

病院で一通り検査してもらい帰宅すると、ヤマトが寝床など一式用意してくれていた。仔犬はフカフカの犬用布団の上で相変わらず眠っている。

「あの…皆ありがとう」

ヒナノがオズオズと口を開いた。

「うん。でも、元気になってくれるかどうか……いつでも様子見においで」

「うん!」

ハズキの言葉にヒナノの表情がパッと明るくなった。チラッとリオの反応を確認すると、目と口を目いっぱい見開いてハズキを見ていた。

「ドッグフード食べれるかな?ネットで調べてスープでふやかしてみたんだけど」

ヤマトがエサの入った器を持って近づくと、仔犬は鼻をヒクヒクさせて反応した。弱々しく頭をもたげたので支えてあげてスプーンで口の中に放り込んでみる。

「お、飲み込んだな。ん?もっと要るか?」

「食べる気力があるなら元気になるわね。強い子だわ」

大人が世話している様子を子供2人は横並びで正座して真剣に見つめている。

「リオ、お前が学校行ってる間は、オレが面倒みるけど、明日から、帰ったらお前が面倒見てやるんだぞ」

「うん!」

ヤマトとリオの会話を聞いて、ヒナノが疑問を投げてきた。

「ヤマトさんは働いてないの?」

「ヤマトくんは家で絵本描いてるんだー」

「……その言い方だと、絵本描いて家で遊んでるみたいじゃないか。ヒナノちゃん、オレはちゃんとプロとして描いてるからね」

「凄い!私、絵本大好き」

ヒナノの反応にリオは再び目と口を目いっぱい開いてヤマトの顔を見る。ヤマトは、リオの反応にヤレヤレと鼻で笑うとヒナノにニッコリ微笑んだ。

「絵本なら、オレの描いた本以外にも部屋に沢山あるから、いつでも遊びに来て読んで」

「ありがとう!」

ヒナノの弾けるような笑顔に、リオの表情はとろけてしまった。




翌日、ヒナノは早速リオの家に遊びに来た。ミカと一緒に。

「何でミカが来たんだよ」

「リオ、ミカちゃんは私の大切な友達なの。酷いこといわないで」

「う……」

ヒナノに注意されてリオは落ち込む。

「あ、この子が昨日ヒナノが見つけた子?」

「そうだよ。わぁ、今日は起きてる」

ヤマトがお菓子の袋を開けながら、子供たちの輪に入って来た。

「まだ、ヨロヨロだけど少し立ち上がったり頑張ってたよ。それでさぁ、名前どうすんの?」

リオとヒナノは顔を見合わせた。先に口を開いたのはリオだ。

「リナノ」

「何で?」

「オレとヒナノの名前を合わせた」

「そんなの変だよ!もっと可愛い名前がイイ」

「じゃあ……リオノ」

「まさか…それも、さっきと一緒の理由?」

リオが嬉しそうにヒナノと言い争っていると、ミカが割って入ってきた。

「ねえ!」

怒ったように大声を上げたミカに、2人はキョトンとする。

「あのさぁ、前から気になってたんだけど、リオってヒナノの事が好きなの?」

「え?!」

突然の核心に触れる言葉にリオは体が飛び上がる程驚いた。ヤマトは聞いていないふりをして、お菓子をテーブルに並べながら聞き耳を立てる。

「私、リオの事が好きなんだけど。リオ、気づいてるよね?」

「な、な、知らねーよ!」

「だから私のカレシになってよ」

「は?!無理だよ!オレはヒナノと恋人同士になるんだ」

「ヒナノはリオのこと好きじゃないって言ってたから無理だよ」

「え……」

もはや収拾のつかない事態を回復させるべく、ヤマトが立ち上がった。

「仔犬がビックリするから騒ぐなー。ほら、お菓子でも食べろ……って、泣くなよ、リオ」

両膝を抱えて腕に顔を埋めて、リオは拗ねてしまった。

「…ミカ、もう帰って」

「えっ…リオ、酷い!」

リオの一言で今度はミカが泣き出してしまった。

「ヒナノ、帰ろう?」

「……」

ミカがヒナノの腕をとって一緒に帰ろうとすると、リオも慌ててヒナノの腕を掴んだ。

「ヒナノは帰らなくていい!お前だけ帰れ!」

「おい、リオ!やめろ」

「何でよ!ヒナノは私と帰るよね?!」

「今日はオレとヒナノで遊ぶ約束だったんだぞ。邪魔すんな!」

興奮した2人の間で揉みくちゃにされてヒナノがとうとう泣き出してしまった。

「やめなさい!2人共!ヒナノちゃんから手を離して!」

ヤマトの一喝で、リオとミカはようやく静かになった。ヒナノは両手で次々溢れる涙を拭っている。

「ミカちゃんも、リオも、何でケンカするの?私が悪いの?もう帰る」

そう言うと、ヒナノは素早く出ていってしまった。

「ヒナノ!待って!」

ミカも彼女を追いかけて出て行ってしまった。




「そこは、リオが空気読まないと〜」

店から帰ったらハズキは、ヤマトとリオから今日の出来事の報告を受けた。

「リオはヒナノちゃんに冷たい態度とられると寂しいでしょ?ミカちゃんも同じ気持ちになったのよ?」

「でも、アイツ、ヒナノとオレの邪魔ばっかりするんだ」

「リオの気持ちは分かるけど、リオだってヒナノちゃんが他の男子と仲良くしてたら邪魔するでしょ」

「……うん」

「明日、ちゃんと2人に謝るのよ?」

「……うん」




晩御飯のエビフライにタルタルソースを付けて…と言うより、タルタルソースを食べるためにエビフライを付けて口いっぱいに頬張るリオをハズキは微笑ましく見つめる。

(嫉妬するほど好きな女の子がいるなんて成長したなぁ。青春ね……眩しいわっ)

「ハズキちゃん、御飯おかわりある?タルタルソースめっちゃ美味しい!」

「お前、食いすぎじゃね?吐くなよ」

「ヤマトくん、エビフライ要らないならちょうだい」

「まだ食ってるんだよ!」

成長に少しの寂しさを感じていたけれど、満面の笑みで話しかけてくるリオの子供らしい顔に、ハズキは少し安堵した。




「ヒナノ、ミカ、昨日はゴメン」

放課後、帰り道にリオは2人に謝った。

「それで…オレさ、やっぱり、ミカのカ、カレシにはなれない」

「……ヒナノが好きだから?」

「うん。ミカの事が嫌いとかじゃなくて、オレはヒナノが好きだから」

リオは、昨晩、ハズキと一緒に考えた言葉で気持ちを伝えた。

「ヒナノは、オレの事……好き?」

「……分からない。私、2人が言ってる『好き』が良く分からない」

ヒナノの答えにリオは目を丸くした。

(ハズキちゃんが言ってた通りだ!凄い!)

昨晩、ハズキはリオにいくつかアドバイスをしていた。そのうちの1つが『ヒナノちゃんは、まだ、恋だの愛だの興味ないと思う』だった。

「じゃあ、オレと遊ぶのは嫌?面白くない?」

「ううん」

「ふーん…じゃあ、今日も家に来る?」

「……」

ミカの反応が気になって、ヒナノが答えに悩んでいるとリオが口を開いた。

「ミカも来る?」

途端にヒナノの表情がパッと明るくなったのを見て、リオは饒舌になる。

「今は友達として仲良く皆で遊べればいいから。でも、オレがヒナノを好きな気持ちは変わらないからな」

念の為釘を刺してみたが、ミカの反応は予想外のものだった。

「もうリオの事は好きじゃなくなった。1位はもう1人いるから」

「は?」

困惑するリオにヒナノは笑顔で真実を語った。

「ミカちゃん、好きな男子が5人いるんだよ。1位がリオだったけど、最近、あの子と迷ってたんだよね?」

「うん。でも、リオの事は好きじゃなくなったから」

2度も『好きじゃなくなった』とハッキリ言われると、有難い事なのに、何故か胸にグサリと突き刺さる。

(何でオレが振られたみたいになってるんだ?!)

「ミカちゃんも、リオの家に行く?」

「うん!じゃあ、宿題終わったら迎えに行くね」

女子2人は無邪気に約束を交わして去って行った。




「良くやったじゃないの」

ハズキはカットされた柿にかじりつくリオに拍手をおくった。

「ちゃんと謝って仲直りまで出来たなんて、素晴らしい!」

「うん……」

なぜだかスッキリしない結果に歯切れの悪い返事になってしまう。

「それで、この子の名前は『プチ』に決定なの?」

「うん。ヒナノが決めた。小さいからって」

食べ終えたお皿をキッチンに持って行き、リオはプチの体を撫でる。プチも反応して弱々しく頭をあげてリオの顔を見上げた。

「ハズキちゃんの言ってた通り、ヒナノは初恋が未だみたいだからさ、オレがヒナノの初恋相手になるんだ」

「お前、子供のくせに恥ずかしいセリフ躊躇なく言うよな。清々しいよ」

ヤマトが心底感心した様子で褒めると、リオはドヤ顔で更に続ける。

「そのうち、オレの事が好きって言わせてやる」

「きゃーーー!好き!」

ハズキのリオ愛が溢れ出してハイテンションでリオを抱きしめると、彼は子供らしい笑顔でソレを受け入れた。




リオ、いつまでも無邪気な可愛い子供のままでいて欲しい。けれど、好きな人が出来て、色んな困難に立ち向かって頑張るアナタは輝いているわ。

ヒナノちゃんが、初恋の相手がリオで良かったと思えるような素敵な男性に成長してね。



……転生前に子供の親離れは経験済みだから覚悟してるけど、やっぱり寂しいものね……。

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