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男子小学生の初恋 前編

今回は前編・後編の2部完結のお話です



今日の多田野ハズキの朝は早い。

何故なら朝食当番だからだ。

「もうこんな時間かぁ……よし!起きるわよ!」



顔を洗い終えてパジャマの上からエプロンをかける。冷蔵庫を空けてレタスときゅうり、トマト、ハムをとりだす。

全て適当な大きさに切ってドレッシングで和えればサラダの完成。

次に冷蔵庫から取り出したのは卵と牛乳。パンケーキミックスと混ぜてフワフワに焼き上げる。

「ん?そろそろ起こそうかしら」

ハズキはキッチンを離れて、1番近いドアを優しくノックして開いた。

「ヤマトさん、朝だよー」

声を落としてベッドに横たわる人物の頬を優しく撫でる。

「んん……んー」

「土曜日だし、もうチョット寝る?」

「ううん……起きるよ」

ヤマトが起きたのを確認すると、次は隣の部屋をノックする。

「リオ、朝だよー。今日も凄い寝相ね」

部屋のカーテンを開けながら、布団の上で大の字で眠るリオを微笑ましく眺めた。

「リオ、朝ご飯はパンケーキよ」

「……クリームある?」

リオは目を閉じたままボソッたつぶやいた。

「あるよ。何と今日はイチゴもあるんだよ」

ハズキの言葉にリオは大の字で目を閉じたままニッコリした。

「やったー!」




「ヤマトくん、おはよう」

「おはよう、リオ」

「ハズキちゃん、パンケーキは?まだぁ?」

「はいはい、どうぞ召し上がれ」

リオの前にフワフワもちもちのパンケーキが2枚とみずみずしいイチゴが乗ったお皿がコトリと置かれた。

リオは、スプレーホイップを手に取ると両手で勢いよく降ってクリームを出そうとする。

「むむ……」

手の小ささで上手く力が入らずホイップがナカナカ出て来ない。

「貸して」

隣で見ていたヤマトがリオからスプレーを取り上げてジュワジュワっとパンケーキの上にホイップクリームを出してあげた。

「もっと出して」

「これぐらい?」

「もっと」

「……これでいいだろ?」

「もっとぉ!」

「…!これで終わりだからな」

クリームの高さは10センチ程になっていた。満足したリオはフォークに刺したイチゴにホイップクリームをつけて頬張る。

「ん〜おいしい。ん?ヤマトくんはクリームつけないの?」

「オレはメープルシロップだけで満足だから」

見ているだけで胸焼けすると言わんばかりに眉をひそめてヤマトはパンケーキを口に放り込んだ。




「さて!今日のランチはベタに煮込みハンバーグね」

ハズキは袖をまくると気合を入れて玉ねぎの皮を剥きはじめた。涙目でみじん切りにした玉ねぎを炒めて冷ましたら、ひき肉とパン粉に卵と一緒に投入して、ナツメグと塩コショウを振りかけて混ぜ合わせる。

軽く焼いたハンバーグのタネをデミグラスソースの入った大きな鍋に入れていると、店のドアが開かれて釣鐘の音が鳴り響いた。

「ん?リオ、来るのが早いわね。1人?ヤマトさんは?」

「ヤマトくんは家で洗濯してた。後でランチ食べに来るって。宿題ここでする」

「そうなの?じゃあ、そっちのテーブルを使って」

リオが宿題を始めたのを確認してハズキは再びランチの下ごしらえに戻った。




「よっし!準備オッケー」

大きな鍋にはふっくらと煮込まれた大量のハンバーグ。ライスも艷やかに炊きあがった。パンも直に温められるよう配置する。

「いい匂い。何で御飯とパンなの?」

「どちらか選んでもらうのよ」

「ふーん、オレは御飯だな」

「ふふ、分かってる」

リオは何気なく壁に掛かった時計を確認した。

「!……あー、ちょっと暑いから外に出よ」

「そう?火を使ってたからかしら。私は暑くないけどねぇ?」

ハズキの言葉を最後まで聞かずリオはドアの釣鐘を鳴らして出ていった。




店内の拭き掃除をして開店準備をしていると外から声が聞こえてきた。

「あ、リオくん。こんにちは」

「こんにちは」

「まだお店空いてないよね?時間間違えちゃった?!」

「ううん!他のお客さんいないから入っても平気だよ」

「いやいや、そんな訳にいかないよ。今日は天気良くて気持ちいいから外で待ってるよ」

「大丈夫だって!入って!」

(……??リオったら誰と話してるの?しかも、オープン前に勝手に中にお客さんを入れようとしてるし)

テーブルを拭き終えて準備は一応整ったので、ハズキはドアを開いて外に出た。

「あら!ヒナノちゃんとお母さん。こんにちは」

リオの話し相手は、クラスメイトのヒナノとその母親だった。

「ハズキちゃん、もう入っていいよね?!」

「ええ、ちょっと早いけど準備は出来てるから良かったらどうぞ〜」

中に入るように促すと、母親は恐縮しながらヒナノの手を引いて中に入ってきた。

「こっちに座って!注文決まったら呼んでね。今日のランチはハンバーグだよ」

「なになに?リオがおもてなししてくれるの?」

「うん!まかせて!お水出してくる」

友達の来店でテンションが上がっているのか、リオは落ち着きなく動き回る。母親はにこやかにリオの様子を見てくれているが、ヒナノの表情は硬い。




「リオったら……お邪魔してスミマセン」

リオは、ちゃっかり水を3人分運んで一緒に席についてしまったので、ハズキは慌てて連れ戻し行った。

「いえいえ、今日は一緒にランチしようって約束してたんです」

「ええ?!」

「昨日、ヒナノの習い事の帰りに出会って、その時に話したんです」

「まあ…!重ね重ねスミマセン!リオ、強引なお店の宣伝は駄目よ」

「リオくんは悪くないんですよ。私が行こうかなって話したら、リオくんも毎週土曜日はお店で御飯食べるから一緒に食べようって誘ってくれたんです」

「そうだったんですね。ありがとうございます」

ハズキはチラリと母親の横に座るヒナノに視線を送る。ご機嫌なリオと、にこやかな母親とは対象的に明らかに居心地が悪そうだ。

(ヒナノちゃん、大丈夫かしら……)

気にはなるけれどランチの提供が最優先なので、後ろ髪を引かれる思いでハズキは厨房に戻った。




「んー!ヒナノ!美味しいね!」

「うん!」

母親の満面の笑みにヒナノもニッコリして応える。やはり親子なので笑った顔がソックリだ。微笑ましくなってハズキの口元も緩んでしまう。

「ヒナノって食べ物で何が1番好き?」

口いっぱいにハンバーグを頬張りながらリオが話しかけている。

(全く……ガサツな子ね)

呆れ半分愛しさ半分でハズキはカウンターから様子を伺った。

「ママが作ったクリームシチュー」

「ヒナノッ!ありがとう!」

母親は大袈裟に感動を表現して彼女の頭を撫で回した。ヒナノは嬉しそうに笑う。

「ヒナノ、御飯食べ終わったら公園で遊ぼう?」

「え…他の子と遊ぶ約束してるから……」

「誰?一緒でもいいよ。行こう?」

「リオの知らない子だから……」

「えー!誰?」

リオがしつこく追及するのでヒナノの表情が曇ってきた。

「知らない子だから、言ったって仕方ないじゃん」

「そうだけど……なんの友達か教えてくれてもいいじゃん」

ヒナノもリオも引くに引けない状態になってきたので、ハズキが仲裁に入る。

「こら、リオ。ヒナノちゃんは他に予定があるんだから諦めなさい。ヒナノちゃん、リオがしつこく聞いてごめんね」

ヒナノは無言でハズキにニッコリ可愛い微笑みで大丈夫だと返事をした。

「じゃあ、明日は?」

「……分からない」

「じゃあ、昼ご飯食べたらヒナノの家に迎えに行くな」

「え…ダメだよ」

「何で?」

険悪な空気を払拭したのに、リオが再びヒナノに絡み始めてしまった。

(リオ……しつこい男ね)

ハズキが再び口を挟もうとすると、店内に釣鐘の音が鳴り響いた。

「いらっしゃいませ〜3名様ですか?……って山田さん!ミカちゃんも来てくれたのね」

お客さんは、またもリオのクラスメイトのミカと両親だった。地元のお店なので顔見知りが集まるのは必然だ。

「リオ!え、ヒナノ?」

ミカは最初にリオに気がついて声をかけたが、正面に座るヒナノを見て驚く。

「何で一緒に食べてるの?」

「?別に理由なんてねーし」

キョトンとした表情でリオはミカに答えた。納得いかないと言った雰囲気のミカだったが、両親に促されて隣のテーブル席に着いた。

ヒナノとミカの母親同士も顔見知りのようで、和やかに話しだした。しかし、ミカは、ヒナノとリオが気になるらしくチラチラと様子を伺い、ヒナノは視線に気がついて気まずそうにしている。リオは相変わらず空気を読めずに付け合せのピクルスをかじっている。




「ごちそうさまでした」

「またのご来店お待ちしてますね」

食事を終えたヒナノと母親を送り出すと、入れ替わりでヤマトがやって来た。

「お疲れさん。席ある?」

「おかげさまで満席よ。持って帰る?」

「まだ、そんなに腹減ってないから手伝うよ」

「ありがと〜う♪」

ヤマトは店内に入りエプロンをつけて洗い物を始めようとしたが、既にリオがコップを洗っていた。

「お、手伝ってるのか。えらいえらい」

「……」

「なに?何か嫌なことあった?」

洗い終わったコップを拭きながらヤマトはリオの顔をのぞき込んだ。

「え、泣きそうなん?」

「ヒナノが遊んでくれない」

「無視されるのか?」

「ううん。御飯食べたら遊ぼうって言ったら無理だって言われた」

「うーん、そりゃ仕方ないでしょ。別の日に遊べば?」

「……」

リオは不貞腐れて洗い物を続ける。あまり構いすぎると更に機嫌が悪くなるので、ヤマトはこれ以上何も言わずに片付けを手伝う事にした。

「会計お願いします」

「はい、ただいま〜」

ミカ親子も食事を終えて帰り支度を始めた。父親がレジで会計をしていると、ミカがトコトコとカウンターに近づいてリオに声をかけてきた。

「リオ、いつまで手伝うの?終わったら遊べる?」

ミカからのお誘いを聞いて、ヤマトはリオの機嫌が治ってくれるだろうと胸をなでおろした。

「無理」

「え?」

予想外の返事に、ミカとヤマトの声がかぶった。

「宿題終わってないから」

「そっか……商店街の所の公園で遊んでるから来れそうなら来て」

「うん」

ミカは少し寂しそうに両親と出ていった。

「せっかく誘ってくれたのに何で行かねーの?遊び相手が欲しかったんだろ?」

ヤマトの問いかけに、ハズキも聞き耳をたてる。

「オレはヒナノと遊びたいの!」

「えー……何だ?お前、ヒナノちゃんが好きなの?」

からかっては駄目だと思いつつも、ずっと不貞腐れて友達に冷たい態度をとったお仕置きを兼ねてヤマトは意地悪く聞いてみた。

「そうだよ!何か文句ある?!」

「お、おう!ねぇよ!」

想定外のリオの反応にヤマトの方が圧倒されてしまった。少し離れた場所で、ハズキも1人驚いていた。




ヒナノは、とにかく優しくて可愛い。

給食でオレの苦手な椎茸が出た時に、給食当番だったヒナノは椎茸を抜いてお皿によそってくれた。校庭で転んで膝から血が出たら、心配して保健室に行くように言ってくれた。友達が困ってると一生懸命考えて助けてるのを良く見かける。顔だって、プニプニほっぺがすっっっっごく可愛い!

学校から一緒に帰ってる時は、オレの話を楽しそうにニコニコ聞いてくれてたんだ。

でも、ミカが転校してきてから、ヒナノの態度が急に冷たくなった気がする……。

一緒に帰りたくて待ち伏せしても、走って逃げちゃうし、話しかけても前みたいに楽しそうに笑ってくれない。椎茸は抜いてくれるけど。

たまに、ミカとヒナノがオレの方を見てコソコソ話してるの、知ってるんだ。

ミカがオレの悪口をヒナノに言ってるのかな?

ヒナノは可愛いから傍で見張ってないと他の男子に取られちゃう。そんなの耐えられないよ!




今夜の晩御飯当番はヤマトだ。

ハズキは帰宅してリオのテレビゲームに付き合って晩御飯の完成を待つ。

「ねえ、ハズキちゃん」

「んー?」

「ハズキちゃんとヤマトくんは恋人同士なんでしょ?」

「そうだけど……」

「恋人同士だから一緒に住んで遊べるんでしょ?」

「うーん…恋人同士だから一緒に住むってのはチョット違うけど」

突然の謎の質問に困惑してハズキはゲーム画面から目を離し、リオの方を見てギョッとした。

リオはゲーム画面を見ながら、ハラハラと大粒の涙を流していた。

「オレ、ヒナノと恋人同士になりたい!」

「ええ?!」

キッチンからガシャン!と何かを落とした音が聞こえた。

「どうやって2人は恋人同士になれたの?ねえ!ねえ!!」

「ちょっ、リオ!落ち着いてーーー!」




店にヒナノちゃんが来たときから、リオの気持ちには薄々気づいていたけれど……こんない熱い想いだとは。

暴走気味のリオの初恋……なのかしら?どうなることやら。


この恋の結末は次のお話で。






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