19 侵入経路確保戦
マンションの内部には二重ダンジョン特有の赤く光るラインが幾条も走っている。
普通の集合住宅らしい通路は残っておらず入り組んだものに変化していた。
作戦のため俺たちは地上部分から侵入するが――
「数が多すぎる……!」
鉄杖を振り回してゾンビやらスケルトンを吹き飛ばしていく。
何が面倒かと言われると一向に数が減らないどころか倒したやつまで復活しているのだ。
頭蓋を踏み砕いても身体を復元してくるし、俺の後ろを進む八坂女史に被害が行きそうになるなどとヒヤヒヤとさせられてばかりである。
もちろん女史も応戦して危なげなく切り抜けている。
しかし彼女のリソースが限られている以上、無限に湧くアンデッドたちの相手をしていくわけにはいかない。
いくらでも湧いてくるのはちょっと卑怯じゃない?
杖を乱暴に振り回しながら迷宮化したマンションを進む。
来た道はゾンビだらけというよりももはや肉壁である。
地図アプリを見る間もなく女史が告げる。
「一階部分はこれでおしまい!」
階段も見かけなかったし、なんなら目の前も壁があるのでのっぴきならない。
じわじわとにじり寄る肉壁を余所に俺は肩を回す。
「損壊賠償責任とかないかな」
「……やっちゃって!」
せーの! のかけ声とともに壁をぶん殴る。
堅いが砕けないほどではない。
壁が崩れるとその先には一本の通路が現れた。
玄室……というよりは普通の部屋である。
コンロやら食器棚やらが並ぶキッチンの中に不自然な昇り階段を八坂女史がすかさずスマホで写真に収めていく。
「ダンジョンマスターが目覚めてるのかな。初めて見た」
「ダンジョンポイントでも使ったのか」
「……ダンジョンポイント?」
なんかモンスターを召喚したり罠を即時設置したりするのに必要なあれだよ。
よくわかんないけど。
でも実際のところ魔力かなにかは分からないがダンジョンの地形を変えられるくらいのことはできるのだろう。
県立高校での二重ダンジョンでは罠を踏んだ覚えもないのに転移させられたり通路を変えられていたこともあったし。
罠や敵がないかを確認してもらい、ざっくりこの一階と同じくらいはいるということを知る。
腐臭こそないが臭い自体はキツい。
うへぇ、肉が嫌いになりそうだ。
「本当に上にあるの?」
「分かりません。ただ強制転送もありましたし地上から直結してない場所が入り口であっても……いや……はい……」
「かなり無理やりすぎない!?」
既存の物理法則が通用しなかったりするから当然の疑問ではあるんだろうけれどさあ!
「他のチームもこのくらいの物量におされてるのかな」
「それはないです。この物量が里見さん以外に来たら今ごろ本部もわたしへの連絡が途絶するでしょうし」
「前から思ってたんだけれど俺って熱烈歓迎されすぎじゃない?」
前のダンジョンなんて崩壊に呑まれそうになってたの俺だけだったらしいからな。
女史はああ……と得心がいった様子ではあるが。
「ちょっとしたダンジョンコアよりは魔力量ありますしね、貴方」
立てば爆薬座ればボカン、歩く姿は核弾頭。
言ってやったぜみたいな得意げな顔をする女史に軽くチョップをお見舞いしてやる。
非常に分かりづらいが見る人が見れば尋常ではない魔力量らしい。
だから普通の冒険者から見れば大して強そうに見えないとも。
ただ、と八坂女史は断りを入れる。
「ブンブン杖を振り回して粘土か水みたいに人体を弾き飛ばしていくところを見たら考えをあらためると思いますけどね」
「まるで俺が人外みたいじゃないか」
「そう言ってるんですよ」
この野郎、人が結構気にしていることをずけずけと言いやがって。
まあどれだけ敵が多くても特筆することがないほどになにも起こらないのがおかしいのは分かるけれどさ。
だってゲームだったらレベルアップの通知が鳴り止まないくらいにはガンガンレベルが上がって行っているんだよな……。
悲しいことに俺の成長率は終わっているので、レベルが百や二百上がろうとも伸びしろだけで言えばそこらへんの人が一週間かけて上げた1レベルに負けるのだけれど。
「里見さん、ここらへんになにかありそうです」
「あいよ」
躊躇なくマンションの壁をぶち破って指示された方向へと進んでいく。
これやっていることは魔物退治じゃなくて穴掘りに似てるなあ。
などと適当なことを考えていると、通路を抜けて異界化した大きな部屋に出た。
赤いラインが床、壁、天井を走るほの暗いそこの中央にはダンジョンコアにも似た紫の結晶が浮いている。
紫のコアから魔力がほとばしると、ゾンビやスケルトンが呼び寄せられ、それらが一つの肉体になるように融合していくのだ。
巨躯で筋骨隆々の個体になったゾンビはその身体に合う大きな斧をコアから取り出す。
とりあえず倒すのは確定だが気になることがひとつ。
「これってボス?」
「モンヌターが自動再生していた原因がこの結晶みたいです」
じゃあやっとくかー。
地獄からの怨嗟みたいなうなり声を出す巨大ゾンビが斧を振るう。
避ける必要もなさそうなので左拳で斧の横っ面をぶっ叩く。
斧はゾンビの右肩ごと持って行かれ、次の瞬間にはヤクザキックでコアごと破壊。
試合終了。
自動回復を警戒していたがあの肉体は焼けただれていき、蒸発していくだけだ。
さっと八坂女史に視線を送ると彼女は大きくサムズアップ。
「地上の魔物は全部沈黙。実質ミッションコンプリートだね」
次の出動まで休めるだけ休んでおいたほうがいいよ、と彼女はあくびをかみ殺す。
今回は罠の配置が悪質だったらしく気の休まらない時はなかったそうなので疲れているのだろう。
その後ほかの班が侵入経路を発見したとのことなので一時解散の流れになる。
とりあえず俺も天幕まで戻って休むことにした。




